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まるで人形のような男
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俺は昔から自分のことが嫌いだ。
それもこの特徴ある一つの欠点のせいで。
レオ・ラグナ・フォルツ。
王族の一人としてこの世に生を受けたものの名だ。ファルカという優秀な兄、そして、誇り高い両親に囲まれたそれなりに恵まれた人間だった。
しかし───
「レオ。ファルカ。お前たちは私達の自慢の息子だ。」
『はい。父上。』
「して、ファルカ、お前は少しやんちゃなところはあるが、勤勉で真面目なところがあるのもわかっている。あまり羽目を外しすぎるなよ。分かってるな?」
「えぇ。分かっております。父上。努力致します。」
「うむ。そして、レオ。お前は優秀な子だな。勉学も剣術も幼いながらに必死に取り組み、良い成績を残している。……だが、レオ。お前は、その……」
「……はい、父上。なんでしょうか?」
「……いや、忘れてくれ。とにかく、これからも真面目に励めよ。」
「………………はい。」
理解していた。
あの時王が何を言おうとしていたか。
きっと、こう言いたかったのだろう。
お前は、王の器ではない。
王族として生まれたはずの俺がその王族として相応しくないものを持って生まれてきたのだ。例え兄がその座を退いたとしても、俺がそこに座ることなどありえない。
王の血を引くものは皆、黄金の髪に黄金の瞳を併せ持って生まれてくる。それが常だった。
それなのに俺の瞳は、血のような赤そのものだった。
俺のようなものがかつていたことは確かにあった。だが、それも随分昔のことだ。
今になって俺のような存在が生まれてしまったこと。
俺はそれを恥ずべきことだと思った。
だから努力した。
優秀な兄よりもさらに優秀に。
どんなことにも手を抜かず、従順に、的確に、相手の求めるものに応える。それらすべてのことをこなしてみせた。
人にこの姿を認められるために、それだけを願って。
そうして数年かけて作り上げた俺という存在を嫌うものなどいなかった。王も、王女も、兄も、その他貴族や民衆も、この赤い瞳を持つ俺のことを異端としてではなく、王族の一人として認めてくれた。
ただ、一人。俺だけがこの瞳のことを憎んだままだったが。
そんな折だ。
あの男が現れたのは。
「息子のコルシャです。挨拶なさい。」
「……父の紹介に預かりました、コルシャです。レオ殿下と同い年です。本日はよろしくお願いします。」
代わる代わるやってくる俺の婚約者候補。何十番目かになってやってきたのがこの男だった。
第一印象は可愛げがない奴。
俺を見て話しているはずなのに、何処か違うところを見ているかのような、心此処にあらずって言葉が似合いそうな男だった。
その声までもが冷たい印象を与えるものだ。
それはただ人形が命令された通りに言葉を発しているだけのようにも思えた。
「我が家で婚約を結んでいない子はこの子だけでして、男ですが、今どきそういうのは珍しくないでしょう。いかがです?うちの息子は。」
「うむ。……どうだ?レオ。」
変わった奴だが、どうせコイツも他の貴族連中と大差はないだろう。この王国でそれなりに名の通った一族の家ではあろうが、俺がここでコイツを断ると言えば、他の候補を持ってくることは目に見えている。
だが、この男はこれまで会ってきた連中の中では一番マシな部類だ。
「少し2人で話してみても?」
父は頷く。
「あぁ。私は構わない。ネルニスト殿。貴公もそれで構わないか。」
「えぇ。そのつもりで息子をこちらに連れてきたものですから。」
「分かった。では私達は共に席を外す。あとは好きにしたまえ。」
部屋に残されたのは俺とコルシャと呼ばれてた男だけだ。これで変に気を使わなくても済む。
「おい。いつまでも突っ立ってないで座ったらどうだ。」
「…………はい。」
俺が促すとコルシャは向かいにある椅子に座る。どことなく距離を感じるが、俺は特にこの男と近づきたいとかそんなふうな考えはないから何も言うことはない。
「俺は、第2王子。言っておくが、俺と婚約したところで未来の王の嫁にはなれないぞ。」
「はぁ。そうですか。特に気にしたことはありませんが……。」
「ふん、どうだかな。お前の両親はどう思ってるか知らないぞ?」
「さぁ。興味がありませんので。」
男の顔に嘘をついてる様子は見受けられない。
「お前。本気で俺と婚約する気があるのか?」
「……殿下がお望みであれば。」
「俺はお前の意思を聞いたんだが?」
「…………僕の意思など殿下が気にすることではありません。」
ずるずる、何の意味もない会話が続く。
やはりこの男、まるで受け答えが人形そのものだ。俺が何を聞いてもピクリとも表情を動かさず、ただ求められた答えを返すだけ。
「お前、自分に興味がないのか。」
「……いいえ。」
「じゃあ何故お前はそんなにつまらない人形などを演じている。何か理由があるのか。」
「………………いいえ。」
「じゃあ何故だ。」
「答えたくありません。」
なるほど、理解した。
この男には何を聞いても無駄らしい。相手のことに踏み入るつもりもなければ、自分のことを語るつもりもない。
あぁ。そうか。コイツは、俺と同じか。
「お前は他人に期待してないんだな。」
「…………………………」
「図星か。」
男は黙りこくったままだ。
表情を動かさずうんともすんとも言わない。
だが、面白い。
「ククッ」
「?」
ここにきて俺の目のことを気にしたり、触れなかったのはこの男だけだ。そして、この男はきっと俺と同じような経験をしているはず。こんな適役者は他にいない。ならば決めた。この男を俺の婚約者にしよう。
「お前、今から俺の婚約者になれ。いいな。」
この男の答えは既に決まっているようなものだ。断ることなどできはしない。
「…………はい。」
思ったとおりになった。
それから俺とコルシャは正式に婚約を結んだ。契約内容は双方の同意合ってのものだ。だから互いにそれを無碍にすることはまずないだろう。父としてもようやく俺の婚約相手ができたのだ。ましてや、膨大な魔力を誇るかの一族の人間だ。
反対をすることは当然なかった。
たとえそれが一族の不出来な子であっても。
「おい、コルシャ。」
「…………はい。」
コルシャは相変わらずの無感情だ。
それはきっと誰が相手だって同じこと。王族だろうがなんだろうがこの男には関係がないのだ。きっと、俺に対して必要以上の関心を持ったりもしないだろう。
「お前がなんであれ俺は気にしたりしない。ありのままでいろ。」
「え、」
「俺はありのままのお前に期待している。俺もお前の前では素の自分でいるつもりだ。」
「…………」
「聞いているのか?」
「へ、あ、はい。聞いています。」
「ならいい。」
俺はようやく手に入れた。
俺が無理をしないでいい居場所を。
これで少しは生きやすくなる。
この時の俺は本気でそう思っていた。
それもこの特徴ある一つの欠点のせいで。
レオ・ラグナ・フォルツ。
王族の一人としてこの世に生を受けたものの名だ。ファルカという優秀な兄、そして、誇り高い両親に囲まれたそれなりに恵まれた人間だった。
しかし───
「レオ。ファルカ。お前たちは私達の自慢の息子だ。」
『はい。父上。』
「して、ファルカ、お前は少しやんちゃなところはあるが、勤勉で真面目なところがあるのもわかっている。あまり羽目を外しすぎるなよ。分かってるな?」
「えぇ。分かっております。父上。努力致します。」
「うむ。そして、レオ。お前は優秀な子だな。勉学も剣術も幼いながらに必死に取り組み、良い成績を残している。……だが、レオ。お前は、その……」
「……はい、父上。なんでしょうか?」
「……いや、忘れてくれ。とにかく、これからも真面目に励めよ。」
「………………はい。」
理解していた。
あの時王が何を言おうとしていたか。
きっと、こう言いたかったのだろう。
お前は、王の器ではない。
王族として生まれたはずの俺がその王族として相応しくないものを持って生まれてきたのだ。例え兄がその座を退いたとしても、俺がそこに座ることなどありえない。
王の血を引くものは皆、黄金の髪に黄金の瞳を併せ持って生まれてくる。それが常だった。
それなのに俺の瞳は、血のような赤そのものだった。
俺のようなものがかつていたことは確かにあった。だが、それも随分昔のことだ。
今になって俺のような存在が生まれてしまったこと。
俺はそれを恥ずべきことだと思った。
だから努力した。
優秀な兄よりもさらに優秀に。
どんなことにも手を抜かず、従順に、的確に、相手の求めるものに応える。それらすべてのことをこなしてみせた。
人にこの姿を認められるために、それだけを願って。
そうして数年かけて作り上げた俺という存在を嫌うものなどいなかった。王も、王女も、兄も、その他貴族や民衆も、この赤い瞳を持つ俺のことを異端としてではなく、王族の一人として認めてくれた。
ただ、一人。俺だけがこの瞳のことを憎んだままだったが。
そんな折だ。
あの男が現れたのは。
「息子のコルシャです。挨拶なさい。」
「……父の紹介に預かりました、コルシャです。レオ殿下と同い年です。本日はよろしくお願いします。」
代わる代わるやってくる俺の婚約者候補。何十番目かになってやってきたのがこの男だった。
第一印象は可愛げがない奴。
俺を見て話しているはずなのに、何処か違うところを見ているかのような、心此処にあらずって言葉が似合いそうな男だった。
その声までもが冷たい印象を与えるものだ。
それはただ人形が命令された通りに言葉を発しているだけのようにも思えた。
「我が家で婚約を結んでいない子はこの子だけでして、男ですが、今どきそういうのは珍しくないでしょう。いかがです?うちの息子は。」
「うむ。……どうだ?レオ。」
変わった奴だが、どうせコイツも他の貴族連中と大差はないだろう。この王国でそれなりに名の通った一族の家ではあろうが、俺がここでコイツを断ると言えば、他の候補を持ってくることは目に見えている。
だが、この男はこれまで会ってきた連中の中では一番マシな部類だ。
「少し2人で話してみても?」
父は頷く。
「あぁ。私は構わない。ネルニスト殿。貴公もそれで構わないか。」
「えぇ。そのつもりで息子をこちらに連れてきたものですから。」
「分かった。では私達は共に席を外す。あとは好きにしたまえ。」
部屋に残されたのは俺とコルシャと呼ばれてた男だけだ。これで変に気を使わなくても済む。
「おい。いつまでも突っ立ってないで座ったらどうだ。」
「…………はい。」
俺が促すとコルシャは向かいにある椅子に座る。どことなく距離を感じるが、俺は特にこの男と近づきたいとかそんなふうな考えはないから何も言うことはない。
「俺は、第2王子。言っておくが、俺と婚約したところで未来の王の嫁にはなれないぞ。」
「はぁ。そうですか。特に気にしたことはありませんが……。」
「ふん、どうだかな。お前の両親はどう思ってるか知らないぞ?」
「さぁ。興味がありませんので。」
男の顔に嘘をついてる様子は見受けられない。
「お前。本気で俺と婚約する気があるのか?」
「……殿下がお望みであれば。」
「俺はお前の意思を聞いたんだが?」
「…………僕の意思など殿下が気にすることではありません。」
ずるずる、何の意味もない会話が続く。
やはりこの男、まるで受け答えが人形そのものだ。俺が何を聞いてもピクリとも表情を動かさず、ただ求められた答えを返すだけ。
「お前、自分に興味がないのか。」
「……いいえ。」
「じゃあ何故お前はそんなにつまらない人形などを演じている。何か理由があるのか。」
「………………いいえ。」
「じゃあ何故だ。」
「答えたくありません。」
なるほど、理解した。
この男には何を聞いても無駄らしい。相手のことに踏み入るつもりもなければ、自分のことを語るつもりもない。
あぁ。そうか。コイツは、俺と同じか。
「お前は他人に期待してないんだな。」
「…………………………」
「図星か。」
男は黙りこくったままだ。
表情を動かさずうんともすんとも言わない。
だが、面白い。
「ククッ」
「?」
ここにきて俺の目のことを気にしたり、触れなかったのはこの男だけだ。そして、この男はきっと俺と同じような経験をしているはず。こんな適役者は他にいない。ならば決めた。この男を俺の婚約者にしよう。
「お前、今から俺の婚約者になれ。いいな。」
この男の答えは既に決まっているようなものだ。断ることなどできはしない。
「…………はい。」
思ったとおりになった。
それから俺とコルシャは正式に婚約を結んだ。契約内容は双方の同意合ってのものだ。だから互いにそれを無碍にすることはまずないだろう。父としてもようやく俺の婚約相手ができたのだ。ましてや、膨大な魔力を誇るかの一族の人間だ。
反対をすることは当然なかった。
たとえそれが一族の不出来な子であっても。
「おい、コルシャ。」
「…………はい。」
コルシャは相変わらずの無感情だ。
それはきっと誰が相手だって同じこと。王族だろうがなんだろうがこの男には関係がないのだ。きっと、俺に対して必要以上の関心を持ったりもしないだろう。
「お前がなんであれ俺は気にしたりしない。ありのままでいろ。」
「え、」
「俺はありのままのお前に期待している。俺もお前の前では素の自分でいるつもりだ。」
「…………」
「聞いているのか?」
「へ、あ、はい。聞いています。」
「ならいい。」
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これで少しは生きやすくなる。
この時の俺は本気でそう思っていた。
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