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勘違い

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   援軍として現れた冒険者達は中々の強さの様で、虎男達よりは優位に戦っていた。中でも数人飛び抜けて強い人がいるな。さっきの少女もその1人だ。しかし用心棒とは?あの少女が?何だか良く分からないな。そんな事より、俺も黙って見ている訳には行かないんだろうな。何でも腰抜けだと街に入れてもらえないらしいからな。
 俺は再度オーラクローを纏い戦いに参加する。と言っても時間はかかるだろうが、俺が参加しなくても何とかなりそうな勢いではあるな。しかし中には苦戦している冒険者もいる。援軍はやや近接武器を扱う人が多い様だが、戦士では無さそうな、特に軽装で武器もショートソードの様な冒険者はホーンバイソンに力負けしている様だ。
 俺は苦戦している人の加勢に回るか。

「うわぁっ!」

 ニル人の男性がホーンバイソンに弾かれ地面に転がる。それを逃さずホーンバイソンが角を構えて突進する。

 【アースウォール】

 角を構えるためにやや下を向いて突進して来たホーンバイソンには、急に前方に現れた土壁に気がつく事も出来ずその角を土壁にめり込ませて止まる。
 やはり耐久力ならサラウンドスクエアよりアースウォールだな。

「大丈夫ですか?」

「あ、ああ、ありがとう!何ともないよ!」

 男性は大丈夫そうだ。
 俺はオーラクローを構えアースウォールを解除する。力任せに突破しようと押していた土壁が急に消えて無くなり、ホーンバイソンは体制を崩しながら前のめりに向かって来た。状況も理解出来ていないホーンバイソンを狩るのは簡単だった。右に回り込み、首を上からオーラクローで掻き切ってやると一撃で仕留める事が出来た。

 援軍の冒険者達は?
 突っ込んで行った前線は混沌とし始めている。その理由はあの数に対してそれほど実力の無い者達が対応し切れていないのが原因の様だ。それでも一部の実力者が着実にホーンバイソンの数を減らしている。とは言え弱い者を庇い切れなくなっているのも事実だ。おそらく全員が軽傷で済むとは思えない。けどまぁ、結果事態が治まるのなら別にいいか。

「き、君!早くあっちを助けに行ってやってくれ!我々王国騎士団もすぐには応援に来れないんだ!」

 え?この人王国騎士団だったのか?失礼だがその割には弱く無いか……?でも王国の人の前で助けに行かないとなると、腰抜け判定されて街に入れなくなってしまう。面倒だなぁ……。

「……じゃあちょっと行ってきます」

 俺は渋々手伝いに行く事にした。さすがに走らない訳にはいかないので手抜きして小走りする。着く頃には終わってないかな。

 期待も虚しく前線に着いてしまった。思ったよりもギリギリな人が多いな。体力も装備も消耗している人が多い。もちろん虎男達もその中に入っている。なんだよぜんぜん即戦力じゃ無いじゃないか。

「くっくそ!どんだけいるんだ!さすがにこの数はおかしいだろ!」

 案の定泣き言を言っている。ていうか数ももうだいぶ減ってきているだろ。周りも見えていないのか?

「ぐお!」

 言っている間に狼の獣人がホーンバイソンの突進を真正面から受けて数メートル吹っ飛ばされた。しかも俺の方に。地面を5、6回転がってやっと止まった狼の獣人はそのままぐったりして動かなくなった。おそらく死んではいないだろう。気を失っているだけだな。しかし貧相な革鎧はちぎれ、ロングソードも手放してしまっている。さらには背負っていた大きな鞄も肩紐がちぎれ獣人と一緒に地面に転がっている。
 俺は狼の獣人に駆け寄りながら、こいつが落としたロングソードを拾う。手に持っただけで分かる、これは安物だ。まあスケルトンが持っていたロングソードよりは幾分ましか。とは言え武器が手に入れば攻撃の幅は広がる。地面に転がるこいつを庇いながらでもどうとでも出来るだろう。俺は地面に転がる狼の獣人を背に、吹き飛ばしたホーンバイソンと対峙する。ホーンバイソンは頭を下げ自慢の角を突き出して後ろ足で地面を蹴って威嚇する。相当自信がある様だな。しかし俺を舐めているな。

 俺は遺物から『火鼠の牙』を取り出しロングソードに【混合】する。ロングソードからはゆらゆらと炎が立ち上がり熱を帯びる。ホーンバイソン程度ならこれで十分だろう。そして奴の命取りは俺が遠距離攻撃が出来ないだろうと見誤っている事だ。

 【裂空閃】

 炎を帯びた飛ぶ斬撃が真っ直ぐホーンバイソンへと飛ぶ。余裕満点で威嚇していたホーンバイソンは躱すどころか、ただ驚く事しか出来ない。驚きのあまり上げた顔、その喉元に斬撃がぶつかり炎が弾けた。ホーンバイソンは断末魔の叫びを上げる事すら無く焦げた臭いと血飛沫を撒き散らしながらもんどり打って倒れた。

「まずは1匹」

 言いながら後ろをチラリと見る。狼の獣人は完全に気を失っているな。ピクリともしない。もしかして死んでるか?だったら楽なんだが。
 とりあえずまあいい、ここから数を減らす事にしよう。
 俺は立て続けに【裂空閃】を放ち、射程距離内に居た5匹のホーンバイソンを倒した。しかし何度【裂空閃】を放ってもマガが減っている感覚がしない。さすが【災禍襲来】だな。これはスキルが使いたい放題じゃないか。
 にしてもずいぶん居るな?まだまだ襲って来るじゃないか。こいつを守りながらってのが邪魔くさいんだよな。
 俺は辺りを見回す。そして少し向こうに虎男達を見つけた。あそこでいいか。

「ちょっと痛いががまんだ」

 声を掛けたが聞こえてはいないな。ロングソードはとりあえず地面に突き刺し、空いた両手で狼男を抱え上げ、虎男達に向かって放り投げた。

「うわぁあああ!?」

 なんだよ、あの見た目でずいぶん可愛らしい声で驚くじゃないか。こっちがそれに驚きだ。
 さて、と。邪魔は居なくなったし残りを片付けるか。
 振り返ると余裕ぶってほったらかしてただけあってホーンバイソンに囲まれていた。数としてはざっと20は居るか?
 間髪入れずに次々とホーンバイソンが万全の体制で突進して来る。油断した相手を狩るのは簡単だと思ったんだろうなぁ。俺は低く構え迎撃の体制を取る。すると突進して来るホーンバイソンの真横から大きな斧が振り抜かれ、3体まとめて吹っ飛ばされた。

「大丈夫か少年!間に合って良かった!」

 あぁ、助けに来てくれたのか。返す斧でさらに2体のホーンバイソンを薙ぎ飛ばした戦士は俺を見てニカッと笑う。

「安心しろ!もう大丈夫だ!」

 いや助かる。これは楽だ。
 斧の戦士はそのまま群れに突っ込む。だが戦士が到達する前に群れの後方から血飛沫が上がり次々とホーンバイソンが倒れて行く。

「おぉ!用心棒か!やはりやるなぁ!ハハハハハ!!!」

 何がおかしいんだ?とにかく豪快に笑いながら斧をぶん回している。変わった人だ。そして用心棒と呼ばれ、後方からホーンバイソンを蹴散らしていたのは先ほども見たニル人の少女だ。この血飛沫と土埃が舞う場所でもはっきりと映える金髪、無駄のない動き。そして何より速い。全てにおいてここに居る誰よりも頭一つ抜きん出てている。

「おおっと」

 ぼーっと見てたら俺の方にもホーンバイソンが迫って来ていた。なんだよ、取りこぼしあるじゃないか。俺は自分に襲いかかる奴だけを難なく倒した。

「へえぇ、やるじゃないあなた」

 金髪の少女がいつの間にか俺のすぐ側まで来ていた。やはり速いな。
 金髪の少女はまるで舞うかの様にホーンバイソンを切り刻んで行く。少し移動した先で地面を強く踏む。すると地面に落ちていた、誰かが落としたショートソードが宙を舞い器用にそれを空中で掴むと二刀で華麗に舞い始めた。なるほど、元から持っていたショートソードの刃こぼれが酷いのか。どれだけホーンバイソンを斬って来たんだ?

 そうこうしている間に俺ら3人で全てのホーンバイソンを狩り終えた。

「なかなかやるじゃないか!少年!これならすぐに戦力になるだろう!歓迎するぞ!」

 即戦力って言ってたのは俺じゃないんだけどな。まぁいいか、俺はぺこりと頭を下げ地面に置きっぱなしだった大きな鞄を拾う。一応このロングソードもあいつらの物だから返さないとな。

「あなた、ずいぶんと大きな荷物を持ってるわね?まさかお引越し?」

 金髪の少女がダメになったショートソードを地面に放り投げながら俺に尋ねる。

「まさか、そんな訳無いだろう」

 何を言っているんだ?訳の分からない奴だ。俺は気にせず虎男達の方へ歩き出す。
 すると少女は俺の肩を掴んだ。殺気は無い、とは言え何をする気だ?俺が振り返ると同時に少女のショートソードが鞄の真ん中を切り裂いた。切り裂かれた場所からは小指の先程の小さな筒状の物が大量にこぼれ落ちた。

「いや何するんだよ?人の物だぞ?」

「えぇ、これはあなたの物だよね?これは何なのかしら?」

「これ?いや知らないが。そもそもこの鞄は俺の物じゃない」

「安っぽい嘘だねぇ~、関心しないなぁ。あなたの物じゃなくて、中身が何かも知らなかったのに、そこそこ腕に自信があるからってあのホーンバイソンの群れの中に自ら突っ込んで行くの?あなたそんなに強そうに見えないけど?余程大事な物なのでしょ?大事な商品ですものね?」

 何言ってんだこいつ?

「申し訳ないが訳が分からない。そもそもの持ち主はあそこにいる人達だ。聞いたら分かる」

 俺は指さした。

「どこ?だれ?」

 あれ?虎男達が居なくなってるぞ?
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