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一章 本編
18 火傷
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ちょっと…………朝から色々あって疲れた。
私も自分の席に戻って心を落ち着けよう……そう思ってフラフラと教室の出入口手前まで来た時、廊下のいつも使う階段に近い方の先から聞き慣れた声がしてくる。
「何っで朝からあんたの顔見ないといけないのよ! あんたの存在のせいで由利花ちゃんに勘違いされちゃったじゃない!」
「うるさい」
「でもまあ、よく尻尾巻いて逃げなかったよね。今日、休むんじゃないかと思ってた」
「……うるさい」
足を止めてそちらを向いていると、いつもの見慣れた二人が姿を現した。
私は少しためらった。咲月ちゃんとの仲がギクシャクしていたから。
でもそれも一瞬で、思い切って手を挙げて二人を呼んだ。
「咲月ちゃん! 鈴谷君! ……おはよう!」
私にハッとした様子で顔を上げる二人。
咲月ちゃんは唇を噛み、口をへの字にして泣き出しそうな顔に見えた。けどすぐに笑顔になって挨拶を返してくれた。
「お、おはよう!」
だけど龍君には下を向いて目を逸らされた。下駄箱に置いてある上履きを履いて後方の出入口から教室へ入る彼は、小さく暗い声で「おはよう」と一言だけ発した。……こっちを見てくれなかった。
龍君の様子がいつもと違う。普段ならこっちまで明るくなるような笑顔を向けてくれるのに。
あれは……彼がどこか痛い時にする態度。
転んで膝を怪我した時、痛いくせに我慢して泣かなかった幼い頃の彼を思い出す。
私と同じく彼の後ろ姿を見送っていた咲月ちゃんに詰め寄る。
「鈴谷君さ、どこか怪我したって言ってなかった? 何か痛そうな顔してたけど」
「……、あー」
咲月ちゃんは斜め上を見て苦笑いしている。何か知ってそう。
「怪我はしてないけど……うんそうだね、大火傷(おおやけど)してるかもね」
「火傷?」
「あっ何でもない! 大丈夫だから。あいつはそんなにヤワな奴じゃない。憎らしい程にね! それより……昨日までごめん。由利花ちゃんは悪くないのに私……イライラして酷い事言って。本当にごめんね。仲直り…………してほしいな」
俯いて紡がれた彼女の言葉に、胸がぎゅっとなる。
涙が出そうになったので、誤魔化す為に慌てて微笑んだ。
「うん、もちろん!」
「ありがとう、由利花ちゃん。ではさっそく……」
私の返事を聞いてすぐに顔を上げた咲月ちゃんは、まるで「逃がさない」とでも言うように私の両肩をがっちり掴んできた。
「咲月……ちゃん?」
「さぁ、由利花ちゃん。聞かせてもらいましょうか。一昨日(おととい)は好きな人は志崎君じゃないって言ってたのに、なぁぁんで志崎君と付き合ってるのかな? 詳しく……詳しく聞かせてもらうから!」
……ああああ。咲月ちゃんの瞳が、かつてない程輝いている。
だめだ。今の彼女からは逃れられない。
心中で大量の汗をかきながらも、頷くしかなかった。
私も自分の席に戻って心を落ち着けよう……そう思ってフラフラと教室の出入口手前まで来た時、廊下のいつも使う階段に近い方の先から聞き慣れた声がしてくる。
「何っで朝からあんたの顔見ないといけないのよ! あんたの存在のせいで由利花ちゃんに勘違いされちゃったじゃない!」
「うるさい」
「でもまあ、よく尻尾巻いて逃げなかったよね。今日、休むんじゃないかと思ってた」
「……うるさい」
足を止めてそちらを向いていると、いつもの見慣れた二人が姿を現した。
私は少しためらった。咲月ちゃんとの仲がギクシャクしていたから。
でもそれも一瞬で、思い切って手を挙げて二人を呼んだ。
「咲月ちゃん! 鈴谷君! ……おはよう!」
私にハッとした様子で顔を上げる二人。
咲月ちゃんは唇を噛み、口をへの字にして泣き出しそうな顔に見えた。けどすぐに笑顔になって挨拶を返してくれた。
「お、おはよう!」
だけど龍君には下を向いて目を逸らされた。下駄箱に置いてある上履きを履いて後方の出入口から教室へ入る彼は、小さく暗い声で「おはよう」と一言だけ発した。……こっちを見てくれなかった。
龍君の様子がいつもと違う。普段ならこっちまで明るくなるような笑顔を向けてくれるのに。
あれは……彼がどこか痛い時にする態度。
転んで膝を怪我した時、痛いくせに我慢して泣かなかった幼い頃の彼を思い出す。
私と同じく彼の後ろ姿を見送っていた咲月ちゃんに詰め寄る。
「鈴谷君さ、どこか怪我したって言ってなかった? 何か痛そうな顔してたけど」
「……、あー」
咲月ちゃんは斜め上を見て苦笑いしている。何か知ってそう。
「怪我はしてないけど……うんそうだね、大火傷(おおやけど)してるかもね」
「火傷?」
「あっ何でもない! 大丈夫だから。あいつはそんなにヤワな奴じゃない。憎らしい程にね! それより……昨日までごめん。由利花ちゃんは悪くないのに私……イライラして酷い事言って。本当にごめんね。仲直り…………してほしいな」
俯いて紡がれた彼女の言葉に、胸がぎゅっとなる。
涙が出そうになったので、誤魔化す為に慌てて微笑んだ。
「うん、もちろん!」
「ありがとう、由利花ちゃん。ではさっそく……」
私の返事を聞いてすぐに顔を上げた咲月ちゃんは、まるで「逃がさない」とでも言うように私の両肩をがっちり掴んできた。
「咲月……ちゃん?」
「さぁ、由利花ちゃん。聞かせてもらいましょうか。一昨日(おととい)は好きな人は志崎君じゃないって言ってたのに、なぁぁんで志崎君と付き合ってるのかな? 詳しく……詳しく聞かせてもらうから!」
……ああああ。咲月ちゃんの瞳が、かつてない程輝いている。
だめだ。今の彼女からは逃れられない。
心中で大量の汗をかきながらも、頷くしかなかった。
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