上 下
43 / 66

43 パテック、フィリップを冒険の旅へ

しおりを挟む
玉座の間、私は国王の前に立っていた。

「王様、お願いがあります」

「突然どうした、パテックよ」

私の勢いに押されて国王はドギマギしていた。

「フィリップを冒険に連れていきます。許可をください」

「冒険だと!理由はなんなのだ?」

「性格を鍛える為です。このままでは永久にマザコン不〇男のまま結婚相手なんて見付かりませんよ」

「不〇男とはあまりに酷い…私はてっきり、そなたがフィリップの嫁になってくれるものだと思っていたが」

「それはキッパリとお断りします」

「残念だ…しかし、城に居ても性格を鍛える事はできるのではないか?」

「生ぬるいです!そうやって甘やかしてきた結果が、現在の状況を生んだって事が分らないんですか?」

「はっきり言うなあ…とは言え世は泰平だ。海を渡って魔獣の領域にでも行かん限りは、そうそう冒険も出来んと思うが…」

「それに関しては私に考えがあるので任せてください」

「フィリップ自身は何と言っているんだ?」

「それはもう行く気満々です」

これは嘘だ。フィリップが冒険になんて行きたがる訳がないが、私には強引に連れ出す自信があった。

「そうか…かわいい子には旅をさせろという教えもあるし…分かった、冒険を許可しよう」

まあ、ここまではスムーズに行くだろうと思っていた。問題はこの後だ。

「それから冒険の旅に出るにあたって、フィリップに王家の紋章を授けていただくのをお忘れなく」

「まて、王家の紋章は一個人に国権の発動を許可するものだ。たとえ王子に対してでも私の一存では決められない案件だぞ」

ほらきた、

「ああ、なんて可哀そうなフィリップ!肉親にまで見捨てられたまま死んでいくなんて…」

私は持てる演技力全開で情に訴えた。

「分かった、分かった、フィリップに王家の紋章を授けよう」

やった!

「では、今すぐ宣言を!」

「忙しないな…何だか前にも同じような事があった気がするが…」

「王様、それは気のせい、デジャヴってやつです」

前に王家の紋章を発行させたのは歴史を改変する前の話なので嘘ではなかった。
国王は釈然としない顔で咳払いをすると、気持ちを入れ直して宣言を始めた。

「コホン…国王、バシュロン・コンスタンチン・ド・シャフハウゼンの名に於いて、フィリップ・ジュネーヴ・ド・シャフハウゼンに王家の紋章を授ける…これでよいか?」

「ばっちりです!」

「お嬢ちゃん、いい加減減にしろ、国王様に対して物言いが失礼すぎるぞ!」

広間の隅に控えていたレイモンドがしゃしゃり出てきた。

「まあ良いではないか」

国王がレイモンドをなだめる。

「ちなみにレイモンド、あんたも一緒に行くのよ?」

「なんで俺が…いえ、私の仕事は城の警護です。長く城を離れる訳にはいきません」

「以前は喜んでフィリップを追っかけてたくせに…王子の警護だって重要な仕事でしょ」

「お前の話はちょくちょく訳が分からん、俺がフィリップ様を追いかけていただと?」

歴史改変前の話だ、レイモンドに分からないのを承知で、ついボヤいてしまった。

「レイモンド、言いたい事は分かるが私からも頼む、フィリップを守ってやってくれないか」

「…国王様がそうおっしゃるなら、謹んでお引き受けいたします」

「じゃ、そういう事で!」

私は挨拶すると、広間から退出した。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

【完結】皇太子の愛人が懐妊した事を、お妃様は結婚式の一週間後に知りました。皇太子様はお妃様を愛するつもりは無いようです。

五月ふう
恋愛
 リックストン国皇太子ポール・リックストンの部屋。 「マティア。僕は一生、君を愛するつもりはない。」  今日は結婚式前夜。婚約者のポールの声が部屋に響き渡る。 「そう……。」  マティアは小さく笑みを浮かべ、ゆっくりとソファーに身を預けた。    明日、ポールの花嫁になるはずの彼女の名前はマティア・ドントール。ドントール国第一王女。21歳。  リッカルド国とドントール国の和平のために、マティアはこの国に嫁いできた。ポールとの結婚は政略的なもの。彼らの意志は一切介入していない。 「どんなことがあっても、僕は君を王妃とは認めない。」  ポールはマティアを憎しみを込めた目でマティアを見つめる。美しい黒髪に青い瞳。ドントール国の宝石と評されるマティア。 「私が……ずっと貴方を好きだったと知っても、妻として認めてくれないの……?」 「ちっ……」  ポールは顔をしかめて舌打ちをした。   「……だからどうした。幼いころのくだらない感情に……今更意味はない。」  ポールは険しい顔でマティアを睨みつける。銀色の髪に赤い瞳のポール。マティアにとってポールは大切な初恋の相手。 だが、ポールにはマティアを愛することはできない理由があった。 二人の結婚式が行われた一週間後、マティアは衝撃の事実を知ることになる。 「サラが懐妊したですって‥‥‥!?」

私がいなくなった部屋を見て、あなた様はその心に何を思われるのでしょうね…?

新野乃花(大舟)
恋愛
貴族であるファーラ伯爵との婚約を結んでいたセイラ。しかし伯爵はセイラの事をほったらかしにして、幼馴染であるレリアの方にばかり愛情をかけていた。それは溺愛と呼んでもいいほどのもので、そんな行動の果てにファーラ伯爵は婚約破棄まで持ち出してしまう。しかしそれと時を同じくして、セイラはその姿を伯爵の前からこつぜんと消してしまう。弱気なセイラが自分に逆らう事など絶対に無いと思い上がっていた伯爵は、誰もいなくなってしまったセイラの部屋を見て…。 ※カクヨム、小説家になろうにも投稿しています!

「婚約を破棄したい」と私に何度も言うのなら、皆にも知ってもらいましょう

天宮有
恋愛
「お前との婚約を破棄したい」それが伯爵令嬢ルナの婚約者モグルド王子の口癖だ。 侯爵令嬢ヒリスが好きなモグルドは、ルナを蔑み暴言を吐いていた。 その暴言によって、モグルドはルナとの婚約を破棄することとなる。 ヒリスを新しい婚約者にした後にモグルドはルナの力を知るも、全てが遅かった。

「あなたのことはもう忘れることにします。 探さないでください」〜 お飾りの妻だなんてまっぴらごめんです!

友坂 悠
恋愛
あなたのことはもう忘れることにします。 探さないでください。 そう置き手紙を残して妻セリーヌは姿を消した。 政略結婚で結ばれた公爵令嬢セリーヌと、公爵であるパトリック。 しかし婚姻の初夜で語られたのは「私は君を愛することができない」という夫パトリックの言葉。 それでも、いつかは穏やかな夫婦になれるとそう信じてきたのに。 よりにもよって妹マリアンネとの浮気現場を目撃してしまったセリーヌは。 泣き崩れ寝て転生前の記憶を夢に見た拍子に自分が生前日本人であったという意識が蘇り。 もう何もかも捨てて家出をする決意をするのです。 全てを捨てて家を出て、まったり自由に生きようと頑張るセリーヌ。 そんな彼女が新しい恋を見つけて幸せになるまでの物語。

好きな人に『その気持ちが迷惑だ』と言われたので、姿を消します【完結済み】

皇 翼
恋愛
「正直、貴女のその気持ちは迷惑なのですよ……この場だから言いますが、既に想い人が居るんです。諦めて頂けませんか?」 「っ――――!!」 「賢い貴女の事だ。地位も身分も財力も何もかもが貴女にとっては高嶺の花だと元々分かっていたのでしょう?そんな感情を持っているだけ時間が無駄だと思いませんか?」 クロエの気持ちなどお構いなしに、言葉は続けられる。既に想い人がいる。気持ちが迷惑。諦めろ。時間の無駄。彼は止まらず話し続ける。彼が口を開く度に、まるで弾丸のように心を抉っていった。 ****** ・執筆時間空けてしまった間に途中過程が気に食わなくなったので、設定などを少し変えて改稿しています。

【完結】王女様がお好きなら、邪魔者のわたしは要らないですか?

曽根原ツタ
恋愛
「クラウス様、あなたのことがお嫌いなんですって」 エルヴィアナと婚約者クラウスの仲はうまくいっていない。 最近、王女が一緒にいるのをよく見かけるようになったと思えば、とあるパーティーで王女から婚約者の本音を告げ口され、別れを決意する。更に、彼女とクラウスは想い合っているとか。 (王女様がお好きなら、邪魔者のわたしは身を引くとしましょう。クラウス様) しかし。破局寸前で想定外の事件が起き、エルヴィアナのことが嫌いなはずの彼の態度が豹変して……? 小説家になろう様でも更新中

婚約破棄直前に倒れた悪役令嬢は、愛を抱いたまま退場したい

矢口愛留
恋愛
【全11話】 学園の卒業パーティーで、公爵令嬢クロエは、第一王子スティーブに婚約破棄をされそうになっていた。 しかし、婚約破棄を宣言される前に、クロエは倒れてしまう。 クロエの余命があと一年ということがわかり、スティーブは、自身の感じていた違和感の元を探り始める。 スティーブは真実にたどり着き、クロエに一つの約束を残して、ある選択をするのだった。 ※一話あたり短めです。 ※ベリーズカフェにも投稿しております。

婚約者に消えろと言われたので湖に飛び込んだら、気づけば三年が経っていました。

束原ミヤコ
恋愛
公爵令嬢シャロンは、王太子オリバーの婚約者に選ばれてから、厳しい王妃教育に耐えていた。 だが、十六歳になり貴族学園に入学すると、オリバーはすでに子爵令嬢エミリアと浮気をしていた。 そしてある冬のこと。オリバーに「私の為に消えろ」というような意味のことを告げられる。 全てを諦めたシャロンは、精霊の湖と呼ばれている学園の裏庭にある湖に飛び込んだ。 気づくと、見知らぬ場所に寝かされていた。 そこにはかつて、病弱で体の小さかった辺境伯家の息子アダムがいた。 すっかり立派になったアダムは「あれから三年、君は目覚めなかった」と言った――。

処理中です...