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二章 続編 未完成な運命は仮初の星で出逢う

81 星堂

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 柔らかい肌触りの結構大きめな布の上に必要な荷物を並べ、巻くように包んで背に負った。服の上に斜め掛けしている。私の生きる現代の世界では、今はこの風呂敷にも見えるバッグが流行っている。

 私が使用しているのはレモンのような色に白と薄い緑の花模様が入った物。裏に重なっているのは落ち着いた印象のオレンジ色で無地だ。通常二枚重ねで持ち歩く。主に露店で購入でき、たくさんの色み・模様の種類があって買う時はいつも迷っている。

「行ってくるね」

 窓辺の植物に声を掛けて家を出た。


 街を城の方面へ進んで途中、右の道へ入った。程なく塔が集まったような造りの建物が目に付く。城に似た様相だけど、それほど規模は大きくない。高さは十階建てのビルくらい。城と違って塔の数が少ない。城の塔はもっとあった気がする。

 建物の中から続く行列が外へはみ出ている。その最後尾に並んだ。

 ここは「星堂」と呼ばれる……由利花の世界で言うところの「駅」に近いかもしれない場所。星と星を行き来できる「舟」の乗り場。

 因みに「城」と呼んでいた場所は「役所」的な施設となっている。

 星堂に入ると広めのフロアがあって右へ行く人々や左へ向かう人々、中央の列で順番を待つ人や建物の外へ出て行く人など……まあまあ混んでいた。

 私は迷わず中央を選ぶ。目当ての星へは中央の「門」を抜けた先の舟に乗る必要がある。

 列の前方には直径十メートル以上ありそうな光の柱が存在し、薄暗い塔の内部を神秘的に照らしている。青白い筒状のそれは吹き抜けになっている塔の上層へと続いていた。途中で黒い靄が光を遮り、その上がどうなっているのかよく分からない。

 光の柱の手前に設置された大きくて重厚そうな門がこちら向きに開いている。門の向こう側は暗く……天井と同様、黒い靄が掛かったようにその先を見通せない仕様になっていた。

 人々は門を通り抜ける際、行先を口にする。別に言わなくても目的地へ向かう舟に乗れるのだけど古くからの慣習で行っている人が多い。昔は確認的な意味合いでそうしていたらしい。


 あと十人くらいかな~と私より前に並んでいる人たちを眺めていた。そんな時。

「見付けた」

 やや遠くで男性の声がした。聞こえた左の方へ目を向ける。こちら側へ駆けて来る人物がいた。

 黒っぽい上着を羽織っていて、細身で長身。後ろで三つ編みにしてある長い黒髪が揺れている。若干つり目で瞳が紫色。美青年ってこういう人の事を言うんだろうなって思いながらぼうっとその光景を見ていた。

 その人は私の並ぶ列を目掛けているようにほかの通行人をよけつつ走って来る。誰か知り合いでもいたのかな?

 彼は真っ直ぐこちらへ歩み、私の左横で立ち止まった。

「アネラ! 捜したよ。一緒に行くって言ってたのに僕を置いて行くなんて酷いじゃないか! 昨日のケンカは確かに僕が悪かったさ。でも二人で計画した旅行だろ?」

 少し悲しげな瞳で見つめられた。アメジストを彷彿させる深い薄紫色で羨ましく考えてしまう程美しい双眸。

 うっとり見入っている場合ではない。両腕を掴まれて我に返った。目の前にいるこの青年は人違いをしている。私は彼の捜している「アネラ」さんではない。

 口を開こうとした。だけど彼の方が僅かに早く喋り出した。

「機嫌直して?」

 ニコッと微笑みを浮かべた青年の顔が近付いてくる。頬の横で低く伝えられた。

「話を合わせて、エスティ」

 驚いているところへ右頬に口付けされる感触があった。向かい合い、改めてその表情を見る。
 彼は意味ありげに笑った。
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