ヴァルキリーレイズ

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第二笑(フレイヤ編)

10 (笑止): 黄昏

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 この世界で冒険者になってから、約三ヶ月が経っただろうか。
 一度は目的を達成し故郷へ帰れたが、何やかんやでまた戻ってきてしまう。かと思いきや今度はフレイヤとかいう神が、新たな敵として現れた。
 フレイヤを倒した後、俺はその時こそ故郷へ帰り、長い余生を過ごせたらと切実に願う。
 だがその願いが叶うのも、遠い未来の話ではない。フレイヤは今のミカンでも充分に通用する敵だ。早いところ再会して、次こそはミカンに仕留めさせる。そして俺は帰る!

 何てことを意気込んではいるが………。

「コウタくん! レジお願い!」

 例えフレイヤを倒したとしても、コッチが終わらない限り帰してくれそうにない。
 俺達はフレイヤが店を荒らしたことにより、理不尽にも弁償として店の手伝いをさせられている。
 どれくらい働けばいいのかを聞いても「たくさん」と答えられるだけだし………一生このままとかないよな。
 俺はカウンターに立って、レジ係を担当する。
 ユイは奥へ引っ込んでしまったが、客が来たらどうしよう。街の間でジュエリーシーカーとかいう不名誉な名前を付けられそうだ。
 その時、店のドアが開く。
 ……………来た。

「っ………」

 よりにもよってテシリーだった。
 俺に気づくことなく、ブラジャーコーナーを見始める。

「ふむ………どれも良いデザインだ。迷ってしまうな」

 テシリーのやつ、俺にノーブラを指摘されてブラを着ける気になったのだろう。
 元々、パンツすら履いてなかった原始人テシリーがここまで成長したのだ。感心する他ない。
 テシリーは二つのブラジャーを持ち、交互に見比べながらレジへやって来て、

「今、この二つで迷ってるんだが……私に似合うのはどちらだろうか?」

「………………」

 オイ。話しかけてるソイツは俺だぞ。あの変態店主じゃないんだぞ。

「む? 聞いてい――」

 目が合う。

「よう、テシリー」
「うぉわぁぁぁぁあ!!!」
「ボベッ!?」

 鼻っ柱をグーで殴られ、流石にキレる。

「てめぇ!? なに急に殴ってきてんだ!? シオラやネーシャの下着をこっそり拝借してることバラすぞ!?」

 テシリーがブラジャーを手放し、両手で俺の口を塞いできた。

「わはぁぁあ!! やめてくれ! 私が悪かった! というかなぜお前がそんなことを知っているのだ!!」

 嘘だろ。テキトーに言っただけなのに、マジかよ。

 俺の口を塞いでいるテシリーの手を掴む。

「俺はお前のことを何でも知っている」
「ひっ…………」

 いい気分だ、怯えてやがる。
 こいつにはしっかり躾をしておかないと、所構わず勝負をしかけてくるからな。主従関係をきっちり分からせてやる。

「な、なら………まさかとは思うが………」 
「ん?」

 テシリーは俺に手を掴まれたまま、目を泳がせ、震えた声で、

「たまに私が、コウタのパンツを履いているということもバレているのか?」
「バカなのかお前は!? わざわざ自分から暴露すんなよ!!!」

 いや、この返し方は違うな。

「って、お前男のパンツ盗んで履いてんじゃねぇー!!」
「盗んではいない! 使ったらちゃんと返している!」

 そういう問題では、無い。
 だがテシリーのことだ。これは性癖というわけではなく、パンツという物を履き始めたことにより湧いた単なる好奇心だろう。興味本位と言った方が正しいか。
 恐らく今の彼女にとって下着というものは目新しく、それに関しての知的好奇心が旺盛なのだ。
 そのうちオムツとか履かないといいが。

「使うのはいいけど、洗って返してるんだろうな」
「もちろんだ!」

 何だろうか。こいつらといると日々、俺までダメになってきている気がするのは………やはり気のせいか。


「ならいいが……。下着を見てもらいたいんだっけ? ユイなら奥にいるから、呼んでくるよ」
「あ、ああ。助かる」

 レジの裏のドアを開け、スタッフルーム的な所に入る。
 ユイは何やら書いていた。商品の在庫記録だろうか。
 にしても……。

「ユイ………客が下着を見てもらいたいらしいんだが……」

 どうしてこいつは真っ裸なんだ。

「うん! わかった!」

 ユイは振り向くと、即座に立ってレジに向かおうと走ってくるが、

「ぺぶ!」

 ラリアットで阻止。
 床にぶっ倒れるユイ。
 
「分かったじゃねぇ。服を着ろ」

 ユイは素早く立ち上がり、

「どうしてよ!」
「どう答えたらいいんだよ」

 何でだろう。当たり前のことなのに理由が思いつかない。

「しょうがないなぁ……」

 そう言って、ユイは渋々エプロンを巻いて部屋を出た。

「……………」

 もうやだこの店!!!



 昼過ぎ。
 店での仕事が終わると、今度は指揮官としての仕事が待っている。
 家に帰ると、リビングにてデルタのメンバーとの会議が始まる。

「今日もみんなの意見を聞こうと思う。何かあるか?」

 即座にテシリーが手を挙げて、

「勝――」
「却下」

 次にシオラが手を挙げた。

「はいシオラ」
「ギルドでクエストを受けてみるってのはどうだ?」

 クエスト、か……。

「理由を聞いてもいいか?」
「サイラには初級冒険者が多いから、高難度のクエストは達成されねぇ。つまり、達成されなくて困っている依頼人がいるってことになる」
「なるほどな」

 さすがはリーダーだ。街の人達のことをよく考えている。

「それで行こう。異議は…………無しと。じゃあ各自準備して庭に集合な!」

 俺は特別準備することがなく、一番先に庭へ出た。
 後ろから着いてくるのはミカンとオーディン。

「お前たち、ケンカするんじゃないぞ」

 少女姿のミカンが鼻を鳴らす。

「するなも何も、相手になる者がおらんわい」

 オーディンも対抗するように、

「最高神は寛大じゃ。どこぞの金髪女に喧嘩を売られたところで、そんな安値のものは買わん」

 オーディンの挑発気味の言葉にも、ミカンは動揺せず凛と立っている。
 偉いぞミカン。
 
「コウタ、聞きたいことがあるのだが」
「何だ?」
「さっきからオーディンの姿が見当たらん。声は聞こえるのだが………どこにいるのやらと思ってな」

「………………」

 少女姿のミカンと比べて、幼女姿のオーディンは頭三つ分くらい背が低い。
 つまり、始まる。

「おいヴァルキュリア!! お前少し大きいからといって調子に乗るなよ!!」
「また声が………オーディンのやつ、透過能力を身につけたのか?」

 オーディンはぴょんぴょん飛び跳ねて、

「ここに! ……おる! ……わい! ……こら!」
「どこだー。オーディン」

 本当に懲りないなこいつら。
 その時、家からぞろぞろとメンバーが出てくる。
 
「揃ったな。じゃあ出発だ」

「「一人は仲間のために! 仲間は明日のために!」」
「総員、出撃!」

 ◇

 ギルドに到着すると、早速クエストボードを確認する。

「スライム討伐にフキデソウの採取………うーん」

 低難度のものばかりだな………デルタ部隊を引き連れて、スライムなんか討伐してもって感じだし………。

「コウタさん! これなんてどうでしょう!?」

 サラが嬉しげに持ってきたクエストの内容は………。


【爆炎魔法を操るテロリストを排除せよ!】

 まで読んで千切った。

「コウタさん! 破いたらダメですぅ!」
「お前も余計なもん見つけてくんじゃねぇ」

 このテロリストが。

「これなんてどうだ?」

 次にシオラが見せつけてきたクエストは………。


【変質者を捕まえよ!!】

達成条件 : 変質者を捕まえて!
危険度  : ★★★★★★★★★★★★
報酬   : 何か武器買ってあげる!
依頼人  : サイラのシーカー

サイラのシーカー : 大変よ! この街に変態が現れたわ! 胸と手の甲に防具を着けてて、見た目は冴えないって感じ! あとダガーを持ってたからシーカーね! 私じゃないわよ!? そいつはロリコンなの。ずる賢い戦い方で下着を奪ってくるから気をつけて! スカーレットマグナムが攻めてきた直後で大変だと思うけれど、みんなで変態を退治しましょう!



「………………」

 俺の視線は、赤髪のポニーテール女を捉えた。

「どれにしようかしらー?」

 ボードを眺めて、のんきにクエストを選別してやがる。

「街の秩序に関わる依頼だ。放ってはおけねぇだろ」

 シオラの言うことは最もだ。だが俺は当然、このクエストの内容に納得できなかった。
 スカーレットマグナムが攻めてきた直後、ということは俺が日本に帰るよりも、結構前にこのクエストが貼りだされていたことになる。
 
「おいネーシャ」
「何よ? ……ぶふっ!」

 振り向き様、クエストカードをネーシャの顔面に貼り付ける。

「ぶはっ! 何すんのよ!」
「それはこっちのセリフだバカが。………これ、依頼したのお前だよな?」

 ネーシャはクエストカードに目を通すと、目にも止まらぬ速さでそれを切り刻んだ。

「ええと……どれ?」
「決定。お前、今日の晩ご飯抜きな」

 ソレは掴みかかってきて、

「いやぁぁああぁぁぁ!! ごめんなさいぃぃい!! ちょっとした出来心だったのよー!!」
「ちょっとした出来心で変質者扱いされる方の身にもなれ!! 下手したら俺の命が狙われてたんだぞ!?」

 今日ギルドに来てよかった。
 それにしても危険度どうなってんだ。スカーレットマグナム超えてんぞ。どんだけ危険人物だと思われてんだよ俺。

「お詫びに私のパンツあげるから許してよ!」
「だから俺はそんなもん欲しがるような変態じゃねぇんだよ!!!」

 ダメだ。頭痛くなってきた。

「コウタさんコウタさん」
「おお……サラ。どうした?」

 その笑顔の前にかざされたのはクエストカード。
 なになに………。


【ペットを探し出せ!】

達成条件 : 逃げ出したペットの捕獲。
危険度  : ★
報酬   : 4000ルーン
依頼人  : サイラの夫人

サイラの夫人 : 一昨日からウチのペットが行方不明なの! どうやら庭で遊ばせていた時に脱走したみたい! 脱走対策は入念にしていたつもりなんだけど………とにかく! 早くウチの愛犬を探し出してちょうだい!!


「ワンちゃんですよっ!」

 ご機嫌そうなサラを見るに、犬好きと見た。
 多少は私情が混ざってしまうが、ペットが突然いなくなった飼い主の気持ちを考えると、是非とも力になってあげたい。

「みんな、これどうだ?」

 お堅いシオラ隊長は首を縦に振ってくれるだろうか。

「いいんじゃねぇか? 暇なクエストになるが、飼い主も心配だろうしな」

 よし。
 続いてゲザも。

「異議なし」

 他のみんなも賛成してくれた。
 今日は危険なクエストにならなくて済みそうだ。

「んじゃ、行きますか!」





 逃げ出した飼い犬を探すということで、まずは飼い主の家を訪ねた。
 豪邸の門の前に、ぽっちゃりした女性が立っている。

「来てくれたのね冒険者さん達!」
 
 むちっとした手で握手してくる女性。この人が飼い主のようだ。
 まず聞くことは、と。

「ペットの名前と特徴、あと、よく散歩する場所を教えていただいてもいいですか?」
「名前はマメちゃん。右目の下を少し怪我してるの。散歩ではよく街の東の方を歩いてるわ!」

 マメちゃん、ね。
 トイプードルのような可愛らしい見た目を連想させる名前だ。
 特徴は右目の下の怪我……と。
 東の方となると、あまり俺達が立ち寄らない場所だが、鼻の効くシャミーがいるし大丈夫だろう。

「分かりました。それでは一刻も早く、あなたのペットを探し出します」
「お願いね! 期待してるわよ!!」



 サイラの東側。ここはだいぶ田舎で、商店は街の中と比べるとかなり少ない。
 そして街に比べて道は広く、人が少ないためとても歩きやすい。
 俺たちはサイラの中でも中央部に住んでるから、こういった場所に来ると何だか落ち着くなぁ。

「すぅーー………」

 自然の空気を腹いっぱいに満たす。
 吐き出そうとした瞬間。

「何を嗅いでるのよ。お風呂入ってないの?」
「……………」

 ネーシャこいつは余計なツッコミをいれないと気が済まないのか。

「自然豊かな場所ですね。心が洗われますっ」

 そういうことだサラ。お前はよく分かってる。

「二時間無呼吸訓練のときを思い出す。終わった後の空気は美味であった」

 ゲザから、何やら物騒なワードが飛び出た。
 こいつらどんな訓練してたんだよ。
 さらに足を進めているとネーシャが、

「ん……? 何かあっちの方から走って来てない?」
「何だって?」

 んー。確かになんか、近づいてきてるような……。

「サーマルアイ!」

 ネーシャのスキルだろうか。

「間違いないわ。何らかの生き物よ。もしかしたらマメちゃんかもしれないわ!」
「よし。こっちに向かってるみたいだし……みんな! 捕まえる準備をしておけ!」

 横一列になって捕獲陣形をとる。
 おおよそ見えるようになると、四足歩行なのが分かる。耳があるみたいだし、やっぱりマメちゃんか!

「こっち来い! こっち来い! こっち……来い………こ………………」

 それが俺たちの前方二十メートル付近にまで接近すると、全長五メートル程の怪物だということが分かった。

「ぎゃぁぁぁあ!!! バケモンじゃねぇかァァァ!!」

 その怪物は俺たちのことなどお構い無しに、突進してくる。

「みんな逃げるんだ!」

 一斉に道の脇に飛び込んで進路から外れる。
 こんなのがマメちゃんとか言わないよな?

「ふんんんんん!!!!」

 一人、道に残っていたのはゲザ。真正面から四足歩行の怪物に体当たりし、進行を食い止めた。

「ナイスだゲザ!」

「グォォオオオオオン!!!!」

 狼のような鳴き声を発する怪物はゲザを蹴飛ばそうとしているが、この男をそう簡単に薙ぎ払えると思うな!

「コウタ!」
「何だネーシャ!」
「こいつ、今日の晩ご飯にしてもいいかしら!?」
「え」

 ひょっとして俺が晩ご飯抜きとか言ったから、それなら自分でとってくるって考えに至ったのだろうか。
 こいつがマメちゃんだったら断固として拒否してるところだが、どうやらその線はないようだ。こんな巨体が「マメちゃん」なわけがない。

「いいぞ。その代わり自分で運んで帰………ん?」

 右目の下に傷。ごっつい傷。

「いっくわよぉお!!!」

 ネーシャが飛び出した瞬間。

「シャラッシ!!」
「げばぁっ!!」

 ネーシャの首に腕を回して阻止。

「ゲホッ! ゲホッ! 何すんのよコウタ!!」
「あれ、マメちゃんだぞ」
「「えぇえ!?」」

 一同、驚きの声。
 シオラもさすがに驚いて、

「あんなデカブツがペットなのかよ! あの夫人どんな趣味してやがんだ!」

 同意だ。
 しかし見た目は怪物であっても、夫人が愛情こめて育てたペット。傷つける訳にはいかない。

「ゲザ! そのままそいつを抑えてくれ!」
「了解した!」

 さて、どうやって連れて帰るか………。
 とりあえずゲザの負担を減らさないとな。

「ゲザ離れろ! ………ホール!」

 巨体は地面に空いた大穴に落下。

「グォォオオオオ!!!!」

「サラ! ギガシールドをあいつに!」
「わ、分かりました! ギガシールド!」

 ドーム状に穴を囲んだギガシールドは、マメちゃんを閉じ込めておくための蓋のような役割を担う。これで一応はここから逃げることはないが……。

「これからどうするか………フィジカルバインドを使っても、アレを縛れるほどのロープがないし……」
「コウタ」
「ん?」

 ミカンが横にやってきて、

「あれはマメちゃんではない」
「何言ってるんだ。特徴が一致してるじゃないか」

 次にオーディン、

「マメちゃんではなくなった……と言った方が正しいか」

 この二人がこんな感じで話し出す時、それは恐らく……。

「奴はフレイヤだ」
「無茶言うなよ!」
「ならば、あの犬がフレイヤからコアを奪い取ったとでも言いたいのか?」
「なっ………」

 ミカンとオーディンはマメちゃんの中にコアを感じているのか! ってことは本当にフレイヤが……?

「テシリー。お前の矢であの犬を貫け」
「待てよミカン! マメちゃんを傷つけたらだめだ! 依頼人のペットなんだぞ!」
「コウタ。もう一度言うが、アレはフレイヤだ」

 フレイヤのやつ、動物に憑依できるのかよ……!

「なるほどな。そういうことか」

 シオラが納得したようなことを言う。

「どういうことなんだよ?」
「奴はペットを攫い、飼い主に捜索願い……つまりクエストを依頼させ、私達を誘い込んだのさ」
「あいつ……!」

 しかも性悪なのが、こちらから手を出せない相手を選んでいるところだ!

「どうするみんな!」
「簡単だ。殺せばよかろう」
「ふざけんな! マメちゃんは連れて帰る!」

 何か手はないか……。

「コウタさん! シールドが破壊されそうです!」

 どうすれば………。
 やむを得んと言わんばかりに矢を引くテシリーの手を掴む。

「早まるなテシリー。何か方法があるはずだ」
「ぐっ……しかし相手はフレイヤだ。ギガシールドが解けて、奴が私達ではなく、街に向かって走り出したら……どうなる」

 確かにそれはまずい。
 だがフレイヤを攻撃するということは、マメちゃんを傷つけることになる。
 ペットの命をとるか……街の人達の命をとるか……。

「もうよい」

 言ったのはミカン。突き出す右手には濃密な黄金の光。

「ミカン!」
「全ては得られんのだ。死ぬべき者を誤審してはならない。これは裁きではない、鉄槌だ――」

 あれ、ちょっと待て。何だこの胸騒ぎは。

「サーガ・インテンション」

 痛く照る眩い閃光。それはギガシールドを破壊しマメちゃんを貫いた。

「くそ………」
「こうしていなければ、多くの命が危険に晒されていた」

 ミカンは小さくなり、ダボついた服を脱ぎ払う。
 
「………………」

 いや、おかしい。
 何かがおかしいんだ。
 ミカンの前に堂々と現れたら、やられてしまうことはフレイヤにも分かっていたはずだ。
 明らかに自分の姿でいたほうが強いだろうに、なぜマメちゃんに憑依したままだった?

「っ………!」

 全身に悪寒が走ると同時、皆に振り向いた。

「みんな! 逃げろぉおお!!」

 遅かった。
 視界は真っ赤な炎で覆われる。

「ぐぁっ………熱………」

 俺は、俺達は……焼かれているのか?
 あれ………ここでお終い? 俺達は、ここで死ぬのか?
 
「っ……!? サラ!?」
「皆さんは私がお守りします!!」

 咄嗟に防御魔法を展開したのか!

「一体何が起こってるの!?」
「落ち着け。フレイヤだ」

 落ち着いていられるか……!
 この状況は絶望的。なぜなら。

「どうしたコウタ。顔が蒼白としているぞ」

 ミカンは力を使ったことにより幼女化。
 つまり、神への最も有効な対抗手段が無くなったわけだ。
 にしても熱い……! スカーレットマグナムの炎なんて比にならないくらいだ!

「コウタさん! もうシールドが……!」

 だんだんと温度が上がってきているのは、損傷したシールドから熱が漏れてきているせいだろう。


 ん? 待てよ。フレイヤといえば……。

「シャミー! お手!」
「にゃ!」

 手のひらに乗せられたシャミーの手を握り、

「ギガスローイングゥゥウ!!」
「うにゃにゃぁぁあ!!」

 シールドが破壊されると同時、シャミーがフレイヤめがけて吹っ飛び、タイミングを図ったかのように炎が晴れる。
 ビンゴ!
 
「ちょっとコウタ! シャミーに何するのよ!」
「コウタてめぇ!」
「見ろよ! アレを!」

 俺が指さした方向には宙に浮くドレス姿の女性。
 それは、シャミーを抱いていた。

「ちょ……あれ? シャミー大丈夫なの?」

 疑問の表情を浮かべる一同に、説明する。

「シャミーは一度、フレイヤに襲われている。でもシャミーはサラの回復魔法ですぐに軽傷程度に回復したよな?」
「ええ……」
「サラのギガシールドを短時間で破壊できるような火力を持つフレイヤだぜ? 普通、そんな軽傷じゃすまないし、フレイヤからすれば、わざわざ生かしておく必要もなかったわけだ」
「それって……」

 そう。フレイヤは、シャミーを殺せない。
 俺がいた世界で、ソリに乗っているフレイヤが描かれた絵を見たことがある。それは、猫に引かれていた。
 シャミーには悪いことをしたが、ひょっとしたらと思ったんだ。
 予想は的中した。

「貴様! 猫を放るとはどういうことだ!」

 フレイヤが怒りを露わにしている。

「お前こそ! あの時はシャミーをよくも傷つけてくれたな!」
「ぐっ……あの時は……それでもかなり加減したつもりだ!」
「言いたいことはそれだけか?」

 俺は巨大な矢に乗り、

「テシリー! ぶっ放せー!!!」
「ギガンテスアロー!!」

 俺を乗せた巨大な矢はフレイヤに向かって轟速で直進。

「お前ごときにこの身を貫けると思うな人間!」

 その技の、間合いに入った。
 俺は姿勢を低く構え、

「いっくぞぉぉおおお!!!」


 どぴゅっ。ぴゅるるる~………。


 ピンク色の液体が、フレイヤの顔面にかかる。

「ん!? 何だこれは!?」

 俺の両手にはダガーではなく、指の間に挟まれるように握られている幾本の小瓶が。
 巨大な矢から飛び降り、シャミーを取り返して地面に着地。
 あわよくばその矢を命中させたかったが、うまいこと回避された。

「……………」

 余りの拍子抜けに、一同声が出ないようだ。
 お前、何してんの? というのが雰囲気で伝わってくる。しかしそうでない者もいた。

「あ、あれは……!」

 そうだテシリー。お前はよく知っているだろう。身をもって体感したはずだ。

「ふっ。目くらましか……神にこのような手が……あひん!?」

 ニヤァ………。

「な……んだこれは……ひゃん!? アァん! き、貴様何を……ひにゃん!!??」

 これにはさすがにデルタの面々も唖然と立ち尽くしてその様子を眺めていた。フレイヤがヨガるその様を。
 彼女の頬が赤く染ってきた。
 さて……。


「おいフレイヤ! どうした!? お前さっきから身体ビクつかせてるようだが!? 何かエッチな事でも考えてんのか!!??」
「そ、そういうわけでは……ほぉん!!」

 そこでシオラが、

「コウタ。一体奴に何をした?」
「ちょっと敏感にさせてやっただけだよ。風が吹いただけでもヨガっちまうくらい……ちょっと敏感に、だ」

 ネーシャもこれを知っているため、驚く様子はなく、ただ。

「最低……」
「ハーーーハッハッハッハー!!! おいフレイヤ! 早く地上に降りてきた方が身のためだぜぇ? 高いところはよく風が吹くだろう? それともお前はエムなのかァン!?」

 俺のアドバイスに従ってか、それとも限界なのか、フレイヤは、よろよろと地面に降下し、足先が着く瞬間。

「ふひゃん! はひっ!!」

 アヒッて体勢を崩しその場に座り込んでしまう。
 俺はわざとらしく大きなため息をつくと歩み寄って、彼女の目の前に立つ。
 それを見下ろして、

「オイオイ。どうしたんだよ神様? 可憐で美しいフレイヤ様のお姿は一体どこにやらぇへへへへへへ!!!」

 おっと。言い切るまで笑いを堪えられなかった結果こんなキモイ笑い方が。
 フレイヤは上目遣いで俺を見上げ、

「貴様……一体どのような魔法を……」
「んー。強いていえば……そうだな……″オーガニック・テクノブレイク″とでも言っておこうか」

 そんな技があるのかと言わんばかりに俯くフレイヤに、俺の口角は上がりっぱなしだ。


「……………」

 沈黙。
 否!

「ホーレ! ツーンツーン!!」
「ひぎゃぁぁぁぁあ!!」
「ハーハッハッハ! ん? ほれ、どうだ? ン? ンンン!?」
「うひゃひゃひゃひゃ!! ら、らめぇぇえ!! あごはらめぇぇええ!!! ……アぅっーーーー」

 イったか……。

 俺は額に手を当て、カッコイイポーズをとり、

「生と死を司る神フレイヤよ! 貴様の炎は既に燃え尽きた! 汝が今後、この世界に危害を加えぬことを誓い、そして最強と最高の力宿りしその核を、我々に返すというならば! 命は見逃してやろう……」

 そう言うと、フレイヤは身体をピクつかせながらも胸元に手を突っ込んで、光り輝く宝石を取り出した。

「ウム……確かに受け取ったぞよ。して、誓えるか?」
「わかった……」
「よし。しかし罰として毎晩この俺をそのいやらしい身体を以て癒すが良い……いいな?」

 満足した俺は、ふぅとため息をついてみんなに振り返る。

「なーんてな。これで一件落着だ。コアも取り返したしな!」

 あれ。

「……………」
「……………」

 みんな、何でそんな目で俺を見るの?
 俺頑張ったじゃん……活躍したじゃん……。
 あっれ。サラその顔はダメだよ。マジで引いちゃってんじゃん。
 
「……帰りましょ」

 ネーシャの一言で、みんなが揃って踵を返す。

「お、おい待てよみんな! 何でそんなに――」

 腕を掴まれる。
 振り返ると呼吸を荒らげて真っ赤な顔をしたフレイヤが、

「わ、私を、ユイのところまで運んでくれ……」
「………え」

 
 あれから二日後。
 リビングで茶を啜りながら、その日のことを思い出す。
 ミカンの技によって貫かれたマメちゃんは、どうやらミカンの計らいで急所を避けることができていて、時間はかかったがサラの回復魔法で今はなんとか歩けるくらいにはなったらしい。
 みんなにおいていかれた俺が、アヒンアヒンのフレイヤをおぶってユイの店に帰ると、ユイは何故か「男の子がいいなぁ!」と叫び。

「ズズ……っふぅ……」


 ようやくアヒンアヒンの効果が切れたフレイヤは働けるようになり、俺は店の手伝いから解放された。それが今日のことだ。
 ミカンとオーディンの力が宿ったコアも取り返せたし、現在フレイヤは真面目に店で働いているようだ。
 何とも拍子抜けするような決着となってしまったが、一連のフレイヤ騒動は幕を閉じたのだった。
 帰るか……日本に。

 ミカンに転移を頼むべく、寝室に向かう。
 
「ミカン、俺を日本に……」

 光り輝く宝石を中心に、二人の幼女が対峙していた。
 俺を待っていたかのように、二人は同時に口を開く。

「「コウタ。お前はどちらを選ぶ?」」

 確かオーディンが、似たようなことを聞いてきた時があったな。私とヴァルキュリア、どちらを選ぶのか、と。
 こういうことだったのか。
 俺はコアを拾い上げ、

「そんなもん……最初からこうすればよかったんだ………っよ!!」

 宙に放ったコアを、光の刃で両断。

「「うあああああ!!!」」

 落ちた二つを拾い、ひとつはミカンに、ひとつはオーディンに渡す。

「ど、どういうつもりじゃ?」
「はんぶんこだ。ケンカにならなくて済むだろ?」

 お互いは顔を見合わせ、頷くとそれを飲み込んだ。

「おお……」

 二人の体はみるみる大きく成長し、やはり完全とはいかなくとも、美しく可憐な女性の姿になった。

「むっ……」
「ぐっ……」

 苦しげに唸る二人。
 まさか、呪いが!? そんなはずは!
 
 パァン………。

「あ…………」

 彼女らが着ていた服が弾け、たわわに実った乳房、その他諸々が露わになる。


 玄関のドアを蹴破る。

「ギヤァァァァァ!!!!」

 裸の美女二人に追われ、俺は庭を全速力で駆け回る。

「待てコウタぁぁぁあ!!! この服気に入っていたのだぞぉぉお!!!」
「私の裸体を拝むなど億千年早いんじゃぁぁあ!!!」

 庭ではネーシャ、シャミー、サラ、テシリー、シオラ、ゲザがいて。

「また何をやらかしたのよあのバカは……」
「どうせまたいやらしいことをしたのにゃ」
「あらあら……」
「勝負をしているのか……? 私も混ぜろォォオ!!」
「ったく……懲りねぇ野郎だ」
「仲間との絆深し! よきかな」

 マジで殺される!! なんか後ろでビリビリ鳴ってる!! オーディン槍持ってる! ヤバイ!!

「落ち着けよお前ら! 今さら裸見られたからなんだってんだ!? 寝てる時平気で裸のまま抱きついてきてただろうが!?」
「コウタ!」
「我が眷属よ!」
「なんだよ!」

「「神を導き、その力を引き出す″カミビキ″よ! この世界で、我ら神族を崇拝せよ! それが我々の力となる!」」

「なんだそれェェエエエ!!!!!」

「「これは裁きではない――歓迎だ……サーガ・インテンション!!!」」
「ディギャァァァァァァァア!!!」
「「ようこそ! 剣と魔法の異世界へ!!」」

 その日、国中で、サイラから立つ輝く光の柱が観測されたという。
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クラスメイトの美少女と無人島に流された件

桜井正宗
青春
 修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。  高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。  どうやら、漂流して流されていたようだった。  帰ろうにも島は『無人島』。  しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。  男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?

ママと中学生の僕

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大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。

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 この世界は12歳になったら神からスキルを授かることができ、俺も12歳になった時にスキルを授かった。  しかし、俺のスキルは【@&¥#%】と正しく表記されず、役に立たないスキルということが判明した。  そんな中、両親を亡くした俺は妹に不自由のない生活を送ってもらうため、冒険者として活動を始める。  しかし、【@&¥#%】というスキルでは強いモンスターを討伐することができず、3年間冒険者をしてもスライムしか倒せなかった。  そんなある日、俺がスライムを10,000体討伐した瞬間、スキル【@&¥#%】がチートスキルへと変化して……。  これは、ある日突然、最強の冒険者となった主人公が、今まで『スライムしか倒せないゴミ』とバカにしてきた奴らに“ざまぁ”し、美少女たちと幸せな日々を過ごす物語。

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