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22 聖女見習いと守護天使
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「聖女見習いのエベルについて話を聞かせていただきたいんですけど」
応対した修道女に告げると「少しお待ちください」と言って奥に下がった。
代わって現れたのは、いかにも貫禄がありそうな女性だった。
「パテックさん、あの衣装、大聖女の正装ですよ…」
モーザーが私に耳打ちした。
「修道院長のゾーネです。エベルはここには居りません」
(まだ何も訊いてないのに…)私はゾーネが何か隠していると直観した。
「とりあえず、中に入れて貰えませんか?」
「何もお話しする事はありません。お帰りください」
ここで引き下がるわけにはいかない。私は魔法石板を取り出し王家の紋章を見せた。
「中に入れてください、これは命令です」
ゾーネは一瞬だけ眉間にシワを寄せたが、すぐ平静に戻った。
「了解しました。しかし、ここは男子禁制、同行の方はご遠慮ください。それから、魔法石板の持ち込みも禁止です、よろしいですか」
「分かりました。モーザー、魔法石板を渡すから、レイモンドと協力してフィリップを探しといて」
「はーい。見つかるかどうか分からないけど、頑張ってみまーす」
モーザーは魔法石板を受け取りながら能天気に返事した。
「さて…何から話しましょうか」
案内された部屋で席に着くと、先に口を開いたのはゾーネだった。
「私が誰だかお判りなんですか?」
「パテック・カラトヴァ、フィリップ王子の婚約者…ですね」
「…なぜ知ってるんです?」
「フフ…エベルを訪ねてくる方で、悪魔を連れているとしたら、それは、王子に代わって魔王の呪いを受けたパテックさんしかありえません」
ゾーネは意味ありげに微笑んだ。
「!…あんた、悪魔が見えるの?」
私は警戒した。
「悪魔が見えるのは私の守護天使ランゲです。そして、ランゲは私にしか見えません、あなたも同じでしょう?」
「ゾディアック、あんたには見えてんの?」
私は背後に浮いているゾディアックに訊いた。
「ヘッヘッヘ、はっきり見えてるぜ。ありゃ一級天使だな」
「本来なら、悪魔を修道院内に入れるなど、あってはならない事です。今回は特例中の特例だという事はご理解ください」
「それはどうも…」
「エベルが、フィリップ王子と共に行方不明になっている事は、私どもも存じております。
しかし、断じて修道院でエベルを匿ったりしてはいません」
「じゃあ、なぜエベルがフィリップをたらし込んだか分かりますか?」
「それは逆でしょう。聖女見習いのエベルが男性に色目を使うなどありえません」
「いや、そういう贔屓目な意見はどうでもいいんで、例えば、エベルに悪魔が憑いている可能性はないですか?」
「それこそありえませんね。聖女候補には守護天使がいて、悪魔の手が及ばないように護っていますから」
「守護天使って聖女になる儀式の時に決まるんじゃないの?」
「降臨の儀式は、天界にいる守護天使を地上に迎え、正式に聖女となる契約を結ぶ儀式です。相手となる守護天使は、聖女候補が生まれた時、すでに決められています」
「聖女候補と守護天使も婚約みたいな関係なのね。でも、まだ正式契約じゃないんでしょう?悪魔の付け込むスキはいくらでもあると思うけど」
「どうもあなたは悪魔に毒され過ぎたようですね…
私は聖女ですから、あなたも呪いから救いたいと思っているのですよ。どうでしょう、ここで悪魔祓いの儀式を受けてみませんか?」
ゾーネが唐突な提案をしてきた。もちろん私に断る理由はない。
「ホォ!いいじゃない。それって簡単にできるの?」
「それは…なんと言っても魔王の呪いです。あなたにも多少のリスクは覚悟していただなければなりませんが…」
ゾーネは言葉を濁した。
「それってどうなのゾディアック?」
「俺に聞くなよ…やるなら受けて立つが、一級同士の戦いだ、結果はどうあれ、修道院を丸ごと消し去るくらいの被害は出るだろうな、ヘッヘッヘ」
ゾディアックはゾーネの守護天使ランゲと睨み合いをしているようだった。
「やっぱやめとくわ!フィリップと名称交換の儀式をすれば確実に助かるんだから、あえてリスクを負いたくなんてないし」
「そうですか、では仕方ありませんね…」
ゾーネは少しほっとしているように見えた。
「だから、エベルが行きそうな場所に心当たりありません?」
「心当たりは…あります」
このゾーネの答えは意外だった。
「えっ、本当に!」
「エベルは来年にも降臨の儀式を受けて聖女になる予定でした。私は何かの都合で予定を早め、儀式を受けるための旅に出たのだろうと考えています」
「その儀式ってのはどこで受けるの?」
「精霊の国、グラスヒュッテです。ただし、ご存知だと思いますが、聖女は男性との恋愛を禁じられています。
あなたの言う通り、エベルがフィリップ王子と駆け落ちしたとするなら、グラスヒュッテに行く事はないでしょうが…」
「つまり、信じるかどうかは私次第ってことね」
「私どもでお手伝いできるのはここまでです。ご健闘をお祈りします」
応対した修道女に告げると「少しお待ちください」と言って奥に下がった。
代わって現れたのは、いかにも貫禄がありそうな女性だった。
「パテックさん、あの衣装、大聖女の正装ですよ…」
モーザーが私に耳打ちした。
「修道院長のゾーネです。エベルはここには居りません」
(まだ何も訊いてないのに…)私はゾーネが何か隠していると直観した。
「とりあえず、中に入れて貰えませんか?」
「何もお話しする事はありません。お帰りください」
ここで引き下がるわけにはいかない。私は魔法石板を取り出し王家の紋章を見せた。
「中に入れてください、これは命令です」
ゾーネは一瞬だけ眉間にシワを寄せたが、すぐ平静に戻った。
「了解しました。しかし、ここは男子禁制、同行の方はご遠慮ください。それから、魔法石板の持ち込みも禁止です、よろしいですか」
「分かりました。モーザー、魔法石板を渡すから、レイモンドと協力してフィリップを探しといて」
「はーい。見つかるかどうか分からないけど、頑張ってみまーす」
モーザーは魔法石板を受け取りながら能天気に返事した。
「さて…何から話しましょうか」
案内された部屋で席に着くと、先に口を開いたのはゾーネだった。
「私が誰だかお判りなんですか?」
「パテック・カラトヴァ、フィリップ王子の婚約者…ですね」
「…なぜ知ってるんです?」
「フフ…エベルを訪ねてくる方で、悪魔を連れているとしたら、それは、王子に代わって魔王の呪いを受けたパテックさんしかありえません」
ゾーネは意味ありげに微笑んだ。
「!…あんた、悪魔が見えるの?」
私は警戒した。
「悪魔が見えるのは私の守護天使ランゲです。そして、ランゲは私にしか見えません、あなたも同じでしょう?」
「ゾディアック、あんたには見えてんの?」
私は背後に浮いているゾディアックに訊いた。
「ヘッヘッヘ、はっきり見えてるぜ。ありゃ一級天使だな」
「本来なら、悪魔を修道院内に入れるなど、あってはならない事です。今回は特例中の特例だという事はご理解ください」
「それはどうも…」
「エベルが、フィリップ王子と共に行方不明になっている事は、私どもも存じております。
しかし、断じて修道院でエベルを匿ったりしてはいません」
「じゃあ、なぜエベルがフィリップをたらし込んだか分かりますか?」
「それは逆でしょう。聖女見習いのエベルが男性に色目を使うなどありえません」
「いや、そういう贔屓目な意見はどうでもいいんで、例えば、エベルに悪魔が憑いている可能性はないですか?」
「それこそありえませんね。聖女候補には守護天使がいて、悪魔の手が及ばないように護っていますから」
「守護天使って聖女になる儀式の時に決まるんじゃないの?」
「降臨の儀式は、天界にいる守護天使を地上に迎え、正式に聖女となる契約を結ぶ儀式です。相手となる守護天使は、聖女候補が生まれた時、すでに決められています」
「聖女候補と守護天使も婚約みたいな関係なのね。でも、まだ正式契約じゃないんでしょう?悪魔の付け込むスキはいくらでもあると思うけど」
「どうもあなたは悪魔に毒され過ぎたようですね…
私は聖女ですから、あなたも呪いから救いたいと思っているのですよ。どうでしょう、ここで悪魔祓いの儀式を受けてみませんか?」
ゾーネが唐突な提案をしてきた。もちろん私に断る理由はない。
「ホォ!いいじゃない。それって簡単にできるの?」
「それは…なんと言っても魔王の呪いです。あなたにも多少のリスクは覚悟していただなければなりませんが…」
ゾーネは言葉を濁した。
「それってどうなのゾディアック?」
「俺に聞くなよ…やるなら受けて立つが、一級同士の戦いだ、結果はどうあれ、修道院を丸ごと消し去るくらいの被害は出るだろうな、ヘッヘッヘ」
ゾディアックはゾーネの守護天使ランゲと睨み合いをしているようだった。
「やっぱやめとくわ!フィリップと名称交換の儀式をすれば確実に助かるんだから、あえてリスクを負いたくなんてないし」
「そうですか、では仕方ありませんね…」
ゾーネは少しほっとしているように見えた。
「だから、エベルが行きそうな場所に心当たりありません?」
「心当たりは…あります」
このゾーネの答えは意外だった。
「えっ、本当に!」
「エベルは来年にも降臨の儀式を受けて聖女になる予定でした。私は何かの都合で予定を早め、儀式を受けるための旅に出たのだろうと考えています」
「その儀式ってのはどこで受けるの?」
「精霊の国、グラスヒュッテです。ただし、ご存知だと思いますが、聖女は男性との恋愛を禁じられています。
あなたの言う通り、エベルがフィリップ王子と駆け落ちしたとするなら、グラスヒュッテに行く事はないでしょうが…」
「つまり、信じるかどうかは私次第ってことね」
「私どもでお手伝いできるのはここまでです。ご健闘をお祈りします」
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