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57 フィリップの葛藤、陰謀に気づくエベル
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祭壇の前に立ったフィリップは聖剣に手を伸ばした。
「ヘッヘッヘ、やめておけフィリップ、その剣を手に取ったら魔獣と戦わなきゃならなくなるぞ」
ゾディアックが耳元で囁いた。
「だって、僕は勇者役だから聖剣でみんなを助けなきゃ」
「ヘッヘッヘ、お前に他人を助ける力があると思ってるのか?痛い目に合うだけだぞ」
「みんなの命が危ないんだよ、助けなきゃ死んじゃうでしょ」
「ヘッ、命か?命なんて束の間この世を過ごすための仮の姿の事。死んでもまた新しい姿に転生するだけ。そう教えただろう」
「分かってるけど…せっかく仲良くなれたみんなと離れるのはさびしいよ」
「ヘッヘ、さびしいなんて一時の感傷さ。誰でも必ずいつかは死ぬんだ、一々さびしがってたら心が持たないぜ。
お前はお前らしく、苦労せず楽しく今を過ごすことだけを考えていればいいんだ」
「僕…らしく……」
エベルは第四の試練に続く扉の前にいた。
そこに、守護天使エポスに操られた甲冑がベコベコに歪んだ姿でやっと追いついた。
「随分と過激なアトラクションですね…」
エベルがつぶやくと、エポスは首を振った。
「私は、先程から園内の魔獣に魔界由来の邪悪な気配を感じています」
「それは、悪魔の策略が関係しているという事ですか?」
「特級天使の私に隠れてそれができるとすると、犯人は特級悪魔の可能性が高い…」
「そんな…」
「三人の命が危ない、私たちも第三の試練に向かった方がいいでしょう」
エポスに促されエベルは第三の試練に続く扉を開けようとした。
「開かない…強力な物理結界がかけられています」
「仕方ありませんね、では第四の試練に向かいましょう。そこをクリアすれば第三の試練の経路と合流するはずですから」
第四の試練が待つ部屋は教会の礼拝堂のようだった。天井が高く、採光窓がある為、薄暗いダンジョンとは打って変わって明るい。
その奥、一段高くなったところに講壇があり、その上に冠が置かれていた。
「お姫様向けイベントですから、あの冠をかぶればいいのでしょうか?パテックさんにクリア条件を聞いておくべきでした…」
歩を進めようとする彼女に向かって、エポスが警告する。
「エベル、アラート発生です」
すると、物陰という物陰から蛇がニョロニョロと顔を出した。
「これは、ウロボロス系の魔獣ですね」
エベルが記憶を探りながら言う。一匹のウロボロスがふわりと空に浮かぶと、自分の尻尾に噛みつき円盤状になった。
「エベル、伏せなさい!」
エポスの鋭い声が響くと同時に、ウロボロスが高速回転しながら襲ってきた。
すんでの所でエベルが避けると、その先に立っていたリモート甲冑の胴が真っ二つになった。
「あれまあ…騎士役がいなくなってしまいました。これでは戦闘できませんね」
更にウロボロス達の目がエベルに狙いを定めるように妖しく光る。
「困りました。エポス、これはピンチかもですね…」
状況に反してなぜかのん気に言うエベル。
「了解しました、これより防御魔法を発動します」
そう言ってエポスは人差し指を立てると、小さく円を描いた。すると、その円は空気の刃となって広がり、一瞬にしてウロボロス達を切り刻んだ。
特級天使の防御魔法は、防御というにはあまりに過激な魔法だった。
「危機の対象は排除されました」
「いつもありがとうエポス」
エベルが口元だけで微笑んだ時、ガシャーンと天窓のガラスを割って黒い甲冑をまとった騎士が飛び込んできた。
「何者ですか?」
「エベル、魔族の使徒かも知れません、排除しましょう」
エポスが防御魔法を使おうと指を立てる。
「わー、待って待って!僕です、僕ですよ」
騎士が慌てて甲冑のシールドを上げると、それはモーザーだった。
「ヘッヘッヘ、やめておけフィリップ、その剣を手に取ったら魔獣と戦わなきゃならなくなるぞ」
ゾディアックが耳元で囁いた。
「だって、僕は勇者役だから聖剣でみんなを助けなきゃ」
「ヘッヘッヘ、お前に他人を助ける力があると思ってるのか?痛い目に合うだけだぞ」
「みんなの命が危ないんだよ、助けなきゃ死んじゃうでしょ」
「ヘッ、命か?命なんて束の間この世を過ごすための仮の姿の事。死んでもまた新しい姿に転生するだけ。そう教えただろう」
「分かってるけど…せっかく仲良くなれたみんなと離れるのはさびしいよ」
「ヘッヘ、さびしいなんて一時の感傷さ。誰でも必ずいつかは死ぬんだ、一々さびしがってたら心が持たないぜ。
お前はお前らしく、苦労せず楽しく今を過ごすことだけを考えていればいいんだ」
「僕…らしく……」
エベルは第四の試練に続く扉の前にいた。
そこに、守護天使エポスに操られた甲冑がベコベコに歪んだ姿でやっと追いついた。
「随分と過激なアトラクションですね…」
エベルがつぶやくと、エポスは首を振った。
「私は、先程から園内の魔獣に魔界由来の邪悪な気配を感じています」
「それは、悪魔の策略が関係しているという事ですか?」
「特級天使の私に隠れてそれができるとすると、犯人は特級悪魔の可能性が高い…」
「そんな…」
「三人の命が危ない、私たちも第三の試練に向かった方がいいでしょう」
エポスに促されエベルは第三の試練に続く扉を開けようとした。
「開かない…強力な物理結界がかけられています」
「仕方ありませんね、では第四の試練に向かいましょう。そこをクリアすれば第三の試練の経路と合流するはずですから」
第四の試練が待つ部屋は教会の礼拝堂のようだった。天井が高く、採光窓がある為、薄暗いダンジョンとは打って変わって明るい。
その奥、一段高くなったところに講壇があり、その上に冠が置かれていた。
「お姫様向けイベントですから、あの冠をかぶればいいのでしょうか?パテックさんにクリア条件を聞いておくべきでした…」
歩を進めようとする彼女に向かって、エポスが警告する。
「エベル、アラート発生です」
すると、物陰という物陰から蛇がニョロニョロと顔を出した。
「これは、ウロボロス系の魔獣ですね」
エベルが記憶を探りながら言う。一匹のウロボロスがふわりと空に浮かぶと、自分の尻尾に噛みつき円盤状になった。
「エベル、伏せなさい!」
エポスの鋭い声が響くと同時に、ウロボロスが高速回転しながら襲ってきた。
すんでの所でエベルが避けると、その先に立っていたリモート甲冑の胴が真っ二つになった。
「あれまあ…騎士役がいなくなってしまいました。これでは戦闘できませんね」
更にウロボロス達の目がエベルに狙いを定めるように妖しく光る。
「困りました。エポス、これはピンチかもですね…」
状況に反してなぜかのん気に言うエベル。
「了解しました、これより防御魔法を発動します」
そう言ってエポスは人差し指を立てると、小さく円を描いた。すると、その円は空気の刃となって広がり、一瞬にしてウロボロス達を切り刻んだ。
特級天使の防御魔法は、防御というにはあまりに過激な魔法だった。
「危機の対象は排除されました」
「いつもありがとうエポス」
エベルが口元だけで微笑んだ時、ガシャーンと天窓のガラスを割って黒い甲冑をまとった騎士が飛び込んできた。
「何者ですか?」
「エベル、魔族の使徒かも知れません、排除しましょう」
エポスが防御魔法を使おうと指を立てる。
「わー、待って待って!僕です、僕ですよ」
騎士が慌てて甲冑のシールドを上げると、それはモーザーだった。
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