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第9話 さよなら私は屋敷を脱出します

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天井から垂れる水に気付いたダルトンは上を見上げました。

二階の私と一階のダルトン、私は初めて彼の顔をはっきりと見る事ができました。誠実という言葉を絵に描いたような人好きのする顔です。その頬がみるみる赤く染まっていくのに気付きました。
そう!こんな事を考えている場合ではなかったのです。私は一糸まとわぬ姿で彼に向かって足を開いている状態です。あまりの異常事態に私は思考停止し、動けなくなっていました。

ダルトンはうつむくと何事もなかったように黙ってその場を立ち去りました。

(見られた!見られた!!見られた!!!)私はパニックに陥りました。

もうここにはいられない。ダルトンと最悪の出会い方をした私は、恥ずかしくていたたまれない気持ちでした。こんな気持ちでここに居続けるなんて無理です。私は早急に屋敷を脱出しようと決意しました。

方法は二つ考えられます。
プラン1は昼間に鍵の掛かっていない屋敷の玄関を堂々と歩いて出る方法。この場合、以後すべての行動を裸で行わなければならないのが最大のネックです。
プラン2は夜間に部屋の窓から飛び降りて脱出する方法。この場合のリスクは当然、私の足が二階から飛び降りた着地の衝撃に耐えられるかということです。
いずれの方法でも正門まで辿り着けば、カンヌキぐらいは私でも何とか開けられるだろうと思われました。

さて私が選ぶのは、当然プラン2の一択です。やはり逃げるなら衣服はほしい。土の柔らかい花壇に降りればぎりぎり無傷で済むんじゃないかという目算もありました。

計画が決まれば後は決行あるのみです。私はいつもの様にコーディと不毛な会話をしながら、心の中で早く帰るように念じていました。

そして真夜中、いよいよその時がやってきました。
私が窓枠に足を掛けると、ナイトドレスが風になびきました。

「さようなら…」

望んだ事ではないといえ、数ヶ月を過ごした部屋です。私は別れのあいさつをしました。

私は壁から2メートルほど離れた花壇に狙いを定めると、思い切って飛び出しました。

ナイトドレスが空気をはらんでバタバタとはためきます。

次の瞬間、ドサッと音がして私は狙い通り花壇に着地しました。

(やった!)と思って立ち上がると、右の足首があらぬ方向に曲がっていました。私は賭けに負けたのです。

それでも私は右足を引きずりながら這うように正門に向かっていきます。
しかし、アドレナリンが切れてきたのか、次第に激痛が襲ってきて遂には一歩も進めなくなりました。

(せっかくここまで来たのに…)私は目前に迫った正門に手を伸ばし、届かない悔しさに涙しました。そして痛みに耐えきれなくなり、そのまま気を失いました…
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