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第26話
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「それでは、黒崎さんがPD-105に搭載したアルファユニットのコピーとは何だったんでしょうか?」
章生の質問に綾可が答えた、
「アルファユニットに実装された制御プログラムは大きく『意識クラス』と『無意識クラス』の二つに分かれています。
意識クラスは心によって制御されていましたから、心を無くしたアルファユニットとそのコピーに残されていた機能は無意識クラスのみです。
そして、無意識クラスの機能は『自己防衛本能』、危機を回避する為の基本機能です。でもそれは身を守る為なら無差別な破壊行動も厭わない危険性を秘めていました」
「なるほど‥一つ疑問なんですが、アルファユニットは存在を隠匿されていたんですよね、どうやって黒崎さんはその存在を知る事が出来たんでしょう?」
「アルファは一度だけテスト施設以外で使われた事があるんです。
3年半前、中東のペドロギスタンで内戦が起こり、新政権を支援するロシア政府を、政権奪取を狙う軍部が核ミサイルで脅すという出来事がありました」
「それは知っていますが、ロシア軍が施設を制圧した筈では?」
「いいえ、強硬手段を使えば簡単に制圧出来たかもしれませんが、核ミサイルを使われてしまったら元も子もありません。作戦は隠密で行われる必要がありました。
そこで白羽の矢が立ったのが開発中のPDでした。
ロシア軍が開発していた光学ステルス技術と合わせる事で軍施設に潜入出来ると考えたのです」
「日本政府はPDの海外使用を許可したんですか?」
「裏で取引があったようですが、日本政府は黙認という立場を取ったようです」
「しかし、実際に使われたのはPDではなくアルファだったという事ですよね?」
「博士は閉鎖されたハヤセのロシア工場でアルファの機体を復元していました。
作戦の内容を知った博士は協力を承諾しましたが、当時のPDの性能では失敗の可能性が高いと考えたのです。
そこで、急遽アルファを兵器仕様に改造して作戦に参加させました。」
「その事を知っているのは?」
「桐生博士とハヤセモータース早瀬社長の二人だけです。でもその時の記録映像がネットに漏洩してしまった、黒崎さんはこの映像と偶然見つけた博士のメモ書きからロシアにアルファがある事を突き止めてしまったのです」
「でも、PD-105にアルファユニットを搭載したとしても、スケープ能力を持ったドライバーでなければ動かせないんでしょう?」
「黒崎さんは大きな勘違いをしていました。紛争に投入されたアルファを無人兵器だと思い込んでいたのです」
「実際には違ったんですね?」
「博士はあくまでも人間が操縦する事に拘っていました。そして、幸か不幸かPDのテストドライバーは第3のスケープ能力者だったのです」
「テストドライバーが一週間休暇を取ったのはその為だったのか‥」
「それじゃあ今のテストドライバーもスケープ能力者なの?」
律華が疑問を投げかけた。それに答えたのは章生だった、
「いえ、黒崎さんはスケープ能力者に代わるものを見つけたんです‥それがアルファユニットのコピーだった」
綾可が後を続ける、
「そう言う事です、二つのアルファユニットを共鳴させる事で制御プログラムが動作する事を発見してしまった‥」
「つまり、それが暴走事故の原因だった訳ですね」
「それは‥無意識クラスのみで動作しているPDは確かに危険な存在ですが、必要に応じて何時でもラムダOS改に切り替え可能な状態に制御されていましたから、それだけで暴走することはないんです」
「二つのユニットを共鳴させた事がPD暴走の原因ではないと?」
「もちろん原因には違いありませんが、直接原因かと言えば、そうではないということです。
黒崎さんはオリジナルのアルファユニットがどれか分からないと言っていましたが、それは嘘です。モーターショーに出展された105に搭載されていたアルファユニットはコピー、オリジナルのアルファユニットが搭載された105はハヤセの倉庫で厳重に保管され、使用される事はありませんでした」
「オリジナルとコピーのユニットに違いはあるんですか?」
「どんなに条件を整えても100パーセント完璧なコピーは不可能なんです。この僅かなエラーが機能上には現れなくてもオリジナルとコピーに決定的な違いを生みます。
そしてあのモーターショーの日、ロンリの中に封印されたアルファの心が、オリジナルのアルファユニットと再会した‥」
「運命だったのよ、あの日、二つに分かれて封印されたアルファが、再び一つになる筈だった‥ジャマさえ入らなければね!」
論里は憮然として言った。
「邪魔‥とは甲斐冬馬さんがPDー105を止めた事ですか?」
章生が訊いた。
「そう、お陰でアルファの心は2カ所に分散して、あたしの記憶も戻りかけのもやもやした状態になっちゃったワケよ」
「しかし、勝手に動いている105を放っておいたら観客に被害が出ていたでしょう」
「それは分かってる、あの場では最善の策だったって」
「という事は、アルファの心は今でもあなたの中にあるんですか?」
「アルファはもう、あたしの中には居ないわ」
「それが村主調査官の気にされている、事故再現シミュレーションの中にわたしが居た理由です。
それを状況を整理しながら説明したいと思います‥」
そう言って綾可はこの出来事の結末を話し始めた。
章生の質問に綾可が答えた、
「アルファユニットに実装された制御プログラムは大きく『意識クラス』と『無意識クラス』の二つに分かれています。
意識クラスは心によって制御されていましたから、心を無くしたアルファユニットとそのコピーに残されていた機能は無意識クラスのみです。
そして、無意識クラスの機能は『自己防衛本能』、危機を回避する為の基本機能です。でもそれは身を守る為なら無差別な破壊行動も厭わない危険性を秘めていました」
「なるほど‥一つ疑問なんですが、アルファユニットは存在を隠匿されていたんですよね、どうやって黒崎さんはその存在を知る事が出来たんでしょう?」
「アルファは一度だけテスト施設以外で使われた事があるんです。
3年半前、中東のペドロギスタンで内戦が起こり、新政権を支援するロシア政府を、政権奪取を狙う軍部が核ミサイルで脅すという出来事がありました」
「それは知っていますが、ロシア軍が施設を制圧した筈では?」
「いいえ、強硬手段を使えば簡単に制圧出来たかもしれませんが、核ミサイルを使われてしまったら元も子もありません。作戦は隠密で行われる必要がありました。
そこで白羽の矢が立ったのが開発中のPDでした。
ロシア軍が開発していた光学ステルス技術と合わせる事で軍施設に潜入出来ると考えたのです」
「日本政府はPDの海外使用を許可したんですか?」
「裏で取引があったようですが、日本政府は黙認という立場を取ったようです」
「しかし、実際に使われたのはPDではなくアルファだったという事ですよね?」
「博士は閉鎖されたハヤセのロシア工場でアルファの機体を復元していました。
作戦の内容を知った博士は協力を承諾しましたが、当時のPDの性能では失敗の可能性が高いと考えたのです。
そこで、急遽アルファを兵器仕様に改造して作戦に参加させました。」
「その事を知っているのは?」
「桐生博士とハヤセモータース早瀬社長の二人だけです。でもその時の記録映像がネットに漏洩してしまった、黒崎さんはこの映像と偶然見つけた博士のメモ書きからロシアにアルファがある事を突き止めてしまったのです」
「でも、PD-105にアルファユニットを搭載したとしても、スケープ能力を持ったドライバーでなければ動かせないんでしょう?」
「黒崎さんは大きな勘違いをしていました。紛争に投入されたアルファを無人兵器だと思い込んでいたのです」
「実際には違ったんですね?」
「博士はあくまでも人間が操縦する事に拘っていました。そして、幸か不幸かPDのテストドライバーは第3のスケープ能力者だったのです」
「テストドライバーが一週間休暇を取ったのはその為だったのか‥」
「それじゃあ今のテストドライバーもスケープ能力者なの?」
律華が疑問を投げかけた。それに答えたのは章生だった、
「いえ、黒崎さんはスケープ能力者に代わるものを見つけたんです‥それがアルファユニットのコピーだった」
綾可が後を続ける、
「そう言う事です、二つのアルファユニットを共鳴させる事で制御プログラムが動作する事を発見してしまった‥」
「つまり、それが暴走事故の原因だった訳ですね」
「それは‥無意識クラスのみで動作しているPDは確かに危険な存在ですが、必要に応じて何時でもラムダOS改に切り替え可能な状態に制御されていましたから、それだけで暴走することはないんです」
「二つのユニットを共鳴させた事がPD暴走の原因ではないと?」
「もちろん原因には違いありませんが、直接原因かと言えば、そうではないということです。
黒崎さんはオリジナルのアルファユニットがどれか分からないと言っていましたが、それは嘘です。モーターショーに出展された105に搭載されていたアルファユニットはコピー、オリジナルのアルファユニットが搭載された105はハヤセの倉庫で厳重に保管され、使用される事はありませんでした」
「オリジナルとコピーのユニットに違いはあるんですか?」
「どんなに条件を整えても100パーセント完璧なコピーは不可能なんです。この僅かなエラーが機能上には現れなくてもオリジナルとコピーに決定的な違いを生みます。
そしてあのモーターショーの日、ロンリの中に封印されたアルファの心が、オリジナルのアルファユニットと再会した‥」
「運命だったのよ、あの日、二つに分かれて封印されたアルファが、再び一つになる筈だった‥ジャマさえ入らなければね!」
論里は憮然として言った。
「邪魔‥とは甲斐冬馬さんがPDー105を止めた事ですか?」
章生が訊いた。
「そう、お陰でアルファの心は2カ所に分散して、あたしの記憶も戻りかけのもやもやした状態になっちゃったワケよ」
「しかし、勝手に動いている105を放っておいたら観客に被害が出ていたでしょう」
「それは分かってる、あの場では最善の策だったって」
「という事は、アルファの心は今でもあなたの中にあるんですか?」
「アルファはもう、あたしの中には居ないわ」
「それが村主調査官の気にされている、事故再現シミュレーションの中にわたしが居た理由です。
それを状況を整理しながら説明したいと思います‥」
そう言って綾可はこの出来事の結末を話し始めた。
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