【完結・エピソード追加中】幼馴染に裏切られたので協力者を得て復讐(イチャイチャ)しています。

猫都299

文字の大きさ
上 下
12 / 57
一章

12 覚悟

しおりを挟む
「喋った事はなくても見かけた事くらいはあるんじゃないかって思ってたのに……。オレ、坂上先輩の視界にも入ってなかったんですね」

 彼はわざとらしく溜め息をついて首を横に振っている。

「ご……ごめんね。全然知らなかったよ」

 二人して塾へ歩いている道すがら、右隣の沢西君がまだ拗ねた様子だった。機嫌を直してほしくて謝ったのに、更に彼の肩が落ちたように見えた。

 学校を出て大通りの方へ行かず商店街方面の道を辿っていた。マンションやビル、民家の並ぶ通りの歩道を進む。

 沢西君が横目を向けてきた。

「悪いと思ってるなら誠意を見せて下さい」

「誠意?」

「オレ、先輩ともっと仲良くなりたいと思ってるんですよ」

 びっくりして思わず足を止めてしまった。沢西君も立ち止まってこちらを向いた。

「さっき聞いた内巻先輩と岸谷先輩の会話。二人がキスする仲なのは理由があるみたいでしたよね。岸谷先輩は内巻先輩に『坂上先輩との仲を引き裂かれたくなかったら』といった具合に脅されていた。…………先輩はそれを知ってどう思いましたか?」

「……っ!」

 指摘されて息を呑んだ。右手を口元に当てた。動揺して言葉が出てこない。

「やっぱり岸谷先輩に未練がありますよね? そんな事情があるなら尚更」

 沢西君は呟いて、どこか元気がなさそうに笑った。沢西君ごめん。心の中だけで白状する。

 私……岸谷君の事、全然考えてなかったよ。
 心配してくれているらしい沢西君に良心が咎める。

 長年の片想いは何だったのかというくらいに、昨日の今日で気持ちは薄れていた。岸谷君の事情より沢西君と今日も一緒に帰れる嬉しさが勝っていた。沢西君に言われなかったら気にしていない事にも気付かなかった。

「えっと……」

 何とか口を開く。

「私、全然岸谷君に未練ない……と思う」

 下を向いて告げる。まともに沢西君を見れない。ダメだ。これ以上言ったら沢西君に私の気持ちがバレてしまいそう。
 ……沢西君には好きな人がいる。だから私に好かれても迷惑……だよね。
 考え至って途端に気分が沈む。

「先輩。もうアイツの事、好きじゃないの?」

 尋ねられ沢西君の目を見返した。眼鏡越しにやや睨まれているような……そんな視線を浴び、心の内を見通されているのではないかと疑った。私の気持ち……気付かれたっ?

「……もちろんっ!」

「何その間……」

 やっと返した私に彼は不満がありそうだった。
 もしかしたら私の気持ちが定まっていないと復讐に影響が出ると考えているのかもしれない。また昨日みたいに「やめます? 復讐」などと言われたらまずいと思った。焦りながら思考を巡らす。
 何か話題を逸らそうと思い付いて先程感じた疑問を投げ掛けた。

「沢西君がさ、さっき『誠意を見せて下さい』って言ってたのが気になってるんだけど何の事かな?」

「いえ。もういいんです。そろそろ行きましょう」

 そっぽを向いて歩き出した彼を小走りで追い掛け隣に並ぶ。目を合わせてくれない。何か怒らせてしまっただろうか。
 不安を抱き始めた時、反応があった。

「あんまり見ないで下さい。何なんですか。分かりましたよ。言いますよ」

 苛立ちの滲むような言い方だった。立ち止まって私を見てくる。

「先輩が岸谷先輩の事をやっぱり好きだから復讐をやめてアイツと付き合いたいって思ってるんじゃないかって思ったんです」

 ハッキリとした口調で伝えられたその内容を一瞬理解できなくて、もう一度考える。

「お、思ってないよ」

「本当ですか?」

 やっと紡いだ返事に間髪入れずに強く問われ、驚いて相手を見つめ返した。沢西君が先に目を逸らした。

「すみません。これは先輩の復讐なのに。オレ……自分の事しか考えてなくて」

 言い置いて先に行ってしまう彼の背中を追う。塾のあるビルはもうすぐそこ。前方の道路左側にある。

 私は沢西君の数メートル後方を歩きながら考えていた。密かに決意していた。
 沢西君の復讐に協力しようと。

 どうせ私は沢西君の事が好きだし。彼は好きな人がいるのに私とイチャイチャするという大層難儀な協力をしてくれている。恥ずかしがって、それらの行いを拒める立場にないと思い知った。

『オレ、先輩ともっと仲良くなりたいと思ってるんですよ』

 沢西君はそう言ってくれた。私も仲良くなりたいと思っている。この感情に温度差はあるだろうけど。
 沢西君が必要だと言えばする。キスも。望まれれば、それ以上の事も協力する。
 告白したいという思いが過るけど、振られてつらくなる未来しか描けなくて先送りにした。



 そして割と近い未来で、この時の決意が試されるのだった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

隣人の女性がDVされてたから助けてみたら、なぜかその人(年下の女子大生)と同棲することになった(なんで?)

チドリ正明@不労所得発売中!!
青春
マンションの隣の部屋から女性の悲鳴と男性の怒鳴り声が聞こえた。 主人公 時田宗利(ときたむねとし)の判断は早かった。迷わず訪問し時間を稼ぎ、確証が取れた段階で警察に通報。DV男を現行犯でとっちめることに成功した。 ちっぽけな勇気と小心者が持つ単なる親切心でやった宗利は日常に戻る。 しかし、しばらくして宗時は見覚えのある女性が部屋の前にしゃがみ込んでいる姿を発見した。 その女性はDVを受けていたあの時の隣人だった。 「頼れる人がいないんです……私と一緒に暮らしてくれませんか?」 これはDVから女性を守ったことで始まる新たな恋物語。

学園のアイドルに、俺の部屋のギャル地縛霊がちょっかいを出すから話がややこしくなる。

たかなしポン太
青春
【第1回ノベルピアWEB小説コンテスト中間選考通過作品】 『み、見えるの?』 「見えるかと言われると……ギリ見えない……」 『ふぇっ? ちょっ、ちょっと! どこ見てんのよ!』  ◆◆◆  仏教系学園の高校に通う霊能者、尚也。  劣悪な環境での寮生活を1年間終えたあと、2年生から念願のアパート暮らしを始めることになった。  ところが入居予定のアパートの部屋に行ってみると……そこにはセーラー服を着たギャル地縛霊、りんが住み着いていた。  後悔の念が強すぎて、この世に魂が残ってしまったりん。  尚也はそんなりんを無事に成仏させるため、りんと共同生活をすることを決意する。    また新学期の学校では、尚也は学園のアイドルこと花宮琴葉と同じクラスで席も近くなった。  尚也は1年生の時、たまたま琴葉が困っていた時に助けてあげたことがあるのだが……    霊能者の尚也、ギャル地縛霊のりん、学園のアイドル琴葉。  3人とその仲間たちが繰り広げる、ちょっと不思議な日常。  愉快で甘くて、ちょっと切ない、ライトファンタジーなラブコメディー! ※本作品はフィクションであり、実在の人物や団体、製品とは一切関係ありません。

将棋部の眼鏡美少女を抱いた

junk
青春
将棋部の青春恋愛ストーリーです

クラスメイトの美少女と無人島に流された件

桜井正宗
青春
 修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。  高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。  どうやら、漂流して流されていたようだった。  帰ろうにも島は『無人島』。  しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。  男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?

サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由

フルーツパフェ
大衆娯楽
 クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。  トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。  いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。  考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。  赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。  言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。  たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

乙男女じぇねれーしょん

ムラハチ
青春
 見知らぬ街でセーラー服を着るはめになったほぼニートのおじさんが、『乙男女《おつとめ》じぇねれーしょん』というアイドルグループに加入し、神戸を舞台に事件に巻き込まれながらトップアイドルを目指す青春群像劇! 怪しいおじさん達の周りで巻き起こる少女誘拐事件、そして消えた3億円の行方は……。 小説家になろうは現在休止中。

処理中です...