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9 真夜中の会議(前編)
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空模様はみるみる悪くなり、激しい雨が降り出した。
ルキアはドルチェに肩を支えられながら歩いていた。
「運が無かったなあ、ルキア。近くに雷雲があったせいで雷エネルギーが集まり過ぎちまうとはな」
「……」
ルキアは無言だった。僕に負けた事がよほど悔しかったのだろう。そんな彼をエクセリーヌが慰める。
「気を落とさないでね、誰もあなたの能力を疑ったりしないから」
しかし、ブライツは愛弟子に厳しい言葉を投げる。
「どんな形であれ勝負は勝負だ。ルキア、アストの勝ちを認めるな?」
「……はい」
絞り出すように答えると再び黙ってしまった。
「アスト、リーダー就任の挨拶をたのむ」
ブライツに名前を呼ばれ、存在感を消していた僕はドキリとした。
「あ、あの…もしも皆さんが納得いかないなら、別にこのパーティーから外していただいてもけっこうなんですけど…」
元々この場所に来たのは観光目的であって、魔物退治のパーティーに参加する気なんてなかった。僕は戦うのが大嫌いだし、この際その意志をはっきり伝えておこうと思ったのだ。
「リーダー以外はやりたくないって事か?上等だ、お前がどんなに無能だったとしても、俺がフォローして無敵士団の名誉を守ってみせる!」
ルキアには僕の言葉が、まるで逆の意味に聞こえていた。
「よく言ったルキア!」
「ルキア、立派よ」
ドルチェとエクセリーヌが口々に褒める。
「よし、皆、リーダーを支えて新しいチームを盛り上げてくれ。よろしく頼んだ」
ブライツは満足気な表情で話をまとめた。結局、僕はまた本心を伝えるタイミングを失ってしまった。
「新メンバー同士よろしくね、リーダー!」
アテッサが馴れなれしく僕の肩を叩いた。場の空気を変えようとした彼女なりの優しさなのだろう。
ドルチェもそれに習うように僕の肩を揉んだ。
「まあ何だ…しばらくは気まずさが残るかもしれんが仲良くやろうや。よろしく頼むぜアスト!」
その日の夜、ルキアを除くメンバーがブライツの屋敷に集まった。
アストとアテッサにはそれぞれ部屋が用意され、皆でエクセリーヌの作った夕食を囲んだ後は部屋で休んでいた。
ブライツの書斎、ドルチェとプレザージュを交えた三人が話し合っている。
「誰にも知られずに北の聖殿の調査か…」
ドルチェは難しい顔で腕を組んだ。
「障壁消失の謎を調査している事を魔王信者が知れば、どんな妨害を仕掛けてくるか分かりませんからね」
プレザージュが説明する。
「難しい判断が必要になるだろう。熟練のドルチェにしか頼めん役わりだ」
ブライツが言葉を継いだ。
「チームのメンバーにまで秘密とは…せめてルキアには話しておいた方がいいんじゃないか、ワシに何かあったらどうする?」
「縁起でもない事を言うな。『敵を欺くには、まず味方から』と言うだろう」
「しかしな…バレないようにチームを導くなんて器用な事、ワシにできるかな?」
「チームが別になっても、大まかな指示は私から連絡しますので安心してください」
「プレザージュがそう言うなら信じるが…これがワシの最後の仕事になるかも知れんからな、せいぜい頑張るさ…」
「…以上で話は終わりだドルチェ、時間を取らせたな、家で家族が待っているだろう?」
「…なあブライツ、唯一人の愛弟子とはいえ、ルキアに厳しすぎるんじゃないか…
気付いてるか?アイツが無意識に人と距離を置く一匹狼になったのはお前さんの影響だぞ」
ルキアはドルチェに肩を支えられながら歩いていた。
「運が無かったなあ、ルキア。近くに雷雲があったせいで雷エネルギーが集まり過ぎちまうとはな」
「……」
ルキアは無言だった。僕に負けた事がよほど悔しかったのだろう。そんな彼をエクセリーヌが慰める。
「気を落とさないでね、誰もあなたの能力を疑ったりしないから」
しかし、ブライツは愛弟子に厳しい言葉を投げる。
「どんな形であれ勝負は勝負だ。ルキア、アストの勝ちを認めるな?」
「……はい」
絞り出すように答えると再び黙ってしまった。
「アスト、リーダー就任の挨拶をたのむ」
ブライツに名前を呼ばれ、存在感を消していた僕はドキリとした。
「あ、あの…もしも皆さんが納得いかないなら、別にこのパーティーから外していただいてもけっこうなんですけど…」
元々この場所に来たのは観光目的であって、魔物退治のパーティーに参加する気なんてなかった。僕は戦うのが大嫌いだし、この際その意志をはっきり伝えておこうと思ったのだ。
「リーダー以外はやりたくないって事か?上等だ、お前がどんなに無能だったとしても、俺がフォローして無敵士団の名誉を守ってみせる!」
ルキアには僕の言葉が、まるで逆の意味に聞こえていた。
「よく言ったルキア!」
「ルキア、立派よ」
ドルチェとエクセリーヌが口々に褒める。
「よし、皆、リーダーを支えて新しいチームを盛り上げてくれ。よろしく頼んだ」
ブライツは満足気な表情で話をまとめた。結局、僕はまた本心を伝えるタイミングを失ってしまった。
「新メンバー同士よろしくね、リーダー!」
アテッサが馴れなれしく僕の肩を叩いた。場の空気を変えようとした彼女なりの優しさなのだろう。
ドルチェもそれに習うように僕の肩を揉んだ。
「まあ何だ…しばらくは気まずさが残るかもしれんが仲良くやろうや。よろしく頼むぜアスト!」
その日の夜、ルキアを除くメンバーがブライツの屋敷に集まった。
アストとアテッサにはそれぞれ部屋が用意され、皆でエクセリーヌの作った夕食を囲んだ後は部屋で休んでいた。
ブライツの書斎、ドルチェとプレザージュを交えた三人が話し合っている。
「誰にも知られずに北の聖殿の調査か…」
ドルチェは難しい顔で腕を組んだ。
「障壁消失の謎を調査している事を魔王信者が知れば、どんな妨害を仕掛けてくるか分かりませんからね」
プレザージュが説明する。
「難しい判断が必要になるだろう。熟練のドルチェにしか頼めん役わりだ」
ブライツが言葉を継いだ。
「チームのメンバーにまで秘密とは…せめてルキアには話しておいた方がいいんじゃないか、ワシに何かあったらどうする?」
「縁起でもない事を言うな。『敵を欺くには、まず味方から』と言うだろう」
「しかしな…バレないようにチームを導くなんて器用な事、ワシにできるかな?」
「チームが別になっても、大まかな指示は私から連絡しますので安心してください」
「プレザージュがそう言うなら信じるが…これがワシの最後の仕事になるかも知れんからな、せいぜい頑張るさ…」
「…以上で話は終わりだドルチェ、時間を取らせたな、家で家族が待っているだろう?」
「…なあブライツ、唯一人の愛弟子とはいえ、ルキアに厳しすぎるんじゃないか…
気付いてるか?アイツが無意識に人と距離を置く一匹狼になったのはお前さんの影響だぞ」
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