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幕間Ⅷ

Side:K 仄かに芽生えた淡い思い。

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 アテナも、はなもいなくなった室内で、俺は一人、ベッドに横たわりながら考え込んだ。

 こんなところを美咲に見られたらきっと怒られると思う。しわになったらどうするのって、女の子なのにって。それを俺は「分かった分かった」って言いながら、聞き流して。そしたら美咲は最終的に、「仕方ないわね」って言って許してくれる。

「男…………か」

 最初、脳の理解が追い付かなかった。そんなことあるはずないって思った。だけど、実際にアテナは、俺の秘密をあっさりと暴いてきた。あんなの、誰にも話したことはないのに。それこそ美咲にだって。

 牛島うしじま美咲みさきは女の子だ。

 俺とは違う。

 だから、普通に恋愛をして、普通に結婚をして、普通に子供を産んで、幸せな家庭を築くべきなんだ。もし、結婚まではいかないとしても、ただの恋人としても、俺なんかを選んじゃいけないんだ。選ぶならそう。例えば、

 笹木ささき華、とか。

「華…………か」

 俺は寝返りをうって、横向きになる。

 最初は隣の席に座ったやつ、くらいの認識だった。

 だけど、なんどか話してるうちに、いいやつだなって思うようになった。

 俺がどんなに椅子の上で胡坐をかいててもなにも言わないし、かと思ったら、下着が見えている時だけは指摘してくれたりもする。

今思い返すとあれは、元々男だったからなのかもしれない。でも、それなら下着なんて隠させる必要もないのに。やっぱり、良い奴なんだと思う。

 華は、俺が行っても解決すると思ってる。

 実際、仲直りは出来るかもしれない。時間がかかるけど、元通りになる日は来ると思う。それは今日じゃなくてもいい。時が傷を癒してくれることもある。

 だけど、問題はその後だ。

 美咲は、俺が誰かと、仮初でも付き合うところを見た。

 これで、セーフティネットは無くなった。

 きっと、もっとアプローチをかけてくると思う。

 だからこそ、華じゃなくちゃいけないんだ。美咲が気に入ってる華じゃなくちゃ。
 俺は再度寝返りをうって、再び仰向けになる。

 それにしても女神っていうのは凄いもんだ。なんでも知ってるんだろうか。もしかしたら、俺の考えなんて全部お見通しなんだろうか。

 改めて、スマートフォンを眺める。そこにはもう、先ほど送られたメッセージは残っていない。

 でも、内容は覚えている。


『美咲のことは好き。だけど、結ばれても未来がないことも分かってる。だから、諦めるために、華と付き合って欲しい』


 だから、俺はこうして時間を潰す。

 これでいい。これで美咲は幸せになれるんだ。

 満足したはずの心に、ちくりと棘が刺さった気がした。
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