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一章 本編
26 約束
しおりを挟む「できる訳ないよ! 私……志崎君と付き合ってるし、それに……!」
夫の事もある。ここで龍君と将来結婚すると誓ったら、夫とも志崎君とも結婚する未来はなくなる。今、志崎君と付き合ってる意味もなくなるんじゃないかな?
龍君の事は好きだけど、幼馴染みとしてだ。ずっと近い所にいたけど、恋心を抱いていた訳じゃない。……でも家族みたいに大切だった。
とにかく心臓に悪いこの状況を脱しようと試みる。
手で龍君を押し退けようとした。けれど逆に右手を絡め取られてしまい、胸がざわつく。
「誓えないのなら、ここで絶交だね」
龍君の目が冷たい。
彼は分かってて言っているのだ。私にその選択肢がない事を。
私は、彼と二度もケンカ別れするつもりはない。
龍君は昔から優しくて、人の心の動きを敏感に察知するところがあった。
多分、私が彼の事をどう思っているのかも気付いている。それなのに、なぜ彼はあんな事を言ったのか。答えは一つしかないように思われた。
何て声をかければいいかためらい開きかけた口を閉ざした。
そんな私を見て龍君は悲しそうに笑った。
「何が『ずっと友達でいてほしい』だよ……」
……嘘だ。龍君が泣いてる。
彼の目から零れた涙が、その頬を伝い落ちる。
「由利花ちゃんから離れて行くくせに。ずっと一緒になんていられないって知ってるくせに」
絶句してしまう。
手紙に何気なく書いた私の思いが、こんなにも彼を傷付けていたなんて。
私は彼の事が大好きだ。けどそれ以上に彼は私を必要に思ってくれている。その気持ちの強さを思い知ってしまう。
私が泣かせたんだ。
左手で龍君の頭を撫でた。
彼は目を伏せて涙を払った後、笑った。
その瞳に陰りは消えていた。
あ。分かってしまった。…………それは何かを決意した顔だと。
「もう、子ども扱いしないでよ」
やんわり拒絶された。視線を下に外した彼から、ゆっくりと左手を離す。
「ごめんね。ただの幼馴染みなのに、こんなに執着して。気持ち悪いよね? 泣くし、格好悪いところばかり見せて……。今日の事は忘れて下さい、お願いします!」
冗談めかして手を合わせるポーズをしてくる彼をじっと見る。
「そんなに不安そうな顔しなくても大丈夫だよ。結婚もしなくていいし、志崎と別れなくていいし、ついでに絶交もしないから」
踵を返す龍君。その背中を見つめる。
だめだ。彼はきっと私から離れる。絶交しなくても、きっと似たような事になる。ゆっくりゆっくり、私の人生からフェードアウトしていくつもりなんだ。……そんな気がした。
ここでこのまま彼を帰したら、一度目の人生と同じだ。
もう心から笑い合える日は、二度と来ない。
「何のつもり?」
前を向いたままの龍君に、少し怒ったような戸惑ったような声で尋ねられる。
私が彼の上着の端をしっかりと掴んでいたから。
「いや、走って逃げて行くような気がしたから……保険で」
「確かにもう帰ろうと思ってたけど」
ぶすっとした顔で振り返る彼。
その顔に、右手の小指を突き付けてやる。
「何?」
訝しげに目を細める彼に教えてやる。
「いいよ。……誓えないけど約束はしてもいいよ。但し、将来どちらか一人でも忘れてたり他にもっと結婚したい人がいる場合はなしになるって事で! それから志崎君とは別れないから! 未来で志崎君の方が好きだったら龍君とは結婚しないから!」
龍君の顔から表情がなくなってる。少し経って、彼は口を開いた。
「え? それって要約すると、今は志崎より僕の方が好きって事だよね?」
「なっ! 違っ、……わかんない。同じくらいかな?」
口にこぶしを当て俯いて考える。
そんな私と龍君の横を通り過ぎる雪絵ちゃん。
……雪絵ちゃん?
「えっ……! 雪絵ちゃん、今の話……聞いてた?」
立ち止まった彼女は振り向いた。
「あなたたちの話、長過ぎなのよ! まぁ中々面白くはあったけど。笹木さん……もう一つの約束はいいの?」
…………ああああ!
公園まで目一杯走ったけど、大分志崎君を待たせてしまった。
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