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2 運命で繋がれた二人

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私は婚約者のフィリップに呼び出され、庭園の噴水前にやってきた。

私の名前はパテック・カラトヴァ、十八歳のうら若き乙女だ。
名前が男の子みたいなのは私の出生が特別なためである。更にその理由によって、両親が平民であるにも関わらず私は国王の城で生活している。

「フィリップ、こんな所に呼び出してなんの用?」

私は噴水の縁に座って本を読んでいたフィリップに声を掛けた。

「パティ、見てよ、庭園のお花が咲き誇ってこんなに綺麗だよ…」

フィリップはいつもの甘ったれた声でこたえた。

「はいはい、綺麗ね。要件はそれだけ?」

「ちょっと…君に、お願いがあって…」

「私に、お願い…」

私は嫌な予感に見舞われた、フィリップのお願いがロクなものであった試しがない。

「まあ聞く聞かないは別として、取り敢えず言ってみなさいよ」

「あのね…僕達って、もうすぐ結婚することになってるでしょう?」

私達は生まれる前からの約束で、成人となる十八歳から二十歳になるまでの間で成婚の儀式(いわゆる結婚式)を挙げる事になっていた。

「そうね、そういう契約の筈よね」

「それなんだけど…ごめんなさい!無かった事にしてもらえないかな…」

フィリップはたまに下らない戯言を言うが、今回はその中でも最低の部類だ。

「一体なんの冗談よ?」

「冗談なんかじゃないよ!僕はいたって本気だよ、パティ」

「なお悪いわっ!こっちこそ冗談じゃないわよ」

私にとってフィリップと結婚しない事イコール死を意味するのだ。そんな話、聞ける訳がない。

「本当にごめんなさい…ぜんぶ僕のせいなんだ、なんと謝ったらいいんだろ…」

「あんたにこの言葉を贈るわ、謝って済む問題じゃない!」

「ごめんなさい…ごめんなさい…僕はどうすればいい?…どうすればパティは許してくれる?…君が靴を舐めろと言うならそうするよ」

フィリップは瞳に涙をためて懇願する。なんなのだ、理不尽なことを言われているのは圧倒的に私なのに、これでは私がいじめているみたいではないか。

「とにかく私はあんたと結婚しないとメチャクチャ困るのよ、それは分かってるわよね?」

私が言い諭すと、ぐずりながらもフィリップはうなずいた。

しかし、これで安心してはいけなかったのだ。なぜこの時点で国王に陳情しなかったのか、私は長きにわたり後悔する事となった。
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