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12 前途多難な旅の始まり
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「遅ーい!」
ここはシャフハウゼン中央駅、待ち合わせている白魔導士はまだ来ない。
王立魔法保安協会から派遣される白魔導士とは、この日に初めて会う事になっていた。
「出発まで、あと三十分しかないのに!」
フィリップが目撃されたというル・ロックル王国、その方面に向かう列車の発車時刻が迫っていた。
「すーいーまーせーん…」
手を振りながら近づいてくる人影が見えた。走っているようだが一向に近づかない。
その人物は、私なら十秒ほどで着く距離を一分以上かけてやって来た。
「ハア、ハア…初めまして白魔導士のモーザーです」
モーザーは肩で息をしながら自己紹介した。ぽっちゃり型の体形で、歳は二十台前半に見える。
「これ、王立魔法保安協会からの紹介状です」
私は差し出された封筒を受け取った。
「私はパテック・カラトヴァ、よろしくね」
「あの…走ったらおなかがすいちゃって。なんか食べる物を買ってきたいんですけど」
「列車が出るまで時間ないわよ?」
「大丈夫です。僕、買い物は早いので」
「まあいいけど…急いでね」
何を根拠に早いと言えるのか、はなはだ疑問だったが私は許可した。
「一緒に何か買ってきましょうか?」
けっこう気はいいヤツなのかも知れない。
「私はいいわ。列車に乗って待ってるから…くれぐれも急いでね」
「大丈夫です。買い物は早いので」
座席に着いた私はゾディアックに話しかけた。
「毎回思うんだけど、魔法使いって悪魔が見えないもんなの?」
「ヘッヘッヘ、そりゃあレベル次第だな。俺は一級悪魔だから、相手が特級魔導士じゃない限りは、姿を隠すも見せるも自由自在だが」
「ふーん、あんたってけっこうハイグレードな悪魔のね。あんたから見て、あの白魔導士ってどうなの?」
「よく分からん、あいつからは魔力が全然感じられないんだ。もし魔力を隠しているんだとしたら、とてつもない魔導士ってことになるがな」
私は封筒から紹介状を取り出して読み上げた。
「なになに…モーザー・メイラン…魔法工学院卒…白魔導士見習い…見習い!」
(くそっ!)私はミドーに騙されたのだと分かった。
紹介状には動画を添付する魔法陣が描かれていた。それを魔法石板で読み取ると、空中にミドーの立体映像が浮かんだ。
「パテック様、お約束どおり白魔導士を手配しましたので、よろしくお願いします」
「何が約束通りよ?見習いじゃない、インチキ!」
私は文句を言った。
「今、インチキとか言いましたね?」
動画のミドーが返事したので私は驚いて周りを見回した。
「ああ、盗み聞きしてるわけじゃないですよ。想定問答です、私は預言者なので…」
「じゃあこれも想定済みよね…バカにしてんの!」
「バカになんかしてませんよ、モーザーは魔法工学院を首席で卒業した期待のホープです。経験こそ少ないですが、魔法のスキルは確かです」
確かかどうか大いに怪しいものだが、今さら代わりが見つかるわけもないので、ミドーの言葉を信じるしかなかった。
ジリリリリ…発車のベルが鳴った。
「え?」
モーザーはまだ買い物から戻っていなかった。
「まーってよー…」
車窓から買い物袋を抱えて走ってくるモーザーが見えた。しかし、無情にも列車は動き出す。
「置いてかな……」
モーザーの姿はみるみる小さく見えなくなり、離れていく駅のホームが景色に溶け込んでいった。
「おいおい、嘘でしょう!」
出会って秒ではぐれるとかあり得ない、これでは何度も急ぐように注意したのが前フリみたいではないか。
「へッヘッヘ、前途多難だな、え、パティ?」
ゾディアックは牙をむき出して笑った。
こうして、私の未来を賭けた旅は、不安含みの内に幕を開けたのだった…
ここはシャフハウゼン中央駅、待ち合わせている白魔導士はまだ来ない。
王立魔法保安協会から派遣される白魔導士とは、この日に初めて会う事になっていた。
「出発まで、あと三十分しかないのに!」
フィリップが目撃されたというル・ロックル王国、その方面に向かう列車の発車時刻が迫っていた。
「すーいーまーせーん…」
手を振りながら近づいてくる人影が見えた。走っているようだが一向に近づかない。
その人物は、私なら十秒ほどで着く距離を一分以上かけてやって来た。
「ハア、ハア…初めまして白魔導士のモーザーです」
モーザーは肩で息をしながら自己紹介した。ぽっちゃり型の体形で、歳は二十台前半に見える。
「これ、王立魔法保安協会からの紹介状です」
私は差し出された封筒を受け取った。
「私はパテック・カラトヴァ、よろしくね」
「あの…走ったらおなかがすいちゃって。なんか食べる物を買ってきたいんですけど」
「列車が出るまで時間ないわよ?」
「大丈夫です。僕、買い物は早いので」
「まあいいけど…急いでね」
何を根拠に早いと言えるのか、はなはだ疑問だったが私は許可した。
「一緒に何か買ってきましょうか?」
けっこう気はいいヤツなのかも知れない。
「私はいいわ。列車に乗って待ってるから…くれぐれも急いでね」
「大丈夫です。買い物は早いので」
座席に着いた私はゾディアックに話しかけた。
「毎回思うんだけど、魔法使いって悪魔が見えないもんなの?」
「ヘッヘッヘ、そりゃあレベル次第だな。俺は一級悪魔だから、相手が特級魔導士じゃない限りは、姿を隠すも見せるも自由自在だが」
「ふーん、あんたってけっこうハイグレードな悪魔のね。あんたから見て、あの白魔導士ってどうなの?」
「よく分からん、あいつからは魔力が全然感じられないんだ。もし魔力を隠しているんだとしたら、とてつもない魔導士ってことになるがな」
私は封筒から紹介状を取り出して読み上げた。
「なになに…モーザー・メイラン…魔法工学院卒…白魔導士見習い…見習い!」
(くそっ!)私はミドーに騙されたのだと分かった。
紹介状には動画を添付する魔法陣が描かれていた。それを魔法石板で読み取ると、空中にミドーの立体映像が浮かんだ。
「パテック様、お約束どおり白魔導士を手配しましたので、よろしくお願いします」
「何が約束通りよ?見習いじゃない、インチキ!」
私は文句を言った。
「今、インチキとか言いましたね?」
動画のミドーが返事したので私は驚いて周りを見回した。
「ああ、盗み聞きしてるわけじゃないですよ。想定問答です、私は預言者なので…」
「じゃあこれも想定済みよね…バカにしてんの!」
「バカになんかしてませんよ、モーザーは魔法工学院を首席で卒業した期待のホープです。経験こそ少ないですが、魔法のスキルは確かです」
確かかどうか大いに怪しいものだが、今さら代わりが見つかるわけもないので、ミドーの言葉を信じるしかなかった。
ジリリリリ…発車のベルが鳴った。
「え?」
モーザーはまだ買い物から戻っていなかった。
「まーってよー…」
車窓から買い物袋を抱えて走ってくるモーザーが見えた。しかし、無情にも列車は動き出す。
「置いてかな……」
モーザーの姿はみるみる小さく見えなくなり、離れていく駅のホームが景色に溶け込んでいった。
「おいおい、嘘でしょう!」
出会って秒ではぐれるとかあり得ない、これでは何度も急ぐように注意したのが前フリみたいではないか。
「へッヘッヘ、前途多難だな、え、パティ?」
ゾディアックは牙をむき出して笑った。
こうして、私の未来を賭けた旅は、不安含みの内に幕を開けたのだった…
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