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一章 本編
37 日曜日のメンバー
しおりを挟む「もぉ、由利花ちゃん? 何笑ってるのよ!」
咲月ちゃんが怒った真似をしてこっちに来たので私は反対の教室後方へ逃げた。迫って来た咲月ちゃんに笑いながら「ごめん」と振り向く。
その時、前方の一番前の席からこちらを見ている志崎君と目が合った。けれど彼はすぐにふいっと視線を逸らし前を向いてしまった。
「あ……」
楽しかった気分が一気に沈む。彼の後ろ姿を見つめて複雑な思いを抱く。
数日前の親衛隊暴走の一件から志崎君は少しよそよそしくなった。
色々考えて、何でか察した。
志崎君に嘘の疑惑がかけられている時、彼が「違う」と否定したのに私がちゃんと向き合えなかったからだと思う。あの日、自分の事だけでいっぱいいっぱいで志崎君の気持ちを考えていなかった。そんな自分に恥じ入った。
「由利花ちゃん?」
咲月ちゃんが心配そうな顔をしている。いけないいけない。つい考え過ぎて落ち込むの悪い癖かもしれない。首を振る。
「何でもない!」
咲月ちゃんに明るく笑った時、後方にある出入口から雪絵ちゃんが入って来るのが見えた。
「雪絵ちゃん!」
そうだ。彼女にも聞いてみよう。
私は両手を大きく振った。そのままニコニコ顔で手招きする。
雪絵ちゃんは嫌そうに顔をしかめながらだけど、こちらへ歩いて来てくれた。
さっそく尋ねてみる。
「次の日曜日だけど、空いてる?」
「……空いてるけど、何?」
雪絵ちゃんの返答に心の中でガッツポーズをする。
「実はその日、うちのお父さんと鈴谷君のお父さんが一緒に釣りに行くんだよね。私たちも付いて行こうって話してたんだけど……一緒に行かない?」
私のお誘いに、雪絵ちゃんは一瞬考える素振りをした。チラ、と何故か龍君の顔を見てる。その後、私の後方にいた咲月ちゃんに目を向けている。
「私は虫が苦手だから断ったのよね」
「僕もその日は行けないんだ」
「オレも用事があって」
咲月ちゃん、望君、陽介君が口々に行けない旨を連ねる。
咲月ちゃんが口にしたのは分かる。
けど望君と陽介君が言い出したのは何故か。まだ誘ってないんだけど。
まるで雪絵ちゃんがアイコンタクトで喋らせたかのように見えた。
雪絵ちゃんはそのかわいらしい顎に手を当てて何事か考えている様子だ。私の目には、彼女が頭の中で集まった情報を咀嚼しているように映る。
それも僅かの間で、雪絵ちゃんは顔を上げた。
「行けないわ。ごめんなさい」
「えっ、さっきその日空いてるって言ってたのに何で?」
私は雪絵ちゃんの返事が残念で食い下がる。
彼女は再び龍君の顔に目線を動かし、すぐにまた私に戻した。
「ちょっとこの間の借りを返さないといけなくて……。とにかく、私たちの事は気にしないで。楽しんできてね」
雪絵ちゃんの言葉は最初ボソボソ呟かれてよく意味が解らなかったけど、語尾はしっかりハッキリ伝わった。明るめの声で、しかも微笑みもプラスされていた。
途端に私は日曜日の釣りに何か不穏な事が起こりそうな気がしてきて体を強張らせた。
隣に立った龍君が一つ、私の肩を叩いた。
「皆行けないみたいだから、僕らだけで行くしかないね」
目線を上げると一際輝くような龍君の笑顔。少し前まで機嫌が悪そうだったのに急にどうしたのだろう。
目を大きくして彼の様子を見ていた時、トゲのある声音が教室に大きく響いた。
「オレも行く」
ハッとする。声の方を向くと席を立った志崎君がこちらを睨んでいる。
龍君がため息をついたのが聞こえた。
「無理に来なくても大丈夫だよ。志崎も用事あるんじゃないの?」
「別に。元あった予定は今お前に潰されたし。日曜に世界が滅亡するとしても絶対行くし!」
「……最悪のパターン」
二人のやり取りは龍君のげんなりしたようなため息で終了した。
周囲にいたクラスメイトや咲月ちゃん、望君、陽介君らも呆れた雰囲気の目で苦笑いだ。
「あーあ」とか「こうなるよね、やっぱり」という声がちらほら耳に入る。
雪絵ちゃんにポンと肩を叩かれた。
微笑みを浮かべた彼女は何も言わずに頷いて見せた。
その顔にはありありと「面倒事に巻き込まれなくて本当によかった。あなたは一人で頑張って」と書かれているようだった。
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