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一章 本編
63 牽制
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「あ、そうだ。透んるん! 来週の頭から私たち修学旅行だから。ここに来ても由利花ちゃんに会えないからね?」
口に手を当て咲月ちゃんがニマニマしている。
「……知ってるよ? 咲月お姉ちゃん」
透も彼女に笑顔で返す。
「…………透んるんって何か冷めてるね……。もっと『えー!』とか『由利ちゃんが心配』とかないの? この修学旅行という一大イベントで由利花ちゃんと鈴谷の仲が進展しちゃうかもしれないのよ!」
「さっ、咲月ちゃん? 少女漫画の読み過ぎだよ!」
すぐ後ろに龍君もいるのに!
龍君と私は二度目の人生で結婚して子供まで儲けているのだ。この三度目の人生……しかもまだ小学生なのに急いで進展する必要あるかな? あまり進み過ぎるのも問題あるだろうし。
二度目の人生でお互いについて理解がある分「焦らなくて大丈夫」と自分に言い聞かせて、一旦心を落ち着けようと模索していた。
真後ろの席に座る龍君を窺う。彼は頬杖をついて視線を机の上に落としていた。何かを考え込んでいる風で私の視線にも気付いていないようだった。
「鈴谷君?」
声をかけると目が合った。
「ごめん、聞いてなかった。何?」
龍君はそう柔らかく微笑んだ。
……好きな人の笑顔って何でこんなに胸にくるんだろう。
咄嗟に顔を下に逸らしてまごついてしまった。
「咲月ちゃんが透に修学旅行中、私と鈴谷君の仲が進展するかもしれないって言ってて、さすがにそれはないよねって思って。私たち、現状十分進んでるよね? これ以上進めないよね?」
龍君の目が見開かれるのを見た。一瞬、教室の空気が変わったのを感じた。そしてやっと自分が失言した事に気付く。
「あ……違……」
その先の言葉が出てこない。喉がひくつく。
「キス以上に進展したらダメだよね?」と言うのが恥ずかしくてその単語を伏せて発言したら「もう最終段階まで到達したのでそれ以上のステップはありません」と言っているように聞こえたかもしれない。周囲に目を向けるのが怖い。
いや、もしかしたら正しく伝わった可能性も無きにしも非ず……?
「わー、皆にどう捉えられた?」と心の中で非常に混乱していた。
龍君は目を瞠ったまま黙っている。
りゅ、龍君お願い……! 私の失言を訂正して……!
祈るような気持ちで見つめた。
祈りが通じたのか彼が少し笑った。
よかった、伝わったようだ……!
「そうだね。僕たちは進めるところまで進んだね」
おぉおぉうい! 龍君?
求めていた回答と違う! 誤解を増幅させるかの如く肯定した彼に目を剥く。
教室にいたクラスメイトたちのざわつきの中、咲月ちゃんの声が重く響く。
「そんな。由利花ちゃんまさか……。夏休みの間に二人がそんなに進みまくってたなんて知らなかったよ! 何で教えてくれなかったのぉぉ!」
咲月ちゃんが私の上着に縋り付いてめちゃくちゃ悔しそうにしている。
「ち、違うよ!」
やっと声が出たけど咲月ちゃんは聞いていないようだった。
龍君……何であんな事言ったの? 意図が分からない。
龍君に視線を戻した。彼の微笑みは透に向けられている。
透もニコニコしていたけど、その目がスッと開かれた。
「さすが鈴谷さん。余裕ですねー。一度目のあなたとは大違いだ」
透が龍君に明るい声で話しかけている。後半は声を潜めていたけど、彼らの近くにいた私にはハッキリ聞こえた。
そのよく意味の分からない発言の直後、龍君から笑みが消えた。彼の透へ向ける眼差しに鋭さが増す。
透と龍君。二人が対峙する横で、私は咲月ちゃんに縋り付かれながらこの状況に困惑していた。
口に手を当て咲月ちゃんがニマニマしている。
「……知ってるよ? 咲月お姉ちゃん」
透も彼女に笑顔で返す。
「…………透んるんって何か冷めてるね……。もっと『えー!』とか『由利ちゃんが心配』とかないの? この修学旅行という一大イベントで由利花ちゃんと鈴谷の仲が進展しちゃうかもしれないのよ!」
「さっ、咲月ちゃん? 少女漫画の読み過ぎだよ!」
すぐ後ろに龍君もいるのに!
龍君と私は二度目の人生で結婚して子供まで儲けているのだ。この三度目の人生……しかもまだ小学生なのに急いで進展する必要あるかな? あまり進み過ぎるのも問題あるだろうし。
二度目の人生でお互いについて理解がある分「焦らなくて大丈夫」と自分に言い聞かせて、一旦心を落ち着けようと模索していた。
真後ろの席に座る龍君を窺う。彼は頬杖をついて視線を机の上に落としていた。何かを考え込んでいる風で私の視線にも気付いていないようだった。
「鈴谷君?」
声をかけると目が合った。
「ごめん、聞いてなかった。何?」
龍君はそう柔らかく微笑んだ。
……好きな人の笑顔って何でこんなに胸にくるんだろう。
咄嗟に顔を下に逸らしてまごついてしまった。
「咲月ちゃんが透に修学旅行中、私と鈴谷君の仲が進展するかもしれないって言ってて、さすがにそれはないよねって思って。私たち、現状十分進んでるよね? これ以上進めないよね?」
龍君の目が見開かれるのを見た。一瞬、教室の空気が変わったのを感じた。そしてやっと自分が失言した事に気付く。
「あ……違……」
その先の言葉が出てこない。喉がひくつく。
「キス以上に進展したらダメだよね?」と言うのが恥ずかしくてその単語を伏せて発言したら「もう最終段階まで到達したのでそれ以上のステップはありません」と言っているように聞こえたかもしれない。周囲に目を向けるのが怖い。
いや、もしかしたら正しく伝わった可能性も無きにしも非ず……?
「わー、皆にどう捉えられた?」と心の中で非常に混乱していた。
龍君は目を瞠ったまま黙っている。
りゅ、龍君お願い……! 私の失言を訂正して……!
祈るような気持ちで見つめた。
祈りが通じたのか彼が少し笑った。
よかった、伝わったようだ……!
「そうだね。僕たちは進めるところまで進んだね」
おぉおぉうい! 龍君?
求めていた回答と違う! 誤解を増幅させるかの如く肯定した彼に目を剥く。
教室にいたクラスメイトたちのざわつきの中、咲月ちゃんの声が重く響く。
「そんな。由利花ちゃんまさか……。夏休みの間に二人がそんなに進みまくってたなんて知らなかったよ! 何で教えてくれなかったのぉぉ!」
咲月ちゃんが私の上着に縋り付いてめちゃくちゃ悔しそうにしている。
「ち、違うよ!」
やっと声が出たけど咲月ちゃんは聞いていないようだった。
龍君……何であんな事言ったの? 意図が分からない。
龍君に視線を戻した。彼の微笑みは透に向けられている。
透もニコニコしていたけど、その目がスッと開かれた。
「さすが鈴谷さん。余裕ですねー。一度目のあなたとは大違いだ」
透が龍君に明るい声で話しかけている。後半は声を潜めていたけど、彼らの近くにいた私にはハッキリ聞こえた。
そのよく意味の分からない発言の直後、龍君から笑みが消えた。彼の透へ向ける眼差しに鋭さが増す。
透と龍君。二人が対峙する横で、私は咲月ちゃんに縋り付かれながらこの状況に困惑していた。
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