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第三章 ハテノチ統一へ

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 本部前に立つ者たちの目には、壮観とも言える景色が映し出されていた。

「たったの数時間で……」

 呟いたマリアがその光景に向かって足を進めると、各々が感嘆の声を上げながら好き好きに都の散策を始める。
 嶺二とイブソルニアは今し方、本部の扉から出てきて。

「うっひょー。まるで渋谷だぜ」

 大小様々な建物が群れて建っている。とはいえ息苦しいとは思わせず、清潔感のあるデザインの屋根や壁で形成されたそれらは、いくつもの街路を形作るように綺麗に整列していた。
 そして嶺二が一番驚いたのは人の多さだろう。ほとんどがイブソルニアと共にこの世界に来た魔族だが、鎧は纏っておらず思い思いの服装で歩いている。

「我の部下が、ここまでやったというのか……」

 彼らをよく知るイブソルニアでさえ唖然としてしまうが、これは恐らくレラの力が大きいだろう。新しく加わった錬金術師たちは、彼女の指導の元で力の使い方を学び腕を上げている。レラに匹敵するとはいかなくとも、彼女が持つ知識を得られるのだから成長しないわけがない。
 嶺二は鼻をほじりながら言う。

「イブソルニア、お前は乙都に行くんだろ?」
「そうだ。我が統べることとなる場所へ連れて行け」
「ついてこい」

 跳びあがった嶺二を追うように、イブソルニアも空へ舞い上がった。

 乙都は甲都から南に約二十五キロメートルの位置にあり、そこは神の力によってゲートと化す鏡の壁の数キロ手前にあたる。セリスによれば乙都は既に完成しているようだが、どのような格好となったのだろか。
 たった今、城壁の上に着地にしたのは嶺二。額に手を添えてその景色を眺める。

「こりゃまたドスが効いてんなぁ」

 面積は甲都に劣るが、乙都の強みはこの武装態勢。城壁には見たこともないような固定式の兵器がいくつも並んでおり、そこで作業する者達は黒い服に身を包んでいる。作業服のようなものだろう。城壁内には金属で出来た光沢を放つ建物が密集していた。都全体がまるで工業団地のような見た目となっているが、一画には商店街と思しきものも窺える。
 嶺二の後に到着したのはイブソルニア。彼女も都を眺めた。

「武装都市か……いいではないか。気に入ったぞ」

 一層高くそびえる機械作りの塔に登って作業をしている者や、設けられたスペースで剣や銃器の訓練をしている者など……見渡す限りに鉄を扱う者が目に見える。
 と、そこで二人の横に立ったのは。

「おや。嶺二さんとイブソルニアさん。来られたのですね」

 セリスだ。全体的に黒が覆うこの都に、その純白のスーツは目立って輝きを放っていた。

「おおセリス。……なんつうか、まがまがしいな、この都」
「そうですね。もちろん娯楽施設や商店はありますが、甲都や丙都に比べると少し堅苦しいでしょうか」

 しかしここに、武装に特化した乙都を建てたことには理由がある。異世界への進攻、または敵襲、そして同盟を結んだ世界への援軍に対応するには、ゲート付近が一番都合が良いからだ。この先南へ五キロメートルも進めば、その場所が存在する。甲、乙、丙の三都のうち、最も戦力を注いでいるのは間違いなく乙都。それを統括する者として、イブソルニアは適任といえるだろう。

「それよりもよ、あそこだけすっからかんだぞ? 野球すんのか?」

 嶺二が指さしたのは、言葉の通り何も建てられていない一画。セリスは指の先を目で追うと答えた。

「あそこには乙都の本部が設置されます。既にマリアお姉さんからお聞きになっていると思いますが、ヘリブカリア王国軍の建てた拠点をそこに移動させるためです」

 そんなことを話していると、乙都から大勢の魔族が空へ飛びあがる。

「どうやら運搬作業が始まったようですね」
「ほぇ~。バカみたいにいるなあいつら」

 カラスの群れのように、空を黒く染める塊は北へ飛んで行った。それを見送った嶺二の隣で、イブソルニアが一歩踏み出す。

「我も行くとしよう」
「気をつけてなぁ~」

 イブソルニアは空へ飛び立ち、大軍を追った。

「……」

 残った嶺二とセリスは意味もなく顔を見合わせると、まず口を開いたのはセリス。

「何ですか、嶺二さん」
「えっと……俺はこの先、何したらいいだんだ?」

 敵が現れた時には誰よりも活躍する嶺二だが、常としてやることは誰よりも乏しい。名だけとはいえやっていた教師は、マリアによってヘリブカリア王国の魔族たちからその才に秀でた者が選抜されることになっている。他の職に就こうにも、その方針だと嶺二が活躍できる場はまずないだろう。
 セリスは耳に手を当てながら。

「マリアお姉さんに訊いてみますね」
「おう、頼む」

 セリスは魔力によって通話を試みているようだが……繋がったか、先ほどの嶺二のことに関して訊き、何度かその返答に相槌を打ったあとに手を下ろした。
 嶺二は拳を握って急かすように。

「どうだった⁉」
「ええ。マリアお姉さんの部屋に来いと……」
「オッケー! サンキューなセリス!」
「三十分後に、ということです。マリアお姉さんは今……」

 最後の言葉が嶺二の耳に入る前に、彼は空高く跳びあがっていた。

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