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異世界
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レンガの家が連なる村へ俺とリーザはやってきた。人気のない殺風景とした印象。リーザは足を止め、俺に向く。
「ここが、マヤだよ」
「ここって……マヤは村の名前だったのか」
そこは今でも人間が生活している形跡が多々残されているが、外にはおろか家の中でさえ誰かが生活しているとは思えない。こういう場合、何かあったと思うのが自然だろう。
リーザは歩き出し、小屋の扉の前に立つ。
「リーザ、ここに何かあるのか?」
無言でリーザが扉を開けると……階段。地下に続いているようだ。
「私はこの先でヤられた」
「ヤら……れた?」
彼女の目は見覚えのある殺し屋の目に。
過去にリーザがここで被害に遭ったことは間違いない。何をされたのか、それを聞くにはよほど神経を鈍らせなければならないだろう。
ここに住んでいる人間は彼女によると全員金髪だという。彼女が金髪でそのうえここの人間に怒りを感じているということは、「ヤられた」とはそういうことだろう。
金髪を孕ませ金髪の子を生む……。理由など知る必要がない。
「メアリ……」
リーザでも勝てない奴らがこの中にいる。外に誰もいないということは住民全てがここにいるということだろう。村の大きさで予想するならば五〇人といったところか?
「ぅぐっ!」
右手の炎が嵐にでも吹かれたかのように激しく舞う。
「リーザ、行こう」
俺はいくら刺されたって千切られたって死にはしない。だがリーザのような戦闘力を誇っているわけではなかった。ならば俺が盾となり、リーザを矛に攻略していこう。
簡単にリーザに説明すると、迷わず頷いてくれた。
◇
不気味な男の吐息がメアリの脳天を撫でる。
「メアリちゃん……口開けて……」
生臭い棒状のナニかが強引にメアリの口をこじ開けてくる。
「あぁ……もうこれだけでも気持ちいいよぅ……」
それは次第に太く、硬く、なっていく。
鼻を塞がれたメアリはしばらくして口を開き、完全にナニかが彼女の口内に入る直前、男の背後で仲間の悲鳴。
「何事だ」
ジルクが咄嗟に振り返ると、その顔に液体が飛び散る……血だ。改めて前方を見やると驚愕することになる。
「……よう金髪族」
そこに立っているのはひとりの少年と、ひとりの金髪の少女。少女の持つ鋭利なマチェーテには血が滴っていた。
この二人は言わずもがな、ジルクたちの敵だろう。すぐに戦闘態勢に入ろうと、ジルクは他の六〇人あまりの仲間に合図を出す。しかし。
「がぁ!?」
合図で上げた右腕が瞬きの間に真っ二つ。そのスピードは血液でさえも反応を忘れるほど。
失くなった自分の手を驚愕の表情で眺めるジルク。
「お、俺の右腕が……」
そして彼は、見覚えのある少女の顔にまた驚きの表情。
今し方自分の腕を切り落とした少女、その者の目は異常。
人を殺した後、何気ない顔でラジオ体操の参加印を貰うために並んでいそうなくらいに、この少女は……簡単に人を殺せる。だからジルクは初めから出し惜しみなどしない。
「リーザ……急にいなくなったと思ったら、こんなところに……キヒっ……きヒひヒひヒヒっ」
金髪の少女、リーザが後ずさる。彼女の足元には十人以上の死体が転がっていた。
「キヒヒヒァヒィヒィヒィィ!!! ここに来て逃げられるなんて思うなよォォ!? あの時、不幸にもお前に孕ませることが出来なかった……今度こそは……こい! コトン!」
ジルクの背後から鈍い足音と共に登場したのは二メートル以上はあろうかという巨漢。なぜかそのコトンという男は下半身を露出していた。そして堂々と反り勃つ陰茎はおおよそヒトのモノではないと信じたいくらいに巨大に膨れ上がっていた。
コトンはリーザを見るなりニィと口角を上げる。
「久しぶりだリーザ。メアリちゃんの後、じっくり可愛がってやる。だから今は大人しくーーーーア?」
前に立つのはリーザと共に登場した少年。彼の右手には赤黒い炎が燃え盛っている。
「なんだ、お前は」
その少年の顔は鈍感なハーレム系ラノベ主人公であっても、怒りに満ちたものだと察することは容易だろう。
体格差はほとんど倍。コトンが恐れる要素など微塵もなかった。コトンの前に立てば誰であろうと恐怖する、コトンもそれを知っていた。知っていたが故に確立された自信は時折その刃を己に向けることもある。
「俺のメアリが世話になったな」
この少年……恐怖など塵ほども感じていない。
額に汗を浮かべるコトンが大声で笑う。……威嚇。
「なるほどメアリちゃんはお前の愛人! こりゃいい! 愛人に見られながらの〇〇〇はさぞかし唆る!」
少年は鬼の形相をさらに歪めた。そして炎が強まる。
仲間の一部を一瞬の内に切り殺されても尚慌てる様子を見せないこの男、コトン。その自信は己の拳か、それとも……。
「ねぇ……和人」
「どうした」
リーザがその少年、和人の肩に手を置く。彼女の怒りの表情から、恐らく「この男は自分に殺させろ」とでも言うのだろう。しかし仲間であるメアリを陵辱しておいて、彼の怒りが晴らせるとは到底思えない。間違いなく和人はその要求を飲むことは無い。
「愛人って、どういうことかな……」
「……ン?」
◇
俺の肩に乗った小さな手から発揮される怪力に、苦渋の表情を隠せない。脳内に鈍く響いている骨の音が焦燥を煽り額から汗が出る。
今、リーザに問いたい……何をしているのだと。
「和人に愛人……聞いてない!」
言ってないしな……それにあの巨漢が言ってるだけで愛人ってわけじゃ。
この間も警戒を解くことなく、コトンに向く。しかし彼女のその柔和なはずの手は力んでいて鋼鉄の如く感じた。
……壊れる、肩が。
「なんだなんだ? 仲間割れか? 二人しかいないのに、愚かな」
ジルクが形勢逆転、と言うようなドヤを強めた顔で歩み寄る。……ジルク、愚かな。
ボトっ……。
ジルクの左腕が地面に落ちる。
「えっ……」
これで彼は両腕を失うことになった。言葉も失うジルクに俺は哀れみの表情を送ってやることしか出来ない。
殺し屋モードから一転。通常時のリーザは基本つり目だがどこか愛嬌がある。殺し屋モードと比べたら、二重人格なのではないかと疑いたくなることはあるが、やはりその「手」は通常モードの今の彼女の中でもしっかり生きているようだ。
「リーザ……お前その顔でもやれるんだな……」
「ほぇっ? その顔?」
まあ、そうだよな、自覚ないよな。
「って……そうじゃなくてメアリをーー」
「おっと」
コトンが俺の頭を鷲掴みにする。なるほど、これなら人間の脳みそ一つくらい潰すのに苦労はないだろう。下手に動くと潰されるのは予想ができた。
「……」
やるなら早くやれ、生き返った俺に驚愕しているスキを狙いその図太い首をリーザが落としてくれるはずだから。
「うっ……」
リーザが怯えている。そうか、リーザが勝てなかったのはこの男か。このドンくさそうな男を見るに、俊敏なリーザは有利に思えるが……。
「リーザ、恐れているのか」
「こ、こわくないもん!」
俺の質問に、慌てて返答。
俺としたことが……今の彼女は殺し屋モードのリーザではない。通常モードのリーザでも充分に強いが、この男にはそれでは勝てまい。
俺だって痛いものは痛い。一応ハラハラドキドキして潰されるタイミングを待っている状態だ。出来ることなら安心して潰されたい、早く殺し屋モードへ移行してくれ……!
「いや、違うな」
「あん?」
巨漢に頭を掴まれたまま、右手をふと眺める。
……燃え盛る赤黒い炎。これで倒せるんじゃないか? ここに来る前よりは勢いが衰退しているが、肉くらいは焼けそうだ……肉くらいは。
「あぁ……あああ! 熱いィィィイイイイ!!!!」
図太い腕がメラメラと燃える。さりげなく触れたコトンの右腕が燃え盛り、その炎は意思を持っているかのように男の下半身へとなぞっていく……俺の場合、それは見るに堪えない、思わず股間を抑えてしまいそうな光景となった。
「お、俺の……俺のォォ!!」
必死に手で炎を払おうとするコトン……すまん、その炎の抑え方、俺知らない。だがもしかすると……。
俺はどこにいるかもわからないメアリに叫んだ。
「メアリ! もういい! 俺はここにいる、もう大丈夫だ!」
リトルコトンは九死に一生を得た。俺とコトンは同時に胸をなで下ろす。
こいつのモノには憎悪を感じてもいいくらいなのに、なんでだろう、異世界であろうとも男同士感じるものがあるのだろうか。
「お、お前……なんで俺を助けて……」
「勘違いするなジャイアント。男の性に従っただけだ」
見てられない、それが一番の理由だった。コトンの目がうるうるしている。なんだこいつ。
「……俺、真面目に生きる」
「は?」
コトンは一言放ったあと、奥に消え、すぐに戻ってくるとその腕にはひとりの少女が抱えられていた。
「あ……あ……」
金髪のツインテールと共に輝く白肌、小さいのに大きいと言いたくなる身体の発達具合。そして「あの日」から着続けている俺の「本気Tシャツ」は、少し破れているが俺達の世界に戻れば元と変わらないくらいに修復が可能だ。
「メアリちゃんをお前に返す」
ちょこん、と俺の目の前に置かれたメアリの顔は「奇遇だな」とでも言いそうなくらいに冷静極まっている。
「奇遇だな」
やはり彼女は冷静だった。その顔には一片の歪みも感じられない。気がつくと、俺の右手からは赤黒い炎が消えていた。
なんて屈強なメンタルなんだ。と、周りの人間は彼女のことをそう思うかもしれないが、実際そうではない。
メアリの小さな頭を撫でる。それは彼女が珍しく俺の袖を掴んでいるからではない。
「和人! こら!」
何故かリーザに怒られる。
「なんだよリーザ……あ、紹介するよ、こいつはメアリ。そんで、リーザ」
二人の顔を交互に見て紹介をする。ちなみ俺とメアリとリーザの周りにはまだまだ健全な金髪族が四〇人くらいいる。もちろんジルクも。
しかし問題は無い、背を丸めて俺たちの様子を観察している巨漢のコトンは、今や俺達に敵意はない。いつの間にかズボンも履いていた。
「お、おいコトン! 早くそいつらを……」
コトンがジルクの前に立つ。きょとんとするジルクの頭を掴み、軽々と持ち上げ、自分の顔の前に持ってくる。
「ジルク、俺はもうお前の言いなりにはならない。お前、俺を助けてくれたことない。でもこの男、敵の俺を助けてくれた。俺、たくさん悪いことした。殺して、犯して、食ったこともある。お前は俺に殺させて、犯させて、食わせたんだ」
一同が唖然。この男と長く付き合ってきたであろう住民たちはもちろん、リーザもだ。
コトンという男は恐らく野蛮なこの村の中でもトップクラスの悪だったのだろう、しかし根は違った。ジルクという青年に操られていた、とでも言うべきか。この大男は素直なのだろう。
もはや主砲を失った金髪族に上がる腰はない。大きな手から放されたジルクも立つことなくそのまま地面に尻餅をつく。
「コトン……そんな、嘘だろ」
「世話になった、ジルク」
◇
再び青空の下、草原の大地を踏みしめて歩く俺達……。
「和人、マヤは全員殺すべきだよ」
奴らを皆殺しにはしなかった。コトンからのお願いだったからだ。
殺す殺すと聞かないリーザを止めるのにどれだけ苦労したことか。
「申し訳ない、和人くん。俺、メアリちゃんに酷いことしたのにお願い聞いてもらった」
「まあ、メアリに乱暴したことは簡単に許せることではないが……お前、優しいんだな」
あと俺を君付けで呼ぶな。図体にあってないんだよとは言わなかった。言えなかった。
あれだけジルクに言っておきながら、それでも彼を殺さないでくれと俺たちに頼んだのはコトン。村の住民にも、これ以上は手を出さないでやってくれとも頼まれた。全く、こいつは変にお人好しなんだな。
実は誰かが死ぬことも、殺されることも、傷つくのも一番嫌っているのはこの男なのではないだろうか。
だがまだメアリとリーザの警戒心は解けていないようだ。二人とも俺を挟んでコトンと距離を取っている。
「嫌われるの当然。俺悪いことしたから」
全く、恨めないからずるいんだこいつは。
「なあコトン、お前、アテはあるのか?」
「俺居場所ない。一人ぼっちの俺、ジルクに拾われたから」
もしかして孤児ってやつか……? ならば話は簡単だ、女性陣には猛反対を食らうだろうし最悪リーザに刺される可能性もあるが……。
「コトン、俺たちと来ないか」
リーザはもちろんのこと、メアリでさえも大きく顔を振ってその驚愕の目で俺を見る。
……予想していた反応だ。いや、まだマシな方かもしれない。
コトンが仲間になるのなら心強いことこの上ない。それにリーザもいるのだ。俺は異世界に来て早々、チートパーティを組んでしまったのかもしれない。死神、不死身、殺し屋、巨漢。
巨漢のコトンについては実力は定かではないが、金髪族は彼がいなくなった途端、戦意を失うほどだ。まさに一騎当千を期待していいだろう。
「和人」
メアリに袖をぐいと引き寄せられる。
「お前は当初の目的を忘れているのではないか」
「目的……? あっ……」
そう、俺とメアリがここに来た理由、それはあくまでメアリの「仕事」のため。選ばれた者の願いを叶えるためだ。
「すまん、忘れてた」
ため息をこぼすメアリ。俺も釣られてため息。
しかしそれが明らかになったとて問題はまだある。それは、選ばれた者がどこにいるのかということ。つまりメアリは恐らくこの世界で神石の力を使えない。そう思うのも、もし使えるのだとしたら異世界に来た瞬間、彼女と会えているはずだからだ。それに死神の力が使えるのなら金髪族に拉致されることはまずありえない。
「この際、誰でもいいんじゃないか? リーザかコトンにでもしたらどうだ」
「それでも構わんが……」
すぐに、はやまった判断だと思い知る。神石の力が使えないということは即ち死神の力が使えないということ。つまり今のメアリでは人間の願いを叶えることが出来ない……普通の女の子というわけだ。
彼女の視覚を補っていた神石が働かないということは……。そう、彼女は今……目が見えない。
金髪族のマヤ村で再開した時からずっと俺の袖を掴んでいるのはこの為だろう。
「さっきから何を話してるの? 私も入れてっ」
リーザやコトンのことを忘れてつい堂々と……。
「いや、別に面白いことじゃないよ」
「その通りだ。お前には関係ない。私と和人『だけ』の都合だからな」
メアリさん……? なんか言い方。
「あぁあ! メアリが何も言わなかったら引き下がろうと思ってたのに!」
いや、引き下がる気無かっただろ……。それとメアリも珍しく煽るのな。
思ってみればメアリはこうして女の人と話すのは少なくとも二万年ぶり。俺と居る時とはやはり少し気分の持ちようが違うのだろうか。
コトンはツルツルの自分の頭を掻きながらきょとんとしている。
「嘘。お前は私が何も言わなくても張り付いて来たに違いない」
「違うもん! ほんとに引き下がるつもりだったもん!」
俺を挟んでの言い合いはやめてくれ。興奮してるリーザが喋るとそれに合わせてお前の胸に右腕が挟み込まれるから。
だけどこうして二人が仲良さそうにしてるのを見ると、まるで姉妹みたいだな。
「っと、話が逸れたな。それでコトン、どうする」
俺たちについてくるかどうかについて。
静かに俺達のやり取りを見ていたコトンに向く。
俺の言葉と同時に沈黙した金髪少女二人も何かを祈るようにして注視していた。
彼は少し困ったように頭を掻いてやりづらそうに口を開く。
「俺、王都に行く」
「王都?」
異世界だから王国とは思っていたが、やはりそうだったか。だが王都に行って何を? 真面目に生きるって言ってたから働くのか?
「王都に行って、自首する」
「なっ……」
知られてもない罪を自ら……。彼が本当に自分がしたことをすべて打ち明ければ懲役どころじゃ済まないぞ。この国がそういうことに関してどのような価値観を持っているのかは分からないが、いくら寛容だとしても重いものには違いない。
「お前、それで死刑になったらどうする」
「俺はそこまでだ」
言葉足らずというか男気あるというか……。
「そんなことで今までやってきたこと消えてなくなるとは思ってない。けど、俺は裁かれないといけない」
これほど紳士な人間がいようか。彼にはもはや神々しささえ感じる。
コトンを止める理由はない。彼がしたいようにさせるべきだ。
「分かった。お前が死なないことを祈ってるよ」
◇
「世話になった、和人くん」
「おう、また顔見せろてくれよな」
王都へは俺達も同行した。コトンはすぐに警察署みたいなところへ罪を自白しに行き、コトンと別れた俺とメアリとリーザは宿を探している。
王都のことを全く知らない俺とメアリは、リーザを先頭に、商店街らしき街並みを見回していた。
建ち並ぶ店の前に置いてある品は人々の賑わいでほぼ手に触れることなく通過することになるのだが、店先にある果物に貼られた値札らしき札を見てふと思いつく。
「メアリ、そういえば俺達、金持ってないぞ」
「問題ない」
メアリがどこからともなく花柄の巾着袋を取り出す。持ち上げた時にジャラジャラと金物の音がしたことから、なんとなく金銭だと判断。
「ここに来る前、あらかじめこの世界の通貨を生成しておいた。価値は知らん。この女にでも聞け」
メアリは無愛想にリーザの方を向き、巾着袋を差し出す。受け取ったリーザは中身を覗くと目を丸くしてポカーンと口を開けたまま。
「ご、五百ゴールド……えぇ……」
俺とメアリは当然その五百ゴールドというのがどれほどの価値なのかはわからない。ゴールドということはその下にシルバー、カパーとあるのが予想できる。だとすればゴールドは案外価値の高いものなのかもしれない。
「リーザ。それは、ええと……例えば、ソレがいくつ買える?」
俺は適当に道脇に並んでいる店先の果物を指さしたが、リーザは俺が指さした果物には一切目もくれず、キラキラした目で接近してくる。
「これだけあれば家を買った後、世界一周の旅に出られるよ!」
それほどとは……。とりあえず、金銭面ではかなり余裕があるみたいだ。
「メアリ、お前すごいな」
「造作もない。神石さえ使えればいくらだって生成できる」
「万能すぎだろ神石……」
と、そんなことを話しているとまたリーザが頬を膨らまして今にもふてくされそうなのでカット。
それにしても、家か……ここに定住すると決めるには考える時間が必要だな。だが王都にはたくさんの人間がいるからメアリが選んだ願いを叶える者を見つけられる可能性は高い。しかし今となってはその者にこだわる必要がない。見つけたとしてまだ問題はあるからだ。その原因はやはり神石の力の喪失。
神石の力があれば、メアリが選んだ者の位置がすぐにわかる。遠ければ近くにいる者に変更したりもしていたそうだ。
神石の力が無ければ遠いも近いもない……。
「ん?」
そういえば、リーザはなぜ巾着袋の中身を見ただけで五百ゴールドと言いきれたんだ? おおよそ、というつもりで言ったのだろうか。
疑問を向けると、リーザは何気ない顔で手をひょこっとあげる。
「私、盗賊の仕事してるから」
ああ、なるほど。
……って。
「……お前も自首してこい」
ボソっと洩れる俺の声など届くわけもなく、にゃははと能天気に笑うリーザをただ苦笑いで見守るしかなかった。
「ここが、マヤだよ」
「ここって……マヤは村の名前だったのか」
そこは今でも人間が生活している形跡が多々残されているが、外にはおろか家の中でさえ誰かが生活しているとは思えない。こういう場合、何かあったと思うのが自然だろう。
リーザは歩き出し、小屋の扉の前に立つ。
「リーザ、ここに何かあるのか?」
無言でリーザが扉を開けると……階段。地下に続いているようだ。
「私はこの先でヤられた」
「ヤら……れた?」
彼女の目は見覚えのある殺し屋の目に。
過去にリーザがここで被害に遭ったことは間違いない。何をされたのか、それを聞くにはよほど神経を鈍らせなければならないだろう。
ここに住んでいる人間は彼女によると全員金髪だという。彼女が金髪でそのうえここの人間に怒りを感じているということは、「ヤられた」とはそういうことだろう。
金髪を孕ませ金髪の子を生む……。理由など知る必要がない。
「メアリ……」
リーザでも勝てない奴らがこの中にいる。外に誰もいないということは住民全てがここにいるということだろう。村の大きさで予想するならば五〇人といったところか?
「ぅぐっ!」
右手の炎が嵐にでも吹かれたかのように激しく舞う。
「リーザ、行こう」
俺はいくら刺されたって千切られたって死にはしない。だがリーザのような戦闘力を誇っているわけではなかった。ならば俺が盾となり、リーザを矛に攻略していこう。
簡単にリーザに説明すると、迷わず頷いてくれた。
◇
不気味な男の吐息がメアリの脳天を撫でる。
「メアリちゃん……口開けて……」
生臭い棒状のナニかが強引にメアリの口をこじ開けてくる。
「あぁ……もうこれだけでも気持ちいいよぅ……」
それは次第に太く、硬く、なっていく。
鼻を塞がれたメアリはしばらくして口を開き、完全にナニかが彼女の口内に入る直前、男の背後で仲間の悲鳴。
「何事だ」
ジルクが咄嗟に振り返ると、その顔に液体が飛び散る……血だ。改めて前方を見やると驚愕することになる。
「……よう金髪族」
そこに立っているのはひとりの少年と、ひとりの金髪の少女。少女の持つ鋭利なマチェーテには血が滴っていた。
この二人は言わずもがな、ジルクたちの敵だろう。すぐに戦闘態勢に入ろうと、ジルクは他の六〇人あまりの仲間に合図を出す。しかし。
「がぁ!?」
合図で上げた右腕が瞬きの間に真っ二つ。そのスピードは血液でさえも反応を忘れるほど。
失くなった自分の手を驚愕の表情で眺めるジルク。
「お、俺の右腕が……」
そして彼は、見覚えのある少女の顔にまた驚きの表情。
今し方自分の腕を切り落とした少女、その者の目は異常。
人を殺した後、何気ない顔でラジオ体操の参加印を貰うために並んでいそうなくらいに、この少女は……簡単に人を殺せる。だからジルクは初めから出し惜しみなどしない。
「リーザ……急にいなくなったと思ったら、こんなところに……キヒっ……きヒひヒひヒヒっ」
金髪の少女、リーザが後ずさる。彼女の足元には十人以上の死体が転がっていた。
「キヒヒヒァヒィヒィヒィィ!!! ここに来て逃げられるなんて思うなよォォ!? あの時、不幸にもお前に孕ませることが出来なかった……今度こそは……こい! コトン!」
ジルクの背後から鈍い足音と共に登場したのは二メートル以上はあろうかという巨漢。なぜかそのコトンという男は下半身を露出していた。そして堂々と反り勃つ陰茎はおおよそヒトのモノではないと信じたいくらいに巨大に膨れ上がっていた。
コトンはリーザを見るなりニィと口角を上げる。
「久しぶりだリーザ。メアリちゃんの後、じっくり可愛がってやる。だから今は大人しくーーーーア?」
前に立つのはリーザと共に登場した少年。彼の右手には赤黒い炎が燃え盛っている。
「なんだ、お前は」
その少年の顔は鈍感なハーレム系ラノベ主人公であっても、怒りに満ちたものだと察することは容易だろう。
体格差はほとんど倍。コトンが恐れる要素など微塵もなかった。コトンの前に立てば誰であろうと恐怖する、コトンもそれを知っていた。知っていたが故に確立された自信は時折その刃を己に向けることもある。
「俺のメアリが世話になったな」
この少年……恐怖など塵ほども感じていない。
額に汗を浮かべるコトンが大声で笑う。……威嚇。
「なるほどメアリちゃんはお前の愛人! こりゃいい! 愛人に見られながらの〇〇〇はさぞかし唆る!」
少年は鬼の形相をさらに歪めた。そして炎が強まる。
仲間の一部を一瞬の内に切り殺されても尚慌てる様子を見せないこの男、コトン。その自信は己の拳か、それとも……。
「ねぇ……和人」
「どうした」
リーザがその少年、和人の肩に手を置く。彼女の怒りの表情から、恐らく「この男は自分に殺させろ」とでも言うのだろう。しかし仲間であるメアリを陵辱しておいて、彼の怒りが晴らせるとは到底思えない。間違いなく和人はその要求を飲むことは無い。
「愛人って、どういうことかな……」
「……ン?」
◇
俺の肩に乗った小さな手から発揮される怪力に、苦渋の表情を隠せない。脳内に鈍く響いている骨の音が焦燥を煽り額から汗が出る。
今、リーザに問いたい……何をしているのだと。
「和人に愛人……聞いてない!」
言ってないしな……それにあの巨漢が言ってるだけで愛人ってわけじゃ。
この間も警戒を解くことなく、コトンに向く。しかし彼女のその柔和なはずの手は力んでいて鋼鉄の如く感じた。
……壊れる、肩が。
「なんだなんだ? 仲間割れか? 二人しかいないのに、愚かな」
ジルクが形勢逆転、と言うようなドヤを強めた顔で歩み寄る。……ジルク、愚かな。
ボトっ……。
ジルクの左腕が地面に落ちる。
「えっ……」
これで彼は両腕を失うことになった。言葉も失うジルクに俺は哀れみの表情を送ってやることしか出来ない。
殺し屋モードから一転。通常時のリーザは基本つり目だがどこか愛嬌がある。殺し屋モードと比べたら、二重人格なのではないかと疑いたくなることはあるが、やはりその「手」は通常モードの今の彼女の中でもしっかり生きているようだ。
「リーザ……お前その顔でもやれるんだな……」
「ほぇっ? その顔?」
まあ、そうだよな、自覚ないよな。
「って……そうじゃなくてメアリをーー」
「おっと」
コトンが俺の頭を鷲掴みにする。なるほど、これなら人間の脳みそ一つくらい潰すのに苦労はないだろう。下手に動くと潰されるのは予想ができた。
「……」
やるなら早くやれ、生き返った俺に驚愕しているスキを狙いその図太い首をリーザが落としてくれるはずだから。
「うっ……」
リーザが怯えている。そうか、リーザが勝てなかったのはこの男か。このドンくさそうな男を見るに、俊敏なリーザは有利に思えるが……。
「リーザ、恐れているのか」
「こ、こわくないもん!」
俺の質問に、慌てて返答。
俺としたことが……今の彼女は殺し屋モードのリーザではない。通常モードのリーザでも充分に強いが、この男にはそれでは勝てまい。
俺だって痛いものは痛い。一応ハラハラドキドキして潰されるタイミングを待っている状態だ。出来ることなら安心して潰されたい、早く殺し屋モードへ移行してくれ……!
「いや、違うな」
「あん?」
巨漢に頭を掴まれたまま、右手をふと眺める。
……燃え盛る赤黒い炎。これで倒せるんじゃないか? ここに来る前よりは勢いが衰退しているが、肉くらいは焼けそうだ……肉くらいは。
「あぁ……あああ! 熱いィィィイイイイ!!!!」
図太い腕がメラメラと燃える。さりげなく触れたコトンの右腕が燃え盛り、その炎は意思を持っているかのように男の下半身へとなぞっていく……俺の場合、それは見るに堪えない、思わず股間を抑えてしまいそうな光景となった。
「お、俺の……俺のォォ!!」
必死に手で炎を払おうとするコトン……すまん、その炎の抑え方、俺知らない。だがもしかすると……。
俺はどこにいるかもわからないメアリに叫んだ。
「メアリ! もういい! 俺はここにいる、もう大丈夫だ!」
リトルコトンは九死に一生を得た。俺とコトンは同時に胸をなで下ろす。
こいつのモノには憎悪を感じてもいいくらいなのに、なんでだろう、異世界であろうとも男同士感じるものがあるのだろうか。
「お、お前……なんで俺を助けて……」
「勘違いするなジャイアント。男の性に従っただけだ」
見てられない、それが一番の理由だった。コトンの目がうるうるしている。なんだこいつ。
「……俺、真面目に生きる」
「は?」
コトンは一言放ったあと、奥に消え、すぐに戻ってくるとその腕にはひとりの少女が抱えられていた。
「あ……あ……」
金髪のツインテールと共に輝く白肌、小さいのに大きいと言いたくなる身体の発達具合。そして「あの日」から着続けている俺の「本気Tシャツ」は、少し破れているが俺達の世界に戻れば元と変わらないくらいに修復が可能だ。
「メアリちゃんをお前に返す」
ちょこん、と俺の目の前に置かれたメアリの顔は「奇遇だな」とでも言いそうなくらいに冷静極まっている。
「奇遇だな」
やはり彼女は冷静だった。その顔には一片の歪みも感じられない。気がつくと、俺の右手からは赤黒い炎が消えていた。
なんて屈強なメンタルなんだ。と、周りの人間は彼女のことをそう思うかもしれないが、実際そうではない。
メアリの小さな頭を撫でる。それは彼女が珍しく俺の袖を掴んでいるからではない。
「和人! こら!」
何故かリーザに怒られる。
「なんだよリーザ……あ、紹介するよ、こいつはメアリ。そんで、リーザ」
二人の顔を交互に見て紹介をする。ちなみ俺とメアリとリーザの周りにはまだまだ健全な金髪族が四〇人くらいいる。もちろんジルクも。
しかし問題は無い、背を丸めて俺たちの様子を観察している巨漢のコトンは、今や俺達に敵意はない。いつの間にかズボンも履いていた。
「お、おいコトン! 早くそいつらを……」
コトンがジルクの前に立つ。きょとんとするジルクの頭を掴み、軽々と持ち上げ、自分の顔の前に持ってくる。
「ジルク、俺はもうお前の言いなりにはならない。お前、俺を助けてくれたことない。でもこの男、敵の俺を助けてくれた。俺、たくさん悪いことした。殺して、犯して、食ったこともある。お前は俺に殺させて、犯させて、食わせたんだ」
一同が唖然。この男と長く付き合ってきたであろう住民たちはもちろん、リーザもだ。
コトンという男は恐らく野蛮なこの村の中でもトップクラスの悪だったのだろう、しかし根は違った。ジルクという青年に操られていた、とでも言うべきか。この大男は素直なのだろう。
もはや主砲を失った金髪族に上がる腰はない。大きな手から放されたジルクも立つことなくそのまま地面に尻餅をつく。
「コトン……そんな、嘘だろ」
「世話になった、ジルク」
◇
再び青空の下、草原の大地を踏みしめて歩く俺達……。
「和人、マヤは全員殺すべきだよ」
奴らを皆殺しにはしなかった。コトンからのお願いだったからだ。
殺す殺すと聞かないリーザを止めるのにどれだけ苦労したことか。
「申し訳ない、和人くん。俺、メアリちゃんに酷いことしたのにお願い聞いてもらった」
「まあ、メアリに乱暴したことは簡単に許せることではないが……お前、優しいんだな」
あと俺を君付けで呼ぶな。図体にあってないんだよとは言わなかった。言えなかった。
あれだけジルクに言っておきながら、それでも彼を殺さないでくれと俺たちに頼んだのはコトン。村の住民にも、これ以上は手を出さないでやってくれとも頼まれた。全く、こいつは変にお人好しなんだな。
実は誰かが死ぬことも、殺されることも、傷つくのも一番嫌っているのはこの男なのではないだろうか。
だがまだメアリとリーザの警戒心は解けていないようだ。二人とも俺を挟んでコトンと距離を取っている。
「嫌われるの当然。俺悪いことしたから」
全く、恨めないからずるいんだこいつは。
「なあコトン、お前、アテはあるのか?」
「俺居場所ない。一人ぼっちの俺、ジルクに拾われたから」
もしかして孤児ってやつか……? ならば話は簡単だ、女性陣には猛反対を食らうだろうし最悪リーザに刺される可能性もあるが……。
「コトン、俺たちと来ないか」
リーザはもちろんのこと、メアリでさえも大きく顔を振ってその驚愕の目で俺を見る。
……予想していた反応だ。いや、まだマシな方かもしれない。
コトンが仲間になるのなら心強いことこの上ない。それにリーザもいるのだ。俺は異世界に来て早々、チートパーティを組んでしまったのかもしれない。死神、不死身、殺し屋、巨漢。
巨漢のコトンについては実力は定かではないが、金髪族は彼がいなくなった途端、戦意を失うほどだ。まさに一騎当千を期待していいだろう。
「和人」
メアリに袖をぐいと引き寄せられる。
「お前は当初の目的を忘れているのではないか」
「目的……? あっ……」
そう、俺とメアリがここに来た理由、それはあくまでメアリの「仕事」のため。選ばれた者の願いを叶えるためだ。
「すまん、忘れてた」
ため息をこぼすメアリ。俺も釣られてため息。
しかしそれが明らかになったとて問題はまだある。それは、選ばれた者がどこにいるのかということ。つまりメアリは恐らくこの世界で神石の力を使えない。そう思うのも、もし使えるのだとしたら異世界に来た瞬間、彼女と会えているはずだからだ。それに死神の力が使えるのなら金髪族に拉致されることはまずありえない。
「この際、誰でもいいんじゃないか? リーザかコトンにでもしたらどうだ」
「それでも構わんが……」
すぐに、はやまった判断だと思い知る。神石の力が使えないということは即ち死神の力が使えないということ。つまり今のメアリでは人間の願いを叶えることが出来ない……普通の女の子というわけだ。
彼女の視覚を補っていた神石が働かないということは……。そう、彼女は今……目が見えない。
金髪族のマヤ村で再開した時からずっと俺の袖を掴んでいるのはこの為だろう。
「さっきから何を話してるの? 私も入れてっ」
リーザやコトンのことを忘れてつい堂々と……。
「いや、別に面白いことじゃないよ」
「その通りだ。お前には関係ない。私と和人『だけ』の都合だからな」
メアリさん……? なんか言い方。
「あぁあ! メアリが何も言わなかったら引き下がろうと思ってたのに!」
いや、引き下がる気無かっただろ……。それとメアリも珍しく煽るのな。
思ってみればメアリはこうして女の人と話すのは少なくとも二万年ぶり。俺と居る時とはやはり少し気分の持ちようが違うのだろうか。
コトンはツルツルの自分の頭を掻きながらきょとんとしている。
「嘘。お前は私が何も言わなくても張り付いて来たに違いない」
「違うもん! ほんとに引き下がるつもりだったもん!」
俺を挟んでの言い合いはやめてくれ。興奮してるリーザが喋るとそれに合わせてお前の胸に右腕が挟み込まれるから。
だけどこうして二人が仲良さそうにしてるのを見ると、まるで姉妹みたいだな。
「っと、話が逸れたな。それでコトン、どうする」
俺たちについてくるかどうかについて。
静かに俺達のやり取りを見ていたコトンに向く。
俺の言葉と同時に沈黙した金髪少女二人も何かを祈るようにして注視していた。
彼は少し困ったように頭を掻いてやりづらそうに口を開く。
「俺、王都に行く」
「王都?」
異世界だから王国とは思っていたが、やはりそうだったか。だが王都に行って何を? 真面目に生きるって言ってたから働くのか?
「王都に行って、自首する」
「なっ……」
知られてもない罪を自ら……。彼が本当に自分がしたことをすべて打ち明ければ懲役どころじゃ済まないぞ。この国がそういうことに関してどのような価値観を持っているのかは分からないが、いくら寛容だとしても重いものには違いない。
「お前、それで死刑になったらどうする」
「俺はそこまでだ」
言葉足らずというか男気あるというか……。
「そんなことで今までやってきたこと消えてなくなるとは思ってない。けど、俺は裁かれないといけない」
これほど紳士な人間がいようか。彼にはもはや神々しささえ感じる。
コトンを止める理由はない。彼がしたいようにさせるべきだ。
「分かった。お前が死なないことを祈ってるよ」
◇
「世話になった、和人くん」
「おう、また顔見せろてくれよな」
王都へは俺達も同行した。コトンはすぐに警察署みたいなところへ罪を自白しに行き、コトンと別れた俺とメアリとリーザは宿を探している。
王都のことを全く知らない俺とメアリは、リーザを先頭に、商店街らしき街並みを見回していた。
建ち並ぶ店の前に置いてある品は人々の賑わいでほぼ手に触れることなく通過することになるのだが、店先にある果物に貼られた値札らしき札を見てふと思いつく。
「メアリ、そういえば俺達、金持ってないぞ」
「問題ない」
メアリがどこからともなく花柄の巾着袋を取り出す。持ち上げた時にジャラジャラと金物の音がしたことから、なんとなく金銭だと判断。
「ここに来る前、あらかじめこの世界の通貨を生成しておいた。価値は知らん。この女にでも聞け」
メアリは無愛想にリーザの方を向き、巾着袋を差し出す。受け取ったリーザは中身を覗くと目を丸くしてポカーンと口を開けたまま。
「ご、五百ゴールド……えぇ……」
俺とメアリは当然その五百ゴールドというのがどれほどの価値なのかはわからない。ゴールドということはその下にシルバー、カパーとあるのが予想できる。だとすればゴールドは案外価値の高いものなのかもしれない。
「リーザ。それは、ええと……例えば、ソレがいくつ買える?」
俺は適当に道脇に並んでいる店先の果物を指さしたが、リーザは俺が指さした果物には一切目もくれず、キラキラした目で接近してくる。
「これだけあれば家を買った後、世界一周の旅に出られるよ!」
それほどとは……。とりあえず、金銭面ではかなり余裕があるみたいだ。
「メアリ、お前すごいな」
「造作もない。神石さえ使えればいくらだって生成できる」
「万能すぎだろ神石……」
と、そんなことを話しているとまたリーザが頬を膨らまして今にもふてくされそうなのでカット。
それにしても、家か……ここに定住すると決めるには考える時間が必要だな。だが王都にはたくさんの人間がいるからメアリが選んだ願いを叶える者を見つけられる可能性は高い。しかし今となってはその者にこだわる必要がない。見つけたとしてまだ問題はあるからだ。その原因はやはり神石の力の喪失。
神石の力があれば、メアリが選んだ者の位置がすぐにわかる。遠ければ近くにいる者に変更したりもしていたそうだ。
神石の力が無ければ遠いも近いもない……。
「ん?」
そういえば、リーザはなぜ巾着袋の中身を見ただけで五百ゴールドと言いきれたんだ? おおよそ、というつもりで言ったのだろうか。
疑問を向けると、リーザは何気ない顔で手をひょこっとあげる。
「私、盗賊の仕事してるから」
ああ、なるほど。
……って。
「……お前も自首してこい」
ボソっと洩れる俺の声など届くわけもなく、にゃははと能天気に笑うリーザをただ苦笑いで見守るしかなかった。
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