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47 お手軽?冒険の旅へ出発
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「遊園地に旅行なんて楽しみだね、パティ!」
出発を待つ列車の中、フィリップは無邪気にはしゃいでいた。
「ヌーシャテルには遊びに行くわけじゃないからね、あくまであんたの修行の為なんだから」
私はフィリップに釘を刺した。
「パテックさん、ご承知だと思いますが、ヌーシャテルで男性としての目覚めが認められなかった場合、フィリップにはル・サンティエで秘術を受けてもらいます」
エベルが念を押すように言った。
「フィリップは納得してるの?人工的に子供を作るなんて人権無視したやり方」
私の問いにフィリップは首を捻りながら答える。
「ウーン…エベルもそうやって生まれたんでしょ?だったら僕は構わないよ」
「このように、本人の了承は得ておりますので」
「絶対にフィリップは理解してないと思うけど…ゾディアックはどう思ってるのよ?」
フィリップの背後にいるはずのゾディアックに話しかけるが返事はない。(無視かよ…)ここ数日、ゾディアックは私たちの前に姿を現していなかった。
「お前ら、フィリップ様に何をする気だ?」
話についていけないレイモンドがイライラと話に割り込んできた。
「お前ら、じゃなくて何かやろうとしてるのは、エベルっていうか天界の連中ね。私はそれを止めようとしてる側なわけよ、分かる?」
些細な点だが、そこは私のこだわりがあるのでしっかり訂正した。
「そ、そうなのか…その何かとは何なんだ?」
「連中がやろうとしてるのは、やらないで孕ませる方法よ」
「やらない方法をやるとはどういう意味だ?」
「そんなこと可憐な乙女の私が口にできるわけないでしょ、自分で考えなさい!」
まったく、こういう話に対するレイモンドの察しの悪さはフィリップ並みだ。
しかし、私はふと思い付いた。
「ねえエベル、過程はどうあれ誰かはフィリップの子供を孕むわけよね。その人とフィリップが恋に落ちれば四方丸く収まらない?」
「それは無理です」
「何でよ?」
「ル・サンティエの秘術は、聖女が純潔を守ったままその血統を未来に残すために開発された方法です。そして聖女の愛は全ての人類に向けられ、特定の誰かと実を結ぶ事はあり得ません」
「じゃあ母親を聖女以外にすればいいんじゃない?」
「そこは秘術ですから、誰でもという訳には…」
「何よ、堅苦しいわね!」
「皆さん、ちょっといいですか」
モーザーが声を上げた。
「これから行く遊園地に入園する際の注意事項を言うので覚えておいてください」
今回の旅行で必要になる予約は、言い出しっぺであるモーザーに頼んでいた。
「注意事項って?」
「ヌーシャテル王国国立遊園地、通称ディスティニーランドへの入場には二つの条件があるんです。
一つは、五人以上のグループである事。もう一つはディスティニーランド内ではそれぞれ事前に申請した役職になりきる事です。
ダンジョンにはその人数と役職に応じた試練が用意されていて、それをクリアすると最終ステージに到達するって感じですね」
「役職になりきる?」
「アトラクション内でのキャラクター設定です。僕が適当に決めて申請しといたんで」
「なに勝手に決めてんのよ!」
「パテックさんはお姫様役です」
「…悪くないじゃない。他は?」
「フィリップは勇者役、レイモンドさんは騎士役、エベルさんは魔女役です」
「あんたは?」
「僕は案内人役です」
「案内人って必要?」
「はい、勇者とお姫様と案内人の三役はマストなんですよ」
「なぜ私は魔女役なんですか?」
エベルが少し不満そうに言った。
「用意された役職に聖女がなかったもんで…魔法使いだと設定がおじいちゃんなんですよ」
「魔女役、合ってるんじゃない?腹黒い感じとか」
私は皮肉を込めて言ってみた。
「腹黒さではパテックさんには負けますけど」
皮肉で返された。
「じゃ、僕は食べ物を買ってくるんで…何かついでに買ってきましょうか?」
モーザーが席を立った。
「なんもいらないから、絶対、出発時間に遅れないでよね!」
「パテックさん、大丈夫です。僕が時間に遅れた事ありますか?」
「あるから言ってんのよ」
「いや、あの過去はもう消えてしまったのでノーカンです」
それって反省してないって事じゃないの…とツッコむ間もなく、そそくさとモーザーは行ってしまった。
「僕に勇者役なんてできるかなあ…」
フィリップが不安げにつぶやいた。私はフィリップに近寄って耳元でささやく、
「レイモンドに良いとこ見せるチャンスなんだから気合い入れなさい」
「俺に内緒の話か?気に食わんな」
レイモンドがムッとする。
「あら、私とフィリップが仲いいんでジェラシー?」
フィリップの呪いを解く一番現実的な方法はレイモンドと両想いにさせる事だ、私は揺さぶりをかけてみた。
「別に、フィリップ様とお嬢ちゃんが恋仲になるなら、俺は祝福するぞ!」
「あ、そう…」
揺さぶりは不発に終わった。
「私もパテックさんがフィリップと婚姻するのが最善の策だと思いますが」
一度はフィリップと駆け落ちまがいの事をしたエベルがそれを言うか…
「婚姻だけなら何度でもしてやるわよ、でも愛し合ってなきゃフィリップは助からないんでしょ?」
「はい、愛の力だけが呪いを跳ねのけるバリアーを発生させるのです。魔王は愛という感情を理解できないので、愛のバリアーだけは破る事ができません」
「じゃ、やっぱダメね。フィリップは私を遊び相手としか思ってないし…」
ジリリリリ…発車のベルが鳴り出した。
「もう出発時間か…あれ、モーザーは?」
モーザーはまだ買い物から戻っていなかった。
「まーってよー…」
車窓から買い物袋を抱えて走ってくるモーザーが見えた。しかし、無情にも列車は動き出す。
「デジャヴだ…完全にデジャヴだ…」
私は呪文のように唱えた、ここまで来るとわざとやってるんじゃないかとさえ思えてくる。
かくして新たなる冒険の旅は、波乱含みのうちに幕を開けた。
出発を待つ列車の中、フィリップは無邪気にはしゃいでいた。
「ヌーシャテルには遊びに行くわけじゃないからね、あくまであんたの修行の為なんだから」
私はフィリップに釘を刺した。
「パテックさん、ご承知だと思いますが、ヌーシャテルで男性としての目覚めが認められなかった場合、フィリップにはル・サンティエで秘術を受けてもらいます」
エベルが念を押すように言った。
「フィリップは納得してるの?人工的に子供を作るなんて人権無視したやり方」
私の問いにフィリップは首を捻りながら答える。
「ウーン…エベルもそうやって生まれたんでしょ?だったら僕は構わないよ」
「このように、本人の了承は得ておりますので」
「絶対にフィリップは理解してないと思うけど…ゾディアックはどう思ってるのよ?」
フィリップの背後にいるはずのゾディアックに話しかけるが返事はない。(無視かよ…)ここ数日、ゾディアックは私たちの前に姿を現していなかった。
「お前ら、フィリップ様に何をする気だ?」
話についていけないレイモンドがイライラと話に割り込んできた。
「お前ら、じゃなくて何かやろうとしてるのは、エベルっていうか天界の連中ね。私はそれを止めようとしてる側なわけよ、分かる?」
些細な点だが、そこは私のこだわりがあるのでしっかり訂正した。
「そ、そうなのか…その何かとは何なんだ?」
「連中がやろうとしてるのは、やらないで孕ませる方法よ」
「やらない方法をやるとはどういう意味だ?」
「そんなこと可憐な乙女の私が口にできるわけないでしょ、自分で考えなさい!」
まったく、こういう話に対するレイモンドの察しの悪さはフィリップ並みだ。
しかし、私はふと思い付いた。
「ねえエベル、過程はどうあれ誰かはフィリップの子供を孕むわけよね。その人とフィリップが恋に落ちれば四方丸く収まらない?」
「それは無理です」
「何でよ?」
「ル・サンティエの秘術は、聖女が純潔を守ったままその血統を未来に残すために開発された方法です。そして聖女の愛は全ての人類に向けられ、特定の誰かと実を結ぶ事はあり得ません」
「じゃあ母親を聖女以外にすればいいんじゃない?」
「そこは秘術ですから、誰でもという訳には…」
「何よ、堅苦しいわね!」
「皆さん、ちょっといいですか」
モーザーが声を上げた。
「これから行く遊園地に入園する際の注意事項を言うので覚えておいてください」
今回の旅行で必要になる予約は、言い出しっぺであるモーザーに頼んでいた。
「注意事項って?」
「ヌーシャテル王国国立遊園地、通称ディスティニーランドへの入場には二つの条件があるんです。
一つは、五人以上のグループである事。もう一つはディスティニーランド内ではそれぞれ事前に申請した役職になりきる事です。
ダンジョンにはその人数と役職に応じた試練が用意されていて、それをクリアすると最終ステージに到達するって感じですね」
「役職になりきる?」
「アトラクション内でのキャラクター設定です。僕が適当に決めて申請しといたんで」
「なに勝手に決めてんのよ!」
「パテックさんはお姫様役です」
「…悪くないじゃない。他は?」
「フィリップは勇者役、レイモンドさんは騎士役、エベルさんは魔女役です」
「あんたは?」
「僕は案内人役です」
「案内人って必要?」
「はい、勇者とお姫様と案内人の三役はマストなんですよ」
「なぜ私は魔女役なんですか?」
エベルが少し不満そうに言った。
「用意された役職に聖女がなかったもんで…魔法使いだと設定がおじいちゃんなんですよ」
「魔女役、合ってるんじゃない?腹黒い感じとか」
私は皮肉を込めて言ってみた。
「腹黒さではパテックさんには負けますけど」
皮肉で返された。
「じゃ、僕は食べ物を買ってくるんで…何かついでに買ってきましょうか?」
モーザーが席を立った。
「なんもいらないから、絶対、出発時間に遅れないでよね!」
「パテックさん、大丈夫です。僕が時間に遅れた事ありますか?」
「あるから言ってんのよ」
「いや、あの過去はもう消えてしまったのでノーカンです」
それって反省してないって事じゃないの…とツッコむ間もなく、そそくさとモーザーは行ってしまった。
「僕に勇者役なんてできるかなあ…」
フィリップが不安げにつぶやいた。私はフィリップに近寄って耳元でささやく、
「レイモンドに良いとこ見せるチャンスなんだから気合い入れなさい」
「俺に内緒の話か?気に食わんな」
レイモンドがムッとする。
「あら、私とフィリップが仲いいんでジェラシー?」
フィリップの呪いを解く一番現実的な方法はレイモンドと両想いにさせる事だ、私は揺さぶりをかけてみた。
「別に、フィリップ様とお嬢ちゃんが恋仲になるなら、俺は祝福するぞ!」
「あ、そう…」
揺さぶりは不発に終わった。
「私もパテックさんがフィリップと婚姻するのが最善の策だと思いますが」
一度はフィリップと駆け落ちまがいの事をしたエベルがそれを言うか…
「婚姻だけなら何度でもしてやるわよ、でも愛し合ってなきゃフィリップは助からないんでしょ?」
「はい、愛の力だけが呪いを跳ねのけるバリアーを発生させるのです。魔王は愛という感情を理解できないので、愛のバリアーだけは破る事ができません」
「じゃ、やっぱダメね。フィリップは私を遊び相手としか思ってないし…」
ジリリリリ…発車のベルが鳴り出した。
「もう出発時間か…あれ、モーザーは?」
モーザーはまだ買い物から戻っていなかった。
「まーってよー…」
車窓から買い物袋を抱えて走ってくるモーザーが見えた。しかし、無情にも列車は動き出す。
「デジャヴだ…完全にデジャヴだ…」
私は呪文のように唱えた、ここまで来るとわざとやってるんじゃないかとさえ思えてくる。
かくして新たなる冒険の旅は、波乱含みのうちに幕を開けた。
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