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28 ドッペルゲンガーの出現

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私たちは、神殿に向かう途中で足止めを食っていた。

突然すぎるフィリップの出現に、私は訳が分からなくなっていた。

「フィリップ、いったい何が起こってるのよ!」

「パティ、僕は、君にとって、もう一つの可能性のフィリップなんだよ」

「もう一つの可能性?…まさか!」

「僕はずっと思ってたんだ、なんでパティが僕の代わりに呪いをかけられなきゃならないのかって」

「フィリップ…そんな事を考えててくれたの…」

「そのせいで僕は、自由に人を好きになる事も許されなかった」

(そういう事ね…)感動しかけた私はがっがりした。

「それで思い付いたんだよ。この問題を解決するには、パティじゃなく僕が呪いにかけられるように、過去を変えればいいんだって」

「そんな事できるの?」

「神様ならできるかもしれません」

モーザーが白魔導士としての意見を言った。

「そんな時、エベルに出会ったんだ。彼女は言った、もうすぐ聖女になる儀式を受けるので、その場に立ち会えば、願いを神様が叶えてくれるかもしれない、と…」

フィリップがそう言った時、レイモンドが割り込んできた。

「それでは、フィリップ様がエベルと親し気にしていたのは…」

「降臨の儀式にエベルを連れていく手順を話し合っていたんだよ」

「それならば、なぜレイモンドにお話しいただけなかったのですか?俺は、てっきりエベルに心変わりしたのだと‥」

「願いを人に話してしまうと、その願いは叶わないんだ。だから、計画は秘密で進めなきゃならなかった」

「もう一つの可能性って事は、元々の可能性のフィリップはどうなったの?」

私は何とか、この難解な話を整理し、理解しようとしていた。

「今の僕は、呪われたフィリップと呪われなかったフィリップ、二人の僕が同時に存在している状態なんだ」

「一人の人間が同時に二人存在する事なんてできるの?」

「できるんだ、理屈は僕にも分からないけど」

「ドッペルゲンガーですね。二人がお互いの存在を認識しなければ、同時に存在する事は可能ですよ。黒魔導士に変装していたのはその為なんじゃないかな?」

モーザーが魔法研究者らしく解説した。

「そういう事みたい。黒魔導士に変装している間は心も黒魔導士になりきって、フィリップだという事は忘れてたんだ」

冗談みたいな話だが、そこら辺はゾディアックがコントロールしていたのだろう。なぜなら、この計画はゾディアックにとって、自分の失敗を取り戻す千載一遇のチャンスだからだ。

「じゃあ、もう一人のフィリップはどこにいるの?」

「神殿で儀式に立ち会ってるよ。そろそろ聖女になったエベルが僕の願いを聞き入れて、魔王の呪いはパティではなく、神殿にいるフィリップがかけられた事に変えられる頃だと思う。それで二つの可能性は収斂されて確定し、僕たちは一人になる。これが僕の考えたベストな答えなんだ」

フィリップがどこまで理解して話しているのか疑わしいが、要は、私の呪いがフィリップに返るという、私が望んでいた結果になるという事だ。これは喜ばしい。
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