ヴァルキリーレイズ

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第一笑(オーディン編)

5 : スキル習得

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 スライム討伐を終えた俺たちはネーシャの家に戻って晩飯を嗜んでいた。

「そういえばミカンはいつから日本に来ていたんだ?」

 語り継がれてきたであろう伝説の中で登場した彼女は、恐らく何年も前から日本にいた可能性がある。その質問にミカンは頬張った顔で答えた。

「もぐもぐ……お前と会ったその日だ」
「その日って……そんなはずないだろ。それだとお前がこの世界の人類を滅ぼしたのがその日ということになって、この世界の人類は今日、もしくは昨日に復活したことになる。ミカンの話は伝説として語り継がれているんだからもっと昔の事だろ?」

 ミカンはふむと鼻を鳴らすと一言。

「その通りだぞ。この世界は、今日という日に再建された」
「おいおい。無茶なこと言うなよ」
「事実だ」

 聞いていたネーシャやシャミーもキョトンとしている。知らないのは俺だけかと思ったが、彼女達もそれは初耳らしい。
 ミカンは続けた。

「お前が知っている昨日は、もしかしたら前世の記憶かもしれんのだ。それがお前の思う『昨日』だという保証はない。
ネーシャやシャミー、その他この世界に生きる人間は今日復活したのだ」
「そ、そうなのか」

 ネーシャとシャミーは微動だにしなくなった。恐らく死ぬとは何か的な、底なしのことを考えてしまい軽くパニックなのだろう。

「よ、世の中には分からないことがたくさんあるよな!」
「そ、そうね……にしてもこのブラックベアの肉美味しいわねぇ!」
「コウタが採ってきたフキデソウも甘くて美味しいのにゃ!」

 この話をこれ以上続けようとは誰も思わなかった。



 太陽は沈み、空は暗くなっているものの、ネーシャ宅の庭で俺は習得したスキルを実践する。

「サイレントステップ!」

 一歩、大袈裟めに踏み出してみるが音はしない。

「す、すごいなこれ」
「魔力が尽きるまでなら効果を持続させることが出来るわ」
「魔力?」

 俺に魔力なんてものがあったのか? 今も尚、効果が発揮されているということは多少なりとも俺にも魔力が備わっているということか。

「今のコウタだと、十分くらいが限度ね」
「そんなに使えるのか」
「サイレントステップは魔力の消費が少ないから、駆け出し冒険者でも割と長く使えるのよ」

 確かに、発動し続けていると精神力というか、気力のようなものがすり減っていく感覚がある。これが倦怠感というやつだろうか。
 ふと、シャミーに視線を向ける。
 
「にゃっにゃにゃ~ん」

 庭の花に水をやる、ご機嫌そうな獣人シャミー。白い尻尾を上に向け、くねくねと動かしている。

「行くぜ……!」

 無音の足を踏み出し、力強く地を蹴った。

「シャ ……ゴハァァア!!」

 瞬間に飛んできた拳に、俺の体は何回転かして地面を転がった。

「いてて……ミカン、お前な」
「ロリコンが」

 殺意に満ちたミカンの後ろで、シャミーは光る目を丸くしてこちらを見ていた。

「にゃ?」

 手を差し出してくれたのはネーシャ。呆れたような目で俺を見るな。

「コウタも好きねぇ」
「勘違いするな、俺は猫が好きなだけだ」

 それにシャミーは幼女なんかじゃない。背は低いけどミカン程ではなく、出るとこは出てるし、幼女というよりは少女。ギリギリ幼女ではない。
 ネーシャの手を借りて立ち上がると、彼女は「まぁ」と続ける。

「私もミカンみたいな小さな女の子が大好きなんだけどね!」

 ミカンはそれを聞いて顔を蒼白とさせた。そんなことよりも。

「私もって何だ。それだと俺が幼女好きみたいじゃないか」
「誰が幼女だー! 私の本当の姿は美しいんだぞ! コウタなんて……コウタなんて一目惚れさせてしまうんだからな!」

 想像がつかない。お菓子好きだし、口調も稚拙だし、仕草もそれとなってはこのまま大きくなられてもだらしない。

「それはお前が力を取り戻した時のお楽しみにさせてもらうよ」

 どうやらミカンの本来の姿は別にあるらしい。幼体化してしまうほど力を奪われても男一人殴り飛ばす腕力だ。力を取り戻したミカンは一体どれ程のものなのか、計り知れない。
 袖を軽く引っ張られる。

「コウタコウタ」
「どうしたシャミー? ……ウォっ!?」

 シャミーの光る両目が俺をじっと見つめていた。
 彼女は人の形をしていても本質は猫なのだから夜や暗い所では目が光ることは当然。少し驚いてしまったが、その猫らしさで更にシャミーに好感を抱けた気がする。

「コウタは私のこと、嫌いじゃないのかにゃ?」
「なっ……」

 シャミーはアラレもないことを言い出した。余りの衝撃に、思わず彼女の肩を掴んだ。

「俺がお前のこと、嫌いに見えるのか!?」
「そういうわけじゃ……」
「俺の猫愛が足りないせいか! そうかそうだったんだな!? ならもっとギュッギュッしてパフパフしてペロペロしてやるからなァァァァ!!!」
「え……あ……ちょ! にゃははは! くすぐったいのにゃ! コウタくすぐったいのにゃ!」

 文字通り、ギュッとしてパフしてペロしてやった。

「獣人は人間からあまりよく思われていないの。そのせいでシャミーは最初、コウタやミカンに気づかれないよう、スニーキングスキルを使ってたのよ」
「なるほど」

 差別的な目で見られるのが嫌だったからか。
 ミカンは鼻を鳴らす。

「ふん。寛大な神であるこの私がそのような目でシャミーを見るわけがないだろう」
「安心しろよ。俺がシャミーの事を嫌うはずが無い。むしろ大好きだ」
「だ、だいすき……」

 そもそも、嫌いな相手に抱きついたりペロペロしたりするばずがない。
 俯くシャミーの頭を撫でてやる。

「ふにゃぁ……」

 なんて可愛い生き物だ。ミカンにも猫耳生えないかな。

「おいロリコン。今私の頭を見て何を思った?」
「ロリコンじゃない。お前もシャミーを見習え」
「耳か!! 耳なのか!?」

 まぁミカンに関しては、猫耳が生えた所でという懸念はあるが。
 目眩。

「おっと……足に力が入らない……」
「サイレントステップを発動したままだからよ。魔力が消耗してるの」

 片膝着いた俺にネーシャが教えてくれた。
 サイレントステップを解除すると、その目眩は消えて体が軽くなる。

「自分の魔力と相談しながらスキルを使うこと。無理はしないでね」
「分かった。それで、次はどんなスキルを教えてくれるんだ?」

 ネーシャは顎に手を当てて考える。

「今日は初めての討伐クエストだったんだし、疲れてるだろうからもう寝ましょう。次のスキルはまた明日ね」
「それもそうだな。また明日頼む」
「うん。あなた達の部屋は用意してるからそこで休んでちょうだい」



 ネーシャから貸してもらった俺とミカンの部屋。そこにはひとつのベッドと簡素なイスとテーブル。ひとつ照る照明。
 先に目に着いたのはやはりベッドだ。
 口を開いたのはミカン。

「お前は床で寝ろ」
「俺のことは抱き枕だと思ってくれていいんだぞ」
「……ロリコンが」
「自分が幼女だってこと認めてんじゃねぇか――オゥフっ!」

 肘打ちを食らわせてきたミカンはベッドで横になり、俺は仕方なく床で寝ることにした。
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