上 下
33 / 83
一章 本編

33 黒幕

しおりを挟む


「……嘘」

 トイレの手洗い場の前。咲月ちゃんの表情を読む。彼女は視線を少し下に向け、悲しそうに苦笑した。


「嘘だよ!」

 私はその『間』に耐えられず声を荒げてしまう。耳を塞ぐけど彼女の声が頭に響く。


「最初は……二人は両想いだし諦めようって思ってたの。同じ志崎君を好きな者として由利花ちゃんに親近感さえ持っていた。でもね、四月に学校前で由利花ちゃんと志崎君が手を繋いでいるの見た時……ショックで逃げちゃった。あの時、無視してごめんね」


 私は何も言えず彼女を見つめ続ける。


「由利花ちゃんにこの話を打ち明けるのはまだ先だと思ってた。心の整理がついたら言うつもりだった。でも」


 咲月ちゃんの顔から少しだけあった笑みも消える。


「志崎君はダメよ。……あいつ、他にも付き合ってる女子がいるの」


 一瞬、目の前が真っ白になった。


「由利花ちゃん!」


 気が付いたら咲月ちゃんにもたれかかり体を支えられていた。

「ごめん、ふらついちゃって」

 彼女に謝る。咲月ちゃんは涙目で首をふるふる振っている。






 トイレを出た廊下に雪絵ちゃんと棚村さんがいた。
 雪絵ちゃんは難しそうな顔をしていた。私を見つめてこう言った。


「何で笹木さんが気に入らないのか分かったの。……鈴谷君が好きだからよ」


 私は瞬きもできずにしばらく雪絵ちゃんを見ていた。私の目から、その意志とは関係なくぽたぽた涙が落ちる。

 いつもは私の困っている顔を見て楽しそうに笑っている雪絵ちゃんなのに、何で今日は申し訳なさそうなんだろう。


「もう。皆ひどいよ」

 私は「はははっ」と力なく空元気で笑った。










 咲月ちゃんと雪絵ちゃんに両側を支えられて教室へ戻った。
 そこは修羅場だった。


「ひどいよ志崎君。二番目は私って言ってたのに」

「違うわ、私よ!」

「私には笹木さんは遊びで私が一番って言ってくれたわ!」


 廊下にも聞こえる。キーキーキャーキャーうるさい。
 帰って来た私の姿を認めたのだろう。志崎君はギクッとした様子で弁明した。


「あ……違う。違うから笹木さん……」


 涙が溢れてしまい「うん」と、それだけしか言えずに自分の席に戻った。机に突っ伏して顔を隠す。


 何でこんな事になってしまったんだろう。


















 ……悪夢だった現実を裂いて、その声は本当に私を救ってくれたんだ。





















「皆、何? 何でだよ! 何で笹木さんにこんな事するんだよ!」






















 近くで張り上げられた大きな声。教室は一瞬で静寂に包まれる。

 顔を上げて隣を見る。それは志崎君でも龍君でもなくて、沢野君だった。

 机に手をついて立ち上がり怒った表情だった彼はこちらを向いた。もう一度、沢野君は椅子に座って私と目線を合わせた。



「笹木さん、ごめん。ずっとずっと……笹木さんの事が幼稚園の頃から好きだったんだ。本当に好きになってごめん」



 私は泣いた後のぼうっとした視界に映る沢野君を見つめた。

 何で謝るんだろう。

 疑問に思っていると沢野君は私に説明してくれた。



「これは恐らく『親衛隊』の仕業だ。志崎君が笹木さん一筋なのは皆よく知ってるし、多分今月の席替えも仕組まれたものだ。僕と笹木さんをくっつけたかったみたいだけど、余計なお世話だよ!」



 睨んだ顔で皆を見回している沢野君。彼が誰かを憎む姿を初めて見た。怒った顔も迫力があって美しい。


 そして一人の女生徒を蔑んだ目で追及した。




「お前が裏で『親衛隊』を操っている黒幕だって知ってるんだからな……夢乃」































 待って! 夢乃って………………誰?

しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

夫の色のドレスを着るのをやめた結果、夫が我慢をやめてしまいました

氷雨そら
恋愛
夫の色のドレスは私には似合わない。 ある夜会、夫と一緒にいたのは夫の愛人だという噂が流れている令嬢だった。彼女は夫の瞳の色のドレスを私とは違い完璧に着こなしていた。噂が事実なのだと確信した私は、もう夫の色のドレスは着ないことに決めた。 小説家になろう様にも掲載中です

アルバートの屈辱

プラネットプラント
恋愛
妻の姉に恋をして妻を蔑ろにするアルバートとそんな夫を愛するのを諦めてしまった妻の話。 『詰んでる不憫系悪役令嬢はチャラ男騎士として生活しています』の10年ほど前の話ですが、ほぼ無関係なので単体で読めます。

娼館で元夫と再会しました

無味無臭(不定期更新)
恋愛
公爵家に嫁いですぐ、寡黙な夫と厳格な義父母との関係に悩みホームシックにもなった私は、ついに耐えきれず離縁状を机に置いて嫁ぎ先から逃げ出した。 しかし実家に帰っても、そこに私の居場所はない。 連れ戻されてしまうと危惧した私は、自らの体を売って生計を立てることにした。 「シーク様…」 どうして貴方がここに? 元夫と娼館で再会してしまうなんて、なんという不運なの!

王子殿下の慕う人

夕香里
恋愛
エレーナ・ルイスは小さい頃から兄のように慕っていた王子殿下が好きだった。 しかし、ある噂と事実を聞いたことで恋心を捨てることにしたエレーナは、断ってきていた他の人との縁談を受けることにするのだが──? 「どうして!? 殿下には好きな人がいるはずなのに!!」 好きな人がいるはずの殿下が距離を縮めてくることに戸惑う彼女と、我慢をやめた王子のお話。 ※小説家になろうでも投稿してます

イケメン社長と私が結婚!?初めての『気持ちイイ』を体に教え込まれる!?

すずなり。
恋愛
ある日、彼氏が自分の住んでるアパートを引き払い、勝手に『同棲』を求めてきた。 「お前が働いてるんだから俺は家にいる。」 家事をするわけでもなく、食費をくれるわけでもなく・・・デートもしない。 「私は母親じゃない・・・!」 そう言って家を飛び出した。 夜遅く、何も持たず、靴も履かず・・・一人で泣きながら歩いてるとこを保護してくれた一人の人。 「何があった?送ってく。」 それはいつも仕事場のカフェに来てくれる常連さんだった。 「俺と・・・結婚してほしい。」 「!?」 突然の結婚の申し込み。彼のことは何も知らなかったけど・・・惹かれるのに時間はかからない。 かっこよくて・・優しくて・・・紳士な彼は私を心から愛してくれる。 そんな彼に、私は想いを返したい。 「俺に・・・全てを見せて。」 苦手意識の強かった『営み』。 彼の手によって私の感じ方が変わっていく・・・。 「いあぁぁぁっ・・!!」 「感じやすいんだな・・・。」 ※お話は全て想像の世界のものです。現実世界とはなんら関係ありません。 ※お話の中に出てくる病気、治療法などは想像のものとしてご覧ください。 ※誤字脱字、表現不足は重々承知しております。日々精進してまいりますので温かく見ていただけると嬉しいです。 ※コメントや感想は受け付けることができません。メンタルが薄氷なもので・・すみません。 それではお楽しみください。すずなり。

セレナの居場所 ~下賜された側妃~

緑谷めい
恋愛
 後宮が廃され、国王エドガルドの側妃だったセレナは、ルーベン・アルファーロ侯爵に下賜された。自らの新たな居場所を作ろうと努力するセレナだったが、夫ルーベンの幼馴染だという伯爵家令嬢クラーラが頻繁に屋敷を訪れることに違和感を覚える。

【完結】騎士団長の旦那様は小さくて年下な私がお好みではないようです

大森 樹
恋愛
貧乏令嬢のヴィヴィアンヌと公爵家の嫡男で騎士団長のランドルフは、お互いの親の思惑によって結婚が決まった。 「俺は子どもみたいな女は好きではない」 ヴィヴィアンヌは十八歳で、ランドルフは三十歳。 ヴィヴィアンヌは背が低く、ランドルフは背が高い。 ヴィヴィアンヌは貧乏で、ランドルフは金持ち。 何もかもが違う二人。彼の好みの女性とは真逆のヴィヴィアンヌだったが、お金の恩があるためなんとか彼の妻になろうと奮闘する。そんな中ランドルフはぶっきらぼうで冷たいが、とろこどころに優しさを見せてきて……!? 貧乏令嬢×不器用な騎士の年の差ラブストーリーです。必ずハッピーエンドにします。

深海の星空

柴野日向
青春
「あなたが、少しでも笑っていてくれるなら、ぼくはもう、何もいらないんです」  ひねくれた孤高の少女と、真面目すぎる新聞配達の少年は、深い海の底で出会った。誰にも言えない秘密を抱え、塞がらない傷を見せ合い、ただ求めるのは、歩む深海に差し込む光。  少しずつ縮まる距離の中、明らかになるのは、少女の最も嫌う人間と、望まれなかった少年との残酷な繋がり。 やがて立ち塞がる絶望に、一縷の希望を見出す二人は、再び手を繋ぐことができるのか。 世界の片隅で、小さな幸福へと手を伸ばす、少年少女の物語。

処理中です...