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第一笑(オーディン編)
21 : デルタ集結
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翌朝、ベッドの上で目を覚ました俺は戦慄の表情を彼女に向けた。
「み、ミカン、お前また……」
昨日、ダンジョンでサラの魔法を打ち消したことにより魔力を使い果たし、幼女の姿に戻ったはずのミカンが再び少女化していた。
やっぱり、ミカンの力のコアが近いってことか!?
それ即ち、オーディンがこの街の近くに……。
「おい起きろミカン! お前また大きくなってんぞ!?」
先に目を覚ましたのはテシリー。
「何事だ、朝から騒がしいぞ……」
「テシリー見てくれよ! ミカンがまた大きくなってんだ!」
「何だと?」
テシリーは身を起こし、寝ているミカンを見て疑問の表情を浮かべる。
「本当だな。これは一体……」
「マジでオーディンが近くにいるかもしれない! ……早すぎんだよ! 冒険者歴二ヶ月未満でラスボスとか、難易度設定どうなってんだァ!!」
叫んでいると、さすがのミカンも目を覚ましたようだ。
「うるさい……何をそんなに騒いでいる」
「ミカン! お前また大きくなってるけ……ど……?」
身を起こしたミカンの上半身が露わになる。
あれ? こいつ昨日よりも成長してね?
「む?」
「ミカン? 何か昨日の朝と比べて変わったことはないか?」
「そうだな……軽くこの街を破壊できそうだ」
「勘弁して!!」
あーら、完全体に近づいちゃってますわこの子。
唖然とする俺とテシリーを気に留めず、ミカンはベッドから降りてバンザイする。
「着せれ」
「自分で着ろこの美少女がァ!!」
リビングに行くと、のんきなネーシャが。
「あらミカン。また大きくなったのね。一つ大きめのサイズを買っておいて正解だったわ」
成長期だとしても程がある。ネーシャの半分もなかったミカンが、今では彼女と同じくらいに成長しているのだから。
膝の上に座ってくるミカン。
「コウタ、ごはん」
「いい加減にしろよお前? 頼むから見てくれだけ成長しないでくれ」
しかしこれは大問題だ。昨日は何らかの原因で一時的に力を取り戻したという結論で事の幕は閉じたのだが、またもこうなってはさすがに楽観視できないな。
「ミカンさん、少し見ないうちにすごく美人になられましたね」
「おい、サラまで冗談言ってんじゃねぇよ。ちょっと前に言ったよな?」
「ええと……ヴァルキュリア、でしたっけ?」
「そうだ。オーディンに力を奪われてるから幼体化していただけで、力を取り戻せばその分、本来の姿に近づいていくんだ」
何だろうかこの迫り来る感じは。まるで何かが終わりを急いでいるような。
その時、来客を知らせる鐘が鳴る。
ネーシャが玄関に向かってから数秒。
「コウター! ちょっと来てー!」
何事だ? 俺の客か?
「どうしたんだよネーシャ? ――って……」
いたのはシオラとゲザ、そして一番前に立っているのは軍服のようなものを着たスキンヘッドの老人。細身だがものすごい威圧を放っている。
なるほど、こいつが……。
「私は王都直属部隊群最高司令官のサッカーマーである」
やっぱりか……!
「ど、どうも、サクマコウタです」
この人はデルタを含め王都の軍事力を握る超お偉いさんだ。一体俺に何の用……というのは愚問に当たるだろう。概ね俺を処刑しに来たのか。
「君が私の大切な部下を養ってくれていると聞いてね?」
この皮肉の混じった感じ……絶対怒ってる!
「ああいえ、そんな……大したことはしていませんよ……あはは」
「シオラやゲザから話は聞いている」
チクりやがったなてめぇら!
サッカーマーさんは穏やかな口調でネーシャを呼びかけた。
「元気にしているか?」
「もちろんよ。見ての通り!」
おいおい、元とはいえお前の上官にあたる人間にそんな口の利き方はないだろ!
「それはよかった」
あれ? ひょっとして二人は仲がいいのか?
「サクマコウタよ」
「はっ……ハイ!」
「スカーレットマグナム襲来の件、よくぞ立ち上がってくれた。この国随一の精鋭たる我がデルタ部隊を指揮し、功績を納めたようだな」
シオラはそれを彼に伝えたのか。
「え、ええと……俺は何も出来なかったんですが……」
「その謙遜なる態度……実に崇高。そして、仲間を大切に思う人間だとも聞いている」
あれ、俺にそんな節があったか。
ゲザが納得するように頷いている。
「それはどうも……」
サッカーマーさんは胸に手を当て、敬礼の姿勢をとった。
「え、ちょ、何やって――」
「一人は仲間のために、仲間は明日のために! その思想を髄にまで浸透させた若き果敢な冒険者よ! そなたにデルタの指揮権を譲渡しよう!」
「困りますからァァァ!!! 早まらないでください最高司令官殿ォ! 俺なんて駆け出しの冒険者なんですよ!? ルーキーなんですよ!? 国が誇る精鋭部隊の指揮なんて執れませんからァァァ!」
処刑にならないだけマシだが、デルタの指揮権を握るということは、国の有事に俺が動かなきゃならないってことだろ!? そんなの絶対に嫌だ! 俺は自由にクエスト行って寝て食っていつかオーディンを倒して日本に帰る!
「駆け出しとはまた謙遜を……テシリーやネーシャに匹敵するシーカーだと聞いているが?」
「は、ハハ……」
こいつらマジで不器用だな! テシリーは悪い意味でバカ正直だし、ゲザは俺が少しネーシャにきつく当たっただけで彼女に匹敵すると思ってしまうんだからよ!
いや待てよ? デルタの指揮権を握るということは、こいつらを好きに扱えるということか……はは~ん? 下手な大金を積んでも仲間になってくれないであろう最強の部隊、デルタを無償で、しかも好きにしていいということは、オーディン討伐に役立てられるじゃないか。
オーディンを倒したあとは国のことは俺には関係ない。さっさと転移魔法で日本に返してもらい、悠々と学生生活を再スタートすればいいだけなのだから。
「い、いやぁバレてましたかー! みんな口が軽いんだからなぁ全く。最高司令官殿にそこまで言われたら、断るわけには行かないでしょう! お任せください! デルタの指揮は。俺が執ります!」
「おお……! さすがは英雄と呼ばれる男だ。それでは、デルタのことを頼んだぞ、サクマコウタ」
「お任せを!」
よし、これで戦力は充分。いつオーディンが現れても……。
「ヒャッハーー!! やっとポンコツ部隊から解放されたぜぇぇえ!!」
「ン?」
威厳のあったサッカーマーがいきなり発狂しだした。
「こいつらの面倒なんて見てられねぇんだよ! 実力はあるが? それ以上に面倒事を引っ張りこんでくるプロだ! ひとつ仕事が片付くとひとつ面倒事を引っ張りこんできやがる! やってらんねぇよ!」
オイオイ。まさかこいつ。
「コホン。まぁ、頑張りたまえ」
「おい待て」
「じゃーーーなァァァ!!!!」
逃げた。
なるほど、サッカーマーもこいつらがポンコツなことに気づいていたようだ。それそれは俺なんかよりも苦労されたことだろう。
さて、引き受けてしまったデルタ部隊の指揮権だが、せっかくだし遠慮なく行使させてもらうとしよう。
「と、いうわけで、これからは俺がデルタの指揮を執ることになった」
「あのハゲオヤジ! 私達のことをそんな風に思ってたのね! 許せないわ殺してやる!」
ネーシャには悪いがサッカーマーに同情だ。
「仕方ない。現に俺たちはあの方に迷惑をかけてきたからな」
ゲザは納得しているようだったが、何だか哀しげだ。シオラは強気に鼻を鳴らす。
「で? 私たちに何をさせるつもりだ?」
「フンムっ……」
「こ、この人……私たちに卑猥なことをさせるつもりよ!!」
◇
リビングに招集するデルタ部隊。こうしてフルメンバーで集結するのを見るのは初めての事ではなかろうか。
向かい合う五人に、告げる。
「今日から俺が、お前たちデルタ部隊を指揮することになった。」
まだ話を聞いていなかったサラとテシリー、シャミーは驚きの表情だが、ミカンはやはり落ち着いていた。
「おいコウタ! それはどういうことだ!」
「落ち着けよテシリー。……お前たちは最高司令官殿に愛想を尽かされたんだ」
「何だと!」
無理もない。俺だってこの世界に永住する身ならこんなやつらの指揮なんて執りたくない。責任感を持てば負け、そう思わせるくらい面倒な奴らなのだ。
「とにかく! デルタ部隊の指揮権は俺に譲渡された! これからは俺の指示に従うように!」
沈黙が場を包む。
ため息。
「……っていう堅苦しいことは無しで、ひとつ皆に頼みたいことがあるんだ」
拍子抜けしたような面々が俺に向く。
「俺はオーディンを倒そうと思ってる。その理由はここにいるミカンがヴァルキュリアだからだ。彼女は力を奪われ、神としての威厳を欠いていることに苦しんでる。どうかみんなの力を貸してほしい」
シオラとゲザは初めて聞く話だからか、唖然としていた。
「ミカンがヴァルキュリア……だと?」
「ああ、少し大きくなってるだろ? 力が戻ってきてるんだ。恐らく力のコアが近くにある……そのコアを握っているのはオーディンで、即ち……」
「オーディン様を倒すと言ったな? コウタ」
今度はゲザが。
「ああ」
「悪いが、その話には乗れん」
「どうしてだ!? あっ……」
不思議じゃない。オーディンは魔王……魔法王として崇められる英雄。崇拝する者がいたって変じゃないし、いやむしろ崇拝するのが普通だ。ネーシャやサラ、テシリーが異端なだけだったんだ。
「そうか……お前はオーディンを崇拝してるんだな?」
ということはヴァルキュリアであるミカンにも敵意が……。
「その通りだ。オーディン様は崇高なるお方。……ヴァルキュリアは堕神にして最悪の神だ」
やっぱりそうなるか……。
「しかし、ミカンはコウタの仲間だ。即ち、俺の仲間でもある」
「それって……」
「俺は仲間を信じている。ミカンを信じるお前を、信じている」
「ゲザ……!」
ゲザ、お前本当にイイ男だぜ!
彼は「だが」と続ける。
「オーディン討伐に力を貸せそうにはない。お前の力になりたいが、半端な気持ちで向かう者など足でまといになるだけだ」
「わかったよ。オーディンは俺たちで何とかするさ」
「理解、助かる」
そこでシオラの「オイ」。
「何で私が協力しなくちゃならねぇんだオラ? オーディンと戦えだァ? バカかお前は」
シオラにはとっておきの文句を用意してある。
「おいおい、お前は知らないのか? 一年前、サラとテシリーが″勝手に″オーディンの城を攻めたことを」
「何だと? そりゃマジか?」
二人の表情が凍りつく。
へへっ。単独行動を嫌う隊長からすれば、いくら二人での行動でも勝手に危険な地に足を踏み入れたとなると、激昴することだろう。
「マジだ。酔った勢いで見知らぬ城に入ってみたら、オーディンがいたんだと。ほんで六回も瀕死に追いやった後、強化されたオーディンを置いて逃げてきたらしい」
「コウタ! それは言わない約束ではないか!」
「約束なんかしてねぇよ? 普段ポロポロ機密を吐いちまうようなお前の口からそんな言葉聞きたくないネ!」
「お前という奴は!」
わざとらしい咳払い。シオラの鋭い視線が、サラとテシリーを刺す。
「てめぇら……」
「「ひぇ」」
「隊長抜きで飲んでんじゃねェェ!」
「「ごめんなさい~!」」
そっちかよ!?
「ったく……これだとコウタの目的を私の隊員が邪魔したみたいで気が済まねぇ、不本意だが協力させてもらう」
「助かるぜ」
何はともあれ計画通りだ。
俺の予想だとオーディンは近い。ミカンもそれは感じ取っているはずだ。唐突なクライマックス展開だが、準備は万端……なのかどうか分からないけど、こちらに役不足はないだろう。いつでもかかってこいよオーディン!
その夜。
「あああああああ!!!!!」
「っ!」
悲鳴に飛び起きると、ミカンの体から稲妻が走っていた。
「どうしたミカン!!」
「がっ……あっ……」
また激しく稲妻が走る。
「アァアアアァア!!」
「ミカン!! しっかりしろ!」
布団の上で寝ていたテシリーも目を覚まし「何事だ」とミカンを見る。
「ミカンがおかしいんだ。急に悲鳴を上げて……」
「ぐっ……あああ!! こ、コウタ……コウタ……」
俺の体にしがみつき、苦しげに唸っている。
「ちょっと何事!?」
騒ぎに目を覚ましたネーシャやサラ、そしてシオラとゲザも。
「分からない。急にミカンが苦しそうに叫び出したんだ!」
俺の中で、もしかしてという思いはあった。
オーディンが、近くにいるのか?
「コウタ……」
「ミカン! どうしたんだ!」
「あそこだ……奴が……私を見ている」
力なく指さす方向……そこには壁しかないのだが、おそらくもっと遠くを指しているのだろう。
「みんな、街の外にいくぞ!」
「ちょっと待って!」
ネーシャが寄ってきて白いビー玉のようなものを取り出す。
「これを使って」
「何だこれ?」
「カミダマよ。普通は危険なクエストに行く時なんかに、ここにカミトモを入れておくんだけど……」
なるほど。ミカンをこの状態のまま連れていく訳にもいかないし、かといって置いていくわけにもいかない。何たってこれからオーディンと戦うことになるかもしれないんだからな!
「ミカン、この中に入ってくれ!」
ミカンがそれに触れると、光となって玉に吸収された。
白かったカミダマは金色に輝いた。
「これでいいわ。……それにしても随分と早いお出ましね!」
「まだオーディンと決まった訳じゃないが、みんな! 気を引き締めていくぞ!」
俺たちはミカンが指さした方向、街の外へと向かった。
「み、ミカン、お前また……」
昨日、ダンジョンでサラの魔法を打ち消したことにより魔力を使い果たし、幼女の姿に戻ったはずのミカンが再び少女化していた。
やっぱり、ミカンの力のコアが近いってことか!?
それ即ち、オーディンがこの街の近くに……。
「おい起きろミカン! お前また大きくなってんぞ!?」
先に目を覚ましたのはテシリー。
「何事だ、朝から騒がしいぞ……」
「テシリー見てくれよ! ミカンがまた大きくなってんだ!」
「何だと?」
テシリーは身を起こし、寝ているミカンを見て疑問の表情を浮かべる。
「本当だな。これは一体……」
「マジでオーディンが近くにいるかもしれない! ……早すぎんだよ! 冒険者歴二ヶ月未満でラスボスとか、難易度設定どうなってんだァ!!」
叫んでいると、さすがのミカンも目を覚ましたようだ。
「うるさい……何をそんなに騒いでいる」
「ミカン! お前また大きくなってるけ……ど……?」
身を起こしたミカンの上半身が露わになる。
あれ? こいつ昨日よりも成長してね?
「む?」
「ミカン? 何か昨日の朝と比べて変わったことはないか?」
「そうだな……軽くこの街を破壊できそうだ」
「勘弁して!!」
あーら、完全体に近づいちゃってますわこの子。
唖然とする俺とテシリーを気に留めず、ミカンはベッドから降りてバンザイする。
「着せれ」
「自分で着ろこの美少女がァ!!」
リビングに行くと、のんきなネーシャが。
「あらミカン。また大きくなったのね。一つ大きめのサイズを買っておいて正解だったわ」
成長期だとしても程がある。ネーシャの半分もなかったミカンが、今では彼女と同じくらいに成長しているのだから。
膝の上に座ってくるミカン。
「コウタ、ごはん」
「いい加減にしろよお前? 頼むから見てくれだけ成長しないでくれ」
しかしこれは大問題だ。昨日は何らかの原因で一時的に力を取り戻したという結論で事の幕は閉じたのだが、またもこうなってはさすがに楽観視できないな。
「ミカンさん、少し見ないうちにすごく美人になられましたね」
「おい、サラまで冗談言ってんじゃねぇよ。ちょっと前に言ったよな?」
「ええと……ヴァルキュリア、でしたっけ?」
「そうだ。オーディンに力を奪われてるから幼体化していただけで、力を取り戻せばその分、本来の姿に近づいていくんだ」
何だろうかこの迫り来る感じは。まるで何かが終わりを急いでいるような。
その時、来客を知らせる鐘が鳴る。
ネーシャが玄関に向かってから数秒。
「コウター! ちょっと来てー!」
何事だ? 俺の客か?
「どうしたんだよネーシャ? ――って……」
いたのはシオラとゲザ、そして一番前に立っているのは軍服のようなものを着たスキンヘッドの老人。細身だがものすごい威圧を放っている。
なるほど、こいつが……。
「私は王都直属部隊群最高司令官のサッカーマーである」
やっぱりか……!
「ど、どうも、サクマコウタです」
この人はデルタを含め王都の軍事力を握る超お偉いさんだ。一体俺に何の用……というのは愚問に当たるだろう。概ね俺を処刑しに来たのか。
「君が私の大切な部下を養ってくれていると聞いてね?」
この皮肉の混じった感じ……絶対怒ってる!
「ああいえ、そんな……大したことはしていませんよ……あはは」
「シオラやゲザから話は聞いている」
チクりやがったなてめぇら!
サッカーマーさんは穏やかな口調でネーシャを呼びかけた。
「元気にしているか?」
「もちろんよ。見ての通り!」
おいおい、元とはいえお前の上官にあたる人間にそんな口の利き方はないだろ!
「それはよかった」
あれ? ひょっとして二人は仲がいいのか?
「サクマコウタよ」
「はっ……ハイ!」
「スカーレットマグナム襲来の件、よくぞ立ち上がってくれた。この国随一の精鋭たる我がデルタ部隊を指揮し、功績を納めたようだな」
シオラはそれを彼に伝えたのか。
「え、ええと……俺は何も出来なかったんですが……」
「その謙遜なる態度……実に崇高。そして、仲間を大切に思う人間だとも聞いている」
あれ、俺にそんな節があったか。
ゲザが納得するように頷いている。
「それはどうも……」
サッカーマーさんは胸に手を当て、敬礼の姿勢をとった。
「え、ちょ、何やって――」
「一人は仲間のために、仲間は明日のために! その思想を髄にまで浸透させた若き果敢な冒険者よ! そなたにデルタの指揮権を譲渡しよう!」
「困りますからァァァ!!! 早まらないでください最高司令官殿ォ! 俺なんて駆け出しの冒険者なんですよ!? ルーキーなんですよ!? 国が誇る精鋭部隊の指揮なんて執れませんからァァァ!」
処刑にならないだけマシだが、デルタの指揮権を握るということは、国の有事に俺が動かなきゃならないってことだろ!? そんなの絶対に嫌だ! 俺は自由にクエスト行って寝て食っていつかオーディンを倒して日本に帰る!
「駆け出しとはまた謙遜を……テシリーやネーシャに匹敵するシーカーだと聞いているが?」
「は、ハハ……」
こいつらマジで不器用だな! テシリーは悪い意味でバカ正直だし、ゲザは俺が少しネーシャにきつく当たっただけで彼女に匹敵すると思ってしまうんだからよ!
いや待てよ? デルタの指揮権を握るということは、こいつらを好きに扱えるということか……はは~ん? 下手な大金を積んでも仲間になってくれないであろう最強の部隊、デルタを無償で、しかも好きにしていいということは、オーディン討伐に役立てられるじゃないか。
オーディンを倒したあとは国のことは俺には関係ない。さっさと転移魔法で日本に返してもらい、悠々と学生生活を再スタートすればいいだけなのだから。
「い、いやぁバレてましたかー! みんな口が軽いんだからなぁ全く。最高司令官殿にそこまで言われたら、断るわけには行かないでしょう! お任せください! デルタの指揮は。俺が執ります!」
「おお……! さすがは英雄と呼ばれる男だ。それでは、デルタのことを頼んだぞ、サクマコウタ」
「お任せを!」
よし、これで戦力は充分。いつオーディンが現れても……。
「ヒャッハーー!! やっとポンコツ部隊から解放されたぜぇぇえ!!」
「ン?」
威厳のあったサッカーマーがいきなり発狂しだした。
「こいつらの面倒なんて見てられねぇんだよ! 実力はあるが? それ以上に面倒事を引っ張りこんでくるプロだ! ひとつ仕事が片付くとひとつ面倒事を引っ張りこんできやがる! やってらんねぇよ!」
オイオイ。まさかこいつ。
「コホン。まぁ、頑張りたまえ」
「おい待て」
「じゃーーーなァァァ!!!!」
逃げた。
なるほど、サッカーマーもこいつらがポンコツなことに気づいていたようだ。それそれは俺なんかよりも苦労されたことだろう。
さて、引き受けてしまったデルタ部隊の指揮権だが、せっかくだし遠慮なく行使させてもらうとしよう。
「と、いうわけで、これからは俺がデルタの指揮を執ることになった」
「あのハゲオヤジ! 私達のことをそんな風に思ってたのね! 許せないわ殺してやる!」
ネーシャには悪いがサッカーマーに同情だ。
「仕方ない。現に俺たちはあの方に迷惑をかけてきたからな」
ゲザは納得しているようだったが、何だか哀しげだ。シオラは強気に鼻を鳴らす。
「で? 私たちに何をさせるつもりだ?」
「フンムっ……」
「こ、この人……私たちに卑猥なことをさせるつもりよ!!」
◇
リビングに招集するデルタ部隊。こうしてフルメンバーで集結するのを見るのは初めての事ではなかろうか。
向かい合う五人に、告げる。
「今日から俺が、お前たちデルタ部隊を指揮することになった。」
まだ話を聞いていなかったサラとテシリー、シャミーは驚きの表情だが、ミカンはやはり落ち着いていた。
「おいコウタ! それはどういうことだ!」
「落ち着けよテシリー。……お前たちは最高司令官殿に愛想を尽かされたんだ」
「何だと!」
無理もない。俺だってこの世界に永住する身ならこんなやつらの指揮なんて執りたくない。責任感を持てば負け、そう思わせるくらい面倒な奴らなのだ。
「とにかく! デルタ部隊の指揮権は俺に譲渡された! これからは俺の指示に従うように!」
沈黙が場を包む。
ため息。
「……っていう堅苦しいことは無しで、ひとつ皆に頼みたいことがあるんだ」
拍子抜けしたような面々が俺に向く。
「俺はオーディンを倒そうと思ってる。その理由はここにいるミカンがヴァルキュリアだからだ。彼女は力を奪われ、神としての威厳を欠いていることに苦しんでる。どうかみんなの力を貸してほしい」
シオラとゲザは初めて聞く話だからか、唖然としていた。
「ミカンがヴァルキュリア……だと?」
「ああ、少し大きくなってるだろ? 力が戻ってきてるんだ。恐らく力のコアが近くにある……そのコアを握っているのはオーディンで、即ち……」
「オーディン様を倒すと言ったな? コウタ」
今度はゲザが。
「ああ」
「悪いが、その話には乗れん」
「どうしてだ!? あっ……」
不思議じゃない。オーディンは魔王……魔法王として崇められる英雄。崇拝する者がいたって変じゃないし、いやむしろ崇拝するのが普通だ。ネーシャやサラ、テシリーが異端なだけだったんだ。
「そうか……お前はオーディンを崇拝してるんだな?」
ということはヴァルキュリアであるミカンにも敵意が……。
「その通りだ。オーディン様は崇高なるお方。……ヴァルキュリアは堕神にして最悪の神だ」
やっぱりそうなるか……。
「しかし、ミカンはコウタの仲間だ。即ち、俺の仲間でもある」
「それって……」
「俺は仲間を信じている。ミカンを信じるお前を、信じている」
「ゲザ……!」
ゲザ、お前本当にイイ男だぜ!
彼は「だが」と続ける。
「オーディン討伐に力を貸せそうにはない。お前の力になりたいが、半端な気持ちで向かう者など足でまといになるだけだ」
「わかったよ。オーディンは俺たちで何とかするさ」
「理解、助かる」
そこでシオラの「オイ」。
「何で私が協力しなくちゃならねぇんだオラ? オーディンと戦えだァ? バカかお前は」
シオラにはとっておきの文句を用意してある。
「おいおい、お前は知らないのか? 一年前、サラとテシリーが″勝手に″オーディンの城を攻めたことを」
「何だと? そりゃマジか?」
二人の表情が凍りつく。
へへっ。単独行動を嫌う隊長からすれば、いくら二人での行動でも勝手に危険な地に足を踏み入れたとなると、激昴することだろう。
「マジだ。酔った勢いで見知らぬ城に入ってみたら、オーディンがいたんだと。ほんで六回も瀕死に追いやった後、強化されたオーディンを置いて逃げてきたらしい」
「コウタ! それは言わない約束ではないか!」
「約束なんかしてねぇよ? 普段ポロポロ機密を吐いちまうようなお前の口からそんな言葉聞きたくないネ!」
「お前という奴は!」
わざとらしい咳払い。シオラの鋭い視線が、サラとテシリーを刺す。
「てめぇら……」
「「ひぇ」」
「隊長抜きで飲んでんじゃねェェ!」
「「ごめんなさい~!」」
そっちかよ!?
「ったく……これだとコウタの目的を私の隊員が邪魔したみたいで気が済まねぇ、不本意だが協力させてもらう」
「助かるぜ」
何はともあれ計画通りだ。
俺の予想だとオーディンは近い。ミカンもそれは感じ取っているはずだ。唐突なクライマックス展開だが、準備は万端……なのかどうか分からないけど、こちらに役不足はないだろう。いつでもかかってこいよオーディン!
その夜。
「あああああああ!!!!!」
「っ!」
悲鳴に飛び起きると、ミカンの体から稲妻が走っていた。
「どうしたミカン!!」
「がっ……あっ……」
また激しく稲妻が走る。
「アァアアアァア!!」
「ミカン!! しっかりしろ!」
布団の上で寝ていたテシリーも目を覚まし「何事だ」とミカンを見る。
「ミカンがおかしいんだ。急に悲鳴を上げて……」
「ぐっ……あああ!! こ、コウタ……コウタ……」
俺の体にしがみつき、苦しげに唸っている。
「ちょっと何事!?」
騒ぎに目を覚ましたネーシャやサラ、そしてシオラとゲザも。
「分からない。急にミカンが苦しそうに叫び出したんだ!」
俺の中で、もしかしてという思いはあった。
オーディンが、近くにいるのか?
「コウタ……」
「ミカン! どうしたんだ!」
「あそこだ……奴が……私を見ている」
力なく指さす方向……そこには壁しかないのだが、おそらくもっと遠くを指しているのだろう。
「みんな、街の外にいくぞ!」
「ちょっと待って!」
ネーシャが寄ってきて白いビー玉のようなものを取り出す。
「これを使って」
「何だこれ?」
「カミダマよ。普通は危険なクエストに行く時なんかに、ここにカミトモを入れておくんだけど……」
なるほど。ミカンをこの状態のまま連れていく訳にもいかないし、かといって置いていくわけにもいかない。何たってこれからオーディンと戦うことになるかもしれないんだからな!
「ミカン、この中に入ってくれ!」
ミカンがそれに触れると、光となって玉に吸収された。
白かったカミダマは金色に輝いた。
「これでいいわ。……それにしても随分と早いお出ましね!」
「まだオーディンと決まった訳じゃないが、みんな! 気を引き締めていくぞ!」
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しかし、【@&¥#%】というスキルでは強いモンスターを討伐することができず、3年間冒険者をしてもスライムしか倒せなかった。
そんなある日、俺がスライムを10,000体討伐した瞬間、スキル【@&¥#%】がチートスキルへと変化して……。
これは、ある日突然、最強の冒険者となった主人公が、今まで『スライムしか倒せないゴミ』とバカにしてきた奴らに“ざまぁ”し、美少女たちと幸せな日々を過ごす物語。
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※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
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