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一章 本編

24 手紙

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 それから龍君と話をする機会も得られず、午後の授業時間になった。


 休み時間中、彼は毎回机に突っ伏していたし給食の時も機嫌が悪く「話しかけてほしくない」と言いたげなオーラが出ていて手も足も出なかった。


 だが、私には昼休みに閃いた秘策が残されていた。




 名付けて『お手紙大作戦』!




 ……我ながら安直なネーミングだと思うけど、ここだけの話だから許してほしい。


 道具入れの中から、先生に気付かれないようにこっそりとメモ帳を取り出す。
 以前、ピンクと水色の花模様がかわいいと思って買っていたものだ。




『龍君へ。私、何か怒らせるような事したんだよね? ごめんね。もしかしてこの前、家に誘ってくれたのに行けなかったからかな? 私に悪いところがあるなら直すから教えてほしい。ずっと友達でいてほしい。由利花』




 うん。最後の一文が、ちょっと恥ずかしい気もするけど思いの丈を籠めた。

 書いた手紙を折り畳んで、こっそり後ろの様子を窺う。授業前に見た時と同じで、龍君は突っ伏したままだ。一番後ろの席で見え難いからか先生にはまだ注意されていない。

 彼の机の端っこに、そっと手紙を置く。すぐに前を向いた。

 気付いてくれるかな?



 しばらくして、後方でカサッと紙をめくるような音がした。ドキドキ待っていると、次に紙を破るような音が聞こえ私はショックを受けた。

 そんな。手紙を破る程、怒っているなんて!







 落胆していた私の机の上に、何かが落ちてきた。小さい……ゴミ?

 もしかして……と思って後ろを振り向く。普通の姿勢に戻っていた龍君があからさまに視線を逸らした。再び前方に向き直り、急いでその丸められた紙を開いてみる。

 ノートのページ四分の一くらいを破ったと思われるその紙には、一言こう書かれていた。





『自分の胸に手を当てて、よーく考えてみたら?』





 食い入るように何度も読むけど、何がいけなかったのかやっぱりよく分からない。この前の、志崎君と龍君が険悪な雰囲気になっていた短い休み時間の事くらいしか思い至らなかった。


 ……そっか。志崎君と付き合ったら今までみたいに龍君と遊べなくなるんだ。


 苦い思いが胸に満ちる。






 それにしても、さっきの紙を破る音ってノートを破ってる音だったんだ! 私があげた手紙じゃなかったんだ。


 そこまで幼馴染みに嫌われていないと思い、少し安堵していた。



 でも……。



 後から考えたら、この手紙が地雷だったのだ。
 彼の溜め込んでいたフラストレーションを爆発させる……。
















 放課後、龍君にもう一度尋ねようと振り返ったけど彼は既に教室を出たところだった。

 ……やっぱり嫌われてしまったみたいだ。

 肩を落とした私の顔を覗くように隣にいた志崎君が目線を合わせてきた。


「今日、忘れてないよね?」





 ……あっ!



「大丈夫、大丈夫……! じゃあ、後でまた! 急いで荷物置いて来るから!」

 そう誤魔化し笑いをしてランドセルを背負う。手を振り、教室を後にした。






 焦ってしまう。志崎君との約束を忘れていたなんて。
 龍君に「嫌いだ」と言われてから、その事ばかり考えていた。

 せめて、これから会う志崎君を待たせないようにしよう。そう思って歩みを速めた。

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