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「大丈夫、大丈夫。端から見たらそれも微笑ましく見えるよ。似合いな二人だよ」
「……周りの目が痛いわ」
「それはそうだろう、取り合わせが胡散臭過ぎる」
「やっぱり不自然よね、私達」
「自然に見えたければ、せめて笑え」
「……それは、貴方に言われたくないんだけど」
「否定はしないな。やはり、どう見ても誘拐犯と人質か」
「そこまでは言わないけど……私、貴方のことはどう呼んだらいい?」
「呼び捨てでいい」
「じゃあ、リィン。しにが……じゃなかった、イシュトレイグの剣はどうしたの?」
「サエに預けた。お前のように敏い者がいれば、余計な騒動の火種になる」
「彼は剣にしかなれないの?」
「いや、人型にもなれる」
「だったら、その姿で一緒にいてもらったらいいじゃないの」
「未婚の王女が侍女を下がらせて男二人と同席するなぞ、不自然どころの騒ぎじゃないだろう」
「……だって、落ち着かないんだもの」
王城クラウス・ディアの中庭にある東屋で、テーブルを挟んで目の前に座る婚約者を前にフォルセリーヌは溜め息を吐く。
母から、この婚約を知らされたのはつい先ほどのこと……偽装に過ぎないものの、リィンがそれを受けたのは驚きだった。何の関係もなく、更にサスキアに想いを寄せているはずの彼が。
リィン・ダグリードはアイリスでも有数の軍人家系ダグリード侯爵家一族の出で、サスキア王妃の遠縁に当たる。先の外交時に侯爵家を訪れた際、たまたま本邸に逗留していた彼と出会ってその人柄を大いに気に入り、この婚約話が浮上した。
何の前触れもなかったのは、騎士団に所属するリィンが帰還時期未定な外地任務に就いており、直前まで訪問予定が固まらなかったせいだ。さらに、今回の帰国は一時的なもので、近々再び任務に就くため、これを逃せば今度はいつ任務を解かれるかも知れない。そのため、運悪く国王が国外視察で不在の現在の訪問と相成ったのだ。
胡散臭いことこの上ない話ではあったが、王妃自らが城に招き入れ、その実に親しげな様子から周囲に言外の言質を与えた。
リィンの整った容姿は貴族と疑わせなかったし、何より軍人家系の出に相応しく剣で身を立てる者の空気も纏っている。違えた色彩と時を止めた容姿から、かつてディゾ・リーリングと呼ばれた伝説の人物だと気付く者もいなかった。
肖像画の中の人物は人外の存在でしかありえなかったが、目の前のリィンは実に人間的だ。笑顔こそ見せないが、思ったよりも表情豊かだった。もともとそうだったのか長い隠遁生活がそうさせたのか、血塗られた過去とは不釣り合いに気も長いようで、話しかければ些細なことでも必ず返事を返してくれる。
「貴方、とっても普通の人だわ」
フォルセリーヌは、そう口に出して言ってみる。想像の中のディゾ・リーリングと目の前のリィンはまるで違うけれど、不思議と幻滅を感じることはなかった。
「……普通と言われたのは初めてだな」
彼は、僅かに瞠目して言う……気を悪くしただろうか?
「ごめんなさい」
「なぜ、謝る?」
咄嗟にフォルセリーヌの口を吐いて出た謝罪の言葉に、リィンは眉根を寄せる。
「悪口に聞こえたかもって思って。私も平凡とか十人並みって言われるのは嫌だし」
完璧過ぎる母と比べられることの多い彼女にとって、「普通」という言葉はあまり良い意味は持たない。
「サエは平凡とは呼び難いが、あれは別格だ。気にするだけ損だぞ」
「そんなこと言ったって、ずっと比べられてきたらそんな風に思えないわ。せめてこの顔が、半分でもお母様に似ていたら良かったのに」
そうだったら、リィンも少しは好きになってくれたかもしれない。
「くだらんな。模造品に何の価値がある?」
「……本物じゃないと、意味ないのね」
吐き捨てるような答えに、フォルセリーヌの胸に落胆が湧く。やはり、リィンの心に住めるのは母だけなのだ。
「同席してよろしいですか、フォルセリーヌ姫」
無意識に俯いた彼女の耳に、第三者の声が飛び込んだ。
「……へスター」
見上げたその目に入ってきた人物に、フォルセリーヌは小さく眉を顰めた。
へスター・フール。代々オルガイムの審議院の議長を務めるフール家の一人息子で、しつこく自身に求婚している男だ。オルガイム上級貴族の証である銀髪は艶やかで、薄紫の瞳もまるで宝石。なめした革の上着にはオルガイム特有の組紐の飾りがふんだんにあしらわれ、中に着た上質な絹のシャツも線の細い彼の肢体をぴったり包んでいる。
美しくあることが唯一の義務とでも言いたげな容姿と装いには、甘ったるい香水でも消せない金の匂いが纏わりついていた。身じろぐ度に起こる絹擦れの音一つも、フォルセリーヌを苛立たせる。
父から与えられる権力に依存し切っているヘスターが、彼女は大嫌いだった。
「リィン、彼はヘスター・フール。お父様は審議院の議長なの」
長く顔を見るのが嫌で、フォルセリーヌは紹介する振りをしてリィンに視線を移す。
「なるほどな……申し訳ないが、今は遠慮してもらいたい」
リィンはヘスターに視線を走らせ、小さく頷いてそう言った。
「何だって……?」
甚だ癇に障るうすら笑いを浮かべていたヘスターの顔が、そこに来て僅かに歪む。
「何のために侍女まで下がらせていると思っている。遠路遥々やって来て、ようやく逢えた婚約者だ。邪魔されたくないのは、わかるだろう」
まるでため息を吐くように、リィンはヘスターに言葉を投げつけた。今まで人に命令したことがなく、自分の要求がはね退けられる経験もなかったのだろう彼は、屈辱よりも驚きで表情を強張らせる。
「私を誰だとっ……! 父はっ……」
「審議院の議長だろう? 先ほど聞いたばかりだ、まだ忘れるような年ではない」
父の威光を振り翳すヘスターを、彼は興味もなさげに切って捨てた。
「姫っ……!」
「そういうことなの。ごきげんよう、ヘスター」
優雅さをすっかりかなぐり捨てた双眸を向けるヘスターに、フォルセリーヌも微笑んで暇を告げた。
「失礼っ……!」
無礼な彼を諌めるものと思っていた自分からの最後通告に、蝋人形のような青白い肌を怒りで赤く染めると、彼は盛大な絹鳴りとともに元来た方向に去っていった。
「今まで様々な馬鹿を見てきたが、あれほど救いようのない愚か者は初めて見たな」
「貴族や大臣達で残ってるのは、似たり寄ったりの馬鹿ばっかりよ。本当の忠臣達は皆、先王……お爺様に殉死してしまったんだって、お父様が言っていたわ」
憮然としたリィンの言葉に、フォルセリーヌもため息を吐く。
「アイリスはどう?」
前の戦争を生き延びた彼の目には、祖国はどう映っているのだろう。
「大した諍いもなく、平和な方だろう。詳しい内情まではわからんが、王も善良で軍部もしっかりしているな……酷い天災もあったが、順調に復興している」
「貴方がそう言うなら、きっとそうなんでしょうね」
「あまり信用するな、政治に興味のない片田舎の人間の話だ」
リィンは然したる感慨もなく言う。本当に興味がないようだった。戦争終結の影の立て役者たる彼の二十年は、きっと蘇った特権階級の人間達が躍起になっていた領土回復、権力抗争のような諍いとは、まったく無縁だったのだろう。
人の身に余りある力を得ながらも私利私欲で行使することなく、祖国の片隅で平穏を願って静かに暮らす彼の姿が、フォルセリーヌには不思議なほどすんなり感じられた。
「要らないものが多過ぎるのよ、貴族達もこの王宮も。城下の民達は、自分達が飢えないだけの物を持っていたらそれだけで十分なのに……なぜ彼らが卑下されるのかわからないわ。土を耕して、作物を育てるのは大変なことよ。一生懸命世話をして、身の丈に合った収穫を得ることの何が足りないの? とても素晴らしいことだわ。それを知っているから、それ以上を望まないのよ」
フォルセリーヌは、まるで自分に言い聞かせるように呟く。
「ヘスターはね、手を打ち鳴らせばつでもご馳走が運ばれてくると思ってるのよ。お気に入りのムネジアの実が、どんなに育てるのが大変か知りもしない。毎日水と一緒に魔道石を砕いて与えて、幹についた虫も一匹一匹取り除いて、花が開いたら雌花に雄花の花粉を付けて……三年間大事に大事に育てて、一株あたり実るのはほんの数個。鞭を振るって小作人に作らせた籠一杯のムネジアを、まるで自分の手柄みたいな顔して送りつけてくるんだから、気に入らないったらないわ!」
喋っているうちに当時の憤りが再燃した彼女は、頬を上気して吐き捨ててしまったが……
「随分と詳しいな」
リィンのやや驚いたような言葉に、フォルセリーヌはハッと我に返る。
「……っ、好きなのよ、庭いじり……ときどき、庭師に手伝わせてもらってるの。お願いだから、お母様には言わないで」
最後そう尻すぼみに言って、フォルセリーヌは肩を落とす。
庭いじりなど一国の王女として自覚がないと、きっとリィンは呆れただろう。庭師に混ざって花壇の植え替えをして泥だらけになったり、声を上げて笑い合いながら木の実の収穫をしたりして、侍女に見つかる度に叱られて来たのだ。
だから、次の言葉には本当に驚いた。
「ただのはねっ返りかと思っていたが、見直した……ただ、ムネジアの木についた虫は全て取るな。セキロウだけ残しておけ、花粉を運ぶ他に悪さはしない。人の手で受粉させるのもいいが、その方が花も傷まずに済む」
「えっ……?」
「アイリスの実家は花屋だ、実のなる木も扱っている……信用しろ」
そう告げた彼は、確かにフォルセリーヌに向けて微笑んでいた。
「……周りの目が痛いわ」
「それはそうだろう、取り合わせが胡散臭過ぎる」
「やっぱり不自然よね、私達」
「自然に見えたければ、せめて笑え」
「……それは、貴方に言われたくないんだけど」
「否定はしないな。やはり、どう見ても誘拐犯と人質か」
「そこまでは言わないけど……私、貴方のことはどう呼んだらいい?」
「呼び捨てでいい」
「じゃあ、リィン。しにが……じゃなかった、イシュトレイグの剣はどうしたの?」
「サエに預けた。お前のように敏い者がいれば、余計な騒動の火種になる」
「彼は剣にしかなれないの?」
「いや、人型にもなれる」
「だったら、その姿で一緒にいてもらったらいいじゃないの」
「未婚の王女が侍女を下がらせて男二人と同席するなぞ、不自然どころの騒ぎじゃないだろう」
「……だって、落ち着かないんだもの」
王城クラウス・ディアの中庭にある東屋で、テーブルを挟んで目の前に座る婚約者を前にフォルセリーヌは溜め息を吐く。
母から、この婚約を知らされたのはつい先ほどのこと……偽装に過ぎないものの、リィンがそれを受けたのは驚きだった。何の関係もなく、更にサスキアに想いを寄せているはずの彼が。
リィン・ダグリードはアイリスでも有数の軍人家系ダグリード侯爵家一族の出で、サスキア王妃の遠縁に当たる。先の外交時に侯爵家を訪れた際、たまたま本邸に逗留していた彼と出会ってその人柄を大いに気に入り、この婚約話が浮上した。
何の前触れもなかったのは、騎士団に所属するリィンが帰還時期未定な外地任務に就いており、直前まで訪問予定が固まらなかったせいだ。さらに、今回の帰国は一時的なもので、近々再び任務に就くため、これを逃せば今度はいつ任務を解かれるかも知れない。そのため、運悪く国王が国外視察で不在の現在の訪問と相成ったのだ。
胡散臭いことこの上ない話ではあったが、王妃自らが城に招き入れ、その実に親しげな様子から周囲に言外の言質を与えた。
リィンの整った容姿は貴族と疑わせなかったし、何より軍人家系の出に相応しく剣で身を立てる者の空気も纏っている。違えた色彩と時を止めた容姿から、かつてディゾ・リーリングと呼ばれた伝説の人物だと気付く者もいなかった。
肖像画の中の人物は人外の存在でしかありえなかったが、目の前のリィンは実に人間的だ。笑顔こそ見せないが、思ったよりも表情豊かだった。もともとそうだったのか長い隠遁生活がそうさせたのか、血塗られた過去とは不釣り合いに気も長いようで、話しかければ些細なことでも必ず返事を返してくれる。
「貴方、とっても普通の人だわ」
フォルセリーヌは、そう口に出して言ってみる。想像の中のディゾ・リーリングと目の前のリィンはまるで違うけれど、不思議と幻滅を感じることはなかった。
「……普通と言われたのは初めてだな」
彼は、僅かに瞠目して言う……気を悪くしただろうか?
「ごめんなさい」
「なぜ、謝る?」
咄嗟にフォルセリーヌの口を吐いて出た謝罪の言葉に、リィンは眉根を寄せる。
「悪口に聞こえたかもって思って。私も平凡とか十人並みって言われるのは嫌だし」
完璧過ぎる母と比べられることの多い彼女にとって、「普通」という言葉はあまり良い意味は持たない。
「サエは平凡とは呼び難いが、あれは別格だ。気にするだけ損だぞ」
「そんなこと言ったって、ずっと比べられてきたらそんな風に思えないわ。せめてこの顔が、半分でもお母様に似ていたら良かったのに」
そうだったら、リィンも少しは好きになってくれたかもしれない。
「くだらんな。模造品に何の価値がある?」
「……本物じゃないと、意味ないのね」
吐き捨てるような答えに、フォルセリーヌの胸に落胆が湧く。やはり、リィンの心に住めるのは母だけなのだ。
「同席してよろしいですか、フォルセリーヌ姫」
無意識に俯いた彼女の耳に、第三者の声が飛び込んだ。
「……へスター」
見上げたその目に入ってきた人物に、フォルセリーヌは小さく眉を顰めた。
へスター・フール。代々オルガイムの審議院の議長を務めるフール家の一人息子で、しつこく自身に求婚している男だ。オルガイム上級貴族の証である銀髪は艶やかで、薄紫の瞳もまるで宝石。なめした革の上着にはオルガイム特有の組紐の飾りがふんだんにあしらわれ、中に着た上質な絹のシャツも線の細い彼の肢体をぴったり包んでいる。
美しくあることが唯一の義務とでも言いたげな容姿と装いには、甘ったるい香水でも消せない金の匂いが纏わりついていた。身じろぐ度に起こる絹擦れの音一つも、フォルセリーヌを苛立たせる。
父から与えられる権力に依存し切っているヘスターが、彼女は大嫌いだった。
「リィン、彼はヘスター・フール。お父様は審議院の議長なの」
長く顔を見るのが嫌で、フォルセリーヌは紹介する振りをしてリィンに視線を移す。
「なるほどな……申し訳ないが、今は遠慮してもらいたい」
リィンはヘスターに視線を走らせ、小さく頷いてそう言った。
「何だって……?」
甚だ癇に障るうすら笑いを浮かべていたヘスターの顔が、そこに来て僅かに歪む。
「何のために侍女まで下がらせていると思っている。遠路遥々やって来て、ようやく逢えた婚約者だ。邪魔されたくないのは、わかるだろう」
まるでため息を吐くように、リィンはヘスターに言葉を投げつけた。今まで人に命令したことがなく、自分の要求がはね退けられる経験もなかったのだろう彼は、屈辱よりも驚きで表情を強張らせる。
「私を誰だとっ……! 父はっ……」
「審議院の議長だろう? 先ほど聞いたばかりだ、まだ忘れるような年ではない」
父の威光を振り翳すヘスターを、彼は興味もなさげに切って捨てた。
「姫っ……!」
「そういうことなの。ごきげんよう、ヘスター」
優雅さをすっかりかなぐり捨てた双眸を向けるヘスターに、フォルセリーヌも微笑んで暇を告げた。
「失礼っ……!」
無礼な彼を諌めるものと思っていた自分からの最後通告に、蝋人形のような青白い肌を怒りで赤く染めると、彼は盛大な絹鳴りとともに元来た方向に去っていった。
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「貴族や大臣達で残ってるのは、似たり寄ったりの馬鹿ばっかりよ。本当の忠臣達は皆、先王……お爺様に殉死してしまったんだって、お父様が言っていたわ」
憮然としたリィンの言葉に、フォルセリーヌもため息を吐く。
「アイリスはどう?」
前の戦争を生き延びた彼の目には、祖国はどう映っているのだろう。
「大した諍いもなく、平和な方だろう。詳しい内情まではわからんが、王も善良で軍部もしっかりしているな……酷い天災もあったが、順調に復興している」
「貴方がそう言うなら、きっとそうなんでしょうね」
「あまり信用するな、政治に興味のない片田舎の人間の話だ」
リィンは然したる感慨もなく言う。本当に興味がないようだった。戦争終結の影の立て役者たる彼の二十年は、きっと蘇った特権階級の人間達が躍起になっていた領土回復、権力抗争のような諍いとは、まったく無縁だったのだろう。
人の身に余りある力を得ながらも私利私欲で行使することなく、祖国の片隅で平穏を願って静かに暮らす彼の姿が、フォルセリーヌには不思議なほどすんなり感じられた。
「要らないものが多過ぎるのよ、貴族達もこの王宮も。城下の民達は、自分達が飢えないだけの物を持っていたらそれだけで十分なのに……なぜ彼らが卑下されるのかわからないわ。土を耕して、作物を育てるのは大変なことよ。一生懸命世話をして、身の丈に合った収穫を得ることの何が足りないの? とても素晴らしいことだわ。それを知っているから、それ以上を望まないのよ」
フォルセリーヌは、まるで自分に言い聞かせるように呟く。
「ヘスターはね、手を打ち鳴らせばつでもご馳走が運ばれてくると思ってるのよ。お気に入りのムネジアの実が、どんなに育てるのが大変か知りもしない。毎日水と一緒に魔道石を砕いて与えて、幹についた虫も一匹一匹取り除いて、花が開いたら雌花に雄花の花粉を付けて……三年間大事に大事に育てて、一株あたり実るのはほんの数個。鞭を振るって小作人に作らせた籠一杯のムネジアを、まるで自分の手柄みたいな顔して送りつけてくるんだから、気に入らないったらないわ!」
喋っているうちに当時の憤りが再燃した彼女は、頬を上気して吐き捨ててしまったが……
「随分と詳しいな」
リィンのやや驚いたような言葉に、フォルセリーヌはハッと我に返る。
「……っ、好きなのよ、庭いじり……ときどき、庭師に手伝わせてもらってるの。お願いだから、お母様には言わないで」
最後そう尻すぼみに言って、フォルセリーヌは肩を落とす。
庭いじりなど一国の王女として自覚がないと、きっとリィンは呆れただろう。庭師に混ざって花壇の植え替えをして泥だらけになったり、声を上げて笑い合いながら木の実の収穫をしたりして、侍女に見つかる度に叱られて来たのだ。
だから、次の言葉には本当に驚いた。
「ただのはねっ返りかと思っていたが、見直した……ただ、ムネジアの木についた虫は全て取るな。セキロウだけ残しておけ、花粉を運ぶ他に悪さはしない。人の手で受粉させるのもいいが、その方が花も傷まずに済む」
「えっ……?」
「アイリスの実家は花屋だ、実のなる木も扱っている……信用しろ」
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