【完結・エピソード追加中】幼馴染に裏切られたので協力者を得て復讐(イチャイチャ)しています。

猫都299

文字の大きさ
上 下
4 / 57
一章

4 要求

しおりを挟む
 岸谷君の目が大きく見開かれるのを眺めていた。

 これ以上無理。どうしてもつらくて下を向く。毅然と見返してやりたかったのに。

「晴菜ちゃんと岸谷君がキスしてるとこ見ちゃった。ごめんね。その場にいるって言い出せなくて。――二人がそういう関係なの知らなかったからショックで」

 目を見れない。彼がどんな表情をしているのか知る余裕もない。自分の気持ちを伝えるのに精一杯だった。多分今、私の顔まっ赤になっていると思う。

「教えてくれればよかったのに」

 やっと顔を上げて言いたかった事を言えた。ちゃんと笑えているだろうか。

「坂上、ちがっ……」

「明ちゃんごめんね!」

 晴菜ちゃんが私の眼前へ移動し言い放った。何か伝えようとした岸谷君を背後に隠すかのような動きだった。
 女の子らしい華奢な掌で私の両手を包み説明してくる。

「私……言えなくて。岸谷君とは付き合ってるとかそういうのじゃないから! 明ちゃんにこんな事知られたら私……嫌われると思って言えなかった」

 綺麗な瞳が目の前で悲しそうに潤み伏せられた。

「私は聡ちゃんが好き」

 静かに、だけど力強い言葉で晴菜ちゃんが宣告する。
 その口の動きをどこか虚ろに見つめていた。背中に微かに痛みが走る。過去、緊張した時にも感じたそれが冷たい汗を呼ぶ。

「ずっと好きだった」

 長い睫毛が持ち上がり隠れていた双眸がこちらを向く。黄みがかった茶色。瞳の色も大好きなものの一つだったのに。
 悲しいのを堪えているから眉間に皺が寄っていたと思う。そんな顔で彼女の目を見返した。
 晴菜ちゃんは私へ言い聞かせるように口にした。

「どんな事をしても守りたいものってあるよね。私はその為に友達も利用するし他人の幸せも踏みにじれる。本当の自分も偽れる」

 私は傷付いていた。たった一人の友人が吐露した胸中が酷く歪んでいるように思えた。
 しかも更に厄介だと感じたのが彼女の目だ。内容の暗さに反してとても澄んでいる。まるでそれが正しいと信じ切っている様子に見えて背筋がゾクッとした。

 友人の目が笑みの形を作り私から距離を取った。その際小さな囁きが聞こえた。

「えへへ。明ちゃんは甘いなぁ」

 一歩後ろへ離れた彼女はにこやかに切り出した。

「ねえねえ! すっごく気になってるんだけど二人って本当に付き合ってるの? 何か信じられないなぁ」

 先程までの雰囲気と印象の変わった明るい声で……今、一番追及されたくない話題を衝かれた。

「えっ?」

 思わず出た声も裏返って高く変な感じになってしまい、めちゃくちゃ怪しい私の反応。つい右隣に立つ沢西君の顔をチラ見する。

「ウッフッフ」

 晴菜ちゃんの含み笑いに再び目を戻す。彼女は自らの口元を押さえてニマァと笑った。

「本当に付き合ってるなら証明して見せてよ」

「しょ、証明……?」

「好き合ってるならキスくらいできるよね?」

「おいっ!」

 晴菜ちゃんの要求がとんでもなさ過ぎて目が点になりそうだよ。岸谷君が声を荒げて彼女の暴挙を止めようとしてくれてる。

 こんな時に……私はぼうっとしていた。何か、私には関係のない次元の話が展開されている気がして。
 これまで片想いはあっても両想いとか誰かと付き合ったりといった経験もないし、もちろんキスなどという高レベルな接触に挑戦した事もない。
 しかし今、直面しようとしていた。この要求を回避できなければ私も沢西君も……恋人でもない、好きな人でもない人とキスしてしまう事になるのだ。私だけならまだしも、沢西君に申し訳なさ過ぎる。

 何とか打開策をと必死に考えを巡らせている時、事もなげに言われた。

「できます」

「っ?」

 私は勢いよく右へ振り向く。

 沢西君もこっちを見ていた。

 えっ? えっ? 展開が目まぐるしくて付いて行けない。
 待って。私たちは「フリ」だから。本当にするのは凄くまずいんだって。沢西君には好きな人がいるでしょ? それって好きな人への裏切りじゃん!

 それに……。私の意識は密かに岸谷君の反応を探っていた。
 私、別の人とキスしてるところを岸谷君に見られるの嫌だと思ってる。

 しっかり未練を抱えている自分に気付いてがっかりした。

 そうこうしている内に沢西君が眼鏡を外した。近くにある机の上にそれを置いた後、私と向かい合った。眼鏡を掛けていない沢西君ははっきり言って格好よさが増している。紛うことなき美男子だ。直視できずに目を下に逸らした。

 ハードルが鬼のように高いのだと、この時やっと悟った。震えがくる。

「すみません。やっぱり今日はやめておきます。彼女とは今日付き合い出したばかりでオレの方から半ば一方的に交際を迫った経緯があるので人前でするっていうのもちょっと恥ずかしいですよね? 無理させて嫌われたくないですし。もっと仲が深まるまで待ってもらえませんか?」

 沢西君の言葉にハッと己の目が開く。

「……そうねぇ」

 晴菜ちゃんが沢西君の申し入れに考える素振りで呟く。

 私は心底自分が嫌だった。足を引っ張っている。自分の事なのに沢西君任せで。嫌悪感に太腿の横で握ったこぶしを震わせていた。

「大丈夫! できるよ」

 口から飛び出た声は放課後の教室によく響いた。言ってしまってから我に返る。

 しまったぁ! 黙っていればやり過ごせた場面だったのに?

 正面にいる沢西君の顔を見るのが怖い。きっと凄く呆れているよね。「ごめん!」と心の中で詫び斜め下を向く。

「じゃあ見せてもらおうっと。二人がどれだけ仲よしさんなのか」

 晴菜ちゃんは楽しげだ。こんなに無情な子だったなんて。

「坂上先輩、こっち向いて」

 言われて、緊張でカチコチに動きが重い体を声の方へ向ける。顔は下に逸らしたまま。

「こっち見て」

 要求に何とか視線を上げるけど沢西君の目を見る頃には動悸が激しくて、きっと泣きそうな困り顔になっていたと思う。恥ずかしさで頬が熱い。

 もうこの流れは回避できないのかな? 眼前の味方を必死に見つめた。アイコンタクトで伝わらないだろうか。

 そんな私をきょとんとした目で眺めていた相手は微笑んだ。

 おお! 何かいい策があるのかな? 沢西君の顔が近付いてくる。


「目、閉じて」

 何か策があるに違いない。
 囁かれた言葉を信じ、ぎゅっと目を瞑った。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

浦島子(うらしまこ)

wawabubu
青春
大阪の淀川べりで、女の人が暴漢に襲われそうになっていることを助けたことから、いい関係に。

隣人の女性がDVされてたから助けてみたら、なぜかその人(年下の女子大生)と同棲することになった(なんで?)

チドリ正明@不労所得発売中!!
青春
マンションの隣の部屋から女性の悲鳴と男性の怒鳴り声が聞こえた。 主人公 時田宗利(ときたむねとし)の判断は早かった。迷わず訪問し時間を稼ぎ、確証が取れた段階で警察に通報。DV男を現行犯でとっちめることに成功した。 ちっぽけな勇気と小心者が持つ単なる親切心でやった宗利は日常に戻る。 しかし、しばらくして宗時は見覚えのある女性が部屋の前にしゃがみ込んでいる姿を発見した。 その女性はDVを受けていたあの時の隣人だった。 「頼れる人がいないんです……私と一緒に暮らしてくれませんか?」 これはDVから女性を守ったことで始まる新たな恋物語。

学園のアイドルに、俺の部屋のギャル地縛霊がちょっかいを出すから話がややこしくなる。

たかなしポン太
青春
【第1回ノベルピアWEB小説コンテスト中間選考通過作品】 『み、見えるの?』 「見えるかと言われると……ギリ見えない……」 『ふぇっ? ちょっ、ちょっと! どこ見てんのよ!』  ◆◆◆  仏教系学園の高校に通う霊能者、尚也。  劣悪な環境での寮生活を1年間終えたあと、2年生から念願のアパート暮らしを始めることになった。  ところが入居予定のアパートの部屋に行ってみると……そこにはセーラー服を着たギャル地縛霊、りんが住み着いていた。  後悔の念が強すぎて、この世に魂が残ってしまったりん。  尚也はそんなりんを無事に成仏させるため、りんと共同生活をすることを決意する。    また新学期の学校では、尚也は学園のアイドルこと花宮琴葉と同じクラスで席も近くなった。  尚也は1年生の時、たまたま琴葉が困っていた時に助けてあげたことがあるのだが……    霊能者の尚也、ギャル地縛霊のりん、学園のアイドル琴葉。  3人とその仲間たちが繰り広げる、ちょっと不思議な日常。  愉快で甘くて、ちょっと切ない、ライトファンタジーなラブコメディー! ※本作品はフィクションであり、実在の人物や団体、製品とは一切関係ありません。

将棋部の眼鏡美少女を抱いた

junk
青春
将棋部の青春恋愛ストーリーです

クラスメイトの美少女と無人島に流された件

桜井正宗
青春
 修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。  高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。  どうやら、漂流して流されていたようだった。  帰ろうにも島は『無人島』。  しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。  男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?

サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由

フルーツパフェ
大衆娯楽
 クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。  トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。  いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。  考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。  赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。  言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。  たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

処理中です...