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Ⅱ-Ⅴ.思い出を遡って

118.若者の若者文化離れ。

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 夢野ゆめの源三げんぞうはなにかと規格外の男である。

 今年で実に七十五歳になろうという年齢にして、最近のマイブームは都市経営ゲーム(しかもPC版しか発売されていないタイトル)だというのだから驚きだ。

 自宅のセキュリティなどは自ら整えたものだし、木造の日本家屋の中には自動で動くお掃除ロボットや、人が通りかかると点灯する足元ライト、更にはスマートスピーカーなども完備されていて、彼の声一つで家のシステムを動かせるように設定されていた。

 重要な書類などを保管している部屋は指紋認証を含めた複数のオートロック機能が付いており、防火などの災害対策もばっちりなのだという。

 身長は170cmちょっとと意外と大きくないが、肩幅を含めて恰幅が良い。信じがたいことに、素肌の部分を見る限りだと割と筋肉質で、その数字よりも大分大きい印象を受ける。どうやら地下室に自らの整えたトレーニングルームを完備しているとのことだ。

 髪は白髪交じりだが、量、質ともに年齢を感じさせず、長々と伸ばしたあごひげはどこか風格すら感じさせる。

 そして、これだけ近代的な要素を兼ね備えながら、着ているものは和服で、家の内装も和風なのがまた面白い。彼の頭の中ではこれらが綺麗に調和しているのだろうか。

 そんな規格外が服を着て歩いているような源三が、俺たちを応接間に呼び寄せていった一言がこれだった。

「時に若人たちよ。「ぴえんを超えてぱおん」はもう古いと聞いたのだが、ほんとか?」

「ええ…………」

 その見た目で「ぴえん」とか言わないでほしい。夢とか、その他もろもろ、いろんなものが壊れるから。

 ちなみに今俺たちが通されている応接間は、この家にしては珍しく洋風のつくりをしていた。

 後で源三に聞いたところ、「畳の間だと、正座が疲れるという若者がいたんでな。応接間は洋風にしたのだ」とのことだった。このくらいの年の人だと「正座が辛いなんて怪しからん!」なんてことを言いだしそうな気がするんだけど、どうやら、そういうことはないらしい。

 源三はさらに続ける。

「いやな。この間生配信で突っ込まれたんじゃよ。「ぴえんとかはもう古い」って。ワシも若者と接する機会は多い方じゃないからな。そういう言葉のアップデートが追い付かないことがある。なにせ若者文化というのは年単位で変わるからな。そんなことを考えておったら、陽子ようこたちが来た。これは渡りに船だと思ったんじゃ。どうじゃ?もうオワコンなのか?」

「いやぁ……どう、でしょう」

 正直、判断が難しかった。

 そもそも、若者言葉の「流行り廃り」というのは実に目まぐるしいものがある。それは実際に若者をやっている俺ですらそうだ。そして、その手の流行に敏感なのは、百合恋愛を追いかけまわしている俺みたいなのよりも、

「ねえ、夢野?」

「な、なに?は、はなちゃん?」

 なぜそんなに動揺する。

 よく見てみれば、夢野は膝と膝をぴたりと合わせてソファーに縮こまるようにして座り、手はその膝の上にぴっちりと載せられてぴくりともしない体勢だった。緊張というフレーズを表すのにこれ以上ないくらいピッタリな絵面がそこには広がっていた。

 俺はゆっくりと、

「いや、ほら、さ。そういう流行の言葉とかって、夢野の方がほら、詳しそうな気がするから。ね?」

「そ、そう?」

「そうそう。で、どうなの?」

「ふえっ?なにが?」

 駄目だ、使い物にならない。

 仕方ない。夢野が使い物にならないとなれば、俺が答えるしかない。

「……あの、源三さん?」

「源三でいいぞ?なんなら源ちゃんでもオッケーじゃ」

 フランクなじいさんだなおい。同じフランクでも、名前を名乗らないだけで怒るボスとは大違いだ。

「……えっと、若者といっても俺はそういうの余り詳しくないんですけど、確かに凄く流行ったのはちょっと前な気は、します」

「ほんとか!?」

「た、多分ですよ?」

 源三は、そんな俺の補足などお構いなしに、

「うーむ……それなら、今後は使うのは控えることにしよう。ありがとうな、華くん」

 と礼を言った。どうでもいいんだけど生配信ってなんだよ。まさかこの人、ユーチュ○バーでもやってるのか?
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