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36 城で何が起こっていたのか

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高揚する気持ちとは裏腹に、フィリップに会うにはハードルがあった。

「…でもねえ、呪いをフィリップに返しちゃった今、私はもう無関係になっちゃったし…会いたいって言えば会えるって訳にもいかないでしょ?」

「ところが、パテックさんはフィリップ王子と全く無関係ってわけでもないんですよ」

「どういう事?」

「降臨の儀式で叶えられる願いには『過去の事実を否定してはならない』という決まりがあったのを覚えてますか?」

「何となくね…」(ホントは忘れてたけど…)

「だから『国王夫妻は王子にかかるはずだった呪いを、魔王を騙して女児にかけさせた』という事実を無かった事にはできないんです」

「それじゃ、私じゃなく自分が呪いを受けるっていうフィリップの願いは、どうやって叶えられたの?」

「恐らく、歴史の書の文にこう付け加えられたはずです、『国王夫妻は王子にかかるはずだった呪いを、魔王を騙して女児にかけさせた…と思われたが、実は魔王は騙されておらず、呪いは王子にかけられた』と…」

「つまり私の存在は、一応、王家側に認識されてるって事ね?」

「そうなんです、そこを上手く突けばフィリップ王子にあえるんじゃないかと」

眉唾ものの話だが、モーザーの発言が嘘だった事は無いのも確かだ。試して見る価値はあるだろう。




「あの時はどうかしていたわ。我が子に魔王の呪いをかけさせようとするなんて…」

母は悲痛な表情で私に詫びた。

「別にいいんだけど、私を王子の身代わりにしようとしたのは本当なのね?」

「王妃様が街の病院で、私が王妃様に成りすましてお城で子供を生んだの。そして国王様がパテックという名を付けてくださったのよ」

「それを傍から見れば、パテックさんが王子のように思えますよね。でも、魔王は騙されなかったと…」

母の話を聞いたモーザーが満足気に補足した。

「ところであなた、どなた?」

「ああ、モーザーは私の友達みたいなもんよ」

「魔導士の友達がいたなんて知らなかったけど?」

母は胡散臭げにモーザーを見た。

「ねえお母さん、私も自分が生まれたっていうお城に一度は行ってみたいんだけど」

私は本題を切り出した。

「そおねえ…国王様も自分が名付け親の子が育った姿を見たいとおっしゃるかもしれないけれど…」

母は乗り気でないふうに言葉を濁した。

「たぶん、フィリップ王子に会ってほしいって話になると思うの」

「それが何か問題なの?」

フィリップに会う事が目的の私にとっては好都合だ。

「悪い噂があるのよ…」

「ああ、引きこもりだとか、わがままだとか、変人だとかいう話なら承知してるわ」

「そうじゃないわよ。王子には悪魔が憑りついていて、女性が近づくと姿を現すらしいの。悪魔のあまりに不気味な姿を見て、気がふれた人もいるらしいわ」

母はガタガタと震えた。ゾディアックの奴め、そんな陰湿な事してるのか…

「大丈夫!私、こう見えても悪魔には耐性があるから」



その後、何だかんだで私はシャフハウゼン城に行ける事になった。
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