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32 二つの時間、すれ違いと収斂

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「ゾディック、あんた説明できる?」

「そうだな…レイモンドとモーザーが時間を逆行してるって事は、周囲からは動きが逆回転して見えるんじゃねえか、ヘッヘッヘ」

「じゃあ話しかければ会話できるのかな?」

「ヘッ、上りと下りの列車で窓開けて会話するようなもんだから難しいんじゃねえか、知らんが」

「ふーん…良く分かんないけど、魔法が上手く行ってるならいいわ」

とりあえず今、私にできる事は何もない、やはり無理にでも過去に付いて行くべきだったと後悔した。

「レイモンドー…」

遠くから声がする。この声は…

私が神殿の方を見ると、フィリップが駆けてくる姿が見えた。

「レイモンド、会いに来てくれたんだね!…あれー…パティもいる、何で?」

仮にも婚約者に対してあまりと言えばあまりな言葉だが、今更気にしない。

「フィリップ!呪いは、呪いはどうなったの?」

私の質問に答えることなく、フィリップはレイモンドに駆け寄る。

「レイモンド、会いたかったよ!」

しかし、時間を逆行中のレイモンドは後退りしていく。

「なんで逃げるのさ!」

フィリップは情けない声で叫ぶ。私は説明が面倒で黙って見ていた。

「ヘッヘッヘ、パティ、死体を隠した方がいいんじゃねえか?」

「どういう事よ、ゾディック?」

「俺がここにいるって事は、呪いはまだパティにかかってるって事だ。その状態でフィリップが自分の死体を見たら、呪いを返す前にフィリップの死が確定しちまうぜ、ヘッヘッヘ」

そうだった、もう一人のフィリップが生き返るまで、このフィリップに死を認識させてはならない。まったくややこしい話だが、私も命がかかっている以上やるしかない。私はフィリップと死体の間に入って視界をさえぎった。

「パティからもレイモンドに逃げないで言ってよ」

フィリップが私に泣きついてきた。

「そーね…そのうち何とかなるんじゃない?」

私は適当に答えた。

「助けてよーパティ…」

「フィリップ、こっち見ないで!」

私は手を広げてフィリップの視線をブロックした。

「ひどいよー何でそんなこと言うのさー」

フィリップが私に近寄ってきた。

「オイこら、こっち来んじゃないって言ってるでしょ!」

「フィリップ様!」

突然、逆回転していたレイモンドの動きが元に戻った。

「生きていていたのですね、良かった…」

「レイモンド、やっと話してくれた。会いたかったよ!」

「フィリップ様…お慕いもうしております」

二人は熱い抱擁を交わした。
次の瞬間、フィリップが消えた…

「フィリップ様?」

残されたレイモンドは魂が抜けたように棒立ちしている。

「パッテクさーん、ただいま戻りました!」

背後で声がして振り返ると、フィリップの死体は消え、モーザーと生きたフィリップが立っていた。
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