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30 王子の願いとパラドックス
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神殿では、エベルが儀式の立会人から願いが叶う一人を選ぶ瞬間を迎えていた。
「私、新聖女エベル・ウェイブは、その祝福をフィリップ・ジュネーヴ・ド・シャフハウゼンに与えます」
エベルは迷いなく目の前のフィリップを指名した。
「ではフィリップよ、願いを言うがよい」
神官クリストフが告げる。
「パティにかかった魔王の呪いは、僕にかかる筈だったんだ。だから、呪いが僕にかかるように、過去を変えてください!」
「その願いは自身の命を危険にさらす事になるが、良いのか?」
神官がフィリップに問う。
「はい!」
フィリップは元気よく答えた。
「ではエベルよ、創造主への祈りを」
神官に促されエベルが神に祈りを捧げる。
「我らが創造主よ、その御手に携えし白き歴史の書に、フィリップ・ジュネーヴ・ド・シャフハウゼンの願いを追記したまえ…」
「さよならパティ。これでレイモンドとの新しい歴史が作られるんだね…」
フィリップは珍しく感傷的につぶやいた。
それも束の間、神からのメッセージが光となって降り注ぎ、それを受け取ったエベルの顔色が変わった。
「何ですって…どうしてそんな事に…」
「エベル?どうしたのさ」
「フィリップ、あなたの願いはかなえられない…」
エベルは悲し気にフィリップを見た。
「創造主はこう言われている。そなたの願いに矛盾が発生しているため、それが解消されないかぎり願いを叶える事はできないと」
神官がフィリップに告げた。
「ええー、そんなの無いよー」
フィリップが泣きそうな声を上げる。
「つまりこういう事よ。あなたが降臨の儀式に立ち会って過去を変えようと思い付いた時、変えられた過去の時間軸上にもう一人のフィリップが現れたの」
「もう一人のフィリップ?」
「そのフィリップは変化の起点である今日この場所に現れて、そこから順次、過去が改変されていくのよ」
「過去ってイキナリ変わるんじゃないの?」
「過去の改変は緩やかに起こるの、矛盾を解消する時間を作れるように」
「矛盾って、どうやって解消するにさ」
「それは、二つの時間軸が衝突した時、より整合性の高い一つが真実になり、それ以外は勘違いって事になるのよ。人の記憶は曖昧なものだから、みんな自分の記憶と違ってても何となく納得してしまうの」
「へえ、エベルって時間の仕組みに詳しいんだね?」
「これは全部、今しがた神様から送られてきた情報なんだけど」
「あの短時間でスゴイ情報量が送られてきたんだね…」
「大事な話はこれからよ。本来は、過去のどこかで二つの時間軸が交わり、二人は、魔王の呪いをかけられたフィリップに収斂されるはずだったんだけど…」
「だけど?」
「もう一人のフィリップは、あなたと直接出会う事を避け続けた。それどころか、ある時は黒魔導士に化けて、私たちの逃亡を助けさえした」
「あの黒魔導士って、僕だったの?」
「二つの時間軸が収斂されないまま、元々の時間軸が、改変された時間軸の起点である現在まで進んでしまったの」
「うーん…僕にはゼンゼン理解できないやー、それだとどうなるの?」
「最終的に二人が一人に収斂されれば問題なかったのだけど…」
「だったら、これからもう一人の僕に会ってくるよ!」
「それが…もう一人のフィリップは…死んでしまったのよ…」
「僕が…死んだ?僕はここで生きてるのに!」
「フィリップ、とにかくレイモンドには絶対に会ってはだめ」
「どうしてさ?」
「もう一人のフィリップを殺したのがレイモンドだからよ。彼女に会って二つの時間軸が収斂されると、生きているあなたの存在が消えてしまう可能性が高いわ。
フィリップ、もう願いは諦めてここでひっそり暮らしましょう。私が守り続けるから」
「ありがとうエベル。でも、僕がここまで来たのはレイモンドと暮らすためなんだ。それが叶わないなら生きている意味がなくなっちゃう」
フィリップの顔から甘えたお坊ちゃんの幼さが消えた。
「レイモンド、今、会いに行くよ!」
「私、新聖女エベル・ウェイブは、その祝福をフィリップ・ジュネーヴ・ド・シャフハウゼンに与えます」
エベルは迷いなく目の前のフィリップを指名した。
「ではフィリップよ、願いを言うがよい」
神官クリストフが告げる。
「パティにかかった魔王の呪いは、僕にかかる筈だったんだ。だから、呪いが僕にかかるように、過去を変えてください!」
「その願いは自身の命を危険にさらす事になるが、良いのか?」
神官がフィリップに問う。
「はい!」
フィリップは元気よく答えた。
「ではエベルよ、創造主への祈りを」
神官に促されエベルが神に祈りを捧げる。
「我らが創造主よ、その御手に携えし白き歴史の書に、フィリップ・ジュネーヴ・ド・シャフハウゼンの願いを追記したまえ…」
「さよならパティ。これでレイモンドとの新しい歴史が作られるんだね…」
フィリップは珍しく感傷的につぶやいた。
それも束の間、神からのメッセージが光となって降り注ぎ、それを受け取ったエベルの顔色が変わった。
「何ですって…どうしてそんな事に…」
「エベル?どうしたのさ」
「フィリップ、あなたの願いはかなえられない…」
エベルは悲し気にフィリップを見た。
「創造主はこう言われている。そなたの願いに矛盾が発生しているため、それが解消されないかぎり願いを叶える事はできないと」
神官がフィリップに告げた。
「ええー、そんなの無いよー」
フィリップが泣きそうな声を上げる。
「つまりこういう事よ。あなたが降臨の儀式に立ち会って過去を変えようと思い付いた時、変えられた過去の時間軸上にもう一人のフィリップが現れたの」
「もう一人のフィリップ?」
「そのフィリップは変化の起点である今日この場所に現れて、そこから順次、過去が改変されていくのよ」
「過去ってイキナリ変わるんじゃないの?」
「過去の改変は緩やかに起こるの、矛盾を解消する時間を作れるように」
「矛盾って、どうやって解消するにさ」
「それは、二つの時間軸が衝突した時、より整合性の高い一つが真実になり、それ以外は勘違いって事になるのよ。人の記憶は曖昧なものだから、みんな自分の記憶と違ってても何となく納得してしまうの」
「へえ、エベルって時間の仕組みに詳しいんだね?」
「これは全部、今しがた神様から送られてきた情報なんだけど」
「あの短時間でスゴイ情報量が送られてきたんだね…」
「大事な話はこれからよ。本来は、過去のどこかで二つの時間軸が交わり、二人は、魔王の呪いをかけられたフィリップに収斂されるはずだったんだけど…」
「だけど?」
「もう一人のフィリップは、あなたと直接出会う事を避け続けた。それどころか、ある時は黒魔導士に化けて、私たちの逃亡を助けさえした」
「あの黒魔導士って、僕だったの?」
「二つの時間軸が収斂されないまま、元々の時間軸が、改変された時間軸の起点である現在まで進んでしまったの」
「うーん…僕にはゼンゼン理解できないやー、それだとどうなるの?」
「最終的に二人が一人に収斂されれば問題なかったのだけど…」
「だったら、これからもう一人の僕に会ってくるよ!」
「それが…もう一人のフィリップは…死んでしまったのよ…」
「僕が…死んだ?僕はここで生きてるのに!」
「フィリップ、とにかくレイモンドには絶対に会ってはだめ」
「どうしてさ?」
「もう一人のフィリップを殺したのがレイモンドだからよ。彼女に会って二つの時間軸が収斂されると、生きているあなたの存在が消えてしまう可能性が高いわ。
フィリップ、もう願いは諦めてここでひっそり暮らしましょう。私が守り続けるから」
「ありがとうエベル。でも、僕がここまで来たのはレイモンドと暮らすためなんだ。それが叶わないなら生きている意味がなくなっちゃう」
フィリップの顔から甘えたお坊ちゃんの幼さが消えた。
「レイモンド、今、会いに行くよ!」
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