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Ⅱ-Ⅴ.メイドとパフェと、時々恋人
83.恋愛のいろはを知らなくて。
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八代は補足するようにして、
「いや~ほんとにごめんね。でもほら、いつも聞いてる彼女じゃない子を連れてたから気になっちゃって」
と、割としっかり目に謝罪を入れる。俺は思わず、
「いつも聞いてる彼女って?」
八代は人差し指を顎にあてて、「うーん」と悩み、
「なんていったっけ。美咲ちゃん、だったかな?」
ああ。なるほど。
要するにあれか。虎子はここで、美咲について八代に聞いてもらっていたのか。それが恋愛相談っていうやつだったのか、それ未満だったのかは分からないけど、
一連の会話を聞いていたであろう虎子が漸く復活し、
「弥生さん……それ他の人には内緒っていったじゃないですか……」
と呻くような抗議をする。当の八代は「ごめんごめん」と言いつつも、
「でもね、私の気のせいかもしれないけど、華ちゃんはトラちゃんに踏み込んできてくれてる。だから、トラちゃんもここに連れてきた。だってトラちゃん、ずっと「相手がいない」って言ってたじゃない。折角美咲ちゃんっていう可愛い幼馴染がいるのに。つまり、華ちゃんはそれだけ信頼してるってこと、だよね?」
「それは…………まあ」
凄い。
なんか、人気があるっていうのが頷ける気がした。
もちろん、他のメイドさんも可愛いには可愛いのだろう。だけど、それだけじゃ人気っていうのは上がらないのかもしれない。接客って言うのは奥が深い、ただマニュアル通りに「いらっしゃいませ」「ありがとうございました」だけ言っていればいいわけじゃないんだろうな。俺には多分、出来ない。
八代は続ける。
「だったら、ね?トラちゃん。華ちゃんにも悩み聞いてもらったらいいんじゃない?」
それを聞いた虎子は突っかか、
「それは…………でも…………」
ろうとして、中腰状態で勢いを失い、そのまま再び着席する。
八代はふふっと笑い、
「まあ、トラちゃんが話さなくても、私が華ちゃんに教えちゃうけどね~」
「だから内緒って……」
「でも、トラちゃんがその話をしたときに「私はいいんだ?」って聞いたよ?そしたら、「弥生さんは特別です」って言ってくれて。それで、私が良いって思う相手なら、」
そこで虎子が開き直るように、
「分かった!分かりました!話します、話しますから!」
と言って俺に向かって居直り、
「えっと……それで、なんだけど」
「うん」
なんだろう。こっちまで緊張してきてしまう。膝の上に置いた拳を握る手に心なしか力が入る。
「俺、ずっと考えてたんだ。だけど、どうしても方法が思いつかなくって。だから、華にも一緒にその、考えて欲しいんだ」
「う、うん」
「美咲が、」
そこまで聞いた俺は完全に話の行く末を想定していた。俺と付き合ってくれる方法を考えてくれとか、俺を恋人として好きになってくれる方法を考えてくれとか、概ねそんな感じだろう。俺からすればそれは願っても無いことだ。待ってましたって感じ。さあ、やるぞ。全力でキューピッド役をするぞ。そんなことを考えていたら、
「…………俺を、諦めるには、どうしたらいいと思う」
全く、真逆の内容が投げかけられていた。おかしいな、聞き間違えかな?俺は虎子に、
「えっと……美咲を振り向かせるんじゃなくて?」
ところが虎子ははっきりと、
「ああ。むしろ諦めさせたいんだ」
と告げる。あれぇ?どうしてこうなったんだろう?俺の耳がおかしいんじゃないととすると何がおかしいんだろう。俺は思わず八代さんに視線を向けると、
「そう、そういうことなのよ。華ちゃん」
どうやら彼女が聞いていたのと全く同じ内容だったらしい。となると聞き間違えとか、言い間違えとか、そういうことはない。
諦めさせる。一体どういうことだ。
俺が未だに情報を処理できないでいると虎子が、
「美咲とは幼馴染で、ずっと仲がいい。俺だって親友だと思ってる。それには間違いはないんだ」
「えっと……一応聞くけど、女同士が嫌ってことは?」
虎子は首を横に振り、
「そこは特に気にしてない。別にそんなことを気にする時代でもないと思うしな」
関係なかった。
だけど、そうなるとより自体は難しい。
虎子が再び語りだす。
「こういう言い方をすると嫌みっぽくなるかもしれないけど、さ。俺は昔から男女問わずにモテてきた。告白だって一回や二回じゃない。だけど、それらは全て断ってきた」
「それは……」
虎子はモテる。
けれど特定の相手を選ばなかった。
それらは全て美咲からも聞いたことだ。知っている情報だ。
だけど、
「断ってきたのには色々理由がある。だけど一番は…………俺と付き合っても、幸せになんてならないからだ」
その理由はきっと、美咲が想像もしなかったものだった。
虎子はなおも続ける。
「俺の家ってちょっと特殊でさ。しきたりとか、そういうの、凄いうるさいんだよ。だから、もし仮に付き合ったとしても、最終的には分かれなきゃいけない。それは男相手だってそうだ。美咲だったらなおのことだよ」
俺は疑問をぶつける。
「別れない……って選択肢はないの?」
そう。
美咲から聞いている限りでは、確かに虎子は高校を出た後には、今までのように自由には生きられないのかもしれない。
が、それと恋愛は別ではないのか。引き延ばしにしかならないかもしれない。別れがよりつらくなるだけかもしれない。だけど、二人で付き合っているうちに、何か答えが見つかるかもしれない。その可能性は本当にないのか。
そんな俺の疑問を、少しばかりの希望を、
「無い。そんな選択肢は存在しないんだよ」
虎子はばっさりと切り捨てる。
沈黙。
八代が重たい空気を払うようにして、
「きっとね、トラちゃんは恋愛のなんたるかを知らないんだよ」
と言い出した。
「いや~ほんとにごめんね。でもほら、いつも聞いてる彼女じゃない子を連れてたから気になっちゃって」
と、割としっかり目に謝罪を入れる。俺は思わず、
「いつも聞いてる彼女って?」
八代は人差し指を顎にあてて、「うーん」と悩み、
「なんていったっけ。美咲ちゃん、だったかな?」
ああ。なるほど。
要するにあれか。虎子はここで、美咲について八代に聞いてもらっていたのか。それが恋愛相談っていうやつだったのか、それ未満だったのかは分からないけど、
一連の会話を聞いていたであろう虎子が漸く復活し、
「弥生さん……それ他の人には内緒っていったじゃないですか……」
と呻くような抗議をする。当の八代は「ごめんごめん」と言いつつも、
「でもね、私の気のせいかもしれないけど、華ちゃんはトラちゃんに踏み込んできてくれてる。だから、トラちゃんもここに連れてきた。だってトラちゃん、ずっと「相手がいない」って言ってたじゃない。折角美咲ちゃんっていう可愛い幼馴染がいるのに。つまり、華ちゃんはそれだけ信頼してるってこと、だよね?」
「それは…………まあ」
凄い。
なんか、人気があるっていうのが頷ける気がした。
もちろん、他のメイドさんも可愛いには可愛いのだろう。だけど、それだけじゃ人気っていうのは上がらないのかもしれない。接客って言うのは奥が深い、ただマニュアル通りに「いらっしゃいませ」「ありがとうございました」だけ言っていればいいわけじゃないんだろうな。俺には多分、出来ない。
八代は続ける。
「だったら、ね?トラちゃん。華ちゃんにも悩み聞いてもらったらいいんじゃない?」
それを聞いた虎子は突っかか、
「それは…………でも…………」
ろうとして、中腰状態で勢いを失い、そのまま再び着席する。
八代はふふっと笑い、
「まあ、トラちゃんが話さなくても、私が華ちゃんに教えちゃうけどね~」
「だから内緒って……」
「でも、トラちゃんがその話をしたときに「私はいいんだ?」って聞いたよ?そしたら、「弥生さんは特別です」って言ってくれて。それで、私が良いって思う相手なら、」
そこで虎子が開き直るように、
「分かった!分かりました!話します、話しますから!」
と言って俺に向かって居直り、
「えっと……それで、なんだけど」
「うん」
なんだろう。こっちまで緊張してきてしまう。膝の上に置いた拳を握る手に心なしか力が入る。
「俺、ずっと考えてたんだ。だけど、どうしても方法が思いつかなくって。だから、華にも一緒にその、考えて欲しいんだ」
「う、うん」
「美咲が、」
そこまで聞いた俺は完全に話の行く末を想定していた。俺と付き合ってくれる方法を考えてくれとか、俺を恋人として好きになってくれる方法を考えてくれとか、概ねそんな感じだろう。俺からすればそれは願っても無いことだ。待ってましたって感じ。さあ、やるぞ。全力でキューピッド役をするぞ。そんなことを考えていたら、
「…………俺を、諦めるには、どうしたらいいと思う」
全く、真逆の内容が投げかけられていた。おかしいな、聞き間違えかな?俺は虎子に、
「えっと……美咲を振り向かせるんじゃなくて?」
ところが虎子ははっきりと、
「ああ。むしろ諦めさせたいんだ」
と告げる。あれぇ?どうしてこうなったんだろう?俺の耳がおかしいんじゃないととすると何がおかしいんだろう。俺は思わず八代さんに視線を向けると、
「そう、そういうことなのよ。華ちゃん」
どうやら彼女が聞いていたのと全く同じ内容だったらしい。となると聞き間違えとか、言い間違えとか、そういうことはない。
諦めさせる。一体どういうことだ。
俺が未だに情報を処理できないでいると虎子が、
「美咲とは幼馴染で、ずっと仲がいい。俺だって親友だと思ってる。それには間違いはないんだ」
「えっと……一応聞くけど、女同士が嫌ってことは?」
虎子は首を横に振り、
「そこは特に気にしてない。別にそんなことを気にする時代でもないと思うしな」
関係なかった。
だけど、そうなるとより自体は難しい。
虎子が再び語りだす。
「こういう言い方をすると嫌みっぽくなるかもしれないけど、さ。俺は昔から男女問わずにモテてきた。告白だって一回や二回じゃない。だけど、それらは全て断ってきた」
「それは……」
虎子はモテる。
けれど特定の相手を選ばなかった。
それらは全て美咲からも聞いたことだ。知っている情報だ。
だけど、
「断ってきたのには色々理由がある。だけど一番は…………俺と付き合っても、幸せになんてならないからだ」
その理由はきっと、美咲が想像もしなかったものだった。
虎子はなおも続ける。
「俺の家ってちょっと特殊でさ。しきたりとか、そういうの、凄いうるさいんだよ。だから、もし仮に付き合ったとしても、最終的には分かれなきゃいけない。それは男相手だってそうだ。美咲だったらなおのことだよ」
俺は疑問をぶつける。
「別れない……って選択肢はないの?」
そう。
美咲から聞いている限りでは、確かに虎子は高校を出た後には、今までのように自由には生きられないのかもしれない。
が、それと恋愛は別ではないのか。引き延ばしにしかならないかもしれない。別れがよりつらくなるだけかもしれない。だけど、二人で付き合っているうちに、何か答えが見つかるかもしれない。その可能性は本当にないのか。
そんな俺の疑問を、少しばかりの希望を、
「無い。そんな選択肢は存在しないんだよ」
虎子はばっさりと切り捨てる。
沈黙。
八代が重たい空気を払うようにして、
「きっとね、トラちゃんは恋愛のなんたるかを知らないんだよ」
と言い出した。
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