18 / 57
一章
18 沢西君の部屋
しおりを挟む「で? 俺をここに呼んだのって、もしかして……」
沢西君と話していたお隣のお兄さんがこっちを見た。
「花織はゲームに夢中だし……成程ね」
今まで無表情だったお隣のお兄さんの口角が上がり、薄ら笑みが作られた。
「ねぇ、坂上さん。せっかく来たんだし春夜の部屋でお茶でも飲んでいきなよ」
それまでのクールな面持ちが一変しニッコリと笑いかけてくるお隣のお兄さんにたじろぐ。神々しい程の美しさに目が潰されそうだ。
「いやほら……オレの部屋、散らかってるし……彼女も遅くならないうちに帰らないとだし……」
沢西君が視線を下方に彷徨わせつつ理由を並べる。お隣のお兄さんは何か見透かしたような目付きを沢西君へ送った後、私に視線を戻した。
「坂上さんも春夜の部屋を見てみたいよね?」
問われて心の中で「見たいです!」と即答する。でも沢西君は部屋に入ってほしくなさそう。だから口には出さなかった。
「遠慮しなくていいよ。何なら俺が飲み物を用意して持って行くから……」
「理兄ちゃん分かったから! もう帰って! オレたちも、もう少ししたら出るから!」
猶も勧めてくるお隣のお兄さんを沢西君が廊下へ押し出している。お隣のお兄さんは去り際、私へ「またね」と手を振ってくれた。玄関ドアの閉まる音が響く。
「……先輩。オレの部屋を見てみたいって思ってます?」
言い当てられてギクッとする。
「詰まらないですよ? 片付いてないですし」
釘を刺す沢西君につい言ってしまう。
「嫌がられると逆に見たくなるって言うか……うん。見たい。凄く興味ある」
「そうですか」
沢西君が横に視線を逸らして口元を手で隠した。
「見るだけですよ? 少しだけですからね!」
「うん! ありがとう沢西君!」
沢西君に続いて廊下へ出る。玄関へ向かって右にあるドアを開けている。私も中へ入った。
右奥にベッド。その左にこちら向きの本棚があり、窓の側に机が置いてある。
やはり。思った通りだ。沢西君の事だからきっと家にも本が沢山あるんだろうなとは思っていた。でも振り返った時ドア側の壁に面して大きな本棚が更に二つあったのには驚いた。呟いてしまう。
「凄い……」
本棚に並ぶ本を見回した。読んだ事のない本がいっぱいある!
因みに部屋は散らかっていなかった。本が二、三冊床に積んであるだけだ。
「ねぇ、沢西君……。本、見てもいい?」
「ダメです」
即断られて相手を見返す。
「そんな悲しそうな顔してもダメです! さっき少しだけって言いましたよね? もう外も暗いので帰った方がいいです。行きましょう」
沢西君が手を差し出してくる。
「……分かった」
渋々了承した。ありったけの自制心を働かせ本棚から目を逸らし沢西君の手に自分の手を置いた。
強く引っ張られたと状況を理解したのはドアに押し付けられた後だった。
「いいんですよ。ずっとここにいてくれても。先輩がそのつもりなら」
突然された提案にびっくりして息を呑む。沢西君は真顔だ。
「あ……我儘言ってごめん。いたいのは山々だけど、もう帰らないとね」
やっとそう口にした。胸の動悸が激し過ぎる。左下に顔を背けた。
何? 今、何が起きたの?
さっきの一瞬、沢西君の言葉がプロポーズみたいに聞こえた。
だけど、ちゃんと分かっている。私を帰らせる為に脅かしただけだって事は。だがしかし、どうしても譲れない部分を乞う。
「また遊びに来てもいい? その時はもっと本を見てもいい?」
沢西君は何故か溜め息をついている。
「いいですよ」
額に手を当てていた彼はぶっきらぼうな口調で何か不満があるように私を睨んだ。
沢西君は今日も私を家の下まで送ってくれた。道路には街灯が設置されているおかげで夜も明るい。
「沢西君、遅くまでありがとう。楽しかった!」
伝えると彼は右下に視線を外した。
「突然誘って迷惑じゃなかったですか?」
「全然! 沢西君の部屋が見れて結構満喫したよ」
欲を言えば沢西君の部屋の本を読み漁りたかった。
「今日、沢西君のお家に誘ってもらえて嬉しかった」
「そう……ですか。よかったです」
「じゃあ、次は日曜日だね」
「はい。明後日ですね」
ユララなりきり撮影の日帰り旅は明後日決行される。
0
お気に入りに追加
19
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。


隣人の女性がDVされてたから助けてみたら、なぜかその人(年下の女子大生)と同棲することになった(なんで?)
チドリ正明@不労所得発売中!!
青春
マンションの隣の部屋から女性の悲鳴と男性の怒鳴り声が聞こえた。
主人公 時田宗利(ときたむねとし)の判断は早かった。迷わず訪問し時間を稼ぎ、確証が取れた段階で警察に通報。DV男を現行犯でとっちめることに成功した。
ちっぽけな勇気と小心者が持つ単なる親切心でやった宗利は日常に戻る。
しかし、しばらくして宗時は見覚えのある女性が部屋の前にしゃがみ込んでいる姿を発見した。
その女性はDVを受けていたあの時の隣人だった。
「頼れる人がいないんです……私と一緒に暮らしてくれませんか?」
これはDVから女性を守ったことで始まる新たな恋物語。
学園のアイドルに、俺の部屋のギャル地縛霊がちょっかいを出すから話がややこしくなる。
たかなしポン太
青春
【第1回ノベルピアWEB小説コンテスト中間選考通過作品】
『み、見えるの?』
「見えるかと言われると……ギリ見えない……」
『ふぇっ? ちょっ、ちょっと! どこ見てんのよ!』
◆◆◆
仏教系学園の高校に通う霊能者、尚也。
劣悪な環境での寮生活を1年間終えたあと、2年生から念願のアパート暮らしを始めることになった。
ところが入居予定のアパートの部屋に行ってみると……そこにはセーラー服を着たギャル地縛霊、りんが住み着いていた。
後悔の念が強すぎて、この世に魂が残ってしまったりん。
尚也はそんなりんを無事に成仏させるため、りんと共同生活をすることを決意する。
また新学期の学校では、尚也は学園のアイドルこと花宮琴葉と同じクラスで席も近くなった。
尚也は1年生の時、たまたま琴葉が困っていた時に助けてあげたことがあるのだが……
霊能者の尚也、ギャル地縛霊のりん、学園のアイドル琴葉。
3人とその仲間たちが繰り広げる、ちょっと不思議な日常。
愉快で甘くて、ちょっと切ない、ライトファンタジーなラブコメディー!
※本作品はフィクションであり、実在の人物や団体、製品とは一切関係ありません。

クラスメイトの美少女と無人島に流された件
桜井正宗
青春
修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。
高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。
どうやら、漂流して流されていたようだった。
帰ろうにも島は『無人島』。
しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。
男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?
サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由
フルーツパフェ
大衆娯楽
クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。
トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。
いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。
考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。
赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。
言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。
たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる