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一章 本編

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 経路を進むと、やがて広めのスペースに出た。出口は入口のあった場所に繋がっていた。

 そのスペースには咲月ちゃんがいた。私と龍君に気付いた様子でこちらに手を振ってくれた。


「おーい! 由利花ちゃん、鈴谷。皆外で待ってるよ。記念写真、撮ろう!」


 咲月ちゃんの呼びかけに私と龍君はチラッと視線を交わした後、繋いでいた手を離した。私は咲月ちゃんの方へ小走りに近寄って謝った。


「ごめん咲月ちゃん。私たち遅くなっちゃって……」

「むっふっふ」


 咲月ちゃんはニヤッと目を細め、変な笑い方をした。

 私たちの横を龍君が通り過ぎる。彼が外へ出るのを見計らったようなタイミングで咲月ちゃんが言った。


「私たち、わざと由利花ちゃんと鈴谷を残して先に行ったの。どうだった? いい雰囲気になった?」

「えっ? そうだったんだ……。ありがとう。でも、ちょっと残念」


 私の苦笑いに咲月ちゃんの目が大きく見開かれた。


「鈴谷と何かあったの? ケンカしたとか?」

「ううん。そうじゃなくて。……咲月ちゃんや皆とも一緒に回りたかったなぁって」


 そう笑ったら、咲月ちゃんにぎゅうっと抱きしめられた。




「私も! 由利花ちゃんと回りたかった!」




 体を離した咲月ちゃんが少し涙目だったので彼女の頭を撫でた。

「咲月ちゃん、ありがとう」











 咲月ちゃんに続いて外に出た。陽射しの強さに思わず目を細める。

「あっ、来た来た」

 そう言ったのは望君。その横には沢野君、陽介君がいて、雪絵ちゃん、棚村さん、川北さん。手前の方では志崎君と龍君が喋っている。


「さぁ皆、そこに並んで!」


 水族館の建物を背景に、咲月ちゃんの指示で班の子たちは並んだ。


 あれっ? でも、咲月ちゃんが写真を撮ったら咲月ちゃんは写真に入らない?


 私の心配は必要なかった。
 咲月ちゃんは建物入口側の木に向かって走って行った。木の裏に座っていた人物の腕を引っ張っている。

「先生、出番ですよ」

 私たちの前まで連れて来られた西宮先生は目を眇めている。きっと日陰から急に連れ出されて眩しいのだろう。彼は咲月ちゃんから使い捨てカメラを手に握らされ、目を眇めたままそれをジャリジャリ巻いた。

 咲月ちゃんが私の隣に並んだところで先生が言った。

「はい、チーズ」



 もう一度撮り直した後、先生はよろよろした足取りで日陰に戻ろうとしていた。けれど私たちの事を見ていた他の班の子たちにも撮影を頼まれていたので、きっともう日陰に戻る時間はないだろう。集合時間もそろそろだし。


 班の子たち数人がトイレに行っている間、水族館の建物を眺めていた。ここに来るのも三度目か。一度目と二度目の時は……。


「笹木さん」


 呼ばれてハッとする。声のした方に顔を向けた。

 私の左側に立っていた志崎君が少しぎこちない顔で笑った。



「水族館、楽しかった?」



 そう問われたけど、少しの間何も返答できなかった。胸がドキドキして。

 いや違うのだ。決してときめきのドキドキではなくて、ちょうど彼の事を考えていたのでタイミングがよすぎてびっくりしたのだ。一度目と二度目の今日では志崎君の事をずっと目で追ってたなぁって……考えていたのはただそれだけ。


「……っ、楽しかったよ?」

「そう。よかった」


 志崎君は伏目がちに少し笑った。

 その時、私たちの左の方でカチッと音がした。
 そちらを見ると咲月ちゃんがカメラを構えていた。彼女は私たちを見てニヤニヤ笑いをしている。


「由利花ちゃん、浮気はダメだよ~」

「えっ? 違うよ!」


 咲月ちゃんの言葉に、ブンブン首を振って否定する。

 そういえば、龍君は今トイレに行っているのか。噂ではトイレには行列ができているらしい。龍君がここへ戻って来るのも時間が掛かるかもしれない。

 そう思って何気なくトイレのある方向へ目を向けたら、少し離れた場所に龍君が立っていた。

 こちらを見ていた彼は私から視線を逸らした。

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