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第一笑(オーディン編)
15 : 緊急事態発生
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クエストを受けるためギルドに到着すると、その場には緊張感が漂っていた。
飲んだくれの冒険者達がバカ騒ぎをしているのがギルド内の日常なのだが、みんな揃ってクエストボードの前で戦慄の表情を浮かべていた。
「様子が変だな、何かあったのか?」
人混みに近づいてみるなり、一人の若い冒険者が振り向く。
「お、ロリコンシーカーじゃねぇか」
「次言ったら殴るぞ?」
「見てくれよあのクエスト。とんでもないものが貼り出されたんだ」
とんでもないクエスト? この駆け出し冒険者の街にそれほど高難度な依頼が寄せられることは滅多にないはずだが。
「コウタ、あんた前に行って見てきなさいよ」
「はぁ~、分かったよ。どのみちそうしないとクエストが受けられないしな」
ネーシャに指示されて、人混みを掻き分けながら前に進む。クエストボードを目の前にすると、一際大きな貼り紙を発見する。
「これは……」
その内容は……。
【空の支配者・スカーレットマグナムを撃退せよ】
達成条件 : スカーレットマグナムの撃退。
危険度 : ★★★★★★★★★★
報酬 : 街の損壊率に応ずる。
依頼人 : 王都直属部隊群最高司令官
最高司令官 : 緊急事態発生。サイラにスカーレットマグナムの接近を確認した。このまま進路を辿れば今日中にはサイラを火の海に変えてしまうことだろう。若き希望の星が集うサイラを、この国の未来を守るために、今こそ立ち上がるのだ、冒険者諸君。
今日中に火の海だって!? そんなこと急に言われても対処できねぇよ! できる力もねぇよ!
こんなことなら朝からギルドに来ておくべきだった。
「……」
依頼人だが……王都の最高司令官ってことは、つまりこの国の武力を統括する権力を持っている人なのだろう。となればこのクエストはサイラだけではなくこの国全域に依頼されているはずだ。
にしてもこんなクエストを受けるやつなんているのか? 現に周りにいる冒険者はお互い顔を合わせて中々このクエストを手に取る者はいない。そりゃ、わざわざ死にに行くような真似はしないだろうさ。
かといって文句のひとつでも言おうものなら、最高司令官殿に何をされるかわかったもんじゃない。
例え王都の冒険者であっても、こんなクエストを受ける奴なんてまずいないだろう。
こんなクエストを受けようとするやつなんて、国を守る仕事をしているか、最強の特殊部隊にでも所属している人間だろう。
汗を充満させた顔でクエストボードに張り付く。
【追記】
最高司令官 : 王都が誇る世界指折りの実力を持つ師範級集団、デルタ部隊のほとんどが不在なる今、冒険者の力に頼る他ない。
不在の理由については、出席している隊員に尋問を行っている。我が直轄のデルタ部隊が揃い次第、すぐにサイラへ向かわせると約束しよう。
嘘だろ。師範級集団、デルタ部隊って……こいつらのこと、じゃないよな? まさかな。
「そのまさかだろゥウガァァア!!!」
頭を抱えて叫ぶ俺に、周囲の冒険者が心配そうに見てくる。
「落ち着け新人。大丈夫さ、きっとデルタ部隊は来てくれる! あの人たちがいれば百人力……いや万人力さ!」
「あ、はい」
また他の冒険者。
「そうだぞ新人! デルタ部隊ってのはすげぇんだぞ? 世界の特殊部隊の中でも五本の指には入る超師範級集団なんだからよ!」
「あ……はい」
また他の。
「にしても、こんな時にデルタ部隊のほとんどが不在だなんて、タイミングが悪いものだ。この緊急事態を差し置いて何をやっているんだ?」
何か、ウチにいます。
「最高司令官でも把握してねぇんだろ? ったく、どこのエラいバカがデルタを独り占めしてやがんだ!」
「おい! 言動を慎め、王都の人間に聞かれていたらどうする!」
王都の人間、います。でも大丈夫です、揃ってバカなんで。
俺は俯いていた顔をあげ、クエストボードに手を伸ばす。
唖然とした雰囲気が、右手に収束するのを感じる。
一際大きなクエストカードを剥がし、握りしめた。
「おいお前……正気か?」
「……」
ざわつき始めるギルド。そして無言で踵を返すと、自然と人々は道を開けてくれた。勇敢な戦士を見る目だったり、不気味なものを見る目だったり様々であったが、俺は歩いた。
開けられた道の先に待ち構えていたのは――他でもない、世界指折りの師範級集団、デルタその部隊だ。
「どうしたのよコウタ。顔色悪いわよ?」
「何かあったんですか?」
「む? コウタ、そのクエストカードは?」
ネーシャ、サラ、テシリーを睨みつける。
不穏な空気を察してか、シオラが寄ってきて俺の手からクエストカードをぶんどる。
「そういうことか……このポンコツ集団が」
シオラもそれは分かっているらしい。
「私たちが行く」
シオラがそのクエストカードを、扉の前に立っている嬢長に渡す。嬢長は困り顔で受け取るのを渋っていたが、気がついたように目を見開くと。
「かしこまりました。……では、お気をつけて」
その瞬間、周囲から声が張る。
「この街を守ってくれ! 勇敢な冒険者達よー!」
「カッコイイぜお前ら!」
俺にもし、デルタのメンバーと関わりがなければ間違いなくこんなクエストは受けていなかった。だがどうにも神は俺をその戦場に立たせたいらしい。
重くしなる足を、踏み出した。
「カマしてこいよ! ロリコンシーカー!」
「信じてるぜ! ロリコンシーカー!」
「生きて帰って来るんだぞ! ロリコンシーカー!」
帰ってきたらアイツらに飯を奢らせるとしよう。
シオラが扉を開けると、ギルド内に日光が差し込む。
「一人は仲間のために、仲間は明日のために――総員、出撃!」
シオラの号令で、俺たちはギルドを発った。
飲んだくれの冒険者達がバカ騒ぎをしているのがギルド内の日常なのだが、みんな揃ってクエストボードの前で戦慄の表情を浮かべていた。
「様子が変だな、何かあったのか?」
人混みに近づいてみるなり、一人の若い冒険者が振り向く。
「お、ロリコンシーカーじゃねぇか」
「次言ったら殴るぞ?」
「見てくれよあのクエスト。とんでもないものが貼り出されたんだ」
とんでもないクエスト? この駆け出し冒険者の街にそれほど高難度な依頼が寄せられることは滅多にないはずだが。
「コウタ、あんた前に行って見てきなさいよ」
「はぁ~、分かったよ。どのみちそうしないとクエストが受けられないしな」
ネーシャに指示されて、人混みを掻き分けながら前に進む。クエストボードを目の前にすると、一際大きな貼り紙を発見する。
「これは……」
その内容は……。
【空の支配者・スカーレットマグナムを撃退せよ】
達成条件 : スカーレットマグナムの撃退。
危険度 : ★★★★★★★★★★
報酬 : 街の損壊率に応ずる。
依頼人 : 王都直属部隊群最高司令官
最高司令官 : 緊急事態発生。サイラにスカーレットマグナムの接近を確認した。このまま進路を辿れば今日中にはサイラを火の海に変えてしまうことだろう。若き希望の星が集うサイラを、この国の未来を守るために、今こそ立ち上がるのだ、冒険者諸君。
今日中に火の海だって!? そんなこと急に言われても対処できねぇよ! できる力もねぇよ!
こんなことなら朝からギルドに来ておくべきだった。
「……」
依頼人だが……王都の最高司令官ってことは、つまりこの国の武力を統括する権力を持っている人なのだろう。となればこのクエストはサイラだけではなくこの国全域に依頼されているはずだ。
にしてもこんなクエストを受けるやつなんているのか? 現に周りにいる冒険者はお互い顔を合わせて中々このクエストを手に取る者はいない。そりゃ、わざわざ死にに行くような真似はしないだろうさ。
かといって文句のひとつでも言おうものなら、最高司令官殿に何をされるかわかったもんじゃない。
例え王都の冒険者であっても、こんなクエストを受ける奴なんてまずいないだろう。
こんなクエストを受けようとするやつなんて、国を守る仕事をしているか、最強の特殊部隊にでも所属している人間だろう。
汗を充満させた顔でクエストボードに張り付く。
【追記】
最高司令官 : 王都が誇る世界指折りの実力を持つ師範級集団、デルタ部隊のほとんどが不在なる今、冒険者の力に頼る他ない。
不在の理由については、出席している隊員に尋問を行っている。我が直轄のデルタ部隊が揃い次第、すぐにサイラへ向かわせると約束しよう。
嘘だろ。師範級集団、デルタ部隊って……こいつらのこと、じゃないよな? まさかな。
「そのまさかだろゥウガァァア!!!」
頭を抱えて叫ぶ俺に、周囲の冒険者が心配そうに見てくる。
「落ち着け新人。大丈夫さ、きっとデルタ部隊は来てくれる! あの人たちがいれば百人力……いや万人力さ!」
「あ、はい」
また他の冒険者。
「そうだぞ新人! デルタ部隊ってのはすげぇんだぞ? 世界の特殊部隊の中でも五本の指には入る超師範級集団なんだからよ!」
「あ……はい」
また他の。
「にしても、こんな時にデルタ部隊のほとんどが不在だなんて、タイミングが悪いものだ。この緊急事態を差し置いて何をやっているんだ?」
何か、ウチにいます。
「最高司令官でも把握してねぇんだろ? ったく、どこのエラいバカがデルタを独り占めしてやがんだ!」
「おい! 言動を慎め、王都の人間に聞かれていたらどうする!」
王都の人間、います。でも大丈夫です、揃ってバカなんで。
俺は俯いていた顔をあげ、クエストボードに手を伸ばす。
唖然とした雰囲気が、右手に収束するのを感じる。
一際大きなクエストカードを剥がし、握りしめた。
「おいお前……正気か?」
「……」
ざわつき始めるギルド。そして無言で踵を返すと、自然と人々は道を開けてくれた。勇敢な戦士を見る目だったり、不気味なものを見る目だったり様々であったが、俺は歩いた。
開けられた道の先に待ち構えていたのは――他でもない、世界指折りの師範級集団、デルタその部隊だ。
「どうしたのよコウタ。顔色悪いわよ?」
「何かあったんですか?」
「む? コウタ、そのクエストカードは?」
ネーシャ、サラ、テシリーを睨みつける。
不穏な空気を察してか、シオラが寄ってきて俺の手からクエストカードをぶんどる。
「そういうことか……このポンコツ集団が」
シオラもそれは分かっているらしい。
「私たちが行く」
シオラがそのクエストカードを、扉の前に立っている嬢長に渡す。嬢長は困り顔で受け取るのを渋っていたが、気がついたように目を見開くと。
「かしこまりました。……では、お気をつけて」
その瞬間、周囲から声が張る。
「この街を守ってくれ! 勇敢な冒険者達よー!」
「カッコイイぜお前ら!」
俺にもし、デルタのメンバーと関わりがなければ間違いなくこんなクエストは受けていなかった。だがどうにも神は俺をその戦場に立たせたいらしい。
重くしなる足を、踏み出した。
「カマしてこいよ! ロリコンシーカー!」
「信じてるぜ! ロリコンシーカー!」
「生きて帰って来るんだぞ! ロリコンシーカー!」
帰ってきたらアイツらに飯を奢らせるとしよう。
シオラが扉を開けると、ギルド内に日光が差し込む。
「一人は仲間のために、仲間は明日のために――総員、出撃!」
シオラの号令で、俺たちはギルドを発った。
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