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62 最後の試練、魔王の間の秘密

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この鉄の扉の向こうに伝説の秘宝が待っている、私の心は踊った。

「この先に魔王がいるんだよね?僕に退治できるかなあ…」

勇者役のフィリップはいつになく緊張しているように見える。

「大丈夫よ、愛を持って聖剣を振るえば魔王は消滅する。ってガイドブックに書いてあるわ」

愛を持って、という部分は多少引っ掛かるが、魔王と言ってもディスティニーランドの職員だ、適当なところで倒れる演技をしてくれるだろう。
それでフィリップが自分に自信を持てれば、この旅は成果があったと胸を張って国に帰れるはずだった。


「それで、誰か扉を開ける方法は分かった?」

私がメンバーを見回すと、レイモンドが喰ってかかって来た。

「人に聞く前に、自分はどうなんだ?お嬢ちゃん」

「まあ、方法なんてとっくに思い付いてるけど…」

私は自信ありげに答えた。

「本当ですか?」

モーザーが半信半疑な顔で私を見た。

「これまでの仕掛けから推測するに、ここら辺一体を道具で叩いて回れば、そのうち何かの反応があるはずよ」

「それは行き当たりばったりとほぼ同義な気がしますけど…」

モーザーは溜息まじりにつぶやいた。

「きっとここだよ!」

フィリップが壁のレンガの一つを指差した。

「この一個だけ他と色が違うんだ」

私はそのレンガを凝視するが、一向に色の違いが分からない。

「同じに見えるけど…本当なのフィリップ?」

「本当だよー、信じてよー」

「色の違いの感じ方は人によって差があるから、そのレンガがスイッチになっていて、他のレンガと微妙に違う材質なのを、フィリップだけが敏感に察知した可能性はあるんじゃないかな」

モーザーは得意の独自理論を展開した。

「言ってる間に押してみた方が早いわ」

私は指差しているフィリップの手を取って、そのままレンガを押させた。
レンガは引っ込み、それからガラガラと音を立てながら鉄の扉が開いていく。
メンバー全員が一斉にフィリップを見た。

「ねっ!僕、偉いでしょ」

フィリップは胸を張った。




扉が開き切ると、そこは床一面が水に満たされた不思議な空間だった。奥の壁面は滝になっている。

「これが魔王の間…どういう趣向?」

私が躊躇していると、レイモンドがつま先で水深を測った。

「浅いな…これなら歩いて行けそうだ」

「OK、じゃあ行きましょ!」

私が先導して全員が部屋に入った瞬間、ガラガラと音を立てて扉が閉まった。

「ふははは、罠にはまったな!」

聞き覚えのある声が響いた。

「魔王ね、ドコいるの?」

部屋の中心辺りの水面から魔王がズブズブとせりあがって来た。

「よくぞここまで来たと褒めてやろう。しかし、貴様らの命運もここまでだ」

「どういう意味?」

「ふははは、この部屋の水位は十秒ごとに1センチ上昇している。早く水流を止めなければ、貴様ら全員、溺れ死ぬことになるぞ」

「どうやったら水流が止まるのよ?」

「まずは我輩を倒す事だな」

「ふん、どうせ遊園地なんだから、溺れない仕組みになってるんでしょ?」

「ふははは、アマイな!……ああ、めんどくさい…ちょっと遊びに寄っただけだったんだけど、まあいいや」

魔王は水面からフワリと浮かび上がると、その顔面のマスクを剥ぎ取った。
下から現れたのは、人間の少年の顔だった。歳は十代前半ぐらいに見える。

「紹介が遅れました、僕が本物の魔王です。このままだとマジ死ぬよ…」
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