3 / 83
一章 本編
3 決意と誤算
しおりを挟む
朝目覚めてからすぐ部屋を確認するの、癖になってる……。
布団から上半身を起こし、未だに信じられない気持ちで狭い和室を見回す。
本間だからそんなに狭くはない筈なのにタンスが三つと鏡台が置かれているので……しかも空いたスペースに布団を敷いて家族三人川の字で寝ているのでどうしても狭く感じる。未来ではもっと広い家に住んでいるから尚更比べてしまい窮屈だ。
小さい頃はそこまで狭いとは感じなかったけど成長するにつれて自分の部屋を持っている友達を羨ましく思ったりもした。
因みにこの家の間取りは六畳和室、四畳半和室、四畳半DK、風呂、トイレ、玄関。
やっぱり。状況は変わっていない。
私は過去へ一人タイムスリップしてしまったようだ。
そんな事ってある? いや、ない。ありえない。
そのような思考に至っても私の体は幼稚園児のままで、何日も本来の時間に戻れていない。今のところ私の中ではタイムスリップ説が有力なんだけど……。
「何でこうなった?」
自分の声が高めで発音が心許ないのは、この年齢の体の仕様なのかもしれない。
慣れない声色の事は今は置いておくとして、この現状に陥った原因を思い出したい。そこに解決の糸口を見出だせるかも……!
右手を額に当て考えを巡らすが、これといって答えは出ない。最初にここで目覚める前、トラックにぶつかる夢を見たと思ったけど何か関係あるのだろうか?
まさかここは死後の世界、なんて……。
背筋が寒くなってブンブン首を振る。
ダメダメ! そんなの絶対認めない!
私、まだやりたい事たくさんあるんだから叶えないまま死んだりできない!
はた、と気付く。
待って……待てよ?
時間が巻き戻って私だけ記憶があるのか、はたまた私の意識だけこの時代に戻って来たのか分からない。だけど、私は再び私の人生を繰り返している……。
という事は、もしかしてこれから起こる事も予測できるし、今まで失敗した事ももう一度やり直したら成功するかもしれない? ずっと後悔していたあの事や、心に仕舞っていたあの事も……やり直せるの?
そしてもしかしたら……。
「子供……」
そうだ。早く結婚すれば子供を授かる可能性が高まるかもしれない。もう、ほとんど諦めていたけど。
やり直してまた私を生きれるのなら今度こそ、きっと……!
右手をこぶしに握ってそれを見つめている時、母がもぞもぞ起き出した。
「由利花、早起きね」
「お母さん、私きっと今度は大丈夫だから……」
「え?」
母は手探りで眼鏡を探し当て、それを掛けて私を見た。
「何が大丈夫って言ったの?」
母の質問には答えずに、私はニヤッと含んだ笑顔を向ける。
「もうすぐ七時だけど、大丈夫かな?」
すっとぼけて話題をすり替えてみたら案の定、母は目を剥き父を叩き起こした。
「お父さん! 遅刻遅刻!」
慌ただしく一日が始まる。
三十七歳の私を心配してくれていた父や母も安心させてあげたかった。叶うなら孫の顔を見せるくらいの親孝行はしたい。
「よっし!」
私は両手をこぶしに固めて決意した。できるだけ早く結婚して、子供を産む。それが今から、私のこの……やり直しの人生の大きな目標だ。
その為にはまず……。まず……。あれ?
夫に会いに行かなきゃって思ってたんだけど私……今、五歳らしいのよね。
昨日台所の椅子に座ってチラシを見ていた母に「あれ? ど忘れしたー。私は今何歳だったっけ?」と両の人差し指を頬に当て、首を傾げて幼稚園児っぽく(?)尋ねてみたのだ。すると母は笑って「何歳だっけ? 自分で数えてごらん?」とテーブルの上に壁から取って来たカレンダーを置いた。
「由利花が生まれたのは1984年だから……今は1990年だね? お母さんと1985年の5から数えようか」
一緒に指を折って数える。
私自身この不可思議なやり直しの日々に混乱している状況なので、母であったら娘からそんな事情を告白された日にはパニクると思う。当分黙っている事にして幼稚園児のフリをする。
「5、6、7、8、9、10……。分かった! 六歳!」
「ブー! ハズレです」
「えー」
何でハズレなのか分かったけど、それは言わないで母が教えてくれるのを待つ。
「今月は六月だから来月の六歳の誕生日、まだ来てないでしょ」
そして導き出される結論。
夫は確か1988年生まれ。現在の時間で彼は二歳くらいの筈なので、幼稚園児にも到達していない。
…………道程は長いぞ。
布団から上半身を起こし、未だに信じられない気持ちで狭い和室を見回す。
本間だからそんなに狭くはない筈なのにタンスが三つと鏡台が置かれているので……しかも空いたスペースに布団を敷いて家族三人川の字で寝ているのでどうしても狭く感じる。未来ではもっと広い家に住んでいるから尚更比べてしまい窮屈だ。
小さい頃はそこまで狭いとは感じなかったけど成長するにつれて自分の部屋を持っている友達を羨ましく思ったりもした。
因みにこの家の間取りは六畳和室、四畳半和室、四畳半DK、風呂、トイレ、玄関。
やっぱり。状況は変わっていない。
私は過去へ一人タイムスリップしてしまったようだ。
そんな事ってある? いや、ない。ありえない。
そのような思考に至っても私の体は幼稚園児のままで、何日も本来の時間に戻れていない。今のところ私の中ではタイムスリップ説が有力なんだけど……。
「何でこうなった?」
自分の声が高めで発音が心許ないのは、この年齢の体の仕様なのかもしれない。
慣れない声色の事は今は置いておくとして、この現状に陥った原因を思い出したい。そこに解決の糸口を見出だせるかも……!
右手を額に当て考えを巡らすが、これといって答えは出ない。最初にここで目覚める前、トラックにぶつかる夢を見たと思ったけど何か関係あるのだろうか?
まさかここは死後の世界、なんて……。
背筋が寒くなってブンブン首を振る。
ダメダメ! そんなの絶対認めない!
私、まだやりたい事たくさんあるんだから叶えないまま死んだりできない!
はた、と気付く。
待って……待てよ?
時間が巻き戻って私だけ記憶があるのか、はたまた私の意識だけこの時代に戻って来たのか分からない。だけど、私は再び私の人生を繰り返している……。
という事は、もしかしてこれから起こる事も予測できるし、今まで失敗した事ももう一度やり直したら成功するかもしれない? ずっと後悔していたあの事や、心に仕舞っていたあの事も……やり直せるの?
そしてもしかしたら……。
「子供……」
そうだ。早く結婚すれば子供を授かる可能性が高まるかもしれない。もう、ほとんど諦めていたけど。
やり直してまた私を生きれるのなら今度こそ、きっと……!
右手をこぶしに握ってそれを見つめている時、母がもぞもぞ起き出した。
「由利花、早起きね」
「お母さん、私きっと今度は大丈夫だから……」
「え?」
母は手探りで眼鏡を探し当て、それを掛けて私を見た。
「何が大丈夫って言ったの?」
母の質問には答えずに、私はニヤッと含んだ笑顔を向ける。
「もうすぐ七時だけど、大丈夫かな?」
すっとぼけて話題をすり替えてみたら案の定、母は目を剥き父を叩き起こした。
「お父さん! 遅刻遅刻!」
慌ただしく一日が始まる。
三十七歳の私を心配してくれていた父や母も安心させてあげたかった。叶うなら孫の顔を見せるくらいの親孝行はしたい。
「よっし!」
私は両手をこぶしに固めて決意した。できるだけ早く結婚して、子供を産む。それが今から、私のこの……やり直しの人生の大きな目標だ。
その為にはまず……。まず……。あれ?
夫に会いに行かなきゃって思ってたんだけど私……今、五歳らしいのよね。
昨日台所の椅子に座ってチラシを見ていた母に「あれ? ど忘れしたー。私は今何歳だったっけ?」と両の人差し指を頬に当て、首を傾げて幼稚園児っぽく(?)尋ねてみたのだ。すると母は笑って「何歳だっけ? 自分で数えてごらん?」とテーブルの上に壁から取って来たカレンダーを置いた。
「由利花が生まれたのは1984年だから……今は1990年だね? お母さんと1985年の5から数えようか」
一緒に指を折って数える。
私自身この不可思議なやり直しの日々に混乱している状況なので、母であったら娘からそんな事情を告白された日にはパニクると思う。当分黙っている事にして幼稚園児のフリをする。
「5、6、7、8、9、10……。分かった! 六歳!」
「ブー! ハズレです」
「えー」
何でハズレなのか分かったけど、それは言わないで母が教えてくれるのを待つ。
「今月は六月だから来月の六歳の誕生日、まだ来てないでしょ」
そして導き出される結論。
夫は確か1988年生まれ。現在の時間で彼は二歳くらいの筈なので、幼稚園児にも到達していない。
…………道程は長いぞ。
0
お気に入りに追加
49
あなたにおすすめの小説
キャバ嬢(ハイスペック)との同棲が、僕の高校生活を色々と変えていく。
たかなしポン太
青春
僕のアパートの前で、巨乳美人のお姉さんが倒れていた。
助けたそのお姉さんは一流大卒だが内定取り消しとなり、就職浪人中のキャバ嬢だった。
でもまさかそのお姉さんと、同棲することになるとは…。
「今日のパンツってどんなんだっけ? ああ、これか。」
「ちょっと、確認しなくていいですから!」
「これ、可愛いでしょ? 色違いでピンクもあるんだけどね。綿なんだけど生地がサラサラで、この上の部分のリボンが」
「もういいです! いいですから、パンツの説明は!」
天然高学歴キャバ嬢と、心優しいDT高校生。
異色の2人が繰り広げる、水色パンツから始まる日常系ラブコメディー!
※小説家になろうとカクヨムにも同時掲載中です。
※本作品はフィクションであり、実在の人物や団体、製品とは一切関係ありません。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。

セレナの居場所 ~下賜された側妃~
緑谷めい
恋愛
後宮が廃され、国王エドガルドの側妃だったセレナは、ルーベン・アルファーロ侯爵に下賜された。自らの新たな居場所を作ろうと努力するセレナだったが、夫ルーベンの幼馴染だという伯爵家令嬢クラーラが頻繁に屋敷を訪れることに違和感を覚える。
ヤマネ姫の幸福論
ふくろう
青春
秋の長野行き中央本線、特急あずさの座席に座る一組の男女。
一見、恋人同士に見えるが、これが最初で最後の二人の旅行になるかもしれない。
彼らは霧ヶ峰高原に、「森の妖精」と呼ばれる小動物の棲み家を訪ね、夢のように楽しい二日間を過ごす。
しかし、運命の時は、刻一刻と迫っていた。
主人公達の恋の行方、霧ヶ峰の生き物のお話に添えて、世界中で愛されてきた好編「幸福論」を交え、お読みいただける方に、少しでも清々しく、優しい気持ちになっていただけますよう、精一杯、書いてます!
どうぞ、よろしくお願いいたします!
ヤンデレ美少女転校生と共に体育倉庫に閉じ込められ、大問題になりましたが『結婚しています!』で乗り切った嘘のような本当の話
桜井正宗
青春
――結婚しています!
それは二人だけの秘密。
高校二年の遙と遥は結婚した。
近年法律が変わり、高校生(十六歳)からでも結婚できるようになっていた。だから、問題はなかった。
キッカケは、体育倉庫に閉じ込められた事件から始まった。校長先生に問い詰められ、とっさに誤魔化した。二人は退学の危機を乗り越える為に本当に結婚することにした。
ワケありヤンデレ美少女転校生の『小桜 遥』と”新婚生活”を開始する――。
*結婚要素あり
*ヤンデレ要素あり

自称未来の妻なヤンデレ転校生に振り回された挙句、最終的に責任を取らされる話
水島紗鳥
青春
成績優秀でスポーツ万能な男子高校生の黒月拓馬は、学校では常に1人だった。
そんなハイスペックぼっちな拓馬の前に未来の妻を自称する日英ハーフの美少女転校生、十六夜アリスが現れた事で平穏だった日常生活が激変する。
凄まじくヤンデレなアリスは拓馬を自分だけの物にするためにありとあらゆる手段を取り、どんどん外堀を埋めていく。
「なあ、サインと判子欲しいって渡された紙が記入済婚姻届なのは気のせいか?」
「気にしない気にしない」
「いや、気にするに決まってるだろ」
ヤンデレなアリスから完全にロックオンされてしまった拓馬の運命はいかに……?(なお、もう一生逃げられない模様)
表紙はイラストレーターの谷川犬兎様に描いていただきました。
小説投稿サイトでの利用許可を頂いております。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる