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一章 本編
64 秘密
しおりを挟むその日の帰り道。
咲月ちゃんは親衛隊の集まりがあるとかで学校に残っていた。修学旅行中の沢野君防衛について話し合って色々確認・調整するらしい。
なので今日は龍君、透、私で帰路に就いた。
「おっととぉぅ?」
前を行く透が片足立ちして両腕を伸ばしフラフラしている。
中学校裏も過ぎた街路。車が通れないくらいの細い道の中央で、透は体のバランスを取ろうとしていた。
彼は今、影のある場所だけを踏んで進む遊びをしていた。
精神年齢は大人……しかも私や龍君よりも年上だろうに、たまに本当に子供っぽい事をする人だ。
この人生だけで見れば年相応の透のはしゃぎよう。微笑ましく感じ、自然と私も笑顔になる。
「わあっとっ!」
民家の門の影から電柱の影へ跳び移ったところでバランスを崩した透。転んで地面に膝と手をついている彼に慌てて駆け寄る。
「大丈夫? 透」
助け起こそうと屈んで右手を差し出した。
「ありがとう、由利ちゃん」
透が左手で私の手を掴んで立ち上がる。
……?
私は右手に違和感を覚え、その手を繋いでいる透を見る。
尋ねようと口を開きかけた時、先に透が喋り出した。
「由利ちゃん……そういえば誕生日にあげた手紙、読んでくれた? ちゃんと寝る前に一人で読んだ? またお手紙書いたら読んでくれる? もちろん鈴谷さんには内緒で」
透は肩越しに振り向いて龍君をニヤッと見ている。龍君はムッとしたような表情で透を睨んでいる。透がフッと馬鹿にしたように微笑んだ。
「あー、やっぱりまだまだ全然子供なんですね、鈴谷さん。手紙くらいでやきもち焼くなんて。ボクは前の人生であなたに由利ちゃんを奪われた事、未だに根に持ってるんです。手紙なんてかわいいもんでしょ?」
子供らしいあどけない声でそう龍君に告げた透。険しい目付きなのに口元は笑っているという小二らしくない表情。
「由利ちゃん、ありがとう。もう大丈夫だよ」
繋いでいた手を、透が両手でぎゅっと握った。
上目遣いに目を細めた彼は手を離し、再び影を踏んで移動する遊びの為に地面をキョロキョロ見渡している。
「ここら辺、影少ないなぁ」
……そうか。つまりはそういう事なのだろう。
透の後ろ姿を見つめながら、彼に握られた右手を静かに下ろした。
右横に立ち止まった龍君が私の顔を覗き込んだ。
「由利花ちゃん、どうしたの?」
「あっ、何でもない! まだ暑いなーって、ぼーっとしてた」
左手を振り、笑って誤魔化した。
私の体調を心配してくれている様子の龍君。罪悪感がちくちく胸を刺す。
私の握った右手の中に、おそらく透からの手紙がある。小さく小さく丸められた直径二センチ程と思われるそれを、透は龍君に気付かれないよう私に渡してきた。
何だろう……? 何で龍君に秘密にするんだろう?
この前も『勇輝からの伝言』を龍君に教えないよう手紙に書かれていて、まだ伝えていない。龍君にも絶対聞いてほしいのに。
さっきの透の言動から、この手中のメッセージも龍君に秘密にしないといけないらしい。
透は一体何を考えているのだろう? そういえば前回の手紙に不可解な事が書かれていたような……。
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