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Ⅱ-Ⅳ.呼び寄せられるかのように

107.違う意味で目覚めそうな朝。

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「……これは何状態なんだろう……」

 朝。目が覚めた俺はなかなかに不思議な状態になっていることに気が付いた。

 俺の手元には音楽プレイヤー。イヤフォンは片耳だけに刺さった状態だ。横を向いて、丸まるようになった俺の体勢に関してはまあいいだろう。寝相が良い方ではないから、そういう日もあると思う。

 だけど、

「なんで……?」

 その俺を抱きかかえるようにして、心地いい寝息を立てている夢野には説明がつかない。

 ベッドが俺と夢野ゆめの、別々に用意されている以上、一つのベッドに二人が寝ているという状況がまずおかしいし、夢野が俺を抱きかかえているのも意味が分からない。

 もしかして、そのうち寝込みを襲われるんじゃないだろうか。いや、襲われてもそんなに悪い気はしないんだけど、流石にその、勝手に、奪うのは、やめて欲しい。うん。

 抱きかかえられているというのは正直想像以上に心地が良いし、何なら背中の辺りに柔らかい感触があって、非常に幸せなのは確かだけど、ずっとこうしているわけにもいかない。旅行先でそれはやっぱりもったいない。なので、

「夢野。朝だよ」

 俺は夢野を起こしにかかる。だけど、彼女は全く目を覚まさずに、

「んん……華ちゃん。大丈夫だよ。私がいるから……」

 と寝言を漏らし、俺のことを抱きかかえ直す。

「ちょっ……朝だって。起きないと」

「んっ……朝……?朝ごはん……」

 夢野はそう呻くと、俺の耳をぱくりと、

「ひゃんっ!?」

 なに!?なにごと!?あ、そうか。夢野が俺の耳を朝ごはんと勘違いして食べただけか。なあんだそれくらいなら大したことないよね。ふかふかだから、もぐもぐしたくなるよね、

「いやいやいやいやいや!!!!」

 速攻で使い物にならなくなった思考回路を何とかたたき起こし、状況を整理する。

 俺、夢野に抱きしめられてる。

 夢野、俺の耳を朝ごはんと勘違いしてはむつく。

 あれ?そんなに大したことじゃないじゃないか。アンパンマンだって、自分の顔をお食べってやるじゃない。そういう感じ、

「んっ……ちゅぱっ……」

「あっ……そこ、駄目……だって……」

 いや、大したことだよ!どうなってんだ俺の思考回路は!

 取り合えず、この状況はまずい。夢野が寝ぼければ寝ぼけるほど脱出が難しくなる。まだ被害が少ない今のうちになんとか逃げ出さないと永遠にこのままだ。

 俺はさっそく、夢野の腕から脱出を図ろうと、

「あ、待って~……逃げないで~」

 ぎゅっ。

 夢野力強いなオイ!

 多分小太郎こたろうの姿ならもうちょっと抵抗出来るんだろうけど、今の俺はしがない女子高校生だ。身長も体重も平均的で、多分筋力だってそんなにない。夢野だって大差ないような気がするのに完全に力負けしているのはノーコメントだ。

「それじゃ、いただきま~す……」

 かぷっ。

「ひゃんっ!」

 やめて。耳弱いからやめて。にゃんついた声が出ちゃうから。どこぞのエルフキャラ見たくなっちゃうから。

 逃げ出すどころか、更に深みにはまっていく。食虫植物に捕食された虫ってこんな気分なんだろうか。あるいはサキュバス。

 俺がアホなことを考えていると、夢野が、

「ん~……最後までしっかり綺麗に食べないとね~……」

 そんなことを言いつつ。耳の穴に舌を入れ、

「にゃっ!?」

「れろ……」

 エマージェンシー!

 エマージェンシー!

 このままだと捕食されてしまう。あんなところからこんなところまで食べつくされてしまう。今はまだ耳で済んでるけど、他のところも開発されて、二度と戻れないところに連れていかれてしまう。俺は何とか一念発起して、

「ごめんっ!!」

 夢野を思いっきり押し戻して、その束縛から脱出し、その手に布団を握らせる。すると、夢野は眉間にしわを寄せ、

「んん……華ちゃん……どこぉ……?」

 と呻いたのち、俺が握らせた布団の存在に気が付き、

「あ~華ちゃんだぁ~」

 違います。

 でも、もうそれでいいです。

 俺はベッドの上からそろりそろりと脱出し、音楽プレイヤーを鞄にしまい込み、床にへたり込むようにして、息を吐く。

「つ、疲れた……」

 危ないところだった。あのまま流されていたら、行くところまで行ってしまうところだった。そして、何より怖いのは、それを俺自身が全く嫌がってなかったってことだ。危ない。この幼馴染危ないよ。俺の弱点を的確に攻めてくるんだもん。

「んん……華ちゃん……大丈夫だよ……」

 一体何が大丈夫だというんだ。全く。
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