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一章 本編

47 込められた愛

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 うん、そうかも。龍君がいつか言ってたみたいに私の頭……思考している大本の部分は壊れてしまったのかもしれない。


 朝、起き掛けには幾分気分がスッキリしていた。けれど流れ込むように思い出される二度目に生きた私の感傷の置き場に困る。

 上半身を猫背にもたげて膝上のタオルケットの模様を取り留めもなく数える。




 ずっと望んでいた我が子……勇輝は本当にかわいかった。

 最初に夢見ていた透との子供ではないけど。
 私は二度目の人生を愛していた。

 たまに透との生活を思い出して泣いてしまう私の頭を勇輝が撫でてくれた。
 幼いながらに私が悲しんでいる事を心配し、一緒に泣いてくれるのだ。

 私はそれで涙を拭い去る事ができた。笑う事すらできた。


「お父さんそっくりね。フフフッ」


 これからの人生はこの子の為に生きよう。

 もう前の人生の事も……透の事も志崎君の事も、今の私とは関係のない事だ。私も龍君や勇輝を笑顔にできるように。


 そう誓った矢先、大切な日常は突然瓦解した。それは一瞬であっけなかった。

 必死に伸ばした手は、あの子に届かなかった。私は公園入口の階段で躓いてしまったのだ。
 勢いのまま飛び出しトラックの前に倒れたけど、あと数センチ、指が。

 記憶は途切れ途切れに曖昧で。最期の言葉も交わせず闇に呑まれるような感覚の後には、虚しさ。




 だから私はもう子供を望まない。勇輝がいるから。私は勇輝のお母さんだもの。
 大切な人の喪失を恐れているのかもしれない。臆病者だから。
 これ以上私の半端な気持ちで龍君を不幸にしたくない。


 既に……志崎君への想いも、龍君への恋慕も、透への愛情も歪んでいた。


 私は心の根底にある声を聞かない事にした。


 きっと勇輝はもう二度と取り戻せない。

 右手を天井に向かって伸ばす。私があの時、躓かなかったら。もっと早く気が付いていれば。
 手の甲を見つめながら思う。私はあと何回繰り返すのだろう。それともこの人生で繰り返しは終わりだろうか。


 失敗ばかり。
 憎らしいけど傷を負って後悔できる私は、傷を負わず後悔しない私より強くて優しくなれる。


 人を愛する事は相手に自分を愛してほしいと求める事じゃないっていつか誰かが言ってたけど、今その本意の欠片に触れた気がした。


 その言葉にはきっと続きがある。


 何だろう。今の私には上手く説明できないけど。前提に自分を愛していないといけないって事は分かる。


 それならば逆に誰かを愛するように自分も愛せるのではないだろうか。


 一度目の人生で二十代の頃。暗闇で泣いていた私に誰かが言葉を贈ってくれたのだ。それは本の一文だったかもしれないし、知り合いからのメールだったかもしれない。


 いっぱいいっぱいの心では聞こえなかった送り主の愛が、今やっと垣間見えた。

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