9 / 49
ひと段落して
しおりを挟む
「大丈夫だったかい!?トウゴくん!」
駆け寄ってきたトーラさんが心配そうに聞く。
「えぇ、幸い何ともありません。クッタさんも大丈夫です。でも……クッタさんの売り物の盾に傷がついてしまいましたね……すいません」
「なぁに!トウゴくんは命の恩人なんだ!そんな安物の盾ひとつで命が助かったんなら安いもんだよ!どうせだからその盾はトウゴくんにプレゼントするとしよう!」
「え?いいんですか?」
傷物にしちゃった上にプレゼントまでくれるなんて、クッタさんどこまでいい人なんだ。
「それとそこの君!君にも助けられたね!恩に着るよ!ええっと……」
「ああ、オレはゼニ、ゼニ・サッコーカって言うんだ。トウゴにクッタさん、それとあんたは?」
「ボクはトーラだ」
「そうか!トーラさんか!よろしく!」
なんかオレだけ呼び捨てだった様な?
「その背中の籠と武器……もしかして王都でちょっとした噂になっている『武器狩り』って君の事かい?」
「あぁー、なんかそんな事酒場でも言われたなぁ。ま、王都の辺りで何回か襲ってきた山賊の武器はいただいといたからな。噂ってなぁすぐ広まるもんだなぁ」
武器狩り?なんか物騒だなあ。
「とにかく何とか助かったみたいだな。他の人は大丈夫なんだろうか?」
すると向こうから男性がひとり駆け寄って来るのが見えた。
「おぉーい!トーラ!クッタさん!大丈夫だったか!?」
「あぁメマさん、ボクたちは何ともありませんよ。他の人たちは?」
メマさんと呼ばれたおじさんはオレたちの元に着くと両膝に手を置きハァハァ方で息をする。
「そうか……それは良かった。あっちのコドクグモも全部片付いた様なんだ。今回はそんなに多くはいなかったみたいで助かったよ。それでもまた怪我人と毒にかかってしまった人が出て……」
オレはトーラさんを見て大きくうなずく。
「オレ、ヒールが使えるんです。それとキュアも。毒も早くにキュアをかければすぐ毒が消えるんじゃないですか?善は急げですよ」
「え……?君魔法が使えるのかい!?こんな奇跡みたいな偶然……」
「とにかく急ぎましょう。早いに越したことはない」
「じゃあメマさん、ボクとトウゴくんを怪我人の所に案内してください」
「じゃあ私は店の物を片付けて飯屋で何か腹ごしらえでもしているとするよ。ゼニくんも一緒にどうだい?命を救ってくれたお礼としちゃ安いかも知れんがご飯ぐらい奢るよ?」
「まじかぁ!そりゃあお言葉に甘えます!やったぁ!」
チョロい奴だなあいつ。オレは再度トーラさんに目で合図してメマさんに向き直る。
「行きましょうメマさん」
「そ、そうだな!急ごう!」
駆け出すメマさんの後についてオレたちも走り出した。
「とりあえずこれで大きな怪我をした人と、急ぎで解毒が必要な人は全部ですよね?」
「あぁ、たぶんこれで今すぐ治療が必要な人は全部だよ。本当にお疲れ様、トウゴくん。怪我人どころか壊れた家や道路なんかまで直してもらっちゃって……。君にはなんてお礼をしていいのやら……」
「いやぁ、全然いいですよ!そんな大した事じゃないですから」
怪我人にヒールを、毒に犯された人にはキュアをかけまくって、ついでに壊された家や道路なんかも修復した。実はこのスキル、かなり有用なのでは?ただ家々を修復していて気がついた事がある。それはおそらく修復出来る条件には時間経過があると言うこと。何回か修復をしても全く反応が無かった物があって、それを見ていたトーラさんがそこは何ヶ月も前に壊れた建物だと教えてくれた。修復出来なくなる時間経過がいったいどれぐらいなのかは分からないけど、これは追々検証が必要かも。
とにかくそんなこんなしているうちに日もどっぷりと落ち辺りは暗くなっていた。
「今日はこの辺にしようトウゴくん。さすがに疲れただろ?もちろん今日はボクの家に泊まって行ってくれ。お母さんもきっと君の分もご飯を用意しているはずだからさ」
「あー、そうですね」
何となくあの元気いっぱいなお母さんが晩ご飯を作っている様子が目に浮かんだ。
「じゃあ今日はお言葉に甘えます。それに明日はまだ長い期間毒に犯されたままの人の治療もしなきゃならないですからね」
「本当に……ありがとう」
「いやいや!オレは大した事してませんって!今晩泊めてもらえるんだからそれぐらいなんでもないですよ!」
「そうは言うけど……」
「ささ!トーラさん行きましょう!早くしないと真っ暗になっちゃいますよ!」
オレはもじもじするトーラさんの背中を押して強引に家路に着いた。
途中、飲食店らしき前を通ると中から大声で声をかけられた。
「おおー!トウゴじゃん!どした!?怪我人の方は終わったんか!?」
店から飛び出して来たのはゼニと名乗ったあいつだ。
うわっ酒くっせぇ。さっきから今まで飲んでたのかよこいつ。
「ご苦労ご苦労!やるねぇお前!」
いてて!バシバシすんな!
「痛てぇよ酔っ払い!てかお前酒が飲める歳なのかよ!」
「ああん?酒を飲むのに歳も牛もねぇだろうよ?何言ってんだお前?おもしれぇな!」
ゼニが豪快に笑う。この世界ではそうなんか?じゃ今度チャレンジしてみよう。
「おおーい!そこの飲んだくれぇ!なぁに絡んでんだぁ?」
後ろから赤ら顔のクッタさんも出てきた。
「ああ、これはトーラくんとトウゴくん。ご苦労だったね。無事終わったのかい?」
「えぇ、トウゴくんのお陰でみんなすっかり元気ですよ。ついでに壊れた家なんかも直してもらっちゃって。トウゴくんは命の恩人ってだけでは足りませんよ」
「あらぁー!トウゴくんはえらい!えらいぞぉ!」
頭をわしわしするな!なんだこいつ!
「ああそうだ、良かったらクッタさんとゼニくんも一緒に家に来ないかい?トウゴくんに晩ご飯をご馳走するのもあるけど、今日の被害と今後について色々あると思うから、2人の話も聞けるとありがたい。特にゼニくんはここの人間じゃないだろう?この村に着くまでの様子なんかも教えてもらえると助かると思うからさ」
「お安い御用さぁ!ついて行きますぜぇ!へへ!」
「こいつめんどくせぇ。行きましょうクッタさん。黙ってたって着いてきますよこいつ。ささ、トーラさん行きましょ行きましょ」
「なぁんだよぅ!トウゴぉー!つれねぇなあー!照れんなよー!」
「照れてねぇ!うるせぇ!行くぞほら!」
着いてきてるかどうか振り返りもしなかったけど、とにかく歩き出した。トーラさんもクッタさんも苦笑いだ。
「待てよぅ~歩くの早いよぅ~真っ直ぐ歩けないよぅ~」
無視しよう。
「さぁさ!まだまだたくさんあるわよぉ~!ジャンジャン食べてねー!」
「あざす!お母さん!遠慮しないでいただきます!」
なんでお前が1番乗り気で食ってんだよゼニ。飲んだり食ったり忙しいやつだ。
「あらぁ?トウゴくんは結構少食なのね?もうお腹いっぱい?」
「いやいやいや、あっちが大食いなだけなんじゃ……?とりあえずお腹はいっぱいですよ」
苦笑いしか出来ん。
「まぁまぁ、食べ盛りの上に昼間あんな戦いをした後だ、お腹も空くだろう。幸い今日はトウゴくんからもらったホーンボアの肉もあるしな。たくさん食べなさい。ところでだ、ゼニくん、君は旅の人なんだね?という事は王都から来たのかい?あ、食べながらでいいよ」
「ほぅっすね、ほうとの方から来ました」
「飲み込んでからしゃべれ。お行儀悪いぞ」
オレはお行儀悪いのは良くないと思う。ゼニはもぐもぐごくんしてから続ける。
「そりゃあこの村に来るには王都から来る以外は険しい山道ばかりですからね。特別この村に用があったって訳じゃ無いんだけど、この辺りにはホーンボアやらニードルラットなんて言う武器の素材にいい魔獣もいるって聞いたもんで、そう遠くもないからちょっと行ってみようと思ったんスよ。んで村に着くやいなやコドクグモとか言う気持ち悪い魔獣の群れが村を襲っているところに出くわしたって訳。あ、このステーキおかわりあります?」
いやお母さん、そこはニコニコしなくていいから。話の途中だぞゼニ。
「群れと言っても今回は7匹。君たちのお陰もあってほぼ被害は出ていないけれどこのままと言う訳にはいかんな……」
「お父さん、やっぱりあいつらの巣のある場所を調べるべきだよ。これ以上王都に期待したって何も変わらないよ」
トーラさんは強い口調だ。お父さん、つまり村長は腕組みをして考え込む。
「その事についてですが、王都からの討伐隊はしばらく期待しない方がいいかも知れませんよ」
「それはどう言う事かね?クッタさん?」
「私は普段は王都を中心に商売をしています。ここの所王都では『誤ちの森』のエンシェントエルフとの揉め事が大きくなって来ているのですよ。とても近隣の問題に兵を割く程の余裕は無いかと」
「そうなんですか……」
「お父さん、このままでは被害は広がるばかりだよ。それに幸運な事にトウゴくんのお陰で毒に犯されて動けなかった人も治す事が出来る。そうなれば戦える人だって増えるんだよ。このままではいずれこの村を捨てなければならなくなってしまうよ」
「そうだな……、まずは明日にでもトウゴくんに治療をお願いしよう。まだこの村に着いて間もないのに巻き込んでしまって申し訳ない。その後元気になった人たちを交えてどうするか決めんといかんな」
「もしやるってんならオレも参加するぜ。もちろんオレが倒した魔獣の素材はもらって行くけどな!」
「ゼニくん、いいのかい?君はこの村とは関係の無い人なのに……?」
「いいーんだよぉ!オレもトウゴも働いた分魔獣の素材やら何やらで返してもらえればな!」
「まぁオレもそれでいいですよ。キュアの魔法をかけて回るのなんて朝飯前ですし。気にしないでください」
「そうか……ではお言葉に甘えるべきだな。後は村の人たちを説得するしか無いようだな。とは言え今日はお疲れ様だろう。ご飯を食べたらゆっくり休んでくれ。トウゴくんとゼニくんはうちに泊まるといい。2人分の寝るところぐらいなら何とでもなるからな」
オレは大きく頷き、ゼニは白い歯を見せながら親指を立てた。この世界でも親指立てるポーズってあるんだな?
食事も終わり明日からやるべき事も何となくだけど決まったところで今日はお開きとなった。時間にしたらまだ20時、早いと言えば早い。ていうかこの世界にも同じように時計があってびっくりした。まぁ当然と言えば当然なのかな。あまり変な事をきくとまためんどくさい事になりそうなので、遠回しにさらっと聞いてみたところ、この世界も1日は24時間、1週間は7日、1ヶ月は31日、1年は12ヶ月なんだそうだ。驚きだ。でもさらに驚いたのは1年は372日なんだそうだ。つまり全ての月が31日あるらしい。なるほどねぇ~。で、20時を過ぎて各々寝室へ向かい、オレとゼニはそれぞれの寝室へ案内された。オレの案内された部屋は割と小さく、普段はほぼ使われてないようでいくつかの木箱が積んであった。トーラさんはこんな部屋しか無くて申し訳ないって言ってたけどオレは全然気にならない。オレがお礼を言うとトーラさんは気さくに笑って部屋を出た。
そしてオレはそのままベッドにうつ伏せに倒れ込んだ。
「疲れたなぁ……色々あり過ぎた……。今日は間違いなく人生で1番長い日だったな。あ、オレ今日生まれ変わって新しい人生1日目だから当たり前か。じゃ暫定人生で1番長い日だな」
なんて独り言を言ったところまでは覚えている。でもその後は全く記憶が無い。オレは気絶したように眠りに落ちていたみたいだ。
駆け寄ってきたトーラさんが心配そうに聞く。
「えぇ、幸い何ともありません。クッタさんも大丈夫です。でも……クッタさんの売り物の盾に傷がついてしまいましたね……すいません」
「なぁに!トウゴくんは命の恩人なんだ!そんな安物の盾ひとつで命が助かったんなら安いもんだよ!どうせだからその盾はトウゴくんにプレゼントするとしよう!」
「え?いいんですか?」
傷物にしちゃった上にプレゼントまでくれるなんて、クッタさんどこまでいい人なんだ。
「それとそこの君!君にも助けられたね!恩に着るよ!ええっと……」
「ああ、オレはゼニ、ゼニ・サッコーカって言うんだ。トウゴにクッタさん、それとあんたは?」
「ボクはトーラだ」
「そうか!トーラさんか!よろしく!」
なんかオレだけ呼び捨てだった様な?
「その背中の籠と武器……もしかして王都でちょっとした噂になっている『武器狩り』って君の事かい?」
「あぁー、なんかそんな事酒場でも言われたなぁ。ま、王都の辺りで何回か襲ってきた山賊の武器はいただいといたからな。噂ってなぁすぐ広まるもんだなぁ」
武器狩り?なんか物騒だなあ。
「とにかく何とか助かったみたいだな。他の人は大丈夫なんだろうか?」
すると向こうから男性がひとり駆け寄って来るのが見えた。
「おぉーい!トーラ!クッタさん!大丈夫だったか!?」
「あぁメマさん、ボクたちは何ともありませんよ。他の人たちは?」
メマさんと呼ばれたおじさんはオレたちの元に着くと両膝に手を置きハァハァ方で息をする。
「そうか……それは良かった。あっちのコドクグモも全部片付いた様なんだ。今回はそんなに多くはいなかったみたいで助かったよ。それでもまた怪我人と毒にかかってしまった人が出て……」
オレはトーラさんを見て大きくうなずく。
「オレ、ヒールが使えるんです。それとキュアも。毒も早くにキュアをかければすぐ毒が消えるんじゃないですか?善は急げですよ」
「え……?君魔法が使えるのかい!?こんな奇跡みたいな偶然……」
「とにかく急ぎましょう。早いに越したことはない」
「じゃあメマさん、ボクとトウゴくんを怪我人の所に案内してください」
「じゃあ私は店の物を片付けて飯屋で何か腹ごしらえでもしているとするよ。ゼニくんも一緒にどうだい?命を救ってくれたお礼としちゃ安いかも知れんがご飯ぐらい奢るよ?」
「まじかぁ!そりゃあお言葉に甘えます!やったぁ!」
チョロい奴だなあいつ。オレは再度トーラさんに目で合図してメマさんに向き直る。
「行きましょうメマさん」
「そ、そうだな!急ごう!」
駆け出すメマさんの後についてオレたちも走り出した。
「とりあえずこれで大きな怪我をした人と、急ぎで解毒が必要な人は全部ですよね?」
「あぁ、たぶんこれで今すぐ治療が必要な人は全部だよ。本当にお疲れ様、トウゴくん。怪我人どころか壊れた家や道路なんかまで直してもらっちゃって……。君にはなんてお礼をしていいのやら……」
「いやぁ、全然いいですよ!そんな大した事じゃないですから」
怪我人にヒールを、毒に犯された人にはキュアをかけまくって、ついでに壊された家や道路なんかも修復した。実はこのスキル、かなり有用なのでは?ただ家々を修復していて気がついた事がある。それはおそらく修復出来る条件には時間経過があると言うこと。何回か修復をしても全く反応が無かった物があって、それを見ていたトーラさんがそこは何ヶ月も前に壊れた建物だと教えてくれた。修復出来なくなる時間経過がいったいどれぐらいなのかは分からないけど、これは追々検証が必要かも。
とにかくそんなこんなしているうちに日もどっぷりと落ち辺りは暗くなっていた。
「今日はこの辺にしようトウゴくん。さすがに疲れただろ?もちろん今日はボクの家に泊まって行ってくれ。お母さんもきっと君の分もご飯を用意しているはずだからさ」
「あー、そうですね」
何となくあの元気いっぱいなお母さんが晩ご飯を作っている様子が目に浮かんだ。
「じゃあ今日はお言葉に甘えます。それに明日はまだ長い期間毒に犯されたままの人の治療もしなきゃならないですからね」
「本当に……ありがとう」
「いやいや!オレは大した事してませんって!今晩泊めてもらえるんだからそれぐらいなんでもないですよ!」
「そうは言うけど……」
「ささ!トーラさん行きましょう!早くしないと真っ暗になっちゃいますよ!」
オレはもじもじするトーラさんの背中を押して強引に家路に着いた。
途中、飲食店らしき前を通ると中から大声で声をかけられた。
「おおー!トウゴじゃん!どした!?怪我人の方は終わったんか!?」
店から飛び出して来たのはゼニと名乗ったあいつだ。
うわっ酒くっせぇ。さっきから今まで飲んでたのかよこいつ。
「ご苦労ご苦労!やるねぇお前!」
いてて!バシバシすんな!
「痛てぇよ酔っ払い!てかお前酒が飲める歳なのかよ!」
「ああん?酒を飲むのに歳も牛もねぇだろうよ?何言ってんだお前?おもしれぇな!」
ゼニが豪快に笑う。この世界ではそうなんか?じゃ今度チャレンジしてみよう。
「おおーい!そこの飲んだくれぇ!なぁに絡んでんだぁ?」
後ろから赤ら顔のクッタさんも出てきた。
「ああ、これはトーラくんとトウゴくん。ご苦労だったね。無事終わったのかい?」
「えぇ、トウゴくんのお陰でみんなすっかり元気ですよ。ついでに壊れた家なんかも直してもらっちゃって。トウゴくんは命の恩人ってだけでは足りませんよ」
「あらぁー!トウゴくんはえらい!えらいぞぉ!」
頭をわしわしするな!なんだこいつ!
「ああそうだ、良かったらクッタさんとゼニくんも一緒に家に来ないかい?トウゴくんに晩ご飯をご馳走するのもあるけど、今日の被害と今後について色々あると思うから、2人の話も聞けるとありがたい。特にゼニくんはここの人間じゃないだろう?この村に着くまでの様子なんかも教えてもらえると助かると思うからさ」
「お安い御用さぁ!ついて行きますぜぇ!へへ!」
「こいつめんどくせぇ。行きましょうクッタさん。黙ってたって着いてきますよこいつ。ささ、トーラさん行きましょ行きましょ」
「なぁんだよぅ!トウゴぉー!つれねぇなあー!照れんなよー!」
「照れてねぇ!うるせぇ!行くぞほら!」
着いてきてるかどうか振り返りもしなかったけど、とにかく歩き出した。トーラさんもクッタさんも苦笑いだ。
「待てよぅ~歩くの早いよぅ~真っ直ぐ歩けないよぅ~」
無視しよう。
「さぁさ!まだまだたくさんあるわよぉ~!ジャンジャン食べてねー!」
「あざす!お母さん!遠慮しないでいただきます!」
なんでお前が1番乗り気で食ってんだよゼニ。飲んだり食ったり忙しいやつだ。
「あらぁ?トウゴくんは結構少食なのね?もうお腹いっぱい?」
「いやいやいや、あっちが大食いなだけなんじゃ……?とりあえずお腹はいっぱいですよ」
苦笑いしか出来ん。
「まぁまぁ、食べ盛りの上に昼間あんな戦いをした後だ、お腹も空くだろう。幸い今日はトウゴくんからもらったホーンボアの肉もあるしな。たくさん食べなさい。ところでだ、ゼニくん、君は旅の人なんだね?という事は王都から来たのかい?あ、食べながらでいいよ」
「ほぅっすね、ほうとの方から来ました」
「飲み込んでからしゃべれ。お行儀悪いぞ」
オレはお行儀悪いのは良くないと思う。ゼニはもぐもぐごくんしてから続ける。
「そりゃあこの村に来るには王都から来る以外は険しい山道ばかりですからね。特別この村に用があったって訳じゃ無いんだけど、この辺りにはホーンボアやらニードルラットなんて言う武器の素材にいい魔獣もいるって聞いたもんで、そう遠くもないからちょっと行ってみようと思ったんスよ。んで村に着くやいなやコドクグモとか言う気持ち悪い魔獣の群れが村を襲っているところに出くわしたって訳。あ、このステーキおかわりあります?」
いやお母さん、そこはニコニコしなくていいから。話の途中だぞゼニ。
「群れと言っても今回は7匹。君たちのお陰もあってほぼ被害は出ていないけれどこのままと言う訳にはいかんな……」
「お父さん、やっぱりあいつらの巣のある場所を調べるべきだよ。これ以上王都に期待したって何も変わらないよ」
トーラさんは強い口調だ。お父さん、つまり村長は腕組みをして考え込む。
「その事についてですが、王都からの討伐隊はしばらく期待しない方がいいかも知れませんよ」
「それはどう言う事かね?クッタさん?」
「私は普段は王都を中心に商売をしています。ここの所王都では『誤ちの森』のエンシェントエルフとの揉め事が大きくなって来ているのですよ。とても近隣の問題に兵を割く程の余裕は無いかと」
「そうなんですか……」
「お父さん、このままでは被害は広がるばかりだよ。それに幸運な事にトウゴくんのお陰で毒に犯されて動けなかった人も治す事が出来る。そうなれば戦える人だって増えるんだよ。このままではいずれこの村を捨てなければならなくなってしまうよ」
「そうだな……、まずは明日にでもトウゴくんに治療をお願いしよう。まだこの村に着いて間もないのに巻き込んでしまって申し訳ない。その後元気になった人たちを交えてどうするか決めんといかんな」
「もしやるってんならオレも参加するぜ。もちろんオレが倒した魔獣の素材はもらって行くけどな!」
「ゼニくん、いいのかい?君はこの村とは関係の無い人なのに……?」
「いいーんだよぉ!オレもトウゴも働いた分魔獣の素材やら何やらで返してもらえればな!」
「まぁオレもそれでいいですよ。キュアの魔法をかけて回るのなんて朝飯前ですし。気にしないでください」
「そうか……ではお言葉に甘えるべきだな。後は村の人たちを説得するしか無いようだな。とは言え今日はお疲れ様だろう。ご飯を食べたらゆっくり休んでくれ。トウゴくんとゼニくんはうちに泊まるといい。2人分の寝るところぐらいなら何とでもなるからな」
オレは大きく頷き、ゼニは白い歯を見せながら親指を立てた。この世界でも親指立てるポーズってあるんだな?
食事も終わり明日からやるべき事も何となくだけど決まったところで今日はお開きとなった。時間にしたらまだ20時、早いと言えば早い。ていうかこの世界にも同じように時計があってびっくりした。まぁ当然と言えば当然なのかな。あまり変な事をきくとまためんどくさい事になりそうなので、遠回しにさらっと聞いてみたところ、この世界も1日は24時間、1週間は7日、1ヶ月は31日、1年は12ヶ月なんだそうだ。驚きだ。でもさらに驚いたのは1年は372日なんだそうだ。つまり全ての月が31日あるらしい。なるほどねぇ~。で、20時を過ぎて各々寝室へ向かい、オレとゼニはそれぞれの寝室へ案内された。オレの案内された部屋は割と小さく、普段はほぼ使われてないようでいくつかの木箱が積んであった。トーラさんはこんな部屋しか無くて申し訳ないって言ってたけどオレは全然気にならない。オレがお礼を言うとトーラさんは気さくに笑って部屋を出た。
そしてオレはそのままベッドにうつ伏せに倒れ込んだ。
「疲れたなぁ……色々あり過ぎた……。今日は間違いなく人生で1番長い日だったな。あ、オレ今日生まれ変わって新しい人生1日目だから当たり前か。じゃ暫定人生で1番長い日だな」
なんて独り言を言ったところまでは覚えている。でもその後は全く記憶が無い。オレは気絶したように眠りに落ちていたみたいだ。
68
お気に入りに追加
148
あなたにおすすめの小説

外れスキル『収納』がSSS級スキル『亜空間』に成長しました~剣撃も魔法もモンスターも収納できます~
春小麦
ファンタジー
——『収納』という、ただバッグに物をたくさん入れられるだけの外れスキル。
冒険者になることを夢見ていたカイル・ファルグレッドは落胆し、冒険者になることを諦めた。
しかし、ある日ゴブリンに襲われたカイルは、無意識に自身の『収納』スキルを覚醒させる。
パンチや蹴りの衝撃、剣撃や魔法、はたまたドラゴンなど、この世のありとあらゆるものを【アイテムボックス】へ『収納』することができるようになる。
そこから郵便屋を辞めて冒険者へと転向し、もはや外れスキルどころかブッ壊れスキルとなった『収納(亜空間)』を駆使して、仲間と共に最強冒険者を目指していく。

俺だけ皆の能力が見えているのか!?特別な魔法の眼を持つ俺は、その力で魔法もスキルも効率よく覚えていき、周りよりもどんどん強くなる!!
クマクマG
ファンタジー
勝手に才能無しの烙印を押されたシェイド・シュヴァイスであったが、落ち込むのも束の間、彼はあることに気が付いた。『俺が見えているのって、人の能力なのか?』
自分の特別な能力に気が付いたシェイドは、どうやれば魔法を覚えやすいのか、どんな練習をすればスキルを覚えやすいのか、彼だけには魔法とスキルの経験値が見えていた。そのため、彼は効率よく魔法もスキルも覚えていき、どんどん周りよりも強くなっていく。
最初は才能無しということで見下されていたシェイドは、そういう奴らを実力で黙らせていく。魔法が大好きなシェイドは魔法を極めんとするも、様々な困難が彼に立ちはだかる。時には挫け、時には悲しみに暮れながらも周囲の助けもあり、魔法を極める道を進んで行く。これはそんなシェイド・シュヴァイスの物語である。

異世界転生したらたくさんスキルもらったけど今まで選ばれなかったものだった~魔王討伐は無理な気がする~
宝者来価
ファンタジー
俺は異世界転生者カドマツ。
転生理由は幼い少女を交通事故からかばったこと。
良いとこなしの日々を送っていたが女神様から異世界に転生すると説明された時にはアニメやゲームのような展開を期待したりもした。
例えばモンスターを倒して国を救いヒロインと結ばれるなど。
けれど与えられた【今まで選ばれなかったスキルが使える】 戦闘はおろか日常の役にも立つ気がしない余りものばかり。
同じ転生者でイケメン王子のレイニーに出迎えられ歓迎される。
彼は【スキル:水】を使う最強で理想的な異世界転生者に思えたのだが―――!?
※小説家になろう様にも掲載しています。

他人のスキルを奪って強くなる。城を抜け出した王子は自由気ままに世界を放浪する
クマクマG
ファンタジー
王城での生活に窮屈さを感じていた第三王子のラベオン・エンシュリアは王城を抜け出すことを企てる。
王族という縛られた身分では体験できなかったであろう経験を経て、人間としても王族としても成長していくラベオン。個性的な仲間と共にダンジョンを探索したり、クエストを達成したり、はたまた他国に行ったりと自由気ままに旅をする。
人や物のステータスを見ることができる『鑑定眼』、あらゆるモノを盗むことができる『栄光の手』、騙すことに特化した『神の噓』を駆使して、強敵にも挑んでいく。ただ、ラベオンは基本的に善人なので、悪用はしません。……多分。
ラベオンが行きつくのは冒険者としての生活なのか、王族としての生活なのか、それとも……。

序盤でざまぁされる人望ゼロの無能リーダーに転生したので隠れチート主人公を追放せず可愛がったら、なぜか俺の方が英雄扱いされるようになっていた
砂礫レキ
ファンタジー
35歳独身社会人の灰村タクミ。
彼は実家の母から学生時代夢中で書いていた小説をゴミとして燃やしたと電話で告げられる。
そして落ち込んでいる所を通り魔に襲われ死亡した。
死の間際思い出したタクミの夢、それは「自分の書いた物語の主人公になる」ことだった。
その願いが叶ったのか目覚めたタクミは見覚えのあるファンタジー世界の中にいた。
しかし望んでいた主人公「クロノ・ナイトレイ」の姿ではなく、
主人公を追放し序盤で惨めに死ぬ冒険者パーティーの無能リーダー「アルヴァ・グレイブラッド」として。
自尊心が地の底まで落ちているタクミがチート主人公であるクロノに嫉妬する筈もなく、
寧ろ無能と見下されているクロノの実力を周囲に伝え先輩冒険者として支え始める。
結果、アルヴァを粗野で無能なリーダーだと見下していたパーティーメンバーや、
自警団、街の住民たちの視線が変わり始めて……?
更新は昼頃になります。
最強の職業は解体屋です! ゴミだと思っていたエクストラスキル『解体』が実は超有能でした
服田 晃和
ファンタジー
旧題:最強の職業は『解体屋』です!〜ゴミスキルだと思ってたエクストラスキル『解体』が実は最強のスキルでした〜
大学を卒業後建築会社に就職した普通の男。しかし待っていたのは設計や現場監督なんてカッコいい職業ではなく「解体作業」だった。来る日も来る日も使わなくなった廃ビルや、人が居なくなった廃屋を解体する日々。そんなある日いつものように廃屋を解体していた男は、大量のゴミに押しつぶされてしまい突然の死を迎える。
目が覚めるとそこには自称神様の金髪美少女が立っていた。その神様からは自分の世界に戻り輪廻転生を繰り返すか、できれば剣と魔法の世界に転生して欲しいとお願いされた俺。だったら、せめてサービスしてくれないとな。それと『魔法』は絶対に使えるようにしてくれよ!なんたってファンタジーの世界なんだから!
そうして俺が転生した世界は『職業』が全ての世界。それなのに俺の職業はよく分からない『解体屋』だって?貴族の子に生まれたのに、『魔導士』じゃなきゃ追放らしい。優秀な兄は勿論『魔導士』だってさ。
まぁでもそんな俺にだって、魔法が使えるんだ!えっ?神様の不手際で魔法が使えない?嘘だろ?家族に見放され悲しい人生が待っていると思った矢先。まさかの魔法も剣も極められる最強のチート職業でした!!
魔法を使えると思って転生したのに魔法を使う為にはモンスター討伐が必須!まずはスライムから行ってみよう!そんな男の楽しい冒険ファンタジー!

これダメなクラス召喚だわ!物を掌握するチートスキルで自由気ままな異世界旅
聖斗煉
ファンタジー
クラス全体で異世界に呼び出された高校生の主人公が魔王軍と戦うように懇願される。しかし、主人公にはしょっぱい能力しか与えられなかった。ところがである。実は能力は騙されて弱いものと思い込まされていた。ダンジョンに閉じ込められて死にかけたときに、本当は物を掌握するスキルだったことを知るーー。

生活魔法しか使えない少年、浄化(クリーン)を極めて無双します(仮)(習作3)
田中寿郎
ファンタジー
壁しか見えない街(城郭都市)の中は嫌いだ。孤児院でイジメに遭い、無実の罪を着せられた幼い少年は、街を抜け出し、一人森の中で生きる事を選んだ。武器は生活魔法の浄化(クリーン)と乾燥(ドライ)。浄化と乾燥だけでも極めれば結構役に立ちますよ?
コメントはたまに気まぐれに返す事がありますが、全レスは致しません。悪しからずご了承願います。
(あと、敬語が使えない呪いに掛かっているので言葉遣いに粗いところがあってもご容赦をw)
台本風(セリフの前に名前が入る)です、これに関しては助言は無用です、そういうスタイルだと思ってあきらめてください。
読みにくい、面白くないという方は、フォローを外してそっ閉じをお願いします。
(カクヨムにも投稿しております)
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる