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一章
24 呼び出し
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バッグから見えたウィッグ。ユララにそっくりだったお化粧の腕。晴菜ちゃんのお母さんがこっそり涙が出るくらい笑っていた事。この場にいない朔菜ちゃん。
「えっ?」
ほとりちゃんが声を上げた。彼女は目を剥いて私と舞花ちゃんを交互に見ている。舞花ちゃん姿の朔菜ちゃんはニコッと笑って言った。
「イライラし過ぎてつい我を忘れてしまったわ」
話によると朔菜ちゃんと晴菜ちゃんはいとこで晴菜ちゃんのお母さんは朔菜ちゃんの叔母さんなんだそう。
本当は名前も「朔菜」ちゃんじゃなくて「舞花」ちゃんらしい。
小さい頃から演じ分けていたという話を聞いた。理由は「ユララになりたかったから」……意味が分からない。きっと言葉で語り尽くせない何かが彼女の中にあるのだろう。
「えっと? じゃあ明ちゃんを舞花様の元へ連れてくるよう指示を出してきたのは?」
ほとりちゃんが舞花ちゃんに尋ねている。さっきからずっと、ほとりちゃんの目が大きく見開かれたままだ。
「私じゃないって言ってるじゃん! 最初から」
目の前の儚げな美少女からいつもの朔菜ちゃんの声が出てる。ほとりちゃんたちと同じ灰色の制服姿で今は腕を組んで難しい顔をしている。
「朔菜ちゃんの姿で言われても、ただの朔菜ちゃんの推測って判断しちゃうよぉ~。でもじゃあ誰が指示を?」
「指示はどうやって来た?」
舞花ちゃんが聞くと、ほとりちゃんが暗い表情で教えてくれる。
「姫莉ちゃんが……」
「あの子……」
舞花ちゃんの目が鋭く細まった。彼女は人差し指の関節を顎に当て何か考えている様子だ。
「私が問い詰めて……」
ほとりちゃんがそんな事を言い出したので舞花ちゃんはハッとしたように目線を上げた。
「絶対にやめて! ほとりが狙われるかもしれないでしょ?」
「舞花様~~!」
叱るように心配している舞花ちゃんに、ほとりちゃんは甚く感激した様子だった。祈りを捧げる如く手を組んだポーズで涙目になっている。
ほとりちゃんは舞花ちゃんが朔菜ちゃんで混乱している雰囲気もあったけど、憧れの『聖女』への心酔は健在のようだった。
三人でこれからどう動くべきか考えていた。下を向いて唸っていた。舞花ちゃんが発言した。
「姫莉ちゃんを呼び出そう」
「えっ!」
私とほとりちゃんは同時に舞花ちゃんへ顔を向けた。
商店街を出た大通りにあるコンビニ。たまたま会った出で立ちで私とほとりちゃんは姫莉ちゃんを待っていた。先程ほとりちゃんにスマホから「コンビニに坂上さんがいる。舞花様に会ってくれるって!」とチャンスを匂わせるメッセージを送ってもらっていた。
暫く経って息を切らせて姫莉ちゃんが到着した。ツインテールを揺らして私とほとりちゃんの立っている方へ駆けて来る。改めて私たちを見た姫莉ちゃんは頬を緩めた。
「やったぁ、ほとり! お手柄だねっ! これで舞花様も喜んでくれるよっ!」
「姫莉ちゃん……」
ほとりちゃんの力のない声が憐れむような響きで発せられた。
「姫莉さん……」
コンビニの奥から歩いて来るその人の呼びかけに、姫莉ちゃんの体が竦んだように動きを止めた。
「どうして……? どうしてなんですか? 私、明さんを連れて来るよう頼んだ記憶がないのですが……」
舞花ちゃんが瞳をうるうるさせて長年の演技の実力を見せ付けてくる。笑いたくなってしまうけどお腹に力を込めて平静を装う。
「ほとり……私を嵌めたのね」
姫莉ちゃんが鋭くほとりちゃんを睨んでいる。舞花ちゃんがキッパリと言い切る。
「違うわ。私が彼女に頼んだの」
姫莉ちゃんは舞花ちゃんを見て下唇を噛んだ。
「舞花様、ごめんなさい。舞花様の名を勝手に使って。嘘ついて。でも……私、舞花様より大切な人がいるんです。だから負けたくないんです」
まただ。意志の強そうな眼差しを私へ向けてくる。以前会った時もこんな事があった。
姫莉ちゃんが口を開きかけた。
「坂上?」
コンビニに入って来た男子が自動ドアの前で私を呼んだ。
「……岸谷君?」
思いがけない人物の登場に驚いて、瞼を大きく開いて彼を見た。姫莉ちゃんが何も言わずに岸谷君の横を通り抜けて走り去った。
「姫莉ちゃんっ!」
ほとりちゃんが姫莉ちゃんの後を追って自動ドアの外へ走り出た。彼女たちを見ていた岸谷君が私の方を向いた。
「ごめん、何か取り込み中だった?」
聞かれて「うん、ちょっと……」と濁した。
「あ、あのさ。坂上に言いたい事があって」
岸谷君はそう言い、チラッと舞花ちゃんを見た。舞花ちゃんが岸谷君に話し掛けた。
「こんばんは。私が一緒にいたらお邪魔ですか?」
岸谷君は人差し指で頬を掻きながら下を向いた。
「えーと。大事な話なんだ」
岸谷君の返答に、舞花ちゃんは私へ判断を委ねると言いたげに窺うような瞳でこっちを見てくる。正直、岸谷君に無闇に関わりたくない。今日も沢西君は用事でこの場にいないし。
「いつも内巻に邪魔されて話し掛ける事もできなかったんだ。十分くらいでいいから。少しそこの公園で話そう」
「大事な話」が何か気になったので話を聞く事にした。小さく頷く。
「分かった」
「明さん、ここで待っていますね」
舞花ちゃんが少し心配そうな顔をして見送ってくれた。
「うん! ありがとう行ってくるね」
彼女へ手を振った後、岸谷君に続いてコンビニを出た。
「えっ?」
ほとりちゃんが声を上げた。彼女は目を剥いて私と舞花ちゃんを交互に見ている。舞花ちゃん姿の朔菜ちゃんはニコッと笑って言った。
「イライラし過ぎてつい我を忘れてしまったわ」
話によると朔菜ちゃんと晴菜ちゃんはいとこで晴菜ちゃんのお母さんは朔菜ちゃんの叔母さんなんだそう。
本当は名前も「朔菜」ちゃんじゃなくて「舞花」ちゃんらしい。
小さい頃から演じ分けていたという話を聞いた。理由は「ユララになりたかったから」……意味が分からない。きっと言葉で語り尽くせない何かが彼女の中にあるのだろう。
「えっと? じゃあ明ちゃんを舞花様の元へ連れてくるよう指示を出してきたのは?」
ほとりちゃんが舞花ちゃんに尋ねている。さっきからずっと、ほとりちゃんの目が大きく見開かれたままだ。
「私じゃないって言ってるじゃん! 最初から」
目の前の儚げな美少女からいつもの朔菜ちゃんの声が出てる。ほとりちゃんたちと同じ灰色の制服姿で今は腕を組んで難しい顔をしている。
「朔菜ちゃんの姿で言われても、ただの朔菜ちゃんの推測って判断しちゃうよぉ~。でもじゃあ誰が指示を?」
「指示はどうやって来た?」
舞花ちゃんが聞くと、ほとりちゃんが暗い表情で教えてくれる。
「姫莉ちゃんが……」
「あの子……」
舞花ちゃんの目が鋭く細まった。彼女は人差し指の関節を顎に当て何か考えている様子だ。
「私が問い詰めて……」
ほとりちゃんがそんな事を言い出したので舞花ちゃんはハッとしたように目線を上げた。
「絶対にやめて! ほとりが狙われるかもしれないでしょ?」
「舞花様~~!」
叱るように心配している舞花ちゃんに、ほとりちゃんは甚く感激した様子だった。祈りを捧げる如く手を組んだポーズで涙目になっている。
ほとりちゃんは舞花ちゃんが朔菜ちゃんで混乱している雰囲気もあったけど、憧れの『聖女』への心酔は健在のようだった。
三人でこれからどう動くべきか考えていた。下を向いて唸っていた。舞花ちゃんが発言した。
「姫莉ちゃんを呼び出そう」
「えっ!」
私とほとりちゃんは同時に舞花ちゃんへ顔を向けた。
商店街を出た大通りにあるコンビニ。たまたま会った出で立ちで私とほとりちゃんは姫莉ちゃんを待っていた。先程ほとりちゃんにスマホから「コンビニに坂上さんがいる。舞花様に会ってくれるって!」とチャンスを匂わせるメッセージを送ってもらっていた。
暫く経って息を切らせて姫莉ちゃんが到着した。ツインテールを揺らして私とほとりちゃんの立っている方へ駆けて来る。改めて私たちを見た姫莉ちゃんは頬を緩めた。
「やったぁ、ほとり! お手柄だねっ! これで舞花様も喜んでくれるよっ!」
「姫莉ちゃん……」
ほとりちゃんの力のない声が憐れむような響きで発せられた。
「姫莉さん……」
コンビニの奥から歩いて来るその人の呼びかけに、姫莉ちゃんの体が竦んだように動きを止めた。
「どうして……? どうしてなんですか? 私、明さんを連れて来るよう頼んだ記憶がないのですが……」
舞花ちゃんが瞳をうるうるさせて長年の演技の実力を見せ付けてくる。笑いたくなってしまうけどお腹に力を込めて平静を装う。
「ほとり……私を嵌めたのね」
姫莉ちゃんが鋭くほとりちゃんを睨んでいる。舞花ちゃんがキッパリと言い切る。
「違うわ。私が彼女に頼んだの」
姫莉ちゃんは舞花ちゃんを見て下唇を噛んだ。
「舞花様、ごめんなさい。舞花様の名を勝手に使って。嘘ついて。でも……私、舞花様より大切な人がいるんです。だから負けたくないんです」
まただ。意志の強そうな眼差しを私へ向けてくる。以前会った時もこんな事があった。
姫莉ちゃんが口を開きかけた。
「坂上?」
コンビニに入って来た男子が自動ドアの前で私を呼んだ。
「……岸谷君?」
思いがけない人物の登場に驚いて、瞼を大きく開いて彼を見た。姫莉ちゃんが何も言わずに岸谷君の横を通り抜けて走り去った。
「姫莉ちゃんっ!」
ほとりちゃんが姫莉ちゃんの後を追って自動ドアの外へ走り出た。彼女たちを見ていた岸谷君が私の方を向いた。
「ごめん、何か取り込み中だった?」
聞かれて「うん、ちょっと……」と濁した。
「あ、あのさ。坂上に言いたい事があって」
岸谷君はそう言い、チラッと舞花ちゃんを見た。舞花ちゃんが岸谷君に話し掛けた。
「こんばんは。私が一緒にいたらお邪魔ですか?」
岸谷君は人差し指で頬を掻きながら下を向いた。
「えーと。大事な話なんだ」
岸谷君の返答に、舞花ちゃんは私へ判断を委ねると言いたげに窺うような瞳でこっちを見てくる。正直、岸谷君に無闇に関わりたくない。今日も沢西君は用事でこの場にいないし。
「いつも内巻に邪魔されて話し掛ける事もできなかったんだ。十分くらいでいいから。少しそこの公園で話そう」
「大事な話」が何か気になったので話を聞く事にした。小さく頷く。
「分かった」
「明さん、ここで待っていますね」
舞花ちゃんが少し心配そうな顔をして見送ってくれた。
「うん! ありがとう行ってくるね」
彼女へ手を振った後、岸谷君に続いてコンビニを出た。
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