19 / 28
第19話
しおりを挟む
「解体されたアルファの制御ユニットは廃棄されず、桐生博士が隠し持っていた。そして博士は自ら姿を隠し研究を続けていた‥黒崎さん、あなたは、博士からアルファを託された、もしくは‥盗んだ、違いますか?」
章生の言葉に黒崎は怒りを露わにした。
「盗んだのは博士の方だ、アルファは元々僕のアイディアだったんだ!」
―7年前
「完全自立行動型AIロボットですか‥」
桐生は困惑した表情で黒崎を見た。
「部外者の僕が言うのもなんですが、博士のAIコンピューターなら人間より早くて正確な状況判断ができます。どうしてロボットの操縦を人間が行う事にこだわるんですか?」
「AIが高い知能を持つほど、主導権は人間が握っておく必要があるのです」
「何故です?これは平和に貢献する技術なんですよ!これが実現すれば人間は危険な作業から解放されるわけですし‥」
「危険な作業をリモートで行わせる事には賛成です。瞬間的な判断をAIに頼るのもいいでしょう。でも最終決定は人間が行わなければならない、これは絶対です」
「リモートではレスポンスに限界があります。それじゃ人間の操縦を超える事ができない」
「人が作ったものに、人は最後まで責任を持たなければならない‥君は人間を超える事に拘っているようですが、同時にその危険性を考慮しなければなりません」
「特異点ですか、博士からそんな言い古された話を聞かされるとは‥幻滅しました」
「残念です、君になら理解してもらえると思ったのですが‥」
―3年前
ハヤセモーター社長室
社長の早瀬正造とその前に立つ黒崎。
「入社間もないが君の才能を信じて重要プロジェクトを任せる事にしたよ」
「ありがとうございます」
「経産省の一部とロボット推進委員会の議員が、日本の兵器輸出解禁に向けて水面下で動いている。その目玉となるのがロボット兵士だ。
君にはPDの開発と共に兵器への転用作業も進めてほしい」
―2年6ヶ月前
ハヤセモーター資料室
桐生博士の殴り書きがされた資料を見つけ、震える手で握り締める黒崎。
「‥アルファ‥そういう事だったのか‥くそ、博士が本当に研究していたものはこれだったんだ‥」
―2年前
モスクワ郊外の廃倉庫、棚に置かれた埃まみれの小箱を取り上げる黒崎。
「遂に見付けたぞ、僕は奇跡を手に入れたんだ‥」
入り口に立つ人影。
「どなたかな‥」
「お忘れですか博士?黒崎ですよ」
「ああ、思い出しました、よく講演会に来てくれていましたね。何か御用でしょうか」
桐生は穏やかな笑顔を向ける。
「僕は今、ハヤセモーターでPD設計開発のリーダーをしています」
黒崎は挑戦的に睨んだ。
「‥そうですか、それはおめでとうございます」
言葉とは逆に桐生の表情が曇った。
小箱を桐生にかざす黒崎。
「僕のアイディアを盗みましたね」
「どういう意味ですか?」
「これは何です?そう、僕が考えた完全自立行動型AIロボットの制御ユニットだ!」
「君は勘違いしています、アルファはあくまでも人を目的地に運ぶ為の移動手段です。行動をナビゲートはしても勝手に行動する事はありません」
「嘘だ!僕は知っていますよ、ペドロギスタン紛争に投入されたロボット兵の存在を‥すぐ分かりました、あれこそ博士が目指していた理想のロボットだって」
「違います!あれは間違った選択でした。最後までアルファを破壊の道具に用いてはいけなかったのです」
「間違った?何を言ってるんです、人間に代わって危険な任務を遂行する、これが最良の形じゃないですか。これは僕が使わせてもらいます、僕にはアルファが必要なんだ」
「君が今もそう思っているなら、アルファは渡せません、絶対に」―
「盗んだんじゃない、僕はアルファを取り返したんだ‥」
黒崎は自分に言い聞かせる様に言った。
「それで、桐生博士はどうしたんですか?今どこにいるんですか?」
章生の質問に黒崎は口籠った。
「し、知らないな‥」
その一瞬の沈黙は最悪の結末を想像させるに十分だった。
「まさか‥」
「署で詳しい話を聞かせてもらえますかな?黒崎さん‥」
丹下が黒崎の腕を取った。
「・・・・・」
「電源を切断してPCを押収します」
科捜研の樺島が黒崎のPCを操作する。
「そこ、勝手な事をするな!」
黒崎が血相を変えて振り返った。
章生の言葉に黒崎は怒りを露わにした。
「盗んだのは博士の方だ、アルファは元々僕のアイディアだったんだ!」
―7年前
「完全自立行動型AIロボットですか‥」
桐生は困惑した表情で黒崎を見た。
「部外者の僕が言うのもなんですが、博士のAIコンピューターなら人間より早くて正確な状況判断ができます。どうしてロボットの操縦を人間が行う事にこだわるんですか?」
「AIが高い知能を持つほど、主導権は人間が握っておく必要があるのです」
「何故です?これは平和に貢献する技術なんですよ!これが実現すれば人間は危険な作業から解放されるわけですし‥」
「危険な作業をリモートで行わせる事には賛成です。瞬間的な判断をAIに頼るのもいいでしょう。でも最終決定は人間が行わなければならない、これは絶対です」
「リモートではレスポンスに限界があります。それじゃ人間の操縦を超える事ができない」
「人が作ったものに、人は最後まで責任を持たなければならない‥君は人間を超える事に拘っているようですが、同時にその危険性を考慮しなければなりません」
「特異点ですか、博士からそんな言い古された話を聞かされるとは‥幻滅しました」
「残念です、君になら理解してもらえると思ったのですが‥」
―3年前
ハヤセモーター社長室
社長の早瀬正造とその前に立つ黒崎。
「入社間もないが君の才能を信じて重要プロジェクトを任せる事にしたよ」
「ありがとうございます」
「経産省の一部とロボット推進委員会の議員が、日本の兵器輸出解禁に向けて水面下で動いている。その目玉となるのがロボット兵士だ。
君にはPDの開発と共に兵器への転用作業も進めてほしい」
―2年6ヶ月前
ハヤセモーター資料室
桐生博士の殴り書きがされた資料を見つけ、震える手で握り締める黒崎。
「‥アルファ‥そういう事だったのか‥くそ、博士が本当に研究していたものはこれだったんだ‥」
―2年前
モスクワ郊外の廃倉庫、棚に置かれた埃まみれの小箱を取り上げる黒崎。
「遂に見付けたぞ、僕は奇跡を手に入れたんだ‥」
入り口に立つ人影。
「どなたかな‥」
「お忘れですか博士?黒崎ですよ」
「ああ、思い出しました、よく講演会に来てくれていましたね。何か御用でしょうか」
桐生は穏やかな笑顔を向ける。
「僕は今、ハヤセモーターでPD設計開発のリーダーをしています」
黒崎は挑戦的に睨んだ。
「‥そうですか、それはおめでとうございます」
言葉とは逆に桐生の表情が曇った。
小箱を桐生にかざす黒崎。
「僕のアイディアを盗みましたね」
「どういう意味ですか?」
「これは何です?そう、僕が考えた完全自立行動型AIロボットの制御ユニットだ!」
「君は勘違いしています、アルファはあくまでも人を目的地に運ぶ為の移動手段です。行動をナビゲートはしても勝手に行動する事はありません」
「嘘だ!僕は知っていますよ、ペドロギスタン紛争に投入されたロボット兵の存在を‥すぐ分かりました、あれこそ博士が目指していた理想のロボットだって」
「違います!あれは間違った選択でした。最後までアルファを破壊の道具に用いてはいけなかったのです」
「間違った?何を言ってるんです、人間に代わって危険な任務を遂行する、これが最良の形じゃないですか。これは僕が使わせてもらいます、僕にはアルファが必要なんだ」
「君が今もそう思っているなら、アルファは渡せません、絶対に」―
「盗んだんじゃない、僕はアルファを取り返したんだ‥」
黒崎は自分に言い聞かせる様に言った。
「それで、桐生博士はどうしたんですか?今どこにいるんですか?」
章生の質問に黒崎は口籠った。
「し、知らないな‥」
その一瞬の沈黙は最悪の結末を想像させるに十分だった。
「まさか‥」
「署で詳しい話を聞かせてもらえますかな?黒崎さん‥」
丹下が黒崎の腕を取った。
「・・・・・」
「電源を切断してPCを押収します」
科捜研の樺島が黒崎のPCを操作する。
「そこ、勝手な事をするな!」
黒崎が血相を変えて振り返った。
0
お気に入りに追加
2
あなたにおすすめの小説
グラディア(旧作)
壱元
SF
ネオン光る近未来大都市。人々にとっての第一の娯楽は安全なる剣闘:グラディアであった。
恩人の仇を討つ為、そして自らの夢を求めて一人の貧しい少年は恩人の弓を携えてグラディアのリーグで成り上がっていく。少年の行き着く先は天国か地獄か、それとも…
※本作は連載終了しました。
蘇生魔法を授かった僕は戦闘不能の前衛(♀)を何度も復活させる
フルーツパフェ
大衆娯楽
転移した異世界で唯一、蘇生魔法を授かった僕。
一緒にパーティーを組めば絶対に死ぬ(死んだままになる)ことがない。
そんな口コミがいつの間にか広まって、同じく異世界転移した同業者(多くは女子)から引っ張りだこに!
寛容な僕は彼女達の申し出に快諾するが条件が一つだけ。
――実は僕、他の戦闘スキルは皆無なんです
そういうわけでパーティーメンバーが前衛に立って死ぬ気で僕を守ることになる。
大丈夫、一度死んでも蘇生魔法で復活させてあげるから。
相互利益はあるはずなのに、どこか鬼畜な匂いがするファンタジー、ここに開幕。
忘却の艦隊
KeyBow
SF
新設された超弩級砲艦を旗艦とし新造艦と老朽艦の入れ替え任務に就いていたが、駐留基地に入るには数が多く、月の1つにて物資と人員の入れ替えを行っていた。
大型輸送艦は工作艦を兼ねた。
総勢250艦の航宙艦は退役艦が110艦、入れ替え用が同数。
残り30艦は増強に伴い新規配備される艦だった。
輸送任務の最先任士官は大佐。
新造砲艦の設計にも関わり、旗艦の引き渡しのついでに他の艦の指揮も執り行っていた。
本来艦隊の指揮は少将以上だが、輸送任務の為、設計に関わった大佐が任命された。
他に星系防衛の指揮官として少将と、退役間近の大将とその副官や副長が視察の為便乗していた。
公安に近い監査だった。
しかし、この2名とその側近はこの艦隊及び駐留艦隊の指揮系統から外れている。
そんな人員の載せ替えが半分ほど行われた時に中緊急警報が鳴り、ライナン星系第3惑星より緊急の救援要請が入る。
機転を利かせ砲艦で敵の大半を仕留めるも、苦し紛れに敵は主系列星を人口ブラックホールにしてしまった。
完全にブラックホールに成長し、その重力から逃れられないようになるまで数分しか猶予が無かった。
意図しない戦闘の影響から士気はだだ下がり。そのブラックホールから逃れる為、禁止されている重力ジャンプを敢行する。
恒星から近い距離では禁止されているし、システム的にも不可だった。
なんとか制限内に解除し、重力ジャンプを敢行した。
しかし、禁止されているその理由通りの状況に陥った。
艦隊ごとセットした座標からズレ、恒星から数光年離れた所にジャンプし【ワープのような架空の移動方法】、再び重力ジャンプ可能な所まで移動するのに33年程掛かる。
そんな中忘れ去られた艦隊が33年の月日の後、本星へと帰還を目指す。
果たして彼らは帰還できるのか?
帰還出来たとして彼らに待ち受ける運命は?
寝室から喘ぎ声が聞こえてきて震える私・・・ベッドの上で激しく絡む浮気女に復讐したい
白崎アイド
大衆娯楽
カチャッ。
私は静かに玄関のドアを開けて、足音を立てずに夫が寝ている寝室に向かって入っていく。
「あの人、私が
校長室のソファの染みを知っていますか?
フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。
しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。
座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる