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第5話 私は屋敷の中を調べました

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廊下に出た私は、その生活感の無さに違和感を覚えました。廊下の造りは部屋と同じで何の装飾もなく、床はやはりフローリングです。

私は壁際にしゃがみ込み、すり足で少しずつ進んでいきました。それにしても人気のない屋敷です。私は思い切って適当な部屋に入ってみました。
中は…ベッドもテーブルも、椅子の一脚すらありません。まさにもぬけの殻です。

私は次々と部屋のドアを開けてみますが、どの部屋も同じように空っぽでした。

廊下の曲がり角に到達した時、角の向こうからメイドが現れました。私を見下ろすメイドは無表情で、その感情をはかり知る事はできません。私は何か言い訳を考えなければと思いました。

「あの…トイレを使いたいのだけど…」

とっさに思い付いた理由としては真っ当な方でしょう。メイドは無言で私の手を引くと、ひとつのドアの前まで案内しました。そしてドアを開けると中を指差しました。
そこは他の部屋より二回り狭く、中央に人がまたげるくらいの穴が開いています。私が納得してうなずくと、メイドはどこかに行ってしまいました。

本当はトイレに用はなかったのですが、せっかくなので中に入り穴を覗いてみなした。
二階の床に開けられたその穴は、そのまま一階に通じており、その床には干し草が敷き詰められています。
なるほど、これは干し草で受け止めた排泄物を回収して肥やしに使う仕組みのようです。穴に落ちたら危険ですが、東洋のある国では一般的な方法だと聞いた事があります。
しかし、この国では持ち運び便器にためて川に流す方法が一般的なので、この屋敷を造った人物はかなり先進的な考えを持っていると思われました。


部屋に戻るとテーブルの上にサンドイッチが用意されていました。ここに来てからサンドイッチ以外の食事が出た事はありません、きっとナイフやフォークは凶器になるので使わせない気なのでしょう。
私はサンドイッチをほおばりながら考えを整理してみました。

どうやらこの屋敷にいるのは私とメイド達だけで、あの少年は別の場所に住んでいるようです。
そして、メイドの反応を見る限り、私は屋敷内を自由に動き回って構わないようでした。
だとすると、この徹底して布を排した環境は、私を丸腰に保つ事でメイドの安全を確保するためと考えられます。もちろんあの少年がただの変態という可能性の方が高いのですが…

 * * *

その日の夜も私が入浴を終え、ナイトドレスを着た後になって少年が現れました。そういったところは妙に律儀です。

「エレーヌ、どうです、エドワードの呪縛は解けましたか?」

少年は相変わらず見当違いな事を言っています。

「いったい何が目的なんですか!私に何をして欲しいの?」

私は少年を睨みつけました。

「気付いて欲しいんだよ、君はエドワードなんか愛していない事、僕こそ君にふさわしいという事」

少年は私に笑い掛けます。

(もう!話になんないわ、コイツ…コイツ、何て名前だっけ?)
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