ヴァルキリーレイズ

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第一笑(オーディン編)

18 : 学校

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 感謝状を受けてから数日経っても尚、スカーレットマグナムを倒した俺たちは街の英雄として輝かしく名を馳せていた。
 外に出れば商人達から店の商品の宣伝を頼まれるし、握手を求める者もいた。
 そんな状況で一番喜んでいるのはネーシャだった。

「ねぇねぇコウタ! 私たち有名人よ! そりゃぁそうよね! 街を救ったんだもの!」
「そうだな」
「でも不思議ねぇ……シーカー職は一向に増えないわ」

 スカーレットマグナムを倒したパーティにシーカーがいたというだけで、その魅力が変わる訳でもない。名誉とデメリットを差し引いてもマイナスになるほどシーカーという職は人気がないのだ。

「ちょっと、聞いてるの? ていうか、何でサラの部屋を掃除してるのよ?」

 そう、俺は今サラの部屋を掃除している。何故かというと、最近彼女が家に帰ってきていないからだ。
 だがサラは几帳面で普段、部屋は整っている。しかし掃除しようと思ったのはやはり部屋が散らかっていたから。何故なのか。
 ふと手に掴んだスカートを、ベッドで寝ている人間に投げつける。

「いつまで居候する気だこのアマァァ!」

 ソレは薄らと目を開けるとこちらを見てくる。

「うるさいぞコウタ……朝から騒々しい」

 こいつ……!

「眠っている女性にスカートを投げつけるなど、外道な男だ」
「やかましいわ! 大体、何でお前がサラの部屋で寝てるんだよ!? とっとと帰れよ! 王都に!」

 サラの部屋は現在、テシリーによって占領されていた。彼女がサラを追い出したわけではなく、サラが帰ってこなくなったから彼女がこの部屋に居座っているのだ。

「おいおい。王都までは結構距離があるんだぞ。そこまでいうのなら、馬車のひとつでも用意したらどうだ」
「ああ用意してやんよ! その気になればドラゴンだってな!」
「あはは。コウタは面白いな」
「てめぇ……」

 テシリーは身を起こして伸びをする。

「おい、ネーシャからも何か言って――」

 いない。
 部屋のドアが開く。

「コウター。こんなものがポストに入ってたんだけど」

 現れたのはネーシャ。その手には一枚の紙が握られていた。
 おいおい、また商人からの案件か?

「一日講師としての参加願い……?」

 学校からの手紙のようだ。文章によると、俺たちに生徒たちへの特別授業をしてもらいたいらしい。
 授業っていったって、俺なんかは駆け出しの冒険者だしなぁ。でもネーシャは実の所、師範級のシーカーだし、真面目に話せば子供たちのためにもなるだろう。

「俺が活躍できそうな話じゃないけど、ネーシャなら説得力のある話が出来るんじゃないか?」
「でも私、人にものを教えるのは得意じゃないのよねー」
「そうでもないだろ? お前が教えてくれるスキルは初回でも使いやすいし、それは教えるのが上手いだからだろう?」

 ネーシャは鼻を膨らませる。

「全く、しょうがないわねぇ」

 よし、なら俺は家でゴロゴロするとしよう。

「行くわよ、コウタ!」
「よいしょ……いででで!!? 引っ張るな怪力女!! 何で俺まで連れて行こうとしてんだよ!?」
「何言ってんのよ。これは私たちへの招待状よ? もちろんテシリーも行くわよね?」
「もちろんだ!」
「もちろんジャネェエ!!」

 こうして強制的に、サイラの学校へ連れて行かれたのだが。

「みんなー? ごあいさつをしましょう! せーのっ!」
「「おはよーございます!!」」

 教員の掛け声に合わせてゆっくりとした挨拶が贈られる。
 ネーシャの表情は歓喜に染まる。

「何て可愛らしいのかしらこの子たち!」

 俺はネーシャ、テシリーと共に小学校へやって来ていた。子供好きなネーシャはちびっ子達に興奮しているが、まさか招待されたのが小学校だったとは……。

「今日はものすごい人たちをお呼びました! みんなわかるかなー?」
「テシリー!!」
「ネーシャ!!」

 おお、以外にこんなちびっ子たちでも知ってるんだな。
 何か、照れちゃうな。

「ロリコンシーカー!!」
「殴るぞクソガキ」
「ダメよコウタ……! 相手は子供よ? 控えなさいよ」

 全く、不名誉な名前だ。どうせ有名になるんだったら、疾風のシーカーとか呼ばれたかったぜ。

「それじゃあみんなに聞いてみようかなー? 将来冒険者になりたい人~?」
「「はーい!!」」

 一斉に手は挙げられた。
 ……やめておけ。

「今日はそんなみんなへ、この方達から冒険者について色々教えていただこうと思います!」

 俺から教えられることなんてないから、ここはネーシャとテシリーに任せるとしよう。
 興味津々な子供たちの視線にまず口を開いたのはネーシャ。

「そうねぇ? 私は元々、デルタ出身――」
「ンンン!!!」

 速攻で彼女の口を塞ぐ。

「やはり何事にも屈さぬ精神力を鍛えなくてはならない! 私はデルタのメンバーなのだが――」
「ンンン!!!」

 テシリーお前まで何を言い散らかそうとしているんだ。お前たちにとって機密っていうのはそんなに安いものなのか?

「ええと、どうされましたか?」
「いえいえ、何でもないんですー」

 このポンコツ共が!
 こいつらに話をさせてはダメだ。ありきたりなことしか言えないが、ここは俺が場を繋ぐしかないか。

「冒険者は危ないこともたくさんあるけど、街のために頑張れると思うと、とてもやりがいの感じる仕事です」

 キラキラとした目が向けられる。
 どうやら子供たちを幻滅させずに済んだようだ。

「戦いみたい!」
「ん?」
「戦ってー!」

 何を言ってるんだこの子達は? 敵なんていないし戦えるわけが――。

「任せておけ!」
「任せておけん」
「今から私とコウタで実戦をしてみせよう!」

 こいつ! この状況をいいことに俺にリベンジマッチを持ち掛けるつもりだな!?

「ではみなさんは校庭に集まって下さい!」

 俺たちは小学生と共に校庭へ行く。
 俺を前に、ジャリっと地を踏むテシリー。

「とうとうやってきたな、この時が……コウタ、お前を倒す時がな!」
「……」

 ベテランのアーチャーにライバル視される駆け出し冒険者の身にもなれよ。

「今日こそはサラを返してもらう!」

 だから返すって言ってるのに……負けず嫌いなテシリーは無条件でそれを飲んでくれない。負けたままでは気が済まないのだ。
 いっそ負けてしまうか?

「お兄ちゃん頑張ってー!」
「っ……!?」

 小さな女の子が俺を応援してくれている。それに倣って他の子も俺のことを……。
 ずるいぜ全く。カッコ悪い所なんて見せられねぇだろうがよ。
 ネーシャからプレゼントされた小太刀型のダガーを構える。

「容赦はしないってことでいいんだよな?」
「もちろんだ。全力でこないと……死ぬぞ?」

 殺すつもりで来るなよ!?

「それじゃ、始めるわよー」

 開始の合図を担当するのはネーシャ……一本のダガーを天高く投げ放った。沈黙の数秒後、地に刺さる。

「行くぞ! コウタ!」
「かかってこい!」

 戦闘の火蓋は切って落とされた。
 
「シャイニングアロー!!」

 早速スキルか!

「うわっと!!」

 転びそうになりながらも何とか避けるが、本気で当てに来てんじゃねぇか。今の食らってたら確実に死んでたぞ!
 子供たちの歓声が聞こえる。
 盛り上がるのも当然だ。こんな技、この街じゃ使える人はそういないだろう。
 続けざまに、テシリーは連続して矢を放ってくる。

「うぉ!? ちょ! おま!」
「すばしっこいヤツめ!」
「こんなの当たったらマジで死んでしまうだろうが!? 加減ってもんを知らないのか!?」
「容赦は無用だったはずだ」

 そうでした。
 調子に乗ってそう言ったの俺でした。

「だったら……」

 姿勢を低く構える。そう、ネーシャから教えて貰った記念すべき第一の攻撃スキル……。

「ふっ。ソードラッシュか」

 バレてる!!
 さすがは五年間もネーシャと張り合ってただけはある。
 だが……。

「ソードラッシュ!」
「見切れた技を!」

 瞬時に間を詰める。そしてダガーの間合い。

「甘い! 矢で直接叩いてくれる!」

 いや、甘い。テシリー、お前がな。
 既にポケットに忍ばせていた手を引き抜く。

「なっ……」

 彼女の眼前に散ったのはピンク色の液体。俺の手には小瓶。
 その液体は少量ではあるがテシリーの顔面にかかった。
 瞬時に距離を取ってダガーを拾い上げ構える。

「何だこれは? ぺっ! 妙な匂いだ……」

 これはただの液体ではない。だが期待通りの効果を発揮してくれる保障もないが。
 テシリーは再び構えをとる。

「さすがはコウタだ。姑息な真似をする。だがこの程度、私には通用しな――アヒン!?」

 ニヤァ……。

「な……何だ……体が熱く……あひゃん!?」

 身体をビクンビクン揺らして頬を染めるテシリーに、思わず笑みがこぼれてしまう。

「あ……ひゃ……コウタ、何をした……?」

 立っているのもやっとのようだ。足が震えている。

「どうしたテシリー? 身体がいうことをきかないようだが?」
「何をした!?」

 小瓶を見せつける。

「これは商店街で貰った″アヒンアヒンするやつ″だ」
「何だと?」

 ネーシャの誕生日祝いをした日、サラがサービスという言葉に踊らされて貰ってしまった品だ。今朝、サラの部屋を掃除していた時に没収しておいて正解だった。見てくれはオシャレだから飾りとして気に入っていたみたいだが、事が起きた後では遅いからな。心を鬼にして没収したまでだ。

「今、お前の体は超敏感になっている。少し地面が揺れたりでもしたらお前は……」
「な、何をするつもりだ!」

 超敏感になっているその体では少し動いただけでもアヒンアヒンしてしまうだろう。
 ……地面が揺れるだって? そぉんなに甘くねぇよ俺はよ?

「ホール」
「ふぎゃぁぁぁあ!」

 穴に落ちたテシリーはイカれたように悲鳴をあげる。

「あ……ひゃ……ひゃはぁぁ……」

 穴にハマって呼吸を荒らげているテシリーはまさに変質者。
 俺だったら人間やめるね。

「最低……」
「うるさいぞレフリー! 黙って見てろ」

 今まで以上の「最低……」をネーシャからいただいた。

「どうするテシリー。負けを認めるなら今のうちだぜぇ?」
「認める……ものか」
「ほぅ?」

 つん。

「ひゃひぃ!」

 つんつん。

「にゃぁぁあ!」
「ハーーハッハッハッ!!!」

 少し小突くだけでこの有様だ。王都直属の最強部隊が聞いて呆れるぜ。

「オイオイ……そんなんでアヒってんのか? じゃあ顎の辺りを撫でてやればどうなるかなァハハハハァー!!」
「やめてくれぇえー!!」
「なら負けを認めろ! そうすれば今日のところは勘弁しておいてやる!」
「認めない……!」
「だってよネーシャ!? お前なに変態を見るような目で俺を見てんだ?」

 ネーシャはため息の後、指笛を鳴らした。試合終了の合図だ。

「……やれやれ、また俺は勝ってしまったのか」
「お前……よくも私にこんなものを……」
「手、貸すか?」
「いらん!」

 強がりつつも、アヒンアヒンで穴から抜け出せそうにない。

「ちょっと変態シーカーさん?」
「誰が変態シーカーだ」
「あんた以外にいないでしょ? ……子供たちがいること、忘れてない?」

 子供たちは、ドン引きしていた。いや、唖然?
 先生は恐らく、子供たちに見せてはいけないものを見せてしまったと思っているだろう。
 子供たちに向く。

「このように、戦いというのは残酷で汚く、決して綺麗なものばかりではないということを教えたかったのです」

 まぁ、物の見事に学校から追い出されましたよ、と。
 翌日、俺が小学校の子供たちに卑猥なものを見せつけたと、その名を馳せるのだった。
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