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一章 本編
31 席替え
しおりを挟む「雪絵ちゃん、その紙何に使うの?」
私はどうしても気になっていた事を聞いてみた。
「うふふ。教える訳ないでしょう? あなた他人事に関心持ち過ぎなんじゃないかしら? あまり詮索されたくないわ」
「その言葉、そのままお返ししますが」
「あら。心外ね。この紙の内容は私の頭の中を整理したものなの。あなたに教えてもらった事ではないから。気にしないでね」
ニコッと微笑まれましても。バッチリ私の名前が書かれた紙を気にするなと言われても、とても気になって困るよ。
雪絵ちゃんは件の紙を畳み、薄緑色の封筒に入れてサッと手提げ袋へと片付けてしまった。
私は諦めて肩を落とし自分の席へと戻った。
……封筒に入れてた?
もしかして誰かへ渡すって事だろうか。すごく怪しい。
私が目を細めて雪絵ちゃんの後ろ姿を凝視していた時、斜め後ろの席に咲月ちゃんが戻って来た。
「あっ……」
咲月ちゃんに昨日の事を聞こうとしたけど言い出せなかった。
さっきの雪絵ちゃんの言葉が胸に浮かんだからだ。
『あなた他人事に関心持ち過ぎなんじゃないかしら? あまり詮索されたくないわ』
咲月ちゃんも聞いてほしくないのかもしれない。さっきも話題を躱された気がするし。自分でも知らないうちに咲月ちゃんが嫌がる事をしていたのかな、私。
そう思うと、注意してくれた雪絵ちゃんに感謝したい気持ちになった。
誰にでも人に話せない事、あるものだと思う。きっと話せるようになったら咲月ちゃんから話してくれるだろう。
椅子に座ったまま咲月ちゃんの方に体を向けていたけど、何も言葉にしないで前に向き直った。
この時に咲月ちゃんの様子に気付いていれば、あんなに拗れる事はなかったのかな……?
咲月ちゃんが小さく呟いた言葉を、私は拾う事ができなかった。
六月になった。私たちはくじ引きで席替えをして新たな場所に席を移動していた。
五月にも席は替わっていた。仲良し組は皆ばらけた位置だった。それはそれでいいんだけど、やっぱりすごく仲のいい子たちと席が離れるのは少し寂しかった。
だが。
今月は皆、割と近い。
私の席は教室のちょうど中央の辺り。右隣が沢野君。前が陽介君。後ろが望君。陽介君の前……私の席の列の一番前の席が咲月ちゃん。その右隣が志崎君。望君の後ろが雪絵ちゃんで、その右隣が龍君。沢野君の後ろ……望君の右隣が川北さんという配置だ。
今回私は三班の括りだ。
咲月ちゃん、志崎君、陽介君、沢野君、そして陽介君の隣……私の右斜め前の席の棚村(たなむら)沙由来(さゆき)ちゃんという子と同じ班だ。
棚村さんは背が高めで細くてシュッとした印象の子だ。しっかりした性格らしく掃除の時間に少し話した事があるけど、隅の埃の一粒まできっちり取り除きたい……そんな願望を持つ背筋もシャキッとしたお姉さんタイプだ。自分に厳しく他人にも厳しいというのが周囲の評判だ。
初めてこの席に着いた時、目が合ったので「よろしく、棚村さん」と笑いかけてみた。
「……よろしく」
彼女は表情を変えずに小さく一言だけ返した。少しだけだけど、何か睨まれたような気がした。
何だろう……。私、何かしたかな?
……いや、多分彼女は性格的にツンツンしているだけなのかもしれない。
同じ班の子に嫌われているなんて思いたくなかったので考えをそうシフトした。
まぁ誰からも好かれるなんて事、夢物語でもなければありえないって分かっている。でも辛い思考で生きるより、二度目の人生ではもっと明るい気分で生きたいと思っていた。
それに棚村さんもまだ十二歳くらいじゃないかな。私なんて精神年齢アラフィフなんだから、ここは大人の余裕で見守るぐらいじゃないと。
勝手に温かい目で彼女の後ろ姿を見つめていた。
ちょうどその時、隣に席を移動して来た沢野君に声をかけられた。
「あの。笹木さんよろしく……」
いつもみたいに遠慮がちな口調だ。沢野君らしいなぁと思って微笑んだ。
「よろしく、沢野君」
沢野君は目を見開いた後、唇を噛んだような顔で着席した。そしてそのまま机に突っ伏した。
ええええ。何で?
私、彼を泣かせるような事……何かした?
沢野君の後ろの席で私たちの様子を見ていた川北さんが目頭を押さえて呟いた。
「よかったね、明良君」
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