上 下
17 / 18

第17話 私を呼ぶ声が聞こえました

しおりを挟む
「ありがとう!ありがとう…」

ダルトンは満面の笑顔に涙を浮かべながら何度も何度も言いました。
それから私の首にペンダントをかけると、力強く私を抱きしめました。

「私を幸せにしてください」

「はい、もちろんです…もちろんですとも!」

これで良かったのだ、きっとこれが私に用意されたハッピーエンドなのだ、そう思った時…

『エレーヌ!』

どこからか私を呼ぶ声が聞こえました。その声は、(エドワード?)いえ、それはただの幻聴でした。
しかし、私の頭の中で、あの日のエドワードの表情がフラッシュバックしました。
「君の笑顔に惹かれました」そう言ったエドワードの笑顔に、私もまた恋をしたのでした。

なんで忘れていたのだろう?私はエドワードへの愛を疑う自分を創造しました。そうする事で、もしエドワードの心が離れてしまった時でも自分の心が傷つかないように、自分自身への言い訳を用意していたのでした。
本当の私はこんなにも…

『エドワードを愛している!』

私はエドワードの腕を振りほどくと、ペンダントを首から外しました。
ダルトンは訳が分からず動揺しています。
私は後ずさりしながら、近くの机の上にペンダントを置きました。

「…あなたを幸せにできるのは、私ではないのですね」

ダルトンは優しく笑いました。でもその顔は泣いているようにも見えました。

「ごめんなさい」

私はダルトンに背を向けると、集会所を出て駈け出しました。
フローリアが私に向かって何か叫んでいるのが見えましたが、私はそれを無視して走り続けました。

村を飛び出した私は走り続けます。なんで走っているのか、どこに向かっているのか、理由も目的も分からないまま…


私は丁字路まで来ました。右に行けばコーディの屋敷が建つ丘、左に行けば町に着きます。私は左に曲がりました。

町に向かって歩み出した時、背中に迫る気配を感じて私は振り返りました。暗闇の中に光が浮かんでいます。
それは馬車の灯でした。
もう私はコーディを恐れてはいなかったので、馬車を見ても逃げたりすることはありません。

「エレーヌ様!」

御者台のジェーンが私を呼びました。

「何かあったの?」

「屋敷にエドワード様が訪ねてこられて…」

「エドワードが?」

(そんな、まさか)私は耳を疑いました。

その時、屋敷から炎が上がるのが見えました。

「火事?ジェーン、村に行って人手を集めてきて!」

そう言ってから私は屋敷に向かって駈け出しました。

あの夜はあんなに遠く感じた道のりが、今の私にはまるで苦になりません。
私は比べられないほど逞しくなっていたのです。

屋敷は激しく燃え上っていて近づく事ができません。

「エドワード!中にいるの?」

私が力の限り叫んだ時、炎の中からコーディを抱えたエドワードが現れました。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

薬屋の一人娘、理不尽に婚約破棄されるも……

四季
恋愛
薬屋の一人娘エアリー・エメラルドは新興領地持ちの家の息子であるカイエル・トパーヅと婚約した。 しかし今、カイエルの心は、エアリーには向いておらず……。

【完結】シェアされがちな伯爵令嬢は今日も溜息を漏らす

皐月 誘
恋愛
クリーヴス伯爵家には愛くるしい双子の姉妹が居た。 『双子の天使』と称される姉のサラサと、妹のテレサ。 2人は誰から見ても仲の良い姉妹だったのだが、姉のサラサの婚約破棄騒動を発端に周囲の状況が変わり始める…。 ------------------------------------ 2020/6/25 本編完結致しました。 今後は番外編を更新していきますので、お時間ありましたら、是非お読み下さい。 そして、更にお時間が許しましたら、感想など頂けると、励みと勉強になります。 どうぞ、よろしくお願いします。

この度、皆さんの予想通り婚約者候補から外れることになりました。ですが、すぐに結婚することになりました。

鶯埜 餡
恋愛
 ある事件のせいでいろいろ言われながらも国王夫妻の働きかけで王太子の婚約者候補となったシャルロッテ。  しかし当の王太子ルドウィックはアリアナという男爵令嬢にべったり。噂好きな貴族たちはシャルロッテに婚約者候補から外れるのではないかと言っていたが

悪役令嬢に転生して主人公のメイン攻略キャラである王太子殿下に婚約破棄されましたので、張り切って推しキャラ攻略いたしますわ

奏音 美都
恋愛
私、アンソワーヌは婚約者であったドリュー子爵の爵士であるフィオナンテ様がソフィア嬢に心奪われて婚約破棄され、傷心…… いいえ、これでようやく推しキャラのアルモンド様を攻略することができますわ!

【完結】従姉妹と婚約者と叔父さんがグルになり私を当主の座から追放し婚約破棄されましたが密かに嬉しいのは内緒です!

ジャン・幸田
恋愛
 私マリーは伯爵当主の臨時代理をしていたけど、欲に駆られた叔父さんが、娘を使い婚約者を奪い婚約破棄と伯爵家からの追放を決行した!     でも私はそれでよかったのよ! なぜなら・・・家を守るよりも彼との愛を選んだから。

光の王太子殿下は愛したい

葵川真衣
恋愛
王太子アドレーには、婚約者がいる。公爵令嬢のクリスティンだ。 わがままな婚約者に、アドレーは元々関心をもっていなかった。 だが、彼女はあるときを境に変わる。 アドレーはそんなクリスティンに惹かれていくのだった。しかし彼女は変わりはじめたときから、よそよそしい。 どうやら、他の少女にアドレーが惹かれると思い込んでいるようである。 目移りなどしないのに。 果たしてアドレーは、乙女ゲームの悪役令嬢に転生している婚約者を、振り向かせることができるのか……!? ラブラブを望む王太子と、未来を恐れる悪役令嬢の攻防のラブ(?)コメディ。 ☆完結しました。ありがとうございました。番外編等、不定期更新です。

無粋な訪問者は良縁を運ぶ

ひづき
恋愛
婚約破棄ですか? ───ふふ、嬉しい。 公爵令嬢リアーナは、大好きなストロベリーティーを飲みながら、侍従との会話を楽しむ。

【完結】名前もない悪役令嬢の従姉妹は、愛されエキストラでした

犬野きらり
恋愛
アーシャ・ドミルトンは、引越してきた屋敷の中で、初めて紹介された従姉妹の言動に思わず呟く『悪役令嬢みたい』と。 思い出したこの世界は、最終回まで私自身がアシスタントの1人として仕事をしていた漫画だった。自分自身の名前には全く覚えが無い。でも悪役令嬢の周りの人間は消えていく…はず。日に日に忘れる記憶を暗記して、物語のストーリー通りに進むのかと思いきや何故かちょこちょこと私、運良く!?偶然!?現場に居合わす。 何故、私いるのかしら?従姉妹ってだけなんだけど!悪役令嬢の取り巻きには絶対になりません。出来れば関わりたくはないけど、未来を知っているとついつい手を出して、余計なお喋りもしてしまう。気づけば私の周りは、主要キャラばかりになっているかも。何か変?は、私が変えてしまったストーリーだけど…

処理中です...