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一章 本編
22 願い
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週明けの月曜日。眠い。
欠伸をしながら学校前の歩道橋を渡る。
昨日の夜も「咲月ちゃんの好きな人って誰だろう?」と考えを巡らせて中々寝付けなかった。
歩道橋の階段を下り終わって、もう一度欠伸をしているところへ横の方から声をかけられた。
「笹木さん! おはよう」
驚いてそちらに顔を向けると志崎君がいて、彼は春の陽射しのように温かな笑顔を見せた。右手で口を押さえる私。
今、大欠伸してるとこ見られた……よね? 完全に油断していた。
歩道橋の階段すぐ横。どうやら私が来るのを待っていてくれたようだ。
「おはよう、志崎君」
この前の朝も彼はこの歩道橋で待っていてくれて、私の気持ちを確認してくれた。
あの時は朝の早い時間で人通りもまだ少なかったけど今日はそれよりも遅い時間だった為、周囲には色々な学年の児童たちが多く登校中だ。
もしかして……結構待ってくれていたのだろうか。今日私が起きるの遅かったばっかりに……!
心の中でごめんと謝る。
彼の家と私の家は大分離れた位置にあり、学校を基点にほぼ反対方向。通学路は全然別々だった。
志崎君とも龍君や咲月ちゃんと一緒に帰る時みたいに沢山お喋りしたいな……という願望が湧いてくる。
そこでふっと……先週、志崎君と龍君が険悪な雰囲気になっていたのを思い出した。どうやら、龍君の遊びの誘いを私がすぐに断らなかったのがいけなかったらしいんだけど……。
……そうだ!
「あのさ、志崎君。今日の放課後もし時間が空いてたらちょっとお喋りしよう! 私一旦帰って荷物を家に置いてまた来るから、そこの公園で待ち合わせして……志崎君の都合は大丈夫かな?」
学校前からも見える公園を指差して聞いてみる。
私を見ていた彼の目がびっくりしたように大きくなっている。
「オレも今、誘おうと思ってた! うわー、何それ」
口元を手で隠して嬉しそうに笑ってくれる彼に、私ももっと嬉しくなった。
私はニコニコしながら心の中で思っていた。
これは……もしかして初デートというやつなのでは? 私から誘ってしまった。
一度目の人生であったなら自分から誘うなんて全く考えられなかった。彼に話しかける事すら莫大な勇気が必要だったのだ。
人生二度目ともなると、やっぱり余裕が違うね。……何でも願いが叶えられそうな気さえする。
もしも本当に願いが叶えられるのなら、私は……。
「笹木さん?」
志崎君の声に現実に引き戻される。彼は俯いていた私の顔を心配そうに覗き込んでくれている。
脳裏に過った思いに首を振って、目の前の志崎君に笑いかけた。
「ごめん少し、ぼーっとしてた」
「……そっか」
彼も微笑んでくれたけど、その表情にさっき程の明るさがなくなっていた。
「私、何かしたかも?」と思い至り口を開いたけれど、尋ねる前に志崎君に右手を取られてそれどころではなくなった。
「行こう! そろそろ間に合わなくなるよ」
言われ、周囲に登校する児童がほとんど見当たらなくなっているのを知る。
繋ぐ志崎君の手が汗ばんでいる。
『人生二度目ともなると、やっぱり余裕が違うね』
さっきした思考が甦る。
誰が言った?
右手から始まった緊張が頬の熱になって心臓の痛みが全身に響いた。
小学生に翻弄されている二度目の私。
けれど、それは一度目には叶わなかった奇跡にも思える日々。
一度目の私に「よかったね」と小さく囁く。感動でうるっとなる。
彼が今、振り向きませんように。そればかり願っていた。
欠伸をしながら学校前の歩道橋を渡る。
昨日の夜も「咲月ちゃんの好きな人って誰だろう?」と考えを巡らせて中々寝付けなかった。
歩道橋の階段を下り終わって、もう一度欠伸をしているところへ横の方から声をかけられた。
「笹木さん! おはよう」
驚いてそちらに顔を向けると志崎君がいて、彼は春の陽射しのように温かな笑顔を見せた。右手で口を押さえる私。
今、大欠伸してるとこ見られた……よね? 完全に油断していた。
歩道橋の階段すぐ横。どうやら私が来るのを待っていてくれたようだ。
「おはよう、志崎君」
この前の朝も彼はこの歩道橋で待っていてくれて、私の気持ちを確認してくれた。
あの時は朝の早い時間で人通りもまだ少なかったけど今日はそれよりも遅い時間だった為、周囲には色々な学年の児童たちが多く登校中だ。
もしかして……結構待ってくれていたのだろうか。今日私が起きるの遅かったばっかりに……!
心の中でごめんと謝る。
彼の家と私の家は大分離れた位置にあり、学校を基点にほぼ反対方向。通学路は全然別々だった。
志崎君とも龍君や咲月ちゃんと一緒に帰る時みたいに沢山お喋りしたいな……という願望が湧いてくる。
そこでふっと……先週、志崎君と龍君が険悪な雰囲気になっていたのを思い出した。どうやら、龍君の遊びの誘いを私がすぐに断らなかったのがいけなかったらしいんだけど……。
……そうだ!
「あのさ、志崎君。今日の放課後もし時間が空いてたらちょっとお喋りしよう! 私一旦帰って荷物を家に置いてまた来るから、そこの公園で待ち合わせして……志崎君の都合は大丈夫かな?」
学校前からも見える公園を指差して聞いてみる。
私を見ていた彼の目がびっくりしたように大きくなっている。
「オレも今、誘おうと思ってた! うわー、何それ」
口元を手で隠して嬉しそうに笑ってくれる彼に、私ももっと嬉しくなった。
私はニコニコしながら心の中で思っていた。
これは……もしかして初デートというやつなのでは? 私から誘ってしまった。
一度目の人生であったなら自分から誘うなんて全く考えられなかった。彼に話しかける事すら莫大な勇気が必要だったのだ。
人生二度目ともなると、やっぱり余裕が違うね。……何でも願いが叶えられそうな気さえする。
もしも本当に願いが叶えられるのなら、私は……。
「笹木さん?」
志崎君の声に現実に引き戻される。彼は俯いていた私の顔を心配そうに覗き込んでくれている。
脳裏に過った思いに首を振って、目の前の志崎君に笑いかけた。
「ごめん少し、ぼーっとしてた」
「……そっか」
彼も微笑んでくれたけど、その表情にさっき程の明るさがなくなっていた。
「私、何かしたかも?」と思い至り口を開いたけれど、尋ねる前に志崎君に右手を取られてそれどころではなくなった。
「行こう! そろそろ間に合わなくなるよ」
言われ、周囲に登校する児童がほとんど見当たらなくなっているのを知る。
繋ぐ志崎君の手が汗ばんでいる。
『人生二度目ともなると、やっぱり余裕が違うね』
さっきした思考が甦る。
誰が言った?
右手から始まった緊張が頬の熱になって心臓の痛みが全身に響いた。
小学生に翻弄されている二度目の私。
けれど、それは一度目には叶わなかった奇跡にも思える日々。
一度目の私に「よかったね」と小さく囁く。感動でうるっとなる。
彼が今、振り向きませんように。そればかり願っていた。
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