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一章 本編
14 パートナー
しおりを挟む……それから学校での時間は過ぎ、帰宅した。
あれ……どうやって帰って来たか記憶にない。
脳裏にはぐるぐる、今朝の出来事が繰り返し再生され頭がいっぱいで他の事を考える余裕がない。
本当は咲月ちゃんや龍君に、この状況について沢山相談したかった。けれど自分でもよく分からない不安があって、逃げるように先に学校を出た。そこまでは思い出せる。
フラフラとよろめきながら鏡台の前に出ていた椅子に腰掛ける。
今朝、何が起きたのか。
未だに胸の奥が騒がしい。落ち着けようと手を当て、目を閉じ呼吸を整える。
鏡に映る自分に「ははっ」と苦笑してみせた。
二度目の人生で幼稚園児だった頃、この鏡を覗いた事があった。
あの時はまだ自分は夢を見ているんだと思っていた。
それから随分時が経ち、私の体も成長した。あの頃よりずっと大人に近付いた。
一度目の人生で痩せていた私とは少し違う容姿。太ってはいない。普通よりまだ少し痩せているけど、貧血になる程ではない。
鏡の中の少女は、泣くのを我慢しているかのように顔を歪めていた。
私……精神年齢おばちゃんなのに全然余裕がないよ!
心も子供になってしまったみたいに自然に小学生として生活していた。
このまま一度目の人生の意識が薄れ、忘れてしまったらどうしようと思った。怖くて震えた。
鏡に右手をついて彼女を見つめた。
心配事を抱えていそうな不安げな眼差しにもう一度笑いかける。
「忘れないで。『私』であった事……忘れないで」
あの小さき日に願った事、叶えたい夢、幸せにしたかった忘れられない人。
ずっとずっと、会いに行きたかった。
でも会えない事情があった。
一度目の人生で私の夫だった透は今、恐らく八歳くらいだろう。彼は小学生の頃に何度か引っ越していて現在どこに住んでいるのか分からない。私が知っている彼の実家に、彼とその家族が転居するのはあと何年か先。
「あーあ」
天井を見上げて笑った。
夫との生活は楽しい事ばかりではなかったけど幸せだった。子供がいなくても幸せだった。彼は本当に……子供みたいに世話の焼ける人だった。
失くしてしまった私の人生。今の人生で『彼』を取り戻せるか分からない。
夫に出会う前……二十代の半ばまで想い続けていた人と今日、付き合う事になった。
本当に、これが白昼夢でないのが怖ろしい。
ずっと……私もお母さんになりたいと思っていたけどお父さんになるのは当然、夫だと信じていた。
いつからか気付かないフリをしていた事がある。
この人生で私はまだ結婚していない。だから夫じゃない人と結婚してしまう事だってできるのだ。
下を向いて、もう一度だけ笑った。泣いている暇なんかない。
鏡の中の少女に問いかける。
「私は何を選ぶ? それとも……」
未来がどうなるか分からないのは、それだけ可能性に満ちているという事なのかもしれない。
まだあどけない少女の、明るい未来を願った。
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